BLOOD RAIN

佐武ろく

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 前後から迫り来る人の壁。だがリナはポケットに手を入れたままただじっとその場を動かない。
 そして彼女の揺れ動く事のない堂々たる双眸に見つめられながら、他より数歩分先に一人目が引き摺っていた鉄パイプを振り上げ襲い掛かった。上から下へと振り下ろす至って単純な攻撃。
 リナはそれを一歩も動く事は疎か瞬き一つせず平然と右手で受け止めると、力づくで横へ下ろさせる。相手は両手で握っているにも関わらずゆっくりと止まることなくパイプは円を描くように下がっていった。

「うっ……くっ!」

 手とパイプが無くなり交差する二人の視線。
 そしてリナはもう片方の手で拳を握ると一歩前へ足をやりながら一発。頬へ減り込んだその拳の威力は、大人一人分の体が後方へ飛ばされた結果が代弁し物語っていた。
 そんなリナは更に、流れを途切れさせぬまま背後から襲い掛かる二人目へ足を突き出した。足裏から伝わる確かな感触。
 だが二人を連続で地面に倒したリナだったが、足を下ろす頃には既に新手が彼女を狙っていた。
 隙を突くように背後から振り下ろされる鉈。リナは手に持ったままだったパイプでそれを受け止めたが――直後、右手からナックルを填めた拳が最短距離で突き出される。
 それをパイプを握る手は緩めず、絶妙に顔を下げる事で躱すリナ。更にその最中、パイプの反対側を左手で掴み持ち替えると、自由になった右手で(鉈を握る手の)手首を掴んだ。そして顔の前を触れるか触れないかという際どさで拳が通過する中、パイプを誘導するように傾けては相手の手を引き寄せる。
 火花を散らしパイプを滑る刃先は空振りしたナックルの腕へ。そのまま二の腕は真っ二つに斬り分けられ――鉈の敵はすぐさまパイプで殴り倒された。
 それからも四方八方、至る所から絶え間なく襲われるリナだったが完璧な身のこなしと判断力――圧倒的な力の差でそれを凌ぎ続けた。一人、また一人と倒されていく敵の負う傷の種類は疎ら。打撲から体の一部を斬り落とされてしまう者、気絶する者からこの場所での戦いが人生最後の出来事となった者。
 だが一方でリナ自身には掠り傷一つない。それが更に彼女とその他大勢との差を顕著にしていた。

「ひゃっひゃっひゃ! アイツ! アイツ! いい!」
「間違いないアイツだ」

 リナが渡ろうとしていた反対側。そこに建つ建物の屋上にその二人はいた。相変わらずフードを被ってはいたが、その姿は空切が血の海へと変えた場所に現れた二人組。観察するようにリナを見下ろしながら一人は興奮気味、もう一人は淡々としていた。
 その視線先で路上駐車されていた車のボンネットを足場に大きく宙を舞うリナ。悠々とバク宙をしながら複数の攻撃を同時に避けた彼女は、そのまま集団の中へと着地。
 流れるように一人を地面に沈めると、襲い掛かる獣人の鋭い爪を恋人繋ぎで受け止め――同じ様にもう片手でも受け止めた。そしてそのまま相手の体を持ち上げると武器のように振り、別方向から襲い掛かる二人を一掃した。
 それからもただ只管にリナは減った実感もないまま相手を倒し続けた。
 すると、その最中。突如、上空からリナの傍へ数人を踏み潰しながら大きな人影が降り下りてきた。彼らも知らない登場なのだろう全員の手が一瞬にして止まる。

「もういい」

 それはたった一言だった。人影が口にすると周りで動きを止めていた彼らはリナ目掛けより一層身を投げ捨て飛び掛かり始める。一人目を殴り飛ばしたかと思えば既に背後に迫った二人目が彼女を羽交い締めにした。だが押さえ付けの甘いそれをリナは頭突きの後に振り解く。
 しかし更に二人、三人と体へ飛び掛かり身を挺して彼女の身動きを止めた。
 そしてあっという間に身動きの取れなくなったリナへ大きな人影が迫る。それは屋上から彼女を見下ろしていた大柄の方。
 彼は藻掻けど複数人に押さえ付けられ動けないリナの前へ緩慢とした足取りで迫ると片手を喉元へ伸ばした。そして大きな手が彼女の首を絞め始める。必死に抵抗するが、それが更に酸素を消耗させていく。
 そしてついにリナは眠りに就くようにそっと瞼を閉じ、意識を失ってしまった。
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