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序章:現代桃太郎
【捌】AOF6
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「あまり私の連れにちょっかいを出さないでいただけますか?」
「お前には関係ねーだろ」
「そうですが、彼女が迷惑そうな顔をしていたので。それも分からないとは――とんだ鈍感、もしくはおバカさんってやつですね。それとも、分かっててやってたのですか? だとしたら尚更タチが悪いですね」
「あぁ?」
その分かり易く煽る口調に男は更に顔を歪める。
「それにその鍛えた体をアピールするような立ち振る舞いと攻撃的な口調。あなた、自分を強く見せたいのですか? もしそうだとしたら、失敗ですよ。残念ながらあなたからは何の脅威も感じません」
肩を竦めては見せつけるようにゆっくりと首を横へ振る桃。
「てめぇ……。どうやら痛い目にあいてーみたいだな」
桃の煽りに表情を完全なる怒りに染めた男は指の骨をならし首を軽く回し始める。
「今謝るんだったら歯の二~三本で許してやるよ」
「それは自信ですか? それとも強がりですか?」
少し横へ移動しながら尚も煽り口調を止めない桃。
「このやろっ!」
あっという間に怒りに支配された男は、正直に正面から殴りかかる。その行動を待っていた桃は微かに口角を上げた。
そして予定調和と言わんばかりに軽々と躱したその拳は桃の後ろにいた無関係な男性の後頭部に直撃。
「いっつ! てめっ! いきなり何しやがる!」
男性は後頭部を押さえながら怒声と共に振り返るとすぐさま殴り返した。それに対し男が更に殴り返したことで瞬く間に喧嘩へと発展。揉みくちゃになりながら殴り合う二人に周りの客は一定の距離まで離れた為、まるで円形の闘技場のようになった。
だが決着がつくより前に先ほどのドア前にいたガードマンを含む数人のセキュリティが喧嘩をしている二人の元へ駆けつけた。
それを見た桃は蘭玲に耳打ち。
「行きますよ。ついて来てください」
そして桃は蘭玲を連れこっそりとガードマンの居なくなったドアを開け中へと侵入した。向こう側には二人分幅の階段が伸びておりその上には曲がり角。桃と蘭玲はその階段を上り始めた。
「この為に煽ったんですね。桃さんがあんなこと言うなんて珍しいと思いました」
「あの方には申し訳ないですがね」
「でもよくあんなに上手く後ろの人に当てましたね」
「そうですね。最悪後ろから軽く押そうと思ってました」
「桃さんってたまに強引なところありますよね」
蘭玲は苦笑いのように少しぎこちない笑みを浮かべた。そんな会話をしながら階段を上がりきると角を曲がりそこにあったドアを桃が開く。
そこは少し広めのオフィスになっており正面にテーブルとソファ、その向こう側には高級感溢れるデスクが置いてあった。下では音楽が鳴り響いていたが打って変わりここは微かに音が聞こえるだけ。そして右側は一面ガラスで店内が見渡せるようになっていた。だが下からこの部屋の存在は確認出来なかった為、このガラスはマジックミラーのようになっているのだろう。
そしてそのガラス前には男が一人店内を見下ろしながら立っていた。黄金色の髪とYシャツにスーツパンツ、両手をポケットに入れた彼の右手首にもスマホレットが付けれれている。
男は二人の方は見ずに口を開いた。
「俺の店で騒ぎを起こすのは勘弁してくれないか?」
その少し低めの声はあまり感情を含まず冷静。
「申し訳ありません。ルチアーノ」
「まぁいい。喧嘩なんてよくあることだ」
ルチアーノは言葉と共にゆっくりと桃らの方へ振り返る。その整った顔と黄金色に染まった髪はモデルとして活躍してても不思議ではないほどだった。
「ですが、あの新人の方が話も聞いてくれなかったのが事の始まりですよ」
「あいつは仕事をしただけだ。それにお前が連絡の一本でもすればよかったんじゃないのか?」
そう言いながらデスクへ歩き出したルチアーノは椅子へと腰掛けた。
「それもそうですね。思いつきませんでした」
「嘘つけ。――まぁ俺もあいつにお前のことを話していなかったからな。まぁいい。それで? 一体何の用だ? そいつをうちで働かせたいのか? まぁ見た目は悪くないが……」
ルチアーノの視線は蘭玲のつま先から頭の先までを品定めするように見つめ始めた。
「まさか。彼女はうちの優秀な社員ですよ」
「そうか。残念だ。職に困ったらいつでもうちに来な。お前だったらいつでも歓迎するぜ」
「覚えとく」
蘭玲は興味がないといった感じで素っ気なく返事を返した。
「それじゃあどんな用なんだ?」
「仕事の情報が欲しくて来ました。この少女についてです」
そう話しながら写真をルチアーノへ送る桃。ルチアーノは自分のスマホレットで少女の写真を確認した。
「知らねーな。本当にここか?」
「可能性の範囲ではありますがね」
「それにしても随分と育ちが良さそうだな。出身は?」
「被害者側の情報は今、送ってもらうようお願いしています。被害者やその家族等の詳細な情報を」
「それでもプロかよ。情報確認は基本だろ」
「言いますねぇ」
ルチアーノの言葉に対し桃は仲の良さが分かるような笑みを浮かべ指を差す。
「まぁ、確かにここでは人攫いもよくある話だがそれでも被害にあうのは大抵貧困層。社会的地位の低い者ばかりだ。それ以外の者の被害がないとは言わないがな。もしこの子がそこそこの階級でここのやつが攫ったんだとしたらめんどくせぇ計画でやったか、ただのバカかだな」
「後者の方が楽でいいんですがね。そのような者は何をしでかすか分からないという点では恐ろしいですが。しかしあなたの網に引っかからないとなるとその二つのどちらか、もしくはそもそもこの場所とは関係ない可能性もありますね」
「もし計画的なものならもっと深いところが関わってる可能性もないとは言えねーな」
その可能性を想像するだけでも嫌気が差し桃は思わず眉を顰める。
「面倒なことになっていないことを願います。――では今日はこの辺で。何か情報がつかめたら連絡よろしくおねがいしますね」
「あぁ、俺の方でも調べてみるよ」
「助かります」
「今度来る時は大人しくな」
「その時にはすんなり通れるようにしといてくださいね」
そんな桃にルチアーノは払うように手を振り「さっさと帰れ」と言っているようだった。
「ではまた」
そして蘭玲と共にオフィスを出た桃は静かにドアを閉めた。
「お前には関係ねーだろ」
「そうですが、彼女が迷惑そうな顔をしていたので。それも分からないとは――とんだ鈍感、もしくはおバカさんってやつですね。それとも、分かっててやってたのですか? だとしたら尚更タチが悪いですね」
「あぁ?」
その分かり易く煽る口調に男は更に顔を歪める。
「それにその鍛えた体をアピールするような立ち振る舞いと攻撃的な口調。あなた、自分を強く見せたいのですか? もしそうだとしたら、失敗ですよ。残念ながらあなたからは何の脅威も感じません」
肩を竦めては見せつけるようにゆっくりと首を横へ振る桃。
「てめぇ……。どうやら痛い目にあいてーみたいだな」
桃の煽りに表情を完全なる怒りに染めた男は指の骨をならし首を軽く回し始める。
「今謝るんだったら歯の二~三本で許してやるよ」
「それは自信ですか? それとも強がりですか?」
少し横へ移動しながら尚も煽り口調を止めない桃。
「このやろっ!」
あっという間に怒りに支配された男は、正直に正面から殴りかかる。その行動を待っていた桃は微かに口角を上げた。
そして予定調和と言わんばかりに軽々と躱したその拳は桃の後ろにいた無関係な男性の後頭部に直撃。
「いっつ! てめっ! いきなり何しやがる!」
男性は後頭部を押さえながら怒声と共に振り返るとすぐさま殴り返した。それに対し男が更に殴り返したことで瞬く間に喧嘩へと発展。揉みくちゃになりながら殴り合う二人に周りの客は一定の距離まで離れた為、まるで円形の闘技場のようになった。
だが決着がつくより前に先ほどのドア前にいたガードマンを含む数人のセキュリティが喧嘩をしている二人の元へ駆けつけた。
それを見た桃は蘭玲に耳打ち。
「行きますよ。ついて来てください」
そして桃は蘭玲を連れこっそりとガードマンの居なくなったドアを開け中へと侵入した。向こう側には二人分幅の階段が伸びておりその上には曲がり角。桃と蘭玲はその階段を上り始めた。
「この為に煽ったんですね。桃さんがあんなこと言うなんて珍しいと思いました」
「あの方には申し訳ないですがね」
「でもよくあんなに上手く後ろの人に当てましたね」
「そうですね。最悪後ろから軽く押そうと思ってました」
「桃さんってたまに強引なところありますよね」
蘭玲は苦笑いのように少しぎこちない笑みを浮かべた。そんな会話をしながら階段を上がりきると角を曲がりそこにあったドアを桃が開く。
そこは少し広めのオフィスになっており正面にテーブルとソファ、その向こう側には高級感溢れるデスクが置いてあった。下では音楽が鳴り響いていたが打って変わりここは微かに音が聞こえるだけ。そして右側は一面ガラスで店内が見渡せるようになっていた。だが下からこの部屋の存在は確認出来なかった為、このガラスはマジックミラーのようになっているのだろう。
そしてそのガラス前には男が一人店内を見下ろしながら立っていた。黄金色の髪とYシャツにスーツパンツ、両手をポケットに入れた彼の右手首にもスマホレットが付けれれている。
男は二人の方は見ずに口を開いた。
「俺の店で騒ぎを起こすのは勘弁してくれないか?」
その少し低めの声はあまり感情を含まず冷静。
「申し訳ありません。ルチアーノ」
「まぁいい。喧嘩なんてよくあることだ」
ルチアーノは言葉と共にゆっくりと桃らの方へ振り返る。その整った顔と黄金色に染まった髪はモデルとして活躍してても不思議ではないほどだった。
「ですが、あの新人の方が話も聞いてくれなかったのが事の始まりですよ」
「あいつは仕事をしただけだ。それにお前が連絡の一本でもすればよかったんじゃないのか?」
そう言いながらデスクへ歩き出したルチアーノは椅子へと腰掛けた。
「それもそうですね。思いつきませんでした」
「嘘つけ。――まぁ俺もあいつにお前のことを話していなかったからな。まぁいい。それで? 一体何の用だ? そいつをうちで働かせたいのか? まぁ見た目は悪くないが……」
ルチアーノの視線は蘭玲のつま先から頭の先までを品定めするように見つめ始めた。
「まさか。彼女はうちの優秀な社員ですよ」
「そうか。残念だ。職に困ったらいつでもうちに来な。お前だったらいつでも歓迎するぜ」
「覚えとく」
蘭玲は興味がないといった感じで素っ気なく返事を返した。
「それじゃあどんな用なんだ?」
「仕事の情報が欲しくて来ました。この少女についてです」
そう話しながら写真をルチアーノへ送る桃。ルチアーノは自分のスマホレットで少女の写真を確認した。
「知らねーな。本当にここか?」
「可能性の範囲ではありますがね」
「それにしても随分と育ちが良さそうだな。出身は?」
「被害者側の情報は今、送ってもらうようお願いしています。被害者やその家族等の詳細な情報を」
「それでもプロかよ。情報確認は基本だろ」
「言いますねぇ」
ルチアーノの言葉に対し桃は仲の良さが分かるような笑みを浮かべ指を差す。
「まぁ、確かにここでは人攫いもよくある話だがそれでも被害にあうのは大抵貧困層。社会的地位の低い者ばかりだ。それ以外の者の被害がないとは言わないがな。もしこの子がそこそこの階級でここのやつが攫ったんだとしたらめんどくせぇ計画でやったか、ただのバカかだな」
「後者の方が楽でいいんですがね。そのような者は何をしでかすか分からないという点では恐ろしいですが。しかしあなたの網に引っかからないとなるとその二つのどちらか、もしくはそもそもこの場所とは関係ない可能性もありますね」
「もし計画的なものならもっと深いところが関わってる可能性もないとは言えねーな」
その可能性を想像するだけでも嫌気が差し桃は思わず眉を顰める。
「面倒なことになっていないことを願います。――では今日はこの辺で。何か情報がつかめたら連絡よろしくおねがいしますね」
「あぁ、俺の方でも調べてみるよ」
「助かります」
「今度来る時は大人しくな」
「その時にはすんなり通れるようにしといてくださいね」
そんな桃にルチアーノは払うように手を振り「さっさと帰れ」と言っているようだった。
「ではまた」
そして蘭玲と共にオフィスを出た桃は静かにドアを閉めた。
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