Dracor 序章

佐武ろく

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序章:Alea jacta est.

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 雰囲気とでも言うのか、今の彼がドラゴンだという事にアタシは遅れながら気が付いた。第六感、気配――言葉の選択は迷うが、口で説明出来ない感覚的な部分が先程までのドラゴンと同じだったから。

「アートの体を乗っ取ってどうするつもり!?」

 でも今はそれどころじゃない。もしかしたらドラゴンは自由を手に入れる為にアートの体を乗っ取ったのかもしれない。そんな不安がアタシの中では一瞬にして膨れ上がっていた。

「安心しろ。どの道、この封印から解放されなければこの場所を離れることは叶わん」

 そう言いながらアタシの方へ体を向け膝を立てるアート――もといドラゴン。

「貴様には、儂の心臓に力を集めてもらう。魔人を殺し、その魔力を心臓に集めるのだ。その力を使って儂は自らこの封印を打ち破る」

 一人話を進め、アートの胸をトントンと突くドラゴン。

「だが貴様に成せるのか?」

 ドラゴンは訝し気な視線をアタシへ向けた。

「何体殺ればいいの?」
「五体あれば十分だ」

 そう言って片手を広げて見せる。
 五体……それはこの世に残る魔人の数。もっともアタシの知っている情報が当たっていればの話だけど。
 でもアタシにはやる以外に選択肢はない。

「そしたらアートを治してくれるのね?」
「それは成してから言え」

 ふっ、と嘲笑するように一笑するドラゴンに期待はなかった。
 だけどアートの為に――やるしかない。例えこの命を失ってしまうとしても。

「いいわ。必ずあなたを解放する」
「言葉などいらぬ。成して見せよ」

 そう言うとドラゴンは立ち上がると自分の本体(ドラゴン)へ振り返った。
 そして何の躊躇いも無く本体の胸へアートの手を突き刺した。当然の如く、溢れ流れる大量の血。
 だがそんな事には目もくれず抜き取ったその手に握られていたのは――大きな心臓だった。(実際に見たことは無いけど)人のモノより一回りか二回りほど大きなその心臓は、今も懸命に脈打ち生を体現している。

「これからはお前の心臓だ。魔人を殺し、その心臓を喰らえ。そうすれば魔力が集まる」

 説明をしながら鼓動する心臓を手にドラゴンはアタシの前へと足進めた。
 一方、アタシは一応ながらその言葉を聞いてはいたが、目の前の生々しい心臓に気を取られてしまっていた。

「もしこの心臓ごと貴様が死ねば、代わりにこれを頂く」

 ドラゴンはそう言ってアートの胸を指差した。

「粗末な物だが仕方ない。時間が経てば元に戻るだろう。皮肉にも儂には時間はあるからな」

 この選択はアタシだけじゃなくてアートの命さえも自分勝手に賭ける事になる。それを改めるようにアタシは感じた。
 でもきっと彼も分かってくれるはず――。

「本当に貴様に成せるのか?」

 ――あの日誓ったように。
 アタシは何だってする。
 君との日々を取り戻せるのなら。
 君ともう一度一緒にいられるのなら――何だってする。

「やってみせる」
「よかろう」

 そう言うとドラゴンはその心臓をアタシの方へ。そっと近づいてきた心臓は今も脈打ち――そしてアタシの胸に触れるとそのまま中へと入り込んでいった。どういう原理なのか、痛みは全くない。
 そしてドラゴンの手が丸々アタシの中へ入り込むと――ドクン。
 これまで感じたことないような強烈な鼓動が一つ。その一声で意識が持っていかれるかと思う程だ。同時に全身へ血液が流れるのを感じる。まるで内側が洗浄されるようだ。でも綺麗になったという感覚はない。
 気が付けばアタシは、思わず地に両手を着き四つん這いになりながらも深い呼吸を繰り返していた。しかも、それが収まると何もなかったと言うように体はいつもと変わらず平然としている。不思議な感覚だ。
 一方でドラゴンは再度、自身の本体へ向かうとその爪をもぎ取って見せた。一体何をしてるのか。見上げるようにアタシはその背中を見つめいた。
 すると、ドラゴンの手の中でその爪が光を放つと形を変えそれは一本の刀へと姿を変えた。
 そしてそれを手にドラゴンは再びアタシの元へ。

「こんな体で魔人を討ち取るなど無謀に等しい」

 ドラゴンはそう言葉を口にしながら刀をアタシへと差し出した。

「これには魔人を討ち取る力がある。だが振り方を知らなければ意味はないがな」

 アタシはドラゴンを見上げたまま立ち上がった。

「――殺し方も知ってる」

 そしてその刀を受け取った。
 それを手にしたのは初めてだったが、弓やナイフ等とは違った重さが懐かしく思えた。

「儂は欲するのは結果のみだ。またこの場所へ現れるか、死すか。その日をここで待つとしよう」

 そう言ってドラゴンは本体の前へ腰を下ろした。
 あの日からこれまで毎日のように眠りっぱなしだったアークが今、目の前で平然と座っている。顔を上げれれば想い出の中の笑みを浮かべてくれるような気がした。
 でもまだ彼はそこにはいない。

「その体は大切にして」

 別に返事も約束も求めてはいない。
 だからアタシはそれだけを言い残して振り返り、歩みを進めた。
 洞窟の外に出るとさっきまでの現実離れした出来事が嘘のように、和やかな森がアタシを包み込む。外に出た所で足を止めると一度だけ暗闇に呑まれた洞窟の向こうを振り向いた。数秒、暗闇を見つめる。
 そして再び前を向き直すと目を瞑り一度、大きな深呼吸をした。

「――よし」

 言葉と共にそう呟いたアタシは右手に持った刀を強く握り締め――彼の為、一歩目を踏み出した。
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