DuaLoot(デュアルート)

佐倉翔斗

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 時は大昔のフルムータ地方に遡る。昔々、古代中央アルバルファの小さな村に狼牙ろうがという赤髪の少年がいた。少年は争いごとは好まないが体は頑丈で喧嘩に強く、誰かのため動くことを好んだ。彼がいるその村では、彼は村一番の人気者であった。
 数十年後、フルムータ地方各地で領土の取り合いによる戦争が勃発した。その戦争は実にむごいものだった。魔法による術殺、魔獣兵器による異種族の大虐殺、化学兵器の乱用による環境汚染などこの世のものとは思えないほど残酷な世界だった。青年となった狼牙はその光景を見て激怒した。彼の怒りの矛先は戦争ではなく「」に向いていた。もとはといえば、この戦争の原因は「欲深い人間たちの領土の取り合い」から発展したもの。なぜ、人間という生物は醜いのか。なぜ、争いが起きるのか。彼はそう疑問に思う。彼はその怒りと疑問を噛み締め、地方各地の戦争地へとで赴いた。その後、狼牙の手によってフルムータ地方各地の戦争は七日間で終戦したと言い伝えられている。彼の姿を見た者は口をそろえてこう言った。「あれはなんかじゃない。だ。」と。頑丈な狼牙といえど、フルムータ地方各地の戦争を七日間で治めたことが原因か、片腕を失い、疲弊しきった彼は永い眠りについた。永き眠りについている無防備な彼は、彼の出身の村の人々によって守られ続けた。
 彼が眠ってから二年が経過した。フルムータ地方は平和そのものとなっていた。そんな中、村に一人の女性が訪れて来た。その女性は緑色の美しい長い髪を束ねた綺麗な容姿をしていた。彼女は村の人々にこう言った。「狼牙に会わせてほしい。」と。彼女はどこか慈愛に満ちたような目で頼んでいる。村の人々は渋々、彼女を狼牙に会わせることにした。彼女の名前は長月ながつき、南方にあるサクラノ地方からやってきた術師と語った。しばらくすると、狼牙が眠っている村はずれの岩場の祠にたどり着いた。長月は村の人々に感謝した。その後、「申し訳ないが、私と彼の二人きりにしてほしい。」と頼んだ。村の人々は彼女に悪意を感じなかったので快く承諾して、村へ戻って行った。祠の周りは物音一つしなくなった。すると長月はぼそりぼそりと亡骸になり静かに眠っている狼牙に語り始めた。
「君が本来「英雄」として語られるはずの者。皆は君のことを「怪物」と言い張るが、私はそう思わない。君は人として正しい行いをした。君こそ・・・狼牙、君こそ英雄として相応しい存在なのだよ。君は、生きるべき人物だ。君が望むのなら、生き返らせてあげよう。いや、生き返らせてくれ。君は私の憧れだ!君は「怪物」なんかじゃない。君こそがこの地の「大英雄だいえいゆう」となる王の器なんだ!」
最後にそう叫ぶと、彼女は魔杖を持ち呪文を唱えた。すると、狼牙の周りに魔法陣が展開され光り輝いている。長月は息継ぎを行うことなく長い呪文を唱え続けていた。その魔方陣の光の先には、彼「大英雄・狼牙」が永い眠りから目覚めた。
 大英雄・狼牙の復活とともにフルムータ地方全域の均衡は再び保たれた。戦争・科学という概念は消え去り、美しき自然を保ちつつ各地方の街は発展していった。そして戦争で失った狼牙の片腕は長月の力によって改良された。彼の片腕は大英雄に相応しい大剣となった。その姿は、まさに大英雄の肩書にふさわしい姿だった。そして彼と長月は、自分たちが死に絶えた後のことを考え、世界の均衡のために七色の宝玉を作り上げた。その宝玉は各地方に遺跡を建て、祀ることとなった。その宝玉は「大英雄・狼牙の秘宝玉」として語り継がれていった。ある事実は語り継がれぬまま。
 長い時を経て、世界・時代は移り変わっていった。ただ変わらぬことは、大英雄・狼牙という人物と大賢者・長月二人の偉人がいたということ。そして、。これは、銀髪の少女と黒髪の半人半獣の青年が出会い、真実を探し求める物語の序章に過ぎない。
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