DuaLoot(デュアルート)

佐倉翔斗

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episode-3 黒い宝玉と決意

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 此度の標的であるゲッテル伯爵邸の黒い宝玉については、数々の有名な話がある。数ある話の中でもダントツで有名な話によると、四〇年程前に若かりし頃のゲッテル伯爵が遺跡で発見したの一つで、不思議で奇妙な力が宿っているのだとか。その世界的発見で得た巨万の富と名声で建てたのが、今回突入するゲッテル伯爵邸である。しかし、この伯爵邸には用心深い伯爵が泥棒対策にありとあらゆる箇所にからくりを仕込んでおり、名のある盗人たちが挑んでは姿を消していったという黒い噂が立っていた。そんな館にルナは潜入し、黒い宝玉を盗むというのだ。
 「無茶言うなよ!?下手すりゃ私も命を落とすじゃないか!!君は私に死にに行けと言っているのか!?」
ルナは終夜に向かって命乞いをするかのように大きな声で言った。
「バカ言え、安心しろ。お前一人での単独潜入での入手は無理なのは百も承知だ。よって俺も同行する。からくりが多数あるのなら何も考えず破壊して突破するのみ、容易いことだ。あとは、恐らくだが屋敷の庭周辺に一〇人ほど雇われ警備員がいるだろう。そいつたちをまとめて相手取り、全員即座に蹴散らしてやる。」
と、軽々しく終夜は言った。本当にそれでいいのか?そう思った彼女はこの死ぬか生きるかの命の賭けに不安しかなかった。確かに成功すれば、怪盗としての偉業として歴史に名を残す一生モノのとなり、失敗すれば己の命が失うという、なのだ。彼女は少し冷や汗をかき、震えながら終夜にこう聞いた。
「終夜…君が私の立場なら、宝か死…この選択、どっちを選ぶ…?」
終夜はこの質問にクスリと笑い、
「俺がお前の立場なら…か。俺なら迷わず宝を選ぶな。俺からしたら、死なぞ恐れることではない。生きとし生きるもの、生きているもの全てには必ず死が訪れる。永遠なんて存在しない、必ず…俺はそう思うな。もし今回の件で命を落としてしまったのなら、己の運命さだめだったということだ。」
彼の言葉にはさっきまでの軽率さは一切感じなかった。それどころか、彼が発したこの言葉は死を恐れていた彼女の心に強く響いた。今、死を恐れていてはいけない。成功すればいいだけの話だ。あの時、頭の中で響いた母の声に応えるためにも…。彼女の心に決意が宿った。
「あまり…期待はしないでくれよ?私もやるだけやってみるが、失敗しても知らないからね?」
彼女の眼には雲一つなく光が灯っていた。その目線は遠くを、を見ているのだろう。
 ……彼女たちが向かう三日前の話。伯爵邸に三人組の盗人が財宝目当てに侵入していた。
「ここにある宝を手に入れりゃ、俺様たちは巨万の富を得ることができる。そうすりぁ俺様たちの怪盗としての名が上がるってこったぁ…へへへっ…。」
「そうっスよアニキ!この館の宝はオイラたち、ローヌ一味のものっスよ!」
「アニキたち!あっちの部屋からお宝の匂いがプンプンするゲスよ!」
「へへへっ…よくやった!宝はもうすぐ俺様たちのモノだ!行くぞお前たち!!」
このローヌ一味と名乗る輩たちは頭の中には宝の事しか入っていないからか、に気付きもしなかった。すると、その歪んだ空間から誰かの人影がうっすらと見え、コツッ…コツッ…歩いてくる音と共に声が聞こえてきた。
「いやぁ…実に浅はかで愚かな考えを持つ三人組のコソ泥だ!いけないねぇ…宝と名声がよぎってしまって考えることができなくなっているのかな?…、小物風情が…!!そんな低俗な輩たちにはちゃーんと制裁おしおきが必要なようだねぇ…!さて、どうしてやろうか。火炙りにしよう!…いや、それでは味気がないな…。そうだなぁ…。…そうだ!まず奴らを生け捕りにしよう!そこから毒を打ち込んでじっくりと弱らしてから、にしよう!三匹いるから、失敗してもなら出来るぞ!」
何者かが高笑いしながらローヌ一味が入っていった部屋に向かって行った。この館内には誰かの怒りや憎しみ、そして何よりも「」の気配が漂っていた。
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