DuaLoot(デュアルート)

佐倉翔斗

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episode-5 怒りの連鎖

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 時は少し前、ルナとミドが鷲掴みにされ、引きずり込まれた後に戻る。二人は中に放り投げられ、顔を思いっきり地面に叩きつけられ、痛さに悶えていた。
「いたた…ミドさん、大丈夫ですか?」
「おいらは平気っス…って…ここは…!」
二人とも痛みが引き、前を向いた。目に映ったのは圧巻の光景だった。目の前には大量の金銀財宝、有名な絵画たち、多種多色な宝石の数々。さらには中央には立派な玉座のようなものもあった。
「この宝の山は一体…。」
彼女は開いた口が塞がらないまま辺りを見渡した。すると、おもむろに宝石の方へと目を向けた。光り輝くダイアモンド、透き通った新緑のエメラルド、海よりも深く濃い青いサファイア、燃え盛る炎の如く紅く輝くルビー。そして、奥には今回のお目当てである美しくも怪しく魅惑の光を放つ漆黒の宝玉もあった。
「ああ!あれっスよ!おいらたちが触れさせられた黒い宝玉っス!…あれ?でもおかしいっスね…さっき入ってきたのにおいらとルナさんが今いるのはなんて…。」
ミドの発言でルナはこの違和感に気付いた。彼女たちは玄関扉から放り込まれて入ったはずなのに、顔をあげてみたらからだ。気絶もしていないし意識もしっかりあった。誰かに引きずられて来たわけでもない。謎の仕組みによって考えるだけでも二人の頭はパンク寸前になった。すると、どこからともなく誰かの声が聞こえた。
「いやはや…お二方、驚いたかな?私の宝物庫は?」
二人は反射的に後ろを振り向いた。しかし、後ろには人の姿どころか影も見当たらない。
「この声は間違いないっス…#_あの伯爵の声っス…_・__#!」
声の主はこの屋敷の主であるゲッテル伯爵のようだ。
「驚くのも無理はない。君たち二人からのだから。」
そんなの絶対嘘だ。間違いなく声に聞こえ方は近くにいる感じだった。…しかし、自分たちには姿が見えていないのは事実。信じざるを得ないようだ。
「その宝物庫の中へ入ってきてごらん。そうすれば、私の元へ来ることができるぞ。もっとも、そうするしかないのだからね。」
胡散臭いが、聞こえる声の言う通りそれ以外に方法はない。しかしさっきまで感じなかったが、この先からは何故かが宝物庫の方からする。気配でも分かる。。二人は宝物庫に足を踏み入れた。
 宝物庫に入り、目の前に映った景色はさっきほど見た宝の山ではなく、館内の大広間の中心に立っていた。やはりこの館はおかしい。そう思い引き返そうとすると、後ろにあるはずの宝物庫の扉がなくなっていた。
「宝物庫の扉をくぐれば、また違う場所にいる。不可解極まりないだろ?コソ泥ども。」
大広間の吹き抜けフロアから先ほどの声がした。姿は老人のようなものがうっすらだが見える。姿は老人のようだが、呼吸するのも苦しいくらいだ。
「お前が、伯爵なのか…?」
息苦しい空間の中、ルナは老人に向け尋ねた。
「おや?私のことを知っているのかい?若い少年少女がこの老いぼれの私を知っているとは、実に光栄なことだ!…と言っても、。」
伯爵はそう言うと、ミドを睨み付けた。ミドは動じずに伯爵に向かって、
「伯爵のジジイ!アニキと仲間を返せっス!」
と、大声で言った。聞こえたのであろうか、伯爵は悪魔のような笑みをしている。すると伯爵はとんでもないことを言った。
「アニキと仲間…ねぇ…?」
ルナとミドは気付かなかった。殺気と威圧感で充満しているこの空間に気を取られ、
「ある者は、私に刃向かい無数の刃物で斬殺。またある者は、私の絡繰り人形によってハチの巣に。そしてとある三人組はとなり死んでしまった。皆、私が持つ宝を盗むため侵入してきたドブネズミどもだ。悪事を働かせたものには制裁があるのは当然のことだろう?」
伯爵はニヤリと笑いそう言った。ここに忍び込んだものを全員殺めていた。死屍累々と死体が転がっている中には、ミドの仲間の二人の姿もあった。ミドは発狂した。仲間を失ったことへの悲しみ…。そしてなによりも、仲間の命を奪った伯爵への怒りで自我を保てていなかった。しばらくするとミドはショックで意識を失ってしまった。その姿を見た伯爵は高笑いしながらこう言った。
「実に愉快だ!仲間を殺され、失った時の人間の叫びとは美しき音楽!感謝しよう、ミドと名乗るもの…いや、ミドラ=アガレス。生前の記憶を失った哀れな悪魔の生まれ変わりよ!私はよく貴様を覚えている。だったからな!名前と気配ピンときたよ…。貴様も!」
ルナはミドの悲しみ・怒りを踏みにじった伯爵の言葉に激怒した。
「伯爵…お前に人としての心はないのか!?私にはお前の言葉一つ一つが人を見下しているようにしか聞こえない!!ミドさんが昔にあった悪魔の生まれ変わりだから、ミドさんの仲間を殺したとでもいうのか?もしかしたら、ミドさんが生前に罪を犯し、お前に危害を加えたのかもしれない…。でもそれは?私には今ここにいるミドさんがそんなことしていたように見えない。生前の記憶が本人にないからかもしれない…。だけど!私はミドさんを信じる!平気で人を殺める…伯爵、お前の方がだ!」
ルナの怒りの言葉は大広間に響き渡った。伯爵は眉をピクリと動かし、先ほどの歪んだ笑みとは一風変わり二人を見下すような冷酷な表情に変わった。
「私に人の心がない…?私が悪魔…だと?…フフフッ…フハハハハハッ!…笑わせてくれる!!人の心など、とうの昔に捨てたわ!勘違いするな!私はただの人殺しではない!これは制裁、悪を裁くための善行だ!それでもこの私、が間違っているというのか、ステラーヌ・ルナ!」
怒りに満ちて荒げた声が大広間に響き渡る。しかし、彼の言葉には
「ふぅ……。失礼、私とあろうものが取り乱してしまった。私も歳かな…怒りがこみ上げるとつい言葉が乱暴になってしまう。話を変えよう、ステラーヌ・ルナ。平和・奇跡の象徴の娘よ。君の勇士を称え、一つ教えてやろう。何故、皆がこの黒い宝飾を狙うかをね。」
焦りで揺らいだ感情を隠そうと若干必死になっている伯爵。ルナは伯爵から衝撃的な言葉を聞く。
「この宝玉の噂は軽く耳にしているだろう。その噂通り、のさ。人が触れば奥底に眠る潜在能力が覚醒し人知を超える力を得ることが出来る。…とまぁ、この宝玉の事を教えた。君には死んでもらう前にチャンスを含めた実験をしようじゃないか。」
実験とは恐らくミドが言っていたことだろう。万が一のため詮索されないように、ルナは白を切り質問した。
「実験?何をする実験だ?」
「おや?てっきり奴から話を聞いていると思ったが、聞いてなかったのか。説明するのは面倒だが、私は優しいので教えてあげよう。まず初めに、君を椅子に括り付けて身動きを封じる。この際、抵抗したら…聡明な君ならわかるだろう?そして君にはこの黒い宝玉に触れてもらおう。触れた後、体に異変があれば言ってくれたまえ。そこから私が持っている投げナイフを君に向けて投げよう。体に異変があって新しい力が芽吹き、君がどうやってその状況を変えることが出来るかという実験さ。縛り付けられた状態から脱出できれば成功。君を解放しよう。ただし失敗したら…わかるだろう?」
ルナはこれから行われることは己の命を懸けたものだと悟り、緊張のあまり息をのんだ。そこに伯爵の声が響き渡る。
「さぁ、ステラーヌ・ルナ!君の命運をかけた実験を始めようじゃないか!」
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