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episode-7 意地(プライド)と紅い花
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こんな私でも、意地というものがあるのでね。ここで引き下がってしまえば我が妻の願いが果たせなくなる。誰よりも、私に寄り添い、誰よりも、私を理解してくれた。そして誰よりも、私を大切だと思ってくれているあの人のために。だからこそ私は…
「私ハ、ステラーヌ・ルナ。我ガ妻ノ願イノ為ニ…貴様ニ勝タネバナランノダ…!!」
伯爵は片言な言葉でそう言った。
彼が片言なのはおそらく人間離れした骨格に変形し、声帯がうまく発達していないからであろう。伯爵の見た目から推測するに蜥蜴男で間違いない。ルナは冷静に伯爵を分析した結果がそれであった。さらに彼女は自分に与えられた力についての推測を始めた。現段階で分かっていることは得た能力は2つということ。一つは「すり抜け」。手首を拘束していた縄をいとも外せたので概ね合っている。二つ目は未確定だが「物体を固定する」ことができるようだ。これらを駆使して伯爵を撃退できないか考え始めた。ふと前を見ると、伯爵の姿は消えていた。恐らく先ほど伯爵が言って使っていた「空間操作」を使ったのだろう。なら伯爵はどう攻撃してくる?間違いなく相手の視界に入らない死角を狙って攻撃を仕掛けてくる。人間の死角…それなら…
「後ろあたりから攻撃してくる…!!」
ルナはそうつぶやき、護身用の木製の小刀を構えて背後を警戒した。すると予想が的中し、伯爵が背後から音もたてずにこちらに走ってきて鋭利な爪で切り裂こうとしていた。ルナは間一髪の所で回避することに成功した。しかし相手は蜥蜴男、ただのトカゲならその後に続けて攻撃をしてこないだろう。伯爵は攻撃を外したと瞬時に判断し、硬くて鋭利な刃物のような尻尾で隙を見せぬ二連撃を食らわせた。ルナは攻撃を喰らったが、幸い受けたダメージは少なく、服の袖が切り傷で破け、掠り傷で血が滲んでしまった。
「オヤ、アマリ効イテナイネ…。次ハ、肉モ切リ裂イテヤロウ…!!」
伯爵は不気味な笑みを浮かべ、そう言った。反撃しようにも彼女が持っている武器は終夜のような鉄製の太刀ではなく木製の小刀のみ。流石にこれだけでは伯爵の鎧のように硬い鱗を突破することは不可能だ。
ルナはあることを閃いた。自身が持つ「物質を固定する能力」をうまく応用し利用して武器を強化できないかと考えた。迷っているのも時間の無駄、試しにやけくそで木刀を強く握った。すると、木刀は見た目は変わらないが徐々に強固になっていき、材質が木から鉄になったかのように感じた。不思議なことに重さだけは全く変わっていないように感じた。そうしていると伯爵が再び攻めの姿勢に入り向かった来た。ルナは反撃を試み、木刀を構えた。伯爵が右手の爪で切り裂きにかかった。ルナは伯爵の攻撃をいなし、守りが薄くなっている左腕に向け素早く、そして強く木刀で殴った。攻撃を受けた伯爵の左腕からミシミシッと鈍い音が鳴った。彼女が強化した木刀は鎧のように硬い鱗を貫通し腕の骨にダメージを与えることができたのだ。伯爵は痛みに悶えている。
「小癪…小癪小癪…!!私ハ…私は…先立った我が妻の願いのためにも…ここでやられるわけには…倒れるわけには…いかんのだ…!!」
あまりの激痛だったのか、伯爵の変化は徐々に解けていた。しかし、完全には解除されていなく無傷の右腕だけはいまだ鱗に覆われていた。伯爵がとった行動を見るに、間違いなく最後の一発で決着をつけようと試みているようだ。伯爵の意図を理解したのか、ルナは伯爵に向けこう尋ねた。
「最後の一発に賭けるなんて、計算高い性格のお前らしくない。そして、間違っていたら悪いが伯爵、お前が初めて会った時に言っていた言葉が本当に思っていることとは思えない。お前の本当の目的は何なんだ?」
伯爵はその言葉を聞き、痛みに耐えながらも高らかに笑った。
「…やはり君は面白い少女だ。確かに、普段の私ならこんな強行策は取らない。そして、君の言う通り、私の目的は言っていたものとは違う。私の本当の目的は彼女ラフィニスが私に望んだ願いである誰よりも強くあり生きることだ。実験や制裁なんざどうでもいいのさ。全ては強さを求めるための糧なのさ。…だが、もう終わりだ。ステラーヌ・ルナ、君が最後だ。さっき受けた一撃で分かった。私では君に勝てるかも分からない。君を倒せば、我が目的に進むことが出来ると確信した。なので決着を付けよう。この拳一振りで君を穿つ。悪いが、私の目的のために死んでくれ!」
伯爵の決意が籠った言葉が大広間内に響き渡る。ルナは伯爵の言葉を聞いてクスリと笑った。
「誰よりも強く生きる…か…。ここまで来たら呪いのようなものだな。…伯爵。悪いけどお前の願いは聞けそうにない。私にもお前みたいに誰かから望まれた願いがあるもんでね。」
ルナの言葉にも決意が籠っていた。その言葉を聞き、何か納得するかのようにニヤリと笑う伯爵。ルナと伯爵、二人は違うが同じように願いを大切な人から託された者同士であったのだ。
気がつけば大広間は静まり返り、ルナと伯爵二人の呼吸はかき乱されぬ状態になっていた。そして、伯爵から動きを見せた。力強く右手の拳を握り、ルナに向かって走り寄っている。その拳には、伯爵の信念のようなものが宿っているように見え、先ほどとは全くもって異なる不思議な力が加わっている。それに対しルナは今持っている力をありったけ使い、木刀を振りかぶり握りしめた。木刀は先ほどとは比べ物にならない程の強度になり、水色の光を帯び始めていた。伯爵がルナに攻撃が当たる間合いまで近づき力の限り右腕を彼女に向け振るった。それと同時にルナは力強く握り振りかぶっていた光を放つ木刀を振り下ろした。二人の攻撃が触れた瞬間、激しい火花が散った。その威力は凄まじく、館全てを激しく揺らしていた。そしてお互いにその威力に耐えられず、反発し合い吹き飛ばされてしまった。ルナと伯爵、互いに壁に強く打ち付けられた。伯爵は何とか耐えきったようだが、ルナはそのまま気絶してしまった。
「…私の…勝ちだ…。ステラーヌ・ルナ、少女ながらこれほどの力を出すことが出来るとは…。君は…すごいよ…。…君みたいな人とは戦いたくなかったな…。君となら、分かり合えただろうな…。」
よろけながら伯爵はルナの方へと歩みを進めた。しかし次の瞬間、伯爵の腕に上から一本の針が突き刺さった。伯爵は不思議に思い上を見上げた。そこには彼女に向け仕掛けた無数の針が彼の周りに向いていた。そう、伯爵が立っている場所は先ほど、ルナが無数の針を止めていた場所だったのだ。さらに、その針たちは徐々に動き始めていた。伯爵は驚き、その場を離れようとするが、先ほどの相打ちの反動が来てしまい思うように動けなかった。そんな伯爵に向かって無慈悲にも一本一本、彼の体に刺さっていく。この時、伯爵は悟った。
これが、私が殺めてきた者たちが受けた痛みか…。考えずとも分かる。私の命はここで朽ちる。我が妻ラフィニスよ…お前の願いを果たせずに死んでしまうことを許してほしい…。私もそちらへ向かおう…。そしてまた、昔のように話を聞いてくれないか…?私たちの出会いの始まりである、赤い花の花畑で…。
全ての針が地面と彼の体に突き刺さった時には、彼ゲッテル・カタストロイア伯爵はピクリとも動かず血を流し倒れていた。彼の表情は涙を滴っているが少しだけ微笑んでいるように見えた。そうして大広間に再び静寂が訪れた…。
「私ハ、ステラーヌ・ルナ。我ガ妻ノ願イノ為ニ…貴様ニ勝タネバナランノダ…!!」
伯爵は片言な言葉でそう言った。
彼が片言なのはおそらく人間離れした骨格に変形し、声帯がうまく発達していないからであろう。伯爵の見た目から推測するに蜥蜴男で間違いない。ルナは冷静に伯爵を分析した結果がそれであった。さらに彼女は自分に与えられた力についての推測を始めた。現段階で分かっていることは得た能力は2つということ。一つは「すり抜け」。手首を拘束していた縄をいとも外せたので概ね合っている。二つ目は未確定だが「物体を固定する」ことができるようだ。これらを駆使して伯爵を撃退できないか考え始めた。ふと前を見ると、伯爵の姿は消えていた。恐らく先ほど伯爵が言って使っていた「空間操作」を使ったのだろう。なら伯爵はどう攻撃してくる?間違いなく相手の視界に入らない死角を狙って攻撃を仕掛けてくる。人間の死角…それなら…
「後ろあたりから攻撃してくる…!!」
ルナはそうつぶやき、護身用の木製の小刀を構えて背後を警戒した。すると予想が的中し、伯爵が背後から音もたてずにこちらに走ってきて鋭利な爪で切り裂こうとしていた。ルナは間一髪の所で回避することに成功した。しかし相手は蜥蜴男、ただのトカゲならその後に続けて攻撃をしてこないだろう。伯爵は攻撃を外したと瞬時に判断し、硬くて鋭利な刃物のような尻尾で隙を見せぬ二連撃を食らわせた。ルナは攻撃を喰らったが、幸い受けたダメージは少なく、服の袖が切り傷で破け、掠り傷で血が滲んでしまった。
「オヤ、アマリ効イテナイネ…。次ハ、肉モ切リ裂イテヤロウ…!!」
伯爵は不気味な笑みを浮かべ、そう言った。反撃しようにも彼女が持っている武器は終夜のような鉄製の太刀ではなく木製の小刀のみ。流石にこれだけでは伯爵の鎧のように硬い鱗を突破することは不可能だ。
ルナはあることを閃いた。自身が持つ「物質を固定する能力」をうまく応用し利用して武器を強化できないかと考えた。迷っているのも時間の無駄、試しにやけくそで木刀を強く握った。すると、木刀は見た目は変わらないが徐々に強固になっていき、材質が木から鉄になったかのように感じた。不思議なことに重さだけは全く変わっていないように感じた。そうしていると伯爵が再び攻めの姿勢に入り向かった来た。ルナは反撃を試み、木刀を構えた。伯爵が右手の爪で切り裂きにかかった。ルナは伯爵の攻撃をいなし、守りが薄くなっている左腕に向け素早く、そして強く木刀で殴った。攻撃を受けた伯爵の左腕からミシミシッと鈍い音が鳴った。彼女が強化した木刀は鎧のように硬い鱗を貫通し腕の骨にダメージを与えることができたのだ。伯爵は痛みに悶えている。
「小癪…小癪小癪…!!私ハ…私は…先立った我が妻の願いのためにも…ここでやられるわけには…倒れるわけには…いかんのだ…!!」
あまりの激痛だったのか、伯爵の変化は徐々に解けていた。しかし、完全には解除されていなく無傷の右腕だけはいまだ鱗に覆われていた。伯爵がとった行動を見るに、間違いなく最後の一発で決着をつけようと試みているようだ。伯爵の意図を理解したのか、ルナは伯爵に向けこう尋ねた。
「最後の一発に賭けるなんて、計算高い性格のお前らしくない。そして、間違っていたら悪いが伯爵、お前が初めて会った時に言っていた言葉が本当に思っていることとは思えない。お前の本当の目的は何なんだ?」
伯爵はその言葉を聞き、痛みに耐えながらも高らかに笑った。
「…やはり君は面白い少女だ。確かに、普段の私ならこんな強行策は取らない。そして、君の言う通り、私の目的は言っていたものとは違う。私の本当の目的は彼女ラフィニスが私に望んだ願いである誰よりも強くあり生きることだ。実験や制裁なんざどうでもいいのさ。全ては強さを求めるための糧なのさ。…だが、もう終わりだ。ステラーヌ・ルナ、君が最後だ。さっき受けた一撃で分かった。私では君に勝てるかも分からない。君を倒せば、我が目的に進むことが出来ると確信した。なので決着を付けよう。この拳一振りで君を穿つ。悪いが、私の目的のために死んでくれ!」
伯爵の決意が籠った言葉が大広間内に響き渡る。ルナは伯爵の言葉を聞いてクスリと笑った。
「誰よりも強く生きる…か…。ここまで来たら呪いのようなものだな。…伯爵。悪いけどお前の願いは聞けそうにない。私にもお前みたいに誰かから望まれた願いがあるもんでね。」
ルナの言葉にも決意が籠っていた。その言葉を聞き、何か納得するかのようにニヤリと笑う伯爵。ルナと伯爵、二人は違うが同じように願いを大切な人から託された者同士であったのだ。
気がつけば大広間は静まり返り、ルナと伯爵二人の呼吸はかき乱されぬ状態になっていた。そして、伯爵から動きを見せた。力強く右手の拳を握り、ルナに向かって走り寄っている。その拳には、伯爵の信念のようなものが宿っているように見え、先ほどとは全くもって異なる不思議な力が加わっている。それに対しルナは今持っている力をありったけ使い、木刀を振りかぶり握りしめた。木刀は先ほどとは比べ物にならない程の強度になり、水色の光を帯び始めていた。伯爵がルナに攻撃が当たる間合いまで近づき力の限り右腕を彼女に向け振るった。それと同時にルナは力強く握り振りかぶっていた光を放つ木刀を振り下ろした。二人の攻撃が触れた瞬間、激しい火花が散った。その威力は凄まじく、館全てを激しく揺らしていた。そしてお互いにその威力に耐えられず、反発し合い吹き飛ばされてしまった。ルナと伯爵、互いに壁に強く打ち付けられた。伯爵は何とか耐えきったようだが、ルナはそのまま気絶してしまった。
「…私の…勝ちだ…。ステラーヌ・ルナ、少女ながらこれほどの力を出すことが出来るとは…。君は…すごいよ…。…君みたいな人とは戦いたくなかったな…。君となら、分かり合えただろうな…。」
よろけながら伯爵はルナの方へと歩みを進めた。しかし次の瞬間、伯爵の腕に上から一本の針が突き刺さった。伯爵は不思議に思い上を見上げた。そこには彼女に向け仕掛けた無数の針が彼の周りに向いていた。そう、伯爵が立っている場所は先ほど、ルナが無数の針を止めていた場所だったのだ。さらに、その針たちは徐々に動き始めていた。伯爵は驚き、その場を離れようとするが、先ほどの相打ちの反動が来てしまい思うように動けなかった。そんな伯爵に向かって無慈悲にも一本一本、彼の体に刺さっていく。この時、伯爵は悟った。
これが、私が殺めてきた者たちが受けた痛みか…。考えずとも分かる。私の命はここで朽ちる。我が妻ラフィニスよ…お前の願いを果たせずに死んでしまうことを許してほしい…。私もそちらへ向かおう…。そしてまた、昔のように話を聞いてくれないか…?私たちの出会いの始まりである、赤い花の花畑で…。
全ての針が地面と彼の体に突き刺さった時には、彼ゲッテル・カタストロイア伯爵はピクリとも動かず血を流し倒れていた。彼の表情は涙を滴っているが少しだけ微笑んでいるように見えた。そうして大広間に再び静寂が訪れた…。
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