白船亭事件考

隅田川一

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第1章

稲荷千太郎

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 飯が食えるかどうか不安であったが、その男は覚悟を決めて開業した。手に職があるわけでもないので、彼に出来る仕事は自分が有している資格を利用する他はなかった。稲荷千太郎の職業は行政書士である。以前は刑事だったが、退職してその職を選んだ。
 
 彼の事務所は上野の池之端にあった。不忍池と上野の山の間の動物園を挟んでいる十メートル程度の道幅の道路を上野方面から根津の方向へ行き、右手の交番を越して、真っ直ぐに少し歩くと稲荷千太郎の事務所がある。周囲は木造の家屋が連担している典型的な下町だった。稲荷千太郎は、古い木造二階建の建物の二階部分を間借りしていた。そもそも土地の面積が小さかったので建物の規模自体も小さく、各階は十坪程度しかなかった。稲荷千太郎が賃借していたのは、二階部分で、廊下、階段、トイレ部分を除く八坪程度の小さな事務所であった。事務所といっても住宅用の貸間だったが、家主に許しを得て事務所兼自宅として使用していた。
 
 一階に家主が住んでいた。家主は山田さんという老婆で、亡くなった夫が残した現金とこの家の家賃で生活している気さくな下町の女性であった。
 
 山田宅の玄関脇の二階へ上がる階段の横に「稲荷千太郎行政書士事務所」と書かれた看板が貼り付けてある。化粧板に自分で文字を書いた簡単な看板で、それはみすぼらしい物だった。
 
 その年は、稲荷千太郎が開業してまだ二年だったのでろくな仕事もなく、彼はしばしば家賃の支払いを滞っていた。山田婦人と彼が階段などで会ったりするときの家賃の催促は、怖い顔をしてはっきり家賃を払えと言うのだが、引っ越せとは言わず、最後には世間話しになってしまうところが下町の面倒見の良い婦人という感じで、稲荷千太郎はそれを妙にありがたく感じていた。それでもなんとかして食べていかなくてはならない。そう思っていた稲荷千太郎は、行政書士の仕事以外に過去に経験のある浮気調査などの興信所まがいのこともアルバイトとして行っていた。しかし、このような調査業は正式に看板を揚げて行っているわけではなく、知り合いを通じての、いわゆる「口コミ」の依頼しか引き受けないことにしていた。やはり、行政書士で身を立てたいと言う気持ちから一念発起して前職を退職し独立した意地というものが稲荷千太郎にはあったのだ。
 
 行政書士の仕事というものも、どのような仕事なのか案外世間では知られていない。弁護士は法廷における裁判業務やその他の法律事務の全般を扱っているが、行政書士も契約をしたり、遺言書を書いたりという法律事務の仕事も行っている。もっとも、行政書士といえば、代書屋という側面もある。弁護士は平均年収が高いが、行政書士は儲かっている者とそうでない者との格差が大きい。
 
 稲荷千太郎はどちらかといえば、「貧乏」な行政書士の部類に入ってしまっていた。この男は、性格は暗い方ではないが、営業行為が苦手で人付き合いも良くなく、世辞の一言も言えない。来客が少ない割には、顧客を増やす努力もしていなかった。
 
 稲荷が行政書士業を開業し、二年程度経過した昭和四十年の春のある晴れた日に、白髪の七十歳ほどの老人が彼の事務所に訪れた。   
 
 この老人との出会いが、自分があの痛ましく恐ろしい事件に巻き込まれる事になろうとはそのときの稲荷千太郎には想像も出来なかった。
 
 その老人は稲荷千太郎の事務所のドアを小さくノックした。

 突然の訪問者に稲荷千太郎は少し慌てた。股引にYシャツを着て歯を磨いていた彼は、急いでうがいをした。右腕で口に付着していた水を拭った。頭髪はボサボサの状態だった。 
 
 稲荷千太郎は紺色の背広を数枚しか持っておらず、どの背広も汚れなどで、ところどころが白く色あせている。しかも、稲荷の体型が痩せているためにズボンとお腹のサイズが合わず、ブカブカな状態で、ベルトで固定しているものの腰回りのズボンはしわが寄っていた。貧乏性のため、多少太っても着れるようにと、実際の自分の体型よりもやや大きめの背広を購入していた。
 
 稲荷千太郎は、さっとブカブカなズボンを穿いた。ネクタイをする暇はなかった。

「はい。どちらさまですか?」

 
 大きな声で返事をし、ズボンのボタンをはめながらドアに近づいた。
 ところが返事がない。
 稲荷千太郎は、そっとドアを右手で開いて覗き込むように表に顔を出した。
 そこには面識のない白髪の大柄な老人が立っていた。

「はじめまして」

  と、その老人はいった。 

「はあ・・・」
 
 稲荷千太郎は突然の老人の来訪に面食らった。
 たいてい、行政書士事務所などには、誰かの紹介で来訪する場合がほとんどで、なんのアポイントメントもなしに、突然にお客が来るなどということは聞いたことがない。

「すみませんが、どちらさまで?」


「白船さん?」

「まあ、どうぞ、中へお入りください」

 用件も聞かずに、老人のきちんとした身なりを見て稲荷はその老人を事務所の中へと導いた。 

「すみませんね。散らかっていますが」
 
 稲荷は、常に事務所を汚くしているために、こういう場面のときは大慌てになる。タバコの吸殻が山盛りになった灰皿の吸殻をゴミ袋へバッと入れ、そして来客用のテーブルの上に無造作に置いてある雑誌や新聞をドサッと違う場所へそのまま移動させた。

「まあ、どうぞ、こちらへおかけください」
 
 白船と名乗る老人は、手に持ったステッキをテーブルの脇に置き、ドカッと座った。この老人の体型は細くない。骨格のしっかした肉体だけとってみればまだ若いともいえそうな外観である。それに反比例して髪は全体が白髪で白い髭もたくわえている。裕福で若々しい老人というイメージを持つ人であった。そして稲荷千太郎と違って折り目の正しいグレーのスーツを着こなしており、社会的地位の高い人間の人物に見受けられた。
 
 稲荷千太郎は「行政書士稲荷千太郎」と、示してある自分の名刺を老人に差し出した。


「それで今日はどのようなことでお越しになられましたか?」
 
 老人は、背広のポケットからタバコを取り出し、それを口に咥えてライターで火をつけながら、

「実は遺言書を書いて欲しいのです」

 また遺言書の作成の依頼か、と稲荷はいつもと変化のない依頼がきたと思った。

「はい、わかりました。遺言書ですね。主に自筆証書遺言と公正証書遺言がありますけど、普通は公正証書遺言にします」
 
 と、稲荷千太郎はマニュアルに書かれているようないつものセリフを坦々と述べた。

「自筆証書遺言をしたいのだ」

 老人は穏やかな目つきで答えた。

「公正証書遺言にする方が多いのですが、よろしいのですね?」

 稲荷千太郎は公正証書遺言のほうが、公証人が第三者的立場で遺言を役場に保管してくれるので色々な面で安全であることいい、そして自筆証書遺言は自分でそれを保管しなければならないリスクがあることも伝えた。

「そんなことは分かっているよ。ただ、私は毎年、いや二年に一度かどうか分からないが、遺言書を書き換えるつもりでいる。そのたびに役場なんかに行くのも面倒だし、専門家のあなたに手伝ってもらって書いた遺言書があればそれで十分。しかも、役場の公証人は、辞めてしまって次に行ったときには違う公証人がいるなんてこともあると聞いた。私は、同じ人に相談にのってもらって、手伝ってもらいたい。ちょうど、あなたのような若い先生が望ましい」

 確かに稲荷は三十代中頃でまだまだ若い。この老人よりも早く亡くなることはない。

「そうですか。分かりました。ところで、ひとつお聞きしたいのですが」

「うん、何ですかね」

「私の事務所をどなたかにお聞きして来ましたか?誰かの紹介とか・・・」 

「電話帳で探した。近くの人が良いと思ってね」

「そうだったのですか?ところで、なぜ、弁護士さんやお知り合いを通じての行政書士などへ依頼をなさらないのですか?」

「先生は若いのに商売根性がないね。普通は何故自分のとこへ来たのか、なんて聞かないものだが・・・」
 と、老人は薄ら笑いを浮かべて言った。
「実はね。知り合いの弁護士もいるのだが・・・。あまり私の秘密なんかをいいたくないのだよ。弁護士同士で依頼者のうわさなどをするはずもないとは思うが、疑り深い性格でね。弁護士でない行政書士の先生のほうが、私には望ましい。特に知り合いには何から何まで話したくない」

 その老人の言うことが何を意味しているのかは、稲荷には全く分らなかったが、知り合いの弁護士に頼みたくないということは理解できた。

「とりあえず、お話しは分かりました。費用は十万円程度かかります」

「十万円?そんなもんでいいのか?」

「はい。お手伝いをするだけですから・・・」

 しかし、この老人の話を聞いた後に、複雑怪奇な人間関係が背後にあることが分かり、この老人の意図を汲み取り、適切に遺言書を作成するには、必要経費を含めると十万円では済むはずがないということに稲荷千太郎は気づき、報酬決定に関してはやや不満が残った。

 この老人の名前は「白船喜平」。「はくせんきへい」ではなく、「しろふねきへい」と読む。白船喜平は、戦争から復員し、戦後浅草において料亭「白船亭」を創設し、その料亭で稼いだ金を不動産や株式などにも投資をし、莫大な資産を形成した。今回の依頼は、その白船喜平の資産を遺言しようというものであった。

 ただ、白船喜平も、単純に成功の道のりを歩んできたわけではない。白船喜平は、態度こそ良いものではなかったが、全てを隠さずに稲荷千太郎に話しをした。遺言書の法律的要件には全く関係ないが、なぜ今の自分がここにいるのか、そしてなぜ遺言を書いて、誰にどのくらいの遺産を譲るのか、そういうことを洗いざらいに述べ、それを第三者である彼に伝えた。稲荷千太郎は、熱く語る喜平の態度にいささか驚いた。行政書士である彼は、遺言する依頼者の資産を知り、それを誰に遺贈すれば良いのかだけを知れば足りるのだが、喜平が自分の身の上話を話し始め、むしろ遺言よりもそちらの話の方が長くなっていることに少しだけ嫌気を差した。

 喜平は中国から復員した。喜平の実家は栃木県だったが、彼は復員した当時、実家へは戻らなかった。仕事をするなら東京しかない、と思っていたからだ。そして、喜平は予定通り、東京の人形町の三軒長屋に落ち着き、ある女性と知り合い、そして結婚した。この女性は岡本美恵子という女性であった。結婚して、白船美恵子となり、喜平との間に2人の双子の男子を産んだ。喜平は当時、ある料亭で修行をしながら少ない給料を得ていた。喜平の稼いでいる給料だけでは生活することができなかったために美恵子は内職仕事を行って二人の子供を育てていた。

 ところが、子供たちが三歳になった時分に、喜平は美恵子に内緒で愛人をつくった。その愛人というのは、喜平が修行に出ていた先の料亭の娘で名前を橘良子といった。その料亭は茅場町では有名な「相模屋」という老舗料亭だった。橘良子は、その相模屋の箱入り娘だった。その橘良子と喜平の仲は日を追う毎に親密になり、橘良子は真剣に喜平を愛するようになった。喜平からすれば不倫だったため、相模屋の主人である橘作太郎に気が付かれないようにしなくてはならなかった。喜平は仕事が終わってから、わざわざ離れた場所で橘良子と愛引きを重ねた。恵美子はそんな喜平の行動には全く気が付かなかった。

 その後、橘良子は無謀な行動に出た。喜平の妻である美恵子に、喜平に内緒で接近し、喜平との離婚を勧めたのである。はじめ美恵子はその話を無視したが、喜平の浮気が発覚したその後は、喜平と美恵子の間もうまくいくはずがなく、いつしか美恵子の心も喜平から離れていった。
 双子の子供だと、洋服などの「お下がり」も兄から弟へというような利用ができない。全ての費用が二人分同時にかかってしまう。そうでなくても少ない喜平の給料では生活できない状況なのに、そこへきて喜平の浮気があり、美恵子はやりきれなくなったのだろう。ある日、喜平が帰宅したときに美恵子の姿は自宅にはなく、机の上に、簡単な置手紙と印を押した上に美恵子の署名がなされている離婚届が置いてあった。喜平はそれを見て途方に暮れたらしい。しかし、喜平が驚いたのはそれだけではなかった。小さな布団の中に一人子供が寝ているではないか。

「そのとき、双子のもう一人の子供はいなかったのですね?」

「そうだ。いなかった。私は慌てて狭い部屋をくまなく見渡したが子供は一人しかない。そこで、一旦落ち着いてから、美恵子の書き残した手紙を読んだ」

 手紙には、離婚する、そして二男の幸二は連れて行く、長男の幸一は頼む、というような内容のことが書かれていた。

「それだけではないのだ」

「まだ、何か書かれていたのですね?」

「私の日本刀が消えていた」

 稲荷千太郎は、喜平の言葉を聞いて、やや困惑した。恵美子による日本刀の持ち去りを意外な出来事と感じたからである。
「日本刀ですか?」

「そう。日本刀」

 当時、妻に内職までさせていた喜平に資産などは何もなかった。唯一、金になりそうな物が在るとすれば、それは日本刀であった。

「その日本刀は、私が敵地へ向かう前に、私の栃木の父が田畑の一部を売り払った金を使って、群馬の桐生で買って、それを軍刀仕立てにして私に持たせてくれたもので、私のお守り刀だった」

 その日本刀の銘は「村正」ということであった。    

「その村正は、今の価値で六百万円くらいではないかと思う」

「六百万円というと大変な金額ですね。名刀なのですね」

「まさに名刀。あの刀は戦地においては、お守り刀そのものだった」

 そこまで言うと、喜平は言葉に詰まり、突然、

「いや、その話しは止めておこう」

 と、話を途中で止めた。そのときの喜平は一瞬遠くを見つめて、顔が異常に険しくなったので、稲荷千太郎は、戦争で喜平の身に何かがあったのだなと直感的に分かった。しかし、このことが、これから起こる恐ろしい事件に深くかかわることになろうとは、その時点で彼に気づくはずもなかった。

「それで、その村正を美恵子さんは持っていったのですね?」

「そう、幸二と共にね」

「その後はどうなったのですか?」

 その後、喜平は、橘良子と再婚することになった。良子は料亭「相模屋」の娘であり、喜平は家族を養える給料を義理父からもらえるようになった。美恵子が幸一を残して失踪したために、幸一は良子と喜平が育てることになった。喜平は、その後も良子の実家の料亭で仕事をし、その料亭の近くに借り住まいをした。喜平は、良子の父親から信用を得て、料亭の跡を継ぐことになったが、その後、様々な事情が発生し、その料亭は、結局、橘家の長男が継ぐことになり、喜平はそこにいつまでもいることも出来なくなった。喜平は、浅草で小さな小料理店を開店した。修行の甲斐もあって、この料理店も繁盛し、徐々に規模が拡大し、今の白船亭にまで成長した。白船亭は浅草ではその名を知らぬ者がいない料亭に成長した。

「それで、美恵子さんとの間に生まれた幸一さんを良子さんが引き取って育てたというのは分かりましたが、良子さんとの間のお子さんはいるのですか?」

「長男の礼次郎。長女の順子。そして次女の紗枝。この、三人の子供が産まれた」
 結局、美恵子さんが連れて行った幸二を含めると、幸一をはじめとして、良子との間にできた礼次郎、順子、紗枝の合計五人の子供が喜平の戸籍上は存在していることになる。

「うん。まず、前妻の美恵子、そして連れ去られた幸二はどうなっているのか分からない」

「はい。それから?」

「美恵子が残していった幸一は、良子を実の母と思い、立派に白船亭で働いている。もちろん、幸一は恵美子が本当の母だと知っているがね。良子との間にできた礼次郎は店の手伝い、長女の順子は会社員、次女の紗枝は結婚した。良子は亡くなってしまったが、他の者は全員、私と同居している」

「えっ、結婚した紗枝さんも、同居しているのですか?そして良子さんは既に亡くなっている?」

「そう。紗枝が結婚した男は、実は私の料亭の板前長をしている。私の目を盗んで恋愛関係になったらしい。名前は田中良太という男でね。紗枝と出来てしまって、結婚の許しを請うてきたが、ふたつ返事で承知したよ。まあ、真面目な男だしね。反対する理由もなかった。自分の若い頃をだぶらせて見てしまった面もある。幸い家は広くて部屋も余っているので、二人がよければ家に住めといったのだよ。そうしたら、彼らもその方が助かるというので、そのようにしたわけだね」

「なるほどねえ・・・。同居って言いましたが、白船さんはどちらにお住まいで?」

「浅草の白船亭、つまり職場だ。ここに住んでいる。自宅兼料亭だ。白船亭は敷地千坪に、まずは庭がある。木造家屋が庭の奥にあるのだが、建物だけで、七百坪はある。そのうち、三百坪は元々私の自宅だから部屋が余っていてね。居心地が良いらしく誰も引っ越さない。そうそう。話は飛ぶが、紗枝の旦那の田中良太は、つい二週間程度前から行方知らずになっていて、困っている。紗枝も心配しているのだが、連絡もないまま二週間も経過してしまった」

「行方不明?心当たりもない訳ですね?」

「紗枝と夫婦喧嘩をした訳でもないようだし、行方不明になる動機らしいものもない。それだけに心配していて、警察に探してもらっている」 

「それは心配ですね。突然、居なくなるとは・・」
「彼は釣りが好きなのだが、休日に釣りへ行ったきり、帰ってこない。そろそろ警察に捜索願を出そうと思っている矢先だ」

 稲荷千太郎も、その件については、何を話して良いのやら困惑した。しばらく沈黙が続いた。

「ときに、白船さん。本題ですが、あなたはご自分の資産をどのように遺言したいのですか?」
喜平はやや改まった表情に変わった。誰が聞いているわけでもないのに声を小さくしながら口を開いた。

「まず、株式会社白船亭、これはつまり料亭のことだが、これを幸一にやる。株式会社白船不動産、これはビルを所有している会社だが、これを礼次郎にやる。そして、個人資産である現金や株式を順子と紗枝に半分づつやる」

「なるほど。普通に考えると一番問題がなさそうな遺言ですね」
それはそうであろう。前妻の子供で腹違いとはいえ、幸一は元々から料亭の手伝いをしているのであるから、その料亭を運営している会社をもらう、ということは妥当な結論である。話しによると後妻である良子はすでに死亡している。その良子との間にできた礼次郎は白船亭の会計等をしており、仕事に関しては、やや怠け気味の性格である。不動産賃貸を目的とする会社ならば、常日頃の不動産の管理は不動産屋へ任せれば済むだけの話であり、料亭を営む会社をもらうよりは彼にとっても都合が良い。話によると、喜平は都内に複数の賃貸建物を所有しているということであった。そして、長女の順子と次女の紗枝は喜平が個人で有する現金や投資株などを半分づつもらう。

「つまり、白船さんの希望を考えると、前妻との間に産まれ、その前妻の美恵子さんが連れ去ってしまった幸二さんへは遺産をあげたくない、という意図が感じられますね」

 喜平は大きく頷いた。

「簡単に言えばそういうことになる。遺言を書かなければ幸二にも権利は発生する。今手元にいる子供たちのために遺言は書かなければいけないのだよ」

「趣旨が分かりました。しかし、白船さんが最初に言ったことですが、今の内容の遺言書を再び書き換えることもあり得るでしょうか?」

「そりゃ、分からない。だから、そういうこともあるという想定もして自筆証書遺言を考えている」

 結局、稲荷千太郎はその白船喜平の遺言書の作成の手伝いをして、一週間後にそれを完成させた。 

 稲荷千太郎は、完成した自筆証書遺言は、金庫の中にでも隠しておくこと、封筒の封を開けてしまうと効力がなくなることを喜平に告げた。

 稲荷千太郎は、遺言書の作成を手伝い、報酬をもらった後は、この白船喜平という老人のことをすっかり忘れていた。ところが、約一ヶ月経過した頃、再び喜平から稲荷千太郎事務所へ電話がきた。短期間のうちに遺言書を書き換えるとも思えず、遺言書とは別の件であるという直感を稲荷千太郎は得た。

「はい。稲荷行政書士事務所ですが」

「あ、稲荷先生ですか?私は浅草の白船です」

「あぁ、白船さんですか?先日はありがとうございました」

「実は、稲荷さんに相談があるのです」

「はあ・・・どういう相談ですか?」

 そう言って電話を切った白船喜平は、随分と急いでいたらしく、タクシーを拾って、わずか三十分程度で稲荷千太郎の事務所に到着した。

 喜平は、ノックもせずに、いきなり事務所のドアを開け、階段を急いで上がってきたら激しく息を荒くしながら、

「すまんねえ・・・いきなりやってきて」
 
と、言った。

 何事が起こったのか、稲荷千太郎もその時は理解できなったが、冷静を保つことに努めた。

「まあ、慌てずに・・・・。こちらへおかけください。お茶でも入れますので」

 稲荷千太郎は、茶渋の汚れを誤魔化すことが出来る益子焼きの茶色の急須に湯を注いで、白い湯呑茶碗にやや薄めの煎茶を入れて喜平の目の前に置いた。

「あ、ありがとう」

 喜平も稲荷千太郎の顔を見てやや安心したのか、気持ちを落ち着かせて、お茶に口をつけて、啜りながら言った。

「実はね。脅迫状が届いた」

「え?えっ、脅迫状ですか?」

 稲荷千太郎は脅迫状という言葉を聞いて度肝を抜いた。遺言書を書いたばかりの老人の元に脅迫状が届くなど、普通で考えれば有り得ないことである。稲荷千太郎の目に、この白船喜平という老人は得体の知れない生き物に見えた。

「そうだ・・・・」

「それをこの私がどうすれば良いのですか。確かに告訴状や告発状の作成は行政書士の業務に入りますが・・・」

「いや、すでに警察には相談した。その結果、この脅迫状はいたずらであるという判断を下され、警察では今のところ介入できないと言われたのだ」
 
 ここまでの話しを聞いても、喜平が言う意味を稲荷千太郎には全く理解できなかった。彼の悪い癖で、無意識で鼻毛を親指と人差し指で摘み、引き抜きながら考え込んでしまう。そのときも、指で簡単に挟みこめるほどに長く伸びた鼻毛を一本、二本と引き抜きながら勝手な想像を張り巡らせていた。

「良く分からないのですが。今の話だけではね。もっと、具体的にお話ししてくれませんか?」
喜平は一息ついて、精神的な落ち着きを取り戻していた。

「実はね。第1次世界大戦の戦時中の話だがね。私は、陸軍の歩兵として中国の山東省に居たことがある」

「そうでしたか。御苦労されたのですね」

「あるとき、私と、私の上官の男と、私の戦友の三人が部隊から孤立した」

 喜平の話によると山東省の山深い地方において、喜平を含む三人の男たちが、偵察中に本隊から迷子になったということであった。しかし、この話しはこの恐るべき事件と無関係なわけではないが、ここでこれを詳細に説明することは話しを先延ばしにすることになるので、事件に関係する部分のみを簡単に説明することにする。
喜平と、戦友である渡辺新造、そして彼らの上官である土井宗次郎は、偵察中に本隊とはぐれ、途方にくれていたが、その間に腹が減った。

 山林を迷いながら歩き続けていると、突然、空間が広がり、青空が見えた。そこは、緑の田園が広がる場所で、その田園の彼方に一軒の民家があり、彼らは食べ物を恵んでもらうために、その民家に寄ることにした。

 三人で、その民家に近づいたときに土井宗次郎は、喜平と渡辺新造に対して、その場で待つように指示を出した。その場というのは民家から百メートルほど離れた場所であった。なぜ、ここで我々が待つ必要があるのだろうか、と喜平と渡辺新造は思ったが、それが上官の命令である以上は逆らえずにそこで待つことにした。しかし、十五分経過しても土井宗次郎はその民家から表に出てこない。不振に思った喜平と渡辺新造は、その民家に近づき、今にも壊れそうな木製のドアを開いた。

 喜平は、神妙な顔つきで、稲荷千太郎の顔を見つめながら、

「私はドアを開けて、その中の光景を見て、我々は唖然としたのだ。土井はその家の娘を犯そうと押し倒して、ズボンを脱いで下半身を露出していた」

 と、言った。

 喜平と渡辺新造はそのとき、上官とはいえ土井宗次郎に対して、そういう行為は止めてほしい旨申し出た。

「土井は、そのときに我々を睨んで、最初から女がいればこうしようと思っていて、だからお前らをあそこで待たせていた、と我々に言った」

 喜平には、元々土井という上官には、日頃の言動から腹立たしいことがあって、かぼそい女性を強姦しようとしている土井の姿に対して我慢ができなかった。喜平は、とっさに、左側にぶら下げていた軍刀の拵えに納めてある「村正」の柄に手をかけて抜刀した。

 そのとき、土井も、お前は俺を斬るつもりかと、傍に置いてあった自分の軍刀を引き寄せて鞘から刀を抜いた。ところが、その光景を横で見ていた渡辺新造が喜平よりも早く土井宗次郎に向かって斬りつけた。女はとっさにその場から逃げて、家屋の外に走り出た。渡辺新造が放った一太刀目を土井宗次郎はうまくかわしたが、喜平がすでに二太刀目を放っていて、それが土井宗次郎の右腕を間接部分から斬り離した。土井宗次郎の右腕は音もなく地面に落ち、彼は、落ちた自分の右腕を見て初めて、自分は斬られたという苦悶の表情をした。こうなっては、戦闘意欲は土井宗次郎には沸くはずもない。そのまま地面に放り出された自分の右腕を見て、人間とは思えない悲鳴を上げて地面にのた打ち回った。

「我々も土井の姿と、その血を見て怖くなった。一瞬、軍事裁判に立たされる自分の姿も頭の中を駆け巡った。だから、そのままその民家から走り去り、渡辺と一緒に逃げたのだ。走り去る瞬間に、土井が我々を睨みながら、お前らを恨みぬいてやる、と叫んでいた姿が、終戦後も毎晩夢に出た」

 稲荷千太郎は、喜平から彼の意外な過去の話を聞くと同時に、いったいこの話しが脅迫と何の関係があるのかと疑問を感じた。

「なるほど。でも、その後、その土井宗次郎は部隊に戻ったのですか?消息などはどうなのですか?」

「実は、その後、土井宗次郎は、部隊にも戻らず、消息は不明だ。我々は部隊に戻り、開き直って土井とはぐれたという報告をするのみだった」

「土井は、はじめから強姦目的というイメージですが、腹が減っていたのですよね?」

「もちろん、強姦もするし、食料も奪うということだったのだと思う」

「で、白船さん、まさか脅迫状というのは、その土井宗次郎から来たわけではないでしょうね?」

「ここまで話せば推測が付くと思っていたが、まさに、脅迫状はその土井宗次郎から来た」

「え、まさか」

 と、稲荷千太郎は一瞬驚いた。警察が思うように直感的には有り得ない話しのように感じられた。しかし、当の喜平は大真面目な表情だった。

「土井宗次郎は、戦地でそのまま行方知らずだから、奴がどこかで生きていてもおかしくない。日本の法律上死亡したという扱いになっているかも知れないが、そんなことは私の知ったことではない。私は土井と苦楽を共にしていた時もあったのだから、あの男のことは良く知っている。あの男は、たやすく死ぬような男ではない。戦地で、そのまま生き延びて、今になって復讐しに来たに違いない」

「ちょ、ちょっと待ってください。白船さん。あなたは興奮されてしまっていて肝心の脅迫状とやらをまだ私に見せてくれていませんよ」

 喜平は、興奮した自分を少し冷静に戻し、苦笑いを浮かべた。

「そうだったね。これだ」

 と、その辺の文房具屋で売っているような薄い紙で出来た茶封筒を背広の内ポケットから取り出した。

 稲荷はその茶封筒を見つめた。

「封筒の表の宛名は、新聞紙をハサミで切り取って貼り付けていますね」
 
 つまり、封筒そのものに手書きをしているわけではなく、一文字づつ新聞紙から文字を切り取り、それを貼り付け
てあったのだ。宛名として白船喜平の名前が記載されていた。

「中身を見てよいですか?」

「無論のことです」

 稲荷千太郎は、その封筒の中から折りたたんである一枚の白い紙を取り出し、丁寧に中を広げた。
その白い紙の中の文字も、一文字づつ新聞紙の文字を切り取り、封筒と同じように貼り付けてあった。

 その文章を見たときに喜平の話が本当だとするといかにも気味の悪いことが書かれていた。・・・久しぶりだな。俺が誰だか分かるか。俺はお前に恨みのある者だ。いよいよ、俺の恨みを晴らす時が来た。覚悟しておくように。きの字へ・・・・

「この、きの字というのは?」

「それは、私のあだ名だ。上官であった土井にからかわれていて、そう呼ばれていた」

「なるほど。このあだ名は、いわば、白船さんと土井の両人に通用する言葉なわけですね」

「そういうことだ。あだ名もその通りだが、我々が土井の腕を斬り落としたなどということは、もちろん誰も知らないわけだし、土井以外にこの内容の手紙を書ける人間などはいないはずだ」

「白船さんのお話を聞けばそう思わざるを得ませんね」

 白船喜平は、大きく頷いて、

「ところが、警察は、誰かのイタズラだろう、ということで、この手紙だけでは切迫した危険もないから、今のところ捜査は出来ないというのだ」

 なるほど、と稲荷千太郎は喜平の話に一々頷いていたが、考えてみると肝心の彼に頼みたいこということが分からない。警察が相手にしないことに対して稲荷千太郎は自分が何をすれば良いというのかという疑問を感じた。

「実は、そこで頼みがある」

 喜平は真剣な眼で稲荷千太郎を凝視した。

「はあ・・・」

 稲荷千太郎は、頼りない言葉で応答した。

「私の家に寝泊りして、しばらくガードマンをしてくれないか?」

「え?ガードマンですか?ちょ、ちょっと待ってください。ガードマンでしたら、私のようなヘナヘナな男よりも、たくましいプロのガードマンでも雇ったほうが数倍良いではないですか」

 稲荷千太郎は、違和感を感じながら喜平の顔を見つめた。

「それはそれで考えてみた。だけど、それは止めた」

「なぜですか」

「まず、土井が生きていても今では老人だし、片腕がないのだから襲ってきたとしても私とあなたがいれば大したことはない。それよりもこの手紙が単なるいたずらだとすれば、何故こんないたずらを私にする必要があるのか、そして、誰がこのようないたずらをしたのか、それを調べたい。それと、その他にも実はいくつかのことをお願いしたい。知らないガードマンを自宅に泊まらせるのも嫌なのだよ。できれば、あなたがいい」

「はあ・・・」
 
 稲荷千太郎は少し困った様子を見せた。正直、彼はあまり気が進まなかったのだ。稲荷千太郎は、痩せ型の華奢な男であり、体力にも自信がない。いざ、本当に戦闘になっても老人にすら勝てる気がしなかった。

「そこで、何泊か泊り込んでもらうことになるのは大変に申し訳ないし、もしかしたら私の命にかかわる恩人になるかもしれないので今日は報酬として二十万円を用意した。少し宿泊が長引くようなら、後から更に報酬は追加する」

 白船喜平は、いきなり封筒を取り出し机の上にポンとそれを置いた。

「確認してくれ」

 非常に情けない話しであるが、稲荷千太郎はお金が欲しかった。しかも、いたずらの手紙が届いただけだから、本当にこれから事件などが起こるかどうかも分からない。確かに何者かと格闘にでも至れば勝つ自信はないが、自分一人で対抗するわけでもなさそうだから、何とかなるだろう。それよりも、しばらくこの老人の家に泊まり、その間、美味しい食事を馳走になれば、かえって良い休暇になるかもれない。もし、手紙がいたずらだとしても、彼は前職が刑事だったために、当時身に付けた推理能力で、そのいたずらの犯人さえ見つければ、更に報酬をもらえるかもしれない。彼は急に、そのように考えを改めた。

「分かりました。その仕事引き受けます」

 白船喜平は大いに喜び、稲荷千太郎の手を強く握って、

「ありがとう。ありがとう」

 と、何度も頷いた。
 
 白船喜平が帰った後に、稲荷千太郎は事務所の家主である山田夫人の玄関のベルを鳴らした。

「はいはい」

 山田婦人はドアを開き、来訪者が稲荷千太郎であることに少し驚いた顔をしていた。

「あら、稲荷さん。どうしたの、珍しい。まさか滞納している家賃を払いに来たわけじゃないでしょう」

 山田婦人は、嫌味と冗談を含んだふくよかな笑顔でいった。

「いやあ・・・、実は、そのまさかなのですよ」

 稲荷千太郎は、照れ笑いをしながら右手で頭を掻きながら言った。

「え?何か大きな仕事でも入ったの?」

「ええ、まあ。一応、滞納した家賃の全部と来月分も置いていきます」

「ええっ?来月分まで」

 山田婦人は、今まで聞いたことがない稲荷千太郎のセリフにいささか戸惑った顔をした。

「はい。一週間程度になると思いますが、出張で留守しますので、先に払っていこうかと思いました」

「そりゃあ、助かるねえ。今後もそうしてね。ところで、出張って遠くなの?」

「浅草です。」

「あはは・・・冗談を。浅草って、ここから歩いても行けるじゃないの」

「冗談じゃないのです」

「まあ、本気でも冗談でも気をつけて出かけてくださいね。」
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