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海音から見て
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忘れられない夏があった。
人生で16度目のやけに暑い夏だった。
私は8月27日、彼女に大きな告白をされることになる。
「うぅー…おはよう」
気だるそうに伸びをしながらこちらに向かってくるのは涼鈴。
夏が似合う色白で爽やかな雰囲気で、笑顔は青空と太陽に良く似合う少女だ。
彼女は鎖骨よりも数センチ下くらいの長さの黒髪を揺らしてこちらに歩いてくる。
「ホント眠いな。海音は眠くないの?」
「あたしは別に眠くないけど涼はまた夜更かし?成績おちんぞー」
「あたしは成績なんて知りません!!成績って単語はあたしの前では禁句ね。」
「あーハイハイ。言いませんよ」
涼鈴には不思議なところがあった。日焼けもしないし夜更かしをしてもクマができない。
肌のケアを頑張っているのだろうな、私も見習わなきゃ。なんて思って涼鈴にどんなケアをしているのか聞くと
「え?ケアなんてしてないな、とりあえず化粧水と乳液だけお母さんに塗れって言われて塗ってるけど。」
としか答えない。
さぞ良い化粧水と乳液なんだろうなと少し羨ましいと思ったが、その分高いと思い何を使っているのか聞くのは辞めておいた。
そんなことはさておき、今は高校1年生初の夏の始まり、周りの生徒も完全に夏服に変わった7月前半、学校のすぐ近くの駄菓子屋の目の前にサイダー屋が来る。
珍しいことだが、ここら辺ではおなじみだった。ラムネとサイダー、運が良ければアイスキャンディーも売っている。
私たち二人は中学の頃にここで出会った。2人とも中学は違ったがこの店に来る時間帯が同じだったため、仲良くなったのだ。
「今日もいつものとこ行く?」
「涼鈴って本当にサイダー好きだよね。そろそろサイダー屋も来る季節だし、行ってみようか!」
「よしっ!じゃあ決まりね。来なかったらアイス奢ってよ」
「じゃあ遅く来た方が奢りで」
「了解!」
「じゃあ後でね」
涼鈴と私はクラスが違ったので、あまり一日に一緒にいることは少ない。休み時間くらいだろうか、お互い自分のクラスに仲のいい子はいたけど、何となくお互いに一緒にいると安心した。
まるで生まれた時から一緒にいたかのように仲が良い私たちは自然と一緒にいるのだ。
突然だが、「何となく一緒にいて安心する」っていう関係が1番いい気がする。そして1番難しい。お互いの凹凸がピッタリとハマるように、気の合う子じゃないとこの空間は作り出せない。
私が凹凸の凹だとしたら涼鈴は凸で、かっちりはまってちょうどいい関係だ。まあ、涼鈴がどう思っているかは分からないけどね。
自分のクラスに着くと、自分の席に沢山のお菓子や文具が置いてあった。そうだ、今日は私の誕生日だ。「誕生日おめでとう」と書かれたメッセージカードが目に入る。私は大きな声で叫ぶ
「祝ってくれた人マジでありがとう!大好きだわ!」
クラスのそこらじゅうから「どういたしまして」「おめでとう」などの声が聞こえる。私は心の中で思った。涼鈴は私の誕生日を覚えていてくれているだろうか。手際よく机に広がるプレゼントをバッグに詰め込んでそんなことを考えた。
(まあ、祝ってくれなくても一緒に居られればいいんだけどね)
そんなこんなで1限目が始まり、2限目が始まり、気付けばもう放課後だった。駄菓子屋の前に直行する。私の方が遅く着けば私の奢りになってしまう。
(はぁ…よし、この角曲がればすぐそこ!)
「おっ!来たな海音ぇ!」
「は……?はっっっっやぁ!」
「ちょっとここからは目隠ししましょうね海音さん♪」
「ちょっ何すんのよ涼鈴!うわぁっ!」
強引に目隠しをされて歩かされる。ここは駄菓子屋の目の前だろうか、少しドキドキしながら目隠しを取ってもらうと目の前には「Happybirthday!!」と書かれた風船で飾られた駄菓子屋があった。
「うっそ?!これあたしのために?ほんとにありがとう涼鈴!」
こんなに嬉しいことがあっただろうか。もしかしたら今までの誕生日で1番嬉しかったかもしれないレベルだ。
その後涼鈴に話を聞いてみると数日前から計画を立てていたそうで、随分昔からここに通っている私のためにサイダー屋のおじさんと駄菓子屋のばあちゃんが協力してくれたらしい。
サプライズの後、涼鈴の奢りで駄菓子とサイダーを食べて、最高の一日は終わった。
それからしばらくして今は7月21日。学校最終日だ。
「明日から夏休みだねぇ」
「そうだね。あたし宿題終わらない気がする」
「何言ってんのよ!涼鈴はもうちょっと余裕もった方がいいぞー!」
「いや、それは不可能に近い。」
「ちょっとは頑張れっての」
なぜ涼鈴は成績は中の上なのにこんなにも勉強が嫌いなのだろうか。それは未だに謎だ。
「海音ぇぇー勉強会しようよ」
「いいよ。いつなら空いてる?」
「8月4日は大会。それ以外は空いてる」
「大会か、頑張れ」
「さんきゅ」
なんだかんだで勉強会は7月中に決まった。今日もサイダーを買いに行くことにしよう。最近行けてなかったしな。
「涼鈴今日サイダー飲まない?」
「んあー、ごめん無理だわ」
「おーおっけい」
なんだか最近涼鈴がサイダーを避けている気がする。あんなに好きだったのに最近はお茶しか飲まないしなぁ。気の所為かな。
今日は1人で行くか。そうしよう。
「おばちゃん久しぶり」
「今日は涼鈴ちゃんいないのねぇ」
「最近あいつあんまりサイダー飲まないんだよね。ばあちゃんはなんか知ってる?」
「わからんなぁ、今日はサービスだよ。アイス1本あげる」
「おっ!ばあちゃん太っ腹!」
ばあちゃんと話していると元気がでる。ばあちゃん優しい声や手が大好きだ。
ブー…ブー…
誰からだろうか。電話が来た。
「あ、涼鈴だ。」
「おおそうかい。早くでなさいな」
「うん」
こんな突然どうしたんだろうか。涼鈴も駄菓子屋に来るんだろうか
「もしもし海音?8月の終わり頃の夏祭り一緒に行かない?」
随分と突然の誘いだったが、自分も誘おうと思っていたので丁度良かった。だが、何故わざわざ電話してきたのだろうか。涼鈴は電話があまり好きでは無いはずだが。まあ、いいか。
「うん!行こーぜ!」
「よしっ決まり!当日は浴衣着てきてね!楽しみにしてるから」
「OKわかった!」
夏祭り…楽しみだなぁ
7月後半、蝉が特に五月蝿くなってきた頃
涼鈴との勉強会は明日、どちらの家でやるかで悩んでいたが結局は海の見えるカフェになった。そのカフェは親切なことに学生の勉強スペースをとっていてくれているのでよく使うことが多い。
そうだ、涼鈴にメールでも送ろ
「明日なんの勉強するー?」
すぐに既読がついた。
「んー、国語かなぁ。」
「数学はなんとかなるっしょー!」
なんでこいつはこんなに余裕なんだろうか…
私の成績はど真ん中、平均かそれよりも数点高いかだが、ほぼノー勉のこいつは中の上…地頭がいいってこう言うことなんだな
「ほんと涼鈴余裕だな。」
「いや、もう一周まわって緊張しない」
「ほんとにそう言うところ尊敬するわ」
「絶対煽ってるだろー!」
「煽ってないわ!」
そうなこんなでメールも終わり、あっという間に日が沈み外は暗くなる。黒い水彩絵の具を垂らしたように、すぐに空は暗くなった。ちらほらと浮かぶ星がとても綺麗だ。
「もうそろ寝るか。日を跨がないで寝るなんていつぶりだろうなぁ」
髪をとかして、ベッドに入って目を瞑る。案外早く寝れたようで、次に目を開けるとカーテンの隙間から朝日が覗いていた。うるさいアラームを止めてベッドから出る。
部屋を出て顔を洗って保湿をして朝ごはんを食べて、服を着替えて髪をセットしてバッグに勉強道具とスマホ、イヤホンも入れて日焼け止めを塗ったら準備万端。
家からカフェまでは20分ちょい…炎天下の中20分以上外を歩くなんて考えただけで汗が出るが、これから自分はそれをしなければならない。涼鈴との約束は10時半。今は9時47分だから10時過ぎに家を出れば完璧。それまでTwitterでも見ていようか。
設定していたアラームが鳴った。そろそろ家を出ようか。ドアを開けると蝉の声が耳に突き刺さる。
「うっっっっるさぁ…」
思わず呟いてしまったが周りに人はいなかったのでセーフ。家から出て少し歩いただけで汗が止まらなくなる。もともと私は汗っかきだから夏は特に注意しなければならない。汗の目立たない服の色を選んで正解だった。太陽を睨みつけ、嫌と言うほど肌にまとわりつくシャツの胸元をパタパタとさせながら歩く。パタパタしていてもあまり変わらないが、気持ち的に涼しくなる。カフェが見えてきた。日光が反射し白く光る海はとても綺麗だ。待ち合わせ場所はカフェの前の時計台の近く。なんで室内にしなかったのか…今になって後悔する。
「海音~!ごめん待った?」
予定より数分遅れて待ち合わせ場所に着いた涼鈴はこちらに手を振りながら走ってくる。
だいぶ焦っていたようで、髪は雑にひとつにまとめられている。少しほどけて落ちてきてしまった髪が揺れる。顔がいいから何やってもおかしくならないの本当羨ましい。
「いや、あたしが結構早く来ちゃっただけだし大丈夫だよ」
「まじ?じゃあ結構待ったんじゃんてか今日もあっついな…とりまカフェ入ろ」
「おっけー」
1番海が見える特等席を選んで座って、メニューを開く
「あたしはレモンティーにしよっかな。涼鈴は?」
「んー私はね…」
「相変わらず優柔不断だなぁ決まったら教えてな」
「おっけー」
その会話から1分ほど経って、
「よし!あたしはレモンスカッシュ!」
予想通り、炭酸を頼んだなぁ
「店員さん呼ぶよー」
「りょーかい」
毎回思うが、この店の店員さんの顔面偏差値がバグってるんだよなぁ…笑ほんと高すぎる。ちょうど近くに店員さんがきたので呼び止める
「あっ、すみません注文いいですか?」
「はい、ご注文お伺いいたします」
「レモンティー一つと、レモンスカッシュ一つで。」
「ご注文承りました。メニューの方お下げいたしますね。どうぞごゆっくり!お勉強頑張ってくださいね。」
「ありがとうございます!」
「ありがとうございまっす!」
綺麗に涼鈴とハモる。
店員さんは優しくニコッと微笑んで戻っていく。
「なぁ、ここの店員さん顔面偏差値高くね…?」
涼鈴も思ってたのか。そりゃそうだよな、さっきの人なんてドラマに出ていても違和感がないほど美人だった。
「いや、それな?あたしの空間だけ顔面偏差値低いんだけど」
「わかる」
何言ってんだこいつは、涼鈴は美人側だろうが…!他愛もない話をちょくちょく交わしながら勉強をしていると、飲み物が届いた。
まだ始めてから数分しか経ってないけど、とりあえず休憩としよう。海音は窓越しの目の前に広がる広い海を眺めながらレモンティーを飲む。隣にいる涼鈴は炭酸が思ったよりも強かったらしく、眉間に皺を寄せて静かに唸っていた。少しヲタク気質がある私からすると、こんな美少女は本当に目の保養だ。しかも優しくて気が合うなんて、最高じゃないか。本当に涼鈴と出会えて良かったとつくづく思う。
「海音ぇ!何ボーッとしてんの?」
「んあ、なんでもない。なんか考え事しててさぁ!」
「海音にも考えるっていう概念あったんだね。」
「涼鈴よりは考えてるけどね」
「ひっどぉ」
「とりま勉強しないとやべえよ」
「確かに」
そこから、ちょくちょく話しながら4時間半ほど勉強した。そろそろ帰ろうという話になったので、荷物をまとめる。
「勉強できた?」
「できたけどテストできるかはわかんね」
「とか言って成績中の上のくせになぁ!」
「うるさーいなんも聞こえないわあたし鼓膜破れたからね」
本当に涼鈴は…私もこんな感じで成績取れたらいいのになぁ。
お会計を済ませて、レジの横で売っていたマドレーヌを家族へのお土産で買った。
「じゃーね海音」
「んーバイバイ。また今度」
今は3時頃、相変わらず日差しが肌を刺す。足元に転がっている蝉の死骸を上手く避けて歩く。夏らしい曲でも聞こうか。イヤホンを取り出して曲を流す。何となく流したのはイヤホンと蝉時雨。次にかかったのは少女レイ。何故かこの曲を聞くと涼鈴を思い出す。突然どこかに消えてしまうようで、心配になる感じもそっくりだった。曲を聴きながら歩いているとあっという間に家に着いた。
鍵を開けて、靴を脱いで、手を洗って部屋着に着替えて机にマドレーヌと置き手紙を置いておく。
「お母さんへ マドレーヌかって来たから食べてね。」
これでバッチリ。
あとは自分の部屋でダラダラしてたらもう日が沈む。夜ご飯を食べて、風呂に入って歯磨きをする。あとは寝るだけ。あぁ、夏祭りまでやることなんもないな。
夏祭り当日、まじで勉強した日から1歩も外出てないな。結構大きめのお祭りだから浴衣でも着るか。涼鈴も着るって言ってたし。あたしの浴衣は赤に大判の花柄。涼鈴はどんなのを着てくるんだろう。去年のだから少しキツい下駄を無理矢理履いて、待ち合わせ場所に向かう。今は6時、夏だからまだ明るいが、昼間ほどは暑くない。(と言っても汗は止まらないが)そういえば今日は8月27日、涼鈴の誕生日だ。お祭りでなにか奢ってあげようか。スマホを片手にふらふら歩きながらそんなことを考える。あと少しで神社に着く。入口あたりに見慣れたシルエットが見えた。涼鈴だ。手を振りながら駆け寄って、名前を呼ぶ
「涼鈴!おまたせ!」
「いや全然待ってないよ」
「なら良かった。」
髪をまとめた涼鈴は驚くほど綺麗だった。透き通るような白い肌、吸い込まれるような黒い目、淡い水色に綺麗な花の浴衣もよく似合っていた。私は、この時確信した。今、自分が涼鈴に向けている感情は友情的な愛ではなく、恋愛的な愛であると。こう確信すると意識してしまうもので、少し緊張してきた。
「じゃあ行こっか」
「うん」
「涼鈴、今日誕生日でしょ?なんか奢るね」
「そういえばあたし誕生日かー!できるだけ高いもの奢ってもらお。」
「相変わらず遠慮のないやつだな」
しばらく歩いていると涼鈴は呟いた。
「上手くいくかな…」
なぜ彼女がこんなことを呟いたのか。私は、これを直接聞いてはいけない気がした。
その後りんご飴を買って、射的をして、金魚すくいをした。
「あ~!いいな海音…あたし金魚1匹だけだよ?」
涼鈴にもできないことはあったんだな、と少し嬉しくなる。
「いいだろー!あたし金魚すくい得意なんだよね。」
「なんかあんま役立たなそうな特技だな。」
「うるさいな!」
「ごめんてw」
一段落して、神社の階段の1番上に座る。涼鈴が言った。
「ここが1番花火が見える場所なんだよー!」
その笑顔が好きだった。私は、今のタイミングを逃したらこの気持ちを伝えられないと思った。
「涼鈴」
「なぁに」
「今からあたしが言うこと、信じてくれる?」
「…うん」
「気持ち悪かったらごめん。あたし、涼鈴のことが恋愛的な感じで好きなの」
「…っ」
涼鈴は泣きそうな顔になる。言ってしまった。もうこの関係は終わりかもしれないという恐怖から私は、立ち上がってこの場から離れようとする。
「待って!」
その瞬間、花火が上がる。
「綺麗…」
「だね…」
私はまた座り直す。涼鈴は何かを後悔するような、そんな顔をしていた。
「海音。言わないといけないことがある。信じてもらえるか分からないけど、伝えておくね。」
涼鈴のこんな顔は初めて見た。
「あたし、信じるよ。」
「じゃあ、話すね。」
「あたし、本当は死んでるんだよね…!」
「どういうこと…?」
涼鈴の話によると自分は私に未練があって、ずっと私に出会ってから高校卒業までをループしていると。このことを私に話すのは、今までループしてきた中で初めてだと。そして、彼女は私が自分を好きになるのを阻止するため、そもそも出会うのを阻止するため、未来を変えようとしていたこと。気付くと涼鈴は泣いていた。泣き顔も綺麗だった。サイダーは涼鈴の存在を維持するための薬みたいなもので、サイダー屋のおっちゃんは涼鈴の事情を知っていたらしい。
「あたし、終わりにしたかったの。サイダーを飲まなければ私は消える。この世界では死んだということになる。でも怖かった。海音に忘れられるのが嫌だった。何度ループしてもあたしと海音は出会うの。あたしだって海音が好き!でも好きになっちゃ行けなかったの。あなたとの、海音との別れが余計辛くなる。」
「じゃあ、残りの高校卒業までの時間、楽しもうよ。」
口をついて出た言葉だった。でも、後悔はなかった。涼鈴の目が大きく開く。
「え……?」
「だから、高校卒業まであたし達は恋人!卒業してもあたしは涼鈴を忘れない。」
「ありがとう。海音、ありがとう。」
私たちは残りの時間を楽しんだ。涼鈴の成績が良かったのは何度も授業を受けてて、テストの内容も知ってたから。汗かかなくて日にも焼けないのは死んでるから。涼鈴の色々なことが知れた。そして明日は卒業式。最後の日だった。
卒業式当日、
「涼鈴」
何となく名前を呼ぶ
「なーに海音」
「楽しかったよ」
「あたしも。楽しかった。」
「じゃあね。」
涼鈴と私は微笑み合う。お互いの目には涙が浮かんだ。
「あれ?」
「どうしたの?涼鈴」
「手が…透けてる」
「ほんとだ…」
涼鈴は光に包まれた。未練が晴れたのか…?「ありがとう海音。あたし、もう終わりにできる。」
「うん。」
私たちは手を握り合う。少し経つと涼鈴はいなくなった。その代わりに、透き通る青の宝石が落ちていた。私はそれを常に身につけている。
そこから何年か経った夏、あの時に取った金魚は意外と長生きしていて、部屋の隅の水槽でゆったりと泳いでいる。二匹の金魚は仲良さそうに常に二匹で泳いでいた。明日地元に帰ろうかな。そろそろあの季節だし。
私は毎年神社にお参りに行くことにしている。今は大学四年生最後の夏。今までと違うことが起きた。
「涼鈴、元気でね。またいつか会えるといいね。」
「海音こそ。元気でね。大好き。」
私は自然と泣いていた。ハッとして涼鈴の宝石を探す。いつもしまっている場所にない。何故…?それは簡単だった。きっと、私の方の未練が晴れたんだろう。そう。私も実は死んでいた。高校卒業した後。涼鈴の成仏の後に事故で死んだ。でも何故か生きていた。それは私に涼鈴と同じように未練があったからで、それは自分にはなんなのかがわからない。これは3度目の大学四年生最後の夏。
「涼鈴、やっと会えるね。」
「海音。久しぶり」
私と涼鈴は、12年ぶりの再会を果たした。
ずっと、一緒だよ。
人生で16度目のやけに暑い夏だった。
私は8月27日、彼女に大きな告白をされることになる。
「うぅー…おはよう」
気だるそうに伸びをしながらこちらに向かってくるのは涼鈴。
夏が似合う色白で爽やかな雰囲気で、笑顔は青空と太陽に良く似合う少女だ。
彼女は鎖骨よりも数センチ下くらいの長さの黒髪を揺らしてこちらに歩いてくる。
「ホント眠いな。海音は眠くないの?」
「あたしは別に眠くないけど涼はまた夜更かし?成績おちんぞー」
「あたしは成績なんて知りません!!成績って単語はあたしの前では禁句ね。」
「あーハイハイ。言いませんよ」
涼鈴には不思議なところがあった。日焼けもしないし夜更かしをしてもクマができない。
肌のケアを頑張っているのだろうな、私も見習わなきゃ。なんて思って涼鈴にどんなケアをしているのか聞くと
「え?ケアなんてしてないな、とりあえず化粧水と乳液だけお母さんに塗れって言われて塗ってるけど。」
としか答えない。
さぞ良い化粧水と乳液なんだろうなと少し羨ましいと思ったが、その分高いと思い何を使っているのか聞くのは辞めておいた。
そんなことはさておき、今は高校1年生初の夏の始まり、周りの生徒も完全に夏服に変わった7月前半、学校のすぐ近くの駄菓子屋の目の前にサイダー屋が来る。
珍しいことだが、ここら辺ではおなじみだった。ラムネとサイダー、運が良ければアイスキャンディーも売っている。
私たち二人は中学の頃にここで出会った。2人とも中学は違ったがこの店に来る時間帯が同じだったため、仲良くなったのだ。
「今日もいつものとこ行く?」
「涼鈴って本当にサイダー好きだよね。そろそろサイダー屋も来る季節だし、行ってみようか!」
「よしっ!じゃあ決まりね。来なかったらアイス奢ってよ」
「じゃあ遅く来た方が奢りで」
「了解!」
「じゃあ後でね」
涼鈴と私はクラスが違ったので、あまり一日に一緒にいることは少ない。休み時間くらいだろうか、お互い自分のクラスに仲のいい子はいたけど、何となくお互いに一緒にいると安心した。
まるで生まれた時から一緒にいたかのように仲が良い私たちは自然と一緒にいるのだ。
突然だが、「何となく一緒にいて安心する」っていう関係が1番いい気がする。そして1番難しい。お互いの凹凸がピッタリとハマるように、気の合う子じゃないとこの空間は作り出せない。
私が凹凸の凹だとしたら涼鈴は凸で、かっちりはまってちょうどいい関係だ。まあ、涼鈴がどう思っているかは分からないけどね。
自分のクラスに着くと、自分の席に沢山のお菓子や文具が置いてあった。そうだ、今日は私の誕生日だ。「誕生日おめでとう」と書かれたメッセージカードが目に入る。私は大きな声で叫ぶ
「祝ってくれた人マジでありがとう!大好きだわ!」
クラスのそこらじゅうから「どういたしまして」「おめでとう」などの声が聞こえる。私は心の中で思った。涼鈴は私の誕生日を覚えていてくれているだろうか。手際よく机に広がるプレゼントをバッグに詰め込んでそんなことを考えた。
(まあ、祝ってくれなくても一緒に居られればいいんだけどね)
そんなこんなで1限目が始まり、2限目が始まり、気付けばもう放課後だった。駄菓子屋の前に直行する。私の方が遅く着けば私の奢りになってしまう。
(はぁ…よし、この角曲がればすぐそこ!)
「おっ!来たな海音ぇ!」
「は……?はっっっっやぁ!」
「ちょっとここからは目隠ししましょうね海音さん♪」
「ちょっ何すんのよ涼鈴!うわぁっ!」
強引に目隠しをされて歩かされる。ここは駄菓子屋の目の前だろうか、少しドキドキしながら目隠しを取ってもらうと目の前には「Happybirthday!!」と書かれた風船で飾られた駄菓子屋があった。
「うっそ?!これあたしのために?ほんとにありがとう涼鈴!」
こんなに嬉しいことがあっただろうか。もしかしたら今までの誕生日で1番嬉しかったかもしれないレベルだ。
その後涼鈴に話を聞いてみると数日前から計画を立てていたそうで、随分昔からここに通っている私のためにサイダー屋のおじさんと駄菓子屋のばあちゃんが協力してくれたらしい。
サプライズの後、涼鈴の奢りで駄菓子とサイダーを食べて、最高の一日は終わった。
それからしばらくして今は7月21日。学校最終日だ。
「明日から夏休みだねぇ」
「そうだね。あたし宿題終わらない気がする」
「何言ってんのよ!涼鈴はもうちょっと余裕もった方がいいぞー!」
「いや、それは不可能に近い。」
「ちょっとは頑張れっての」
なぜ涼鈴は成績は中の上なのにこんなにも勉強が嫌いなのだろうか。それは未だに謎だ。
「海音ぇぇー勉強会しようよ」
「いいよ。いつなら空いてる?」
「8月4日は大会。それ以外は空いてる」
「大会か、頑張れ」
「さんきゅ」
なんだかんだで勉強会は7月中に決まった。今日もサイダーを買いに行くことにしよう。最近行けてなかったしな。
「涼鈴今日サイダー飲まない?」
「んあー、ごめん無理だわ」
「おーおっけい」
なんだか最近涼鈴がサイダーを避けている気がする。あんなに好きだったのに最近はお茶しか飲まないしなぁ。気の所為かな。
今日は1人で行くか。そうしよう。
「おばちゃん久しぶり」
「今日は涼鈴ちゃんいないのねぇ」
「最近あいつあんまりサイダー飲まないんだよね。ばあちゃんはなんか知ってる?」
「わからんなぁ、今日はサービスだよ。アイス1本あげる」
「おっ!ばあちゃん太っ腹!」
ばあちゃんと話していると元気がでる。ばあちゃん優しい声や手が大好きだ。
ブー…ブー…
誰からだろうか。電話が来た。
「あ、涼鈴だ。」
「おおそうかい。早くでなさいな」
「うん」
こんな突然どうしたんだろうか。涼鈴も駄菓子屋に来るんだろうか
「もしもし海音?8月の終わり頃の夏祭り一緒に行かない?」
随分と突然の誘いだったが、自分も誘おうと思っていたので丁度良かった。だが、何故わざわざ電話してきたのだろうか。涼鈴は電話があまり好きでは無いはずだが。まあ、いいか。
「うん!行こーぜ!」
「よしっ決まり!当日は浴衣着てきてね!楽しみにしてるから」
「OKわかった!」
夏祭り…楽しみだなぁ
7月後半、蝉が特に五月蝿くなってきた頃
涼鈴との勉強会は明日、どちらの家でやるかで悩んでいたが結局は海の見えるカフェになった。そのカフェは親切なことに学生の勉強スペースをとっていてくれているのでよく使うことが多い。
そうだ、涼鈴にメールでも送ろ
「明日なんの勉強するー?」
すぐに既読がついた。
「んー、国語かなぁ。」
「数学はなんとかなるっしょー!」
なんでこいつはこんなに余裕なんだろうか…
私の成績はど真ん中、平均かそれよりも数点高いかだが、ほぼノー勉のこいつは中の上…地頭がいいってこう言うことなんだな
「ほんと涼鈴余裕だな。」
「いや、もう一周まわって緊張しない」
「ほんとにそう言うところ尊敬するわ」
「絶対煽ってるだろー!」
「煽ってないわ!」
そうなこんなでメールも終わり、あっという間に日が沈み外は暗くなる。黒い水彩絵の具を垂らしたように、すぐに空は暗くなった。ちらほらと浮かぶ星がとても綺麗だ。
「もうそろ寝るか。日を跨がないで寝るなんていつぶりだろうなぁ」
髪をとかして、ベッドに入って目を瞑る。案外早く寝れたようで、次に目を開けるとカーテンの隙間から朝日が覗いていた。うるさいアラームを止めてベッドから出る。
部屋を出て顔を洗って保湿をして朝ごはんを食べて、服を着替えて髪をセットしてバッグに勉強道具とスマホ、イヤホンも入れて日焼け止めを塗ったら準備万端。
家からカフェまでは20分ちょい…炎天下の中20分以上外を歩くなんて考えただけで汗が出るが、これから自分はそれをしなければならない。涼鈴との約束は10時半。今は9時47分だから10時過ぎに家を出れば完璧。それまでTwitterでも見ていようか。
設定していたアラームが鳴った。そろそろ家を出ようか。ドアを開けると蝉の声が耳に突き刺さる。
「うっっっっるさぁ…」
思わず呟いてしまったが周りに人はいなかったのでセーフ。家から出て少し歩いただけで汗が止まらなくなる。もともと私は汗っかきだから夏は特に注意しなければならない。汗の目立たない服の色を選んで正解だった。太陽を睨みつけ、嫌と言うほど肌にまとわりつくシャツの胸元をパタパタとさせながら歩く。パタパタしていてもあまり変わらないが、気持ち的に涼しくなる。カフェが見えてきた。日光が反射し白く光る海はとても綺麗だ。待ち合わせ場所はカフェの前の時計台の近く。なんで室内にしなかったのか…今になって後悔する。
「海音~!ごめん待った?」
予定より数分遅れて待ち合わせ場所に着いた涼鈴はこちらに手を振りながら走ってくる。
だいぶ焦っていたようで、髪は雑にひとつにまとめられている。少しほどけて落ちてきてしまった髪が揺れる。顔がいいから何やってもおかしくならないの本当羨ましい。
「いや、あたしが結構早く来ちゃっただけだし大丈夫だよ」
「まじ?じゃあ結構待ったんじゃんてか今日もあっついな…とりまカフェ入ろ」
「おっけー」
1番海が見える特等席を選んで座って、メニューを開く
「あたしはレモンティーにしよっかな。涼鈴は?」
「んー私はね…」
「相変わらず優柔不断だなぁ決まったら教えてな」
「おっけー」
その会話から1分ほど経って、
「よし!あたしはレモンスカッシュ!」
予想通り、炭酸を頼んだなぁ
「店員さん呼ぶよー」
「りょーかい」
毎回思うが、この店の店員さんの顔面偏差値がバグってるんだよなぁ…笑ほんと高すぎる。ちょうど近くに店員さんがきたので呼び止める
「あっ、すみません注文いいですか?」
「はい、ご注文お伺いいたします」
「レモンティー一つと、レモンスカッシュ一つで。」
「ご注文承りました。メニューの方お下げいたしますね。どうぞごゆっくり!お勉強頑張ってくださいね。」
「ありがとうございます!」
「ありがとうございまっす!」
綺麗に涼鈴とハモる。
店員さんは優しくニコッと微笑んで戻っていく。
「なぁ、ここの店員さん顔面偏差値高くね…?」
涼鈴も思ってたのか。そりゃそうだよな、さっきの人なんてドラマに出ていても違和感がないほど美人だった。
「いや、それな?あたしの空間だけ顔面偏差値低いんだけど」
「わかる」
何言ってんだこいつは、涼鈴は美人側だろうが…!他愛もない話をちょくちょく交わしながら勉強をしていると、飲み物が届いた。
まだ始めてから数分しか経ってないけど、とりあえず休憩としよう。海音は窓越しの目の前に広がる広い海を眺めながらレモンティーを飲む。隣にいる涼鈴は炭酸が思ったよりも強かったらしく、眉間に皺を寄せて静かに唸っていた。少しヲタク気質がある私からすると、こんな美少女は本当に目の保養だ。しかも優しくて気が合うなんて、最高じゃないか。本当に涼鈴と出会えて良かったとつくづく思う。
「海音ぇ!何ボーッとしてんの?」
「んあ、なんでもない。なんか考え事しててさぁ!」
「海音にも考えるっていう概念あったんだね。」
「涼鈴よりは考えてるけどね」
「ひっどぉ」
「とりま勉強しないとやべえよ」
「確かに」
そこから、ちょくちょく話しながら4時間半ほど勉強した。そろそろ帰ろうという話になったので、荷物をまとめる。
「勉強できた?」
「できたけどテストできるかはわかんね」
「とか言って成績中の上のくせになぁ!」
「うるさーいなんも聞こえないわあたし鼓膜破れたからね」
本当に涼鈴は…私もこんな感じで成績取れたらいいのになぁ。
お会計を済ませて、レジの横で売っていたマドレーヌを家族へのお土産で買った。
「じゃーね海音」
「んーバイバイ。また今度」
今は3時頃、相変わらず日差しが肌を刺す。足元に転がっている蝉の死骸を上手く避けて歩く。夏らしい曲でも聞こうか。イヤホンを取り出して曲を流す。何となく流したのはイヤホンと蝉時雨。次にかかったのは少女レイ。何故かこの曲を聞くと涼鈴を思い出す。突然どこかに消えてしまうようで、心配になる感じもそっくりだった。曲を聴きながら歩いているとあっという間に家に着いた。
鍵を開けて、靴を脱いで、手を洗って部屋着に着替えて机にマドレーヌと置き手紙を置いておく。
「お母さんへ マドレーヌかって来たから食べてね。」
これでバッチリ。
あとは自分の部屋でダラダラしてたらもう日が沈む。夜ご飯を食べて、風呂に入って歯磨きをする。あとは寝るだけ。あぁ、夏祭りまでやることなんもないな。
夏祭り当日、まじで勉強した日から1歩も外出てないな。結構大きめのお祭りだから浴衣でも着るか。涼鈴も着るって言ってたし。あたしの浴衣は赤に大判の花柄。涼鈴はどんなのを着てくるんだろう。去年のだから少しキツい下駄を無理矢理履いて、待ち合わせ場所に向かう。今は6時、夏だからまだ明るいが、昼間ほどは暑くない。(と言っても汗は止まらないが)そういえば今日は8月27日、涼鈴の誕生日だ。お祭りでなにか奢ってあげようか。スマホを片手にふらふら歩きながらそんなことを考える。あと少しで神社に着く。入口あたりに見慣れたシルエットが見えた。涼鈴だ。手を振りながら駆け寄って、名前を呼ぶ
「涼鈴!おまたせ!」
「いや全然待ってないよ」
「なら良かった。」
髪をまとめた涼鈴は驚くほど綺麗だった。透き通るような白い肌、吸い込まれるような黒い目、淡い水色に綺麗な花の浴衣もよく似合っていた。私は、この時確信した。今、自分が涼鈴に向けている感情は友情的な愛ではなく、恋愛的な愛であると。こう確信すると意識してしまうもので、少し緊張してきた。
「じゃあ行こっか」
「うん」
「涼鈴、今日誕生日でしょ?なんか奢るね」
「そういえばあたし誕生日かー!できるだけ高いもの奢ってもらお。」
「相変わらず遠慮のないやつだな」
しばらく歩いていると涼鈴は呟いた。
「上手くいくかな…」
なぜ彼女がこんなことを呟いたのか。私は、これを直接聞いてはいけない気がした。
その後りんご飴を買って、射的をして、金魚すくいをした。
「あ~!いいな海音…あたし金魚1匹だけだよ?」
涼鈴にもできないことはあったんだな、と少し嬉しくなる。
「いいだろー!あたし金魚すくい得意なんだよね。」
「なんかあんま役立たなそうな特技だな。」
「うるさいな!」
「ごめんてw」
一段落して、神社の階段の1番上に座る。涼鈴が言った。
「ここが1番花火が見える場所なんだよー!」
その笑顔が好きだった。私は、今のタイミングを逃したらこの気持ちを伝えられないと思った。
「涼鈴」
「なぁに」
「今からあたしが言うこと、信じてくれる?」
「…うん」
「気持ち悪かったらごめん。あたし、涼鈴のことが恋愛的な感じで好きなの」
「…っ」
涼鈴は泣きそうな顔になる。言ってしまった。もうこの関係は終わりかもしれないという恐怖から私は、立ち上がってこの場から離れようとする。
「待って!」
その瞬間、花火が上がる。
「綺麗…」
「だね…」
私はまた座り直す。涼鈴は何かを後悔するような、そんな顔をしていた。
「海音。言わないといけないことがある。信じてもらえるか分からないけど、伝えておくね。」
涼鈴のこんな顔は初めて見た。
「あたし、信じるよ。」
「じゃあ、話すね。」
「あたし、本当は死んでるんだよね…!」
「どういうこと…?」
涼鈴の話によると自分は私に未練があって、ずっと私に出会ってから高校卒業までをループしていると。このことを私に話すのは、今までループしてきた中で初めてだと。そして、彼女は私が自分を好きになるのを阻止するため、そもそも出会うのを阻止するため、未来を変えようとしていたこと。気付くと涼鈴は泣いていた。泣き顔も綺麗だった。サイダーは涼鈴の存在を維持するための薬みたいなもので、サイダー屋のおっちゃんは涼鈴の事情を知っていたらしい。
「あたし、終わりにしたかったの。サイダーを飲まなければ私は消える。この世界では死んだということになる。でも怖かった。海音に忘れられるのが嫌だった。何度ループしてもあたしと海音は出会うの。あたしだって海音が好き!でも好きになっちゃ行けなかったの。あなたとの、海音との別れが余計辛くなる。」
「じゃあ、残りの高校卒業までの時間、楽しもうよ。」
口をついて出た言葉だった。でも、後悔はなかった。涼鈴の目が大きく開く。
「え……?」
「だから、高校卒業まであたし達は恋人!卒業してもあたしは涼鈴を忘れない。」
「ありがとう。海音、ありがとう。」
私たちは残りの時間を楽しんだ。涼鈴の成績が良かったのは何度も授業を受けてて、テストの内容も知ってたから。汗かかなくて日にも焼けないのは死んでるから。涼鈴の色々なことが知れた。そして明日は卒業式。最後の日だった。
卒業式当日、
「涼鈴」
何となく名前を呼ぶ
「なーに海音」
「楽しかったよ」
「あたしも。楽しかった。」
「じゃあね。」
涼鈴と私は微笑み合う。お互いの目には涙が浮かんだ。
「あれ?」
「どうしたの?涼鈴」
「手が…透けてる」
「ほんとだ…」
涼鈴は光に包まれた。未練が晴れたのか…?「ありがとう海音。あたし、もう終わりにできる。」
「うん。」
私たちは手を握り合う。少し経つと涼鈴はいなくなった。その代わりに、透き通る青の宝石が落ちていた。私はそれを常に身につけている。
そこから何年か経った夏、あの時に取った金魚は意外と長生きしていて、部屋の隅の水槽でゆったりと泳いでいる。二匹の金魚は仲良さそうに常に二匹で泳いでいた。明日地元に帰ろうかな。そろそろあの季節だし。
私は毎年神社にお参りに行くことにしている。今は大学四年生最後の夏。今までと違うことが起きた。
「涼鈴、元気でね。またいつか会えるといいね。」
「海音こそ。元気でね。大好き。」
私は自然と泣いていた。ハッとして涼鈴の宝石を探す。いつもしまっている場所にない。何故…?それは簡単だった。きっと、私の方の未練が晴れたんだろう。そう。私も実は死んでいた。高校卒業した後。涼鈴の成仏の後に事故で死んだ。でも何故か生きていた。それは私に涼鈴と同じように未練があったからで、それは自分にはなんなのかがわからない。これは3度目の大学四年生最後の夏。
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私と涼鈴は、12年ぶりの再会を果たした。
ずっと、一緒だよ。
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