サイダー

DARIA

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涼鈴から見て

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夏とサイダー


忘れたくない夏があった。
人生で何度目かも分からない暑い夏だった。
私は8月27日、ずっと好きだった人に大きな告白をすることになる。

「うぅー…おはよう」
私が話しかけたのは海音。
チョコレート色の髪の毛をハーフアップにしたくせっ毛の女の子で、私が好きな相手だ。何にも努力を怠らない優しい女の子。
「ほんと眠いな。海音は眠くないの?」
「あたしは別に眠くないけど涼鈴はまた夜更かし?成績おちんぞー」
この夏は私の中で何度目だろうか。変な話し方になっていないだろうか。笑顔は上手くできているか。世の中の全てが不安になる。だが、これももうおしまい。私は、生命維持のためのサイダーも飲まない。と、決めていたがやっぱり海音と別れるのは悲しいな。
だから私は、決めた。
今年の夏祭り、私は海音に本当のことを話す。これはとても怖いことだった。関係が壊れたら。気持ち悪がられたら。
私は今まで、海音が私と出会わないように、出会ったとしても私のことを好きにならないように未来を変えてきた。でも、全部だめだった。だから残っている方法はただひとつ、本当のことを話すこと。これだけだ。
今日は海音の誕生日。ループしていると言ったって好きな子の誕生日くらい祝いたいから、唯一事情を知る駄菓子屋のばあちゃんとサイダー屋のおじさんに協力してもらって祝おう。
半ば強制的に海音を連れてくる。
「うっそ?!これあたしのために?ほんとにありがとう涼鈴!」
こんなに喜んでくれるとは。良かったな。

そして今は学校最終日。7月21日である。
海音にサイダーでも飲もうと言われたが、断ってしまった。夏祭りが近づくほど、私は怖くなった。あの子に、海音に本当のことを言ってしまったら残りの二年間どうすればいいんだろうか。
何回も何回もこの世界をループしてきている私にとっては海音は欠かせない存在になっていた。これ以上彼女に依存しないためにこのループを止めたかったのに、何をしても止められない。何度も見た学校までの道、海音の後ろ姿、よく行く駄菓子屋と私の生命維持のためのサイダーのパッケージ。もう嫌になる程それを見てきた。
夏休みの宿題も授業もテストも全部覚えている。本気を出せば全て満点を取れるレベルだった。でも私は目立たないように生きていく。中の上にいればちょうどいいだろう。
海音に本当のことを言う前に、一度だけ普通のことをしたかった。だから、私は彼女を勉強会に誘った。だが、8月4日が大会というのは嘘。8月4日は私の命日で、夏祭りが開かれる神社に足を運ばなければならない日だった。
最初、私の死因は私にはわからなかった。だが、確実に私は死んでいるという実感だけが湧いた。何故私は死んだのか、何故私はこの世界をループすることになってしまったのか、それを教えてくれたのは知らない女だった。だが、それが誰なのかはどうしてもわからない。ただ、その女は口頭ではなく脳に直接記憶を送り込まれた。死ぬ瞬間までだ。
その女の記憶によると、私は生きていた頃海音と付き合っていて、それが学年全体にバレてしまいそのせいでずっといじめられていたそうだった。特に海音の方のいじめは酷かったらしい。ちょうど初夏に私たちの秘密はバレた。そして、8月4日、悲劇は起こる。
海音の席に、花瓶と一輪の花が置いてあった。その横には海音の写真。まるで彼女は死んだようには扱われた。それがきっかけで彼女の心は壊れた。その日の放課後、私は海音に呼び出された。
「ごめんねぇ、涼鈴。あたしが告白なんかしてなかったらこんなことにならなかったのにねぇ。だからさ、もう終わりにするの。最後はどうしても涼鈴と一緒にいたくて。最後の我儘聞いてよ。」
「こんなことになったのは海音のせいじゃない!自分で全部背追い込まないでよ!前からそうだった。海音は努力家で人一倍優しい分外に感情を表に出さないでしょ!今も本音を言ってないじゃん!」
「…っ!」
「ねぇ、海音…あたしのこと信じて本当のこと言ってよ」
「もう疲れたの。いじめられてもずっと抵抗しないでニコニコしてだけどもううんざり!あたしは生まれ直すの。だから、止めないでよね。」
「じゃああたしも一緒に飛ぶ」
「…は?」
「じゃああたしも一緒に生まれ直して次も恋人になるから。」
「最後まであたしの好きな涼鈴だね。」
そのあと、私たちは屋上まで登った。壁越しでもかすかに聞こえる蝉の声は悲しげだった。1番上に行くまでの階段の一歩一歩を大切にして、噛み締めて登った。もうドアの目の前。あと数十秒で柵の向こう側だろう。
私達は2人で並んで柵の向こうに立つ。
「「今までありがとう」」
2人でちょうどハモる。手を繋いで飛び降りた。私たちは世界の裏側に行ける気さえした。でも私は海音を守りたかった。地面に着くまであと少し。体を曲げてあたしは下になる。海音が何か言っているが、そんなことは知らない。私は背中と地面がつくまで海音を抱きしめた。
幸い、海音は私が下敷きになったおかげで生きていたが、私は即死だったそうだ。海音はほとんど回復はしないと言われていたが、一命を取り留めた。そして、私は海音が幸せになるまでこの世界をループすることになった。私は海音が私と出会わなければ幸せだと思い、どうにかして出会わないようにしたが無理だった。それを繰り返して今に至る。今私がいる世界線と海音がいじめられていた世界線は違う。だからやり直せる。私は海音が幸せになるならなんでもいい。そう決めていた。
「あ、海音夏祭りに誘わないと。」
私はそう思い電話をかけた。海音は駄菓子屋にいたようで、びっくりしたような声だった。
それからしばらくして勉強会当日。私は今日だけ普通の女の子として生きる。待ち合わせに少し遅れてしまったが許してくれるだろうか。蝉の声がうるさいな。ふらふら歩いていると海音がいた。やはり待ったのだろうか。とりあえず店内に入って席に座る。注文を決めなくては、海音は決めるのが早いなぁ。
そう思いながら外を見つめていると自分が注文を決めていないのを思い出した。私はレモンスカッシュ、海音はレモンティーにした。
そのあとは他愛もない話をしながらダラダラ勉強して、本当に楽しかった。変わりない日々が恋しいとも思ったが、こんなことを考えていても意味がない。
あっという間に時間は過ぎ、もう帰ることになった。
「バイバイ」
次に彼女に会うのは夏祭り。全てが決まる日だった。

夏祭り当日今日は私の誕生日、覚えてくれているかなぁ。緊張し過ぎて早く着いてしまった。見慣れたシルエットがこちらに向かってくる。あぁ、海音だ。相変わらず可愛いなぁ。下駄がきついのかぎこちない歩き方の海音は本当に可愛かった。
合流したあと、射的だの金魚すくいだのをやって、神社の階段の1番上に座る。
海音と花火が見たかった。そのあと、本当のことを話すつもりだった。だが、先を越されてしまった。

「涼鈴」
「なぁに」
「今からあたしが言うこと、信じてくれる?」
「…うん」
「気持ち悪かったらごめん。あたし、涼鈴のことが恋愛的な感じで好きなの」
「…っ」
あたしは泣きそうな顔になる。言われてしまった。運命を変えられなかった私は惨めでほんとに嫌になる。立ち上がってこの場から離れようとする彼女を引き止める
「待って!」
その瞬間、花火が上がる。
「綺麗…」
「だね…」

私はまた座り直す。涼鈴は何かを後悔するような、そんな顔をしていた。
「海音。言わないといけないことがある。信じてもらえるか分からないけど、伝えておくね。」
涼鈴のこんな顔は初めて見た。
「あたし、信じるよ。」
「じゃあ、話すね。」

「あたし、本当は死んでるんだよね…!」
「どういうこと…?」

私は彼女に全て話した。自分は私に未練があって、ずっと私に出会ってから高校卒業までをループしていると。このことを私に話すのは、今までループしてきた中で初めてだと。そして、私は海音が自分を好きになるのを阻止するため、そもそも出会うのを阻止するため、未来を変えようとしていたこと。気付くと海音は泣いていた。泣き顔も綺麗だった。サイダーは私の存在を維持するための薬みたいなもので、サイダー屋のおっちゃんは私の事情を知っていたことも話した。

「あたし、終わりにしたかったの。サイダーを飲まなければ私は消える。この世界では死んだということになる。でも怖かった。海音に忘れられるのが嫌だった。何度ループしてもあたしと海音は出会うの。あたしだって海音が好き!でも好きになっちゃ行けなかったの。あなたとの、海音との別れが余計辛くなる。」
「じゃあ、残りの高校卒業までの時間、楽しもうよ。」
衝撃的な一言だった。
「え……?」
「だから、高校卒業まであたし達は恋人!卒業してもあたしは涼鈴を忘れない。」
「ありがとう。海音、ありがとう。」

私は彼女に恋して本当によかったと心から思った。残りの二年間、私はいろいろなことを彼女に教えた。本当に楽しかった。終わらせたくなかった。でもこの一件から、私の心の何か一つ足りない、満足しない感覚がなくなった。

卒業式当日、
「涼鈴」
名前を呼ばれた。
「なーに海音」
「楽しかったよ」
「あたしも。楽しかった。」
「じゃあね。」
海音と私は微笑み合う。お互いの目には涙が浮かんだ。
「あれ?」
「どうしたの?涼鈴」
「手が…透けてる」
「ほんとだ…」

これは、未練が晴れたのだろうか。少しの悲しさと少しの嬉しさがあった。
私は光に包まれた。

「ありがとう海音。あたし、もう終わりにできる。」
「うん。」
私たちは手を握り合う。少し経つと海音は見えなくなった。

そのあと海音は交通事故で死んだ。彼女にも未練があったようで、大学生活を3回繰り返した。十二回目の夏、彼女は神社に来た。
「涼鈴、元気でね。またいつか会えるといいね。」
「海音こそ。元気でね。大好き。」
今まで届かなかった私の声が届いているようだった。何故か海音が泣いている。
彼女の未練が晴れたのだ。やっと私は海音に会える。私は海音に長生きして欲しかった。まだ会いたくなかった。でも、ずっと愛した人にまた会えることほど嬉しいことはないだろう。喜び、悲しみが混じった涙があふれる。
「涼鈴、やっと会えるね」
「海音、久しぶり。」
私達は12年ぶりの再会を果たした。
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みんなの感想(1件)

スパークノークス

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2021.11.14 DARIA

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解除

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