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誓約魔法
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ノックの後、レスニースさんともう一人の使用人を連れて、銀髪に紫の瞳の落ち着いた雰囲気の美少女が入ってきた。ドキサバ付属のブックレットの絵と同じ容姿。
「お待たせしてしまい失礼しました。ロミアリーゼ・グッテスラです。以後お見知り置きを」
慌てて立ち上がり、挨拶を返す。
「円谷和明です。カズアキが名前で、ツブラヤが家名です。しばらくの間、こちらでお世話になることになりました。よろしくお願いします」
「ナファリードです。お世話になります」
物腰は丁寧だけど簡易的な挨拶をしたファリをじっと見た後、ロミアリーゼさんは、丁重な挨拶を返していた。
「お二人が、弟達を助けて下さったそうですね。感謝いたします」
「いえ、こちらこそ王都まで送っていただいた上、こちらへの滞在まで許して下さって。ありがとうございます」
一通りの挨拶の後、ロミアリーゼさんは、部屋の使用人達に合図を送り、退室させた。レスニースさんにもあらかじめ部屋を出るように伝えていたのか、後ろ髪を引かれている様子のギルオレさんを伴って部屋を出ていった。
今部屋に残っているのは、ロミアリーゼさん、ロミアリーゼさんの使用人1人、ファリ、おれ、の4人だけだ。
「申し訳ございませんが、ナファリード様にも席を外して頂きたく」
ファリには話を聞かせたくないのか、ロミアリーゼさんはファリに退室を求めた。
おれとしては、すでに異世界から来たことも、乙女ゲームの存在も全てファリに明かしてしまっているので、出来れば側で話を聞いていて欲しい。
「あの、ファリは一緒が良いのですが」
「出来ればご遠慮願いたいです」
チラリとロミアリーゼさんの使用人を見る。
水色の瞳と、同色のロングヘアーを襟元でひとつにまとめ、サラリと背中に流している。執事服を着た男性で、年齢は27、8といったところだろうか?
「そちらの方もここに残るのですよね? ならお互い2人ずつで丁度良くないですか?」
「立場的に…ナファリード様はわたくしの従者とは違いますよね?」
ファリに意味深な視線を投げながら、ロミアリーゼさんが答える。
「……どうしてもと仰るのでしたら、ここでの話を誰にも漏らすことが出来なくなる誓約魔法を受けて頂くことになりますが、それでもよろしいですか? そちらに秘していることがお有りのように、わたくしにも明かされたくない事柄があります」
誓約魔法…
秘密をしゃべってしまったら何かペナルティーが与えられたりするのかな?
それとも単に話せないだけ?
「誓約魔法は4人全員が受けるって認識でいいですか?」
「良いでしょう」
「どういった誓約を?」
「今この時から、この部屋を出るまでに交わされた会話を、誓約者である4人以外に漏らさないこと。故意は勿論、意図せず漏洩しそうになった場合も強制的に行動が制限されます。話そうとすると言葉は音とならず、書こうとしても手は動かず。身振り手振りなどもまた然りです。誓約の有効期限は誓約対象者全員が同意し、破棄を決定するまでとする。但し、ロミアリーゼ・グッテスラ、円谷和明、両名の同意を得られた場合、例外として、有効期限内であっても同意対象事項を守秘対象から一時的に外すことが可能となります。また、この部屋を出るまでに対象外であることを明確にした事項、および、既に世間的に知られている事項については守秘対象から省くこととします」
えっと…
今から話すことは秘密だから、誰にも言えなくなる。
でも、おれとロミアリーゼさんが2人ともオッケーを出したら言っても良くて。
しゃべってオッケーだよってことは、先に伝えておけばいい。
それ、もうみんな知ってるよって話も秘密じゃないからしゃべれる。
あと、みんなでもう全部バラしちゃっていいよって決める時までは約束は破れない…って感じか。
ふむふむ…特におれ達だけが不利って内容でも無さそう。
ファリを見上げて意思を確認すると、頷いて同意を示す。
「分かりました。誓約魔法を受けます」
「シグニド」
ロミアリーゼさんが声をかけると、水色の髪の男性が動いた。
シグニドさんって名前なんだな。
シグニドさんは、予め準備していたっぽい2枚の紙をおれに渡して誓約魔法の説明をした。
受け取った2枚の用紙を見ると、1枚目には先程ロミアリーゼさんが挙げた条件が記載されていて、2枚目には円形状に文字を組み合わせた複雑な模様が描かれている。
魔法陣という名前のそれは、魔力を流すことで、特定の魔法を誰もが発動させられる形にした回路ような物らしい。
用意されていたものは誓約魔法の魔法陣だ。
魔法陣に書かれている文字は、おれには古文のような感じで翻訳され、完璧ではないけれど大枠の内容は理解できる。発動する魔法は1枚目の紙に書かれた条件を強制的に守らせるものであり、ロミアリーゼさんの言葉に偽りはないと判断しても良さそうだ。
冒険者ギルドで見た魔法印と似たような物なのかもしれないが、こちらは魔法印と違い発動させれば用紙自体が消えてしまう一度きりの消耗品なのだそう。
条件の書かれた方の用紙に、流した魔力を一定期間保持することができる特殊なインクとペンを使い、4人がそれぞれ魔力を流しながらサインをする。
2枚の用紙を重ねた状態で、全員が同時に手を触れ、ロミアリーゼさんが『誓約開始』と言葉を発することで魔法陣を発動させた。
2枚の用紙が消え、魔法陣のみが空中に浮かんで光を放つ。
頭上に浮いて広がった魔法陣は、全員の体を同時にスキャンでもするかのように、頭上から足元まで光ながら通り抜けて消えていった。
これが誓約魔法か…。
はぁ…緊張した~!
魔法にも慣れてきたな、と思っていたけれど、いかにも異世界って風情の魔法で、緊張して肩に力が入ってしまった。
ロミアリーゼさんは、そんなおれの様子を見て、目を細めてクスリと笑う。誓約前と比べて表情が柔らかい。
誓約して秘密が漏れなくなったから、ちょっと安心したのかな?
「…何から話そうかしら。…そうね、先ずは改めて、自己紹介仕直しましょうか」
ロミアリーゼさんがスカートを摘んで軽く膝を曲げてニコリと微笑む。
「わたくしはロミアリーゼ・グッテスラ。悪役令嬢よ。よろしくね、円谷くん」
「お待たせしてしまい失礼しました。ロミアリーゼ・グッテスラです。以後お見知り置きを」
慌てて立ち上がり、挨拶を返す。
「円谷和明です。カズアキが名前で、ツブラヤが家名です。しばらくの間、こちらでお世話になることになりました。よろしくお願いします」
「ナファリードです。お世話になります」
物腰は丁寧だけど簡易的な挨拶をしたファリをじっと見た後、ロミアリーゼさんは、丁重な挨拶を返していた。
「お二人が、弟達を助けて下さったそうですね。感謝いたします」
「いえ、こちらこそ王都まで送っていただいた上、こちらへの滞在まで許して下さって。ありがとうございます」
一通りの挨拶の後、ロミアリーゼさんは、部屋の使用人達に合図を送り、退室させた。レスニースさんにもあらかじめ部屋を出るように伝えていたのか、後ろ髪を引かれている様子のギルオレさんを伴って部屋を出ていった。
今部屋に残っているのは、ロミアリーゼさん、ロミアリーゼさんの使用人1人、ファリ、おれ、の4人だけだ。
「申し訳ございませんが、ナファリード様にも席を外して頂きたく」
ファリには話を聞かせたくないのか、ロミアリーゼさんはファリに退室を求めた。
おれとしては、すでに異世界から来たことも、乙女ゲームの存在も全てファリに明かしてしまっているので、出来れば側で話を聞いていて欲しい。
「あの、ファリは一緒が良いのですが」
「出来ればご遠慮願いたいです」
チラリとロミアリーゼさんの使用人を見る。
水色の瞳と、同色のロングヘアーを襟元でひとつにまとめ、サラリと背中に流している。執事服を着た男性で、年齢は27、8といったところだろうか?
「そちらの方もここに残るのですよね? ならお互い2人ずつで丁度良くないですか?」
「立場的に…ナファリード様はわたくしの従者とは違いますよね?」
ファリに意味深な視線を投げながら、ロミアリーゼさんが答える。
「……どうしてもと仰るのでしたら、ここでの話を誰にも漏らすことが出来なくなる誓約魔法を受けて頂くことになりますが、それでもよろしいですか? そちらに秘していることがお有りのように、わたくしにも明かされたくない事柄があります」
誓約魔法…
秘密をしゃべってしまったら何かペナルティーが与えられたりするのかな?
それとも単に話せないだけ?
「誓約魔法は4人全員が受けるって認識でいいですか?」
「良いでしょう」
「どういった誓約を?」
「今この時から、この部屋を出るまでに交わされた会話を、誓約者である4人以外に漏らさないこと。故意は勿論、意図せず漏洩しそうになった場合も強制的に行動が制限されます。話そうとすると言葉は音とならず、書こうとしても手は動かず。身振り手振りなどもまた然りです。誓約の有効期限は誓約対象者全員が同意し、破棄を決定するまでとする。但し、ロミアリーゼ・グッテスラ、円谷和明、両名の同意を得られた場合、例外として、有効期限内であっても同意対象事項を守秘対象から一時的に外すことが可能となります。また、この部屋を出るまでに対象外であることを明確にした事項、および、既に世間的に知られている事項については守秘対象から省くこととします」
えっと…
今から話すことは秘密だから、誰にも言えなくなる。
でも、おれとロミアリーゼさんが2人ともオッケーを出したら言っても良くて。
しゃべってオッケーだよってことは、先に伝えておけばいい。
それ、もうみんな知ってるよって話も秘密じゃないからしゃべれる。
あと、みんなでもう全部バラしちゃっていいよって決める時までは約束は破れない…って感じか。
ふむふむ…特におれ達だけが不利って内容でも無さそう。
ファリを見上げて意思を確認すると、頷いて同意を示す。
「分かりました。誓約魔法を受けます」
「シグニド」
ロミアリーゼさんが声をかけると、水色の髪の男性が動いた。
シグニドさんって名前なんだな。
シグニドさんは、予め準備していたっぽい2枚の紙をおれに渡して誓約魔法の説明をした。
受け取った2枚の用紙を見ると、1枚目には先程ロミアリーゼさんが挙げた条件が記載されていて、2枚目には円形状に文字を組み合わせた複雑な模様が描かれている。
魔法陣という名前のそれは、魔力を流すことで、特定の魔法を誰もが発動させられる形にした回路ような物らしい。
用意されていたものは誓約魔法の魔法陣だ。
魔法陣に書かれている文字は、おれには古文のような感じで翻訳され、完璧ではないけれど大枠の内容は理解できる。発動する魔法は1枚目の紙に書かれた条件を強制的に守らせるものであり、ロミアリーゼさんの言葉に偽りはないと判断しても良さそうだ。
冒険者ギルドで見た魔法印と似たような物なのかもしれないが、こちらは魔法印と違い発動させれば用紙自体が消えてしまう一度きりの消耗品なのだそう。
条件の書かれた方の用紙に、流した魔力を一定期間保持することができる特殊なインクとペンを使い、4人がそれぞれ魔力を流しながらサインをする。
2枚の用紙を重ねた状態で、全員が同時に手を触れ、ロミアリーゼさんが『誓約開始』と言葉を発することで魔法陣を発動させた。
2枚の用紙が消え、魔法陣のみが空中に浮かんで光を放つ。
頭上に浮いて広がった魔法陣は、全員の体を同時にスキャンでもするかのように、頭上から足元まで光ながら通り抜けて消えていった。
これが誓約魔法か…。
はぁ…緊張した~!
魔法にも慣れてきたな、と思っていたけれど、いかにも異世界って風情の魔法で、緊張して肩に力が入ってしまった。
ロミアリーゼさんは、そんなおれの様子を見て、目を細めてクスリと笑う。誓約前と比べて表情が柔らかい。
誓約して秘密が漏れなくなったから、ちょっと安心したのかな?
「…何から話そうかしら。…そうね、先ずは改めて、自己紹介仕直しましょうか」
ロミアリーゼさんがスカートを摘んで軽く膝を曲げてニコリと微笑む。
「わたくしはロミアリーゼ・グッテスラ。悪役令嬢よ。よろしくね、円谷くん」
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