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魔力の特性

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 目が覚めたらベッドの上だった。
 ローゼさんに貸して貰っている客室のベッドだ。
 傍らにはファリが眠っている。
 部屋は薄暗くてカーテンが引かれていた。
 しんとした静けさが今が真夜中である事を告げている。

 う~ん、なんだか体がギシギシするなぁ。

 こういう感覚には覚えがある。
 休みの日にだらだら過ごして寝すぎた時の感じだ。

 …って、あれ?
 おれ、いつ寝たっけ?

 ん? そういや、魔法制御の訓練中じゃなかったか?

 クールセイオ先生に魔力制御の方法を習っていて…
 おれから先生に魔力を流して、魔力の相性が合っていたと判ったから、次は先生からおれに…ってなって…

 けれど、相性が合っていたはずなのに何故か気分が悪くなって倒れてしまったんだっけ…?

 空腹でお腹が小さくクゥ~と音を立てたので、なだめるようにお腹をさする。

 うぅ~、夕飯食べていないもんなぁ…


「…カズアキっ?!」

 おれが隣でゴソゴソしていたのでファリを起こしてしまったようだ。

 ファリが慌てた様子で飛び起きる。

「ごめん、起こしちゃった?」

 ファリの目が見開かれ、覆い被さるようにしておれの顔を覗き込んでくる。

「痛いところはっ? 苦しくはないかっ?!」

 頬や肩に触れて必死に確認してくる。

「えっ? 大丈夫だよ。あっ、お腹は空いたな…。夕飯食いっぱぐれちゃったからなぁ」

「夕食どころか……。3日も目を覚まさなかったのだから…」

「ええっ?! 3日?! マジでっ?!」

「ああ、本当に大丈夫か? 気分は悪くないか?」

 不調を見逃さないようにと、心配そうに覗き込んでくる。

「うん、元気、元気! 倒れる前は気分が悪かったけれど、今はすっかり治ってる。ん~、…ちょっと体を起こすね」

 そう言うと、ファリが覆い被さるようにしていた体を引いてくれて、おれが起き上がるのを手を添えて助けてくれる。
 体を起こしてベッドに座ったまま、両手を上げて上半身を思い切り伸ばす。

「うぅ~~~~んっ……っはぁっ…」

 ちょっと体がギシギシしていたくらいで、伸ばしたらスッとしたし、特に不調は感じない。

「やー、全然問題ないよ。ホントにおれ、3日も眠りこけてた?」

「急に動いたら…」

 ハラハラしている様子のファリに「本当に大丈夫だから」と笑顔を見せると、心配そうに眉を寄せたまま、詰めていた息を吐き出した。

「……医者を呼んでくる」

 立ち上がろうとするファリの袖を掴んで引き止める。

「夜中みたいだし、大丈夫だよ。また朝にでも診て貰うから」

「いや、カズアキが目を覚ましたら何時であろうとすぐに呼ぶよう言付かっている。医者に診てもらうまではわたしも安心出来ない」

 おれを見下ろすファリの目元には隈ができていて顔色が悪い。
 この3日間、心配をかけ続け、不安な思いをさせてしまったようだ。

「…わかった。心配かけてごめんな」

 体に負担をかけないようにと気遣ってか、力を入れずにそっと抱かれた後、額にキスを落とされる。

「伴侶を心配するのは当たり前なんだろう? …だが…かなりこたえたな…。医者に良しと言われるまでは、どうか安静にしていて欲しい」

「………うん」

 思いもよらない事故ではあったのだけれど、ファリに不安な時間を過ごさせてしまったことは悔やまれる。
 毎日毛繕いするって言ったのに3日も出来なかったんだな…。


 ファリが呼んできてくれた医師に診察してもらい、大丈夫そうではあるが、数日は様子を見るので安静にして、魔法も使わないようにと指示された。
 医者に処方された薬は正直とんでもなく不味くて飲みづらかった。日本で飲み慣れていた錠剤と違い、漢方薬に青いエグ味が付加されたような雰囲気のどろどろとした液体だった。

 夜中だというのに、メイドさんが食事も運んで来てくれた。

 手間をかけさせてホントに申し訳ない…。

 メニューは、柔らかく煮込んだ野菜が少しだけ入ったスープだったけれど、3日も食べていなかったせいか、それだけでも十分に空腹が満たされ、心も体もほっとしてとても有り難かった。

 腹が満たされたおかげか、処方された薬のせいか、3日も眠り続けた後だというのに、自然と瞼が落ちてきて、翌朝まで再びぐっすりと眠ってしまった。



 目覚めた後、午前中のうちに、ローゼさんとクールセイオ先生がお見舞いに来てくれた。

「ツブラヤ様、申し訳ございませんっ」

 クールセイオ先生が開口一番、頭を下げた。

「先生のせいじゃないですよ。おれが無理にお願いしたんですし」

「しかし…」

「適切な指示を出せていなかったわたくしの責です。円谷君、危険な目に合わせてしまってごめんなさい」

 ローゼさんまで頭を下げてくる。

「いっいえ!お二人のせいでは…。魔力の相性だって確認した後だったんだし、予測できない事故だったんですよ。…こちらこそ迷惑かけちゃってすみません。お医者さまの手配とか有難うございました」

 もう一度丁寧な謝罪を受けた後、ローゼさんからも安静を勧められる。

「普通でしたら相性は相互で変わらないはずであり、相性が最悪だとしても、ひどい船酔いのような症状が、長くて1日ほど続く程度なのです。今回のケースのように、一方だけに、尚且つ昏倒し3日も目覚めない程の悪影響を与える事例は過去に確認されておりません」

 おれに真剣に受け止めて貰おうとしてか、一度言葉を切り、しっかりと目を見て語りかけてくる。

「だからこそ甘く見ることなく、安静に養生をお願いします。魔力機関の不調から命を落とすこともあるのですから」

 前世、思わぬ事故で命を落としたローゼさんの言葉は重い。向けられた視線からは有無を言わせぬ真摯さを伴った心遣いが伝わってくる。

「はい、わかりました」

 ステータス画面を見ても特にバッドステータスは付いていなかったし、よく寝たからか、体力も魔力も満タンではあるのだけれど、数値に表されていない何かに問題がある可能性も否定はできない。

 何より心から心配してくれる人達の気持ちを大切にしたいから、大丈夫だと思っていても、医者の許可が出るまでは安静にしておこう。

「クールセイオ先生は体調どうですか? 倒れないまでも気持ち悪くなったりはしませんでしたか?」

 おれが3日も意識を失ったくらいだ。本来なら相互で同じ様な影響を受けるはずなんだから、程度の差があったとしても体調を崩させたかもしれない。だとしたら本当に申し訳ない。

 ついつい好奇心と、もしかしたら楽出来るかもという欲から、魔力の相性が悪いくらい大したこと無いだろうと、自分に都合の良いように楽観してしまったのだ。

 う…わ…改めて思い返すと、アウトだろ。
 自分の欲の為に人を傷付けるかもしれない行動をとるなんて…。

 自分のダメさに項垂れるばかりだ。

「いえ、私はむしろ調子が良くなりました。…これまでは意識もしていなかったのですが…経路のそこここに、澱の様なものが溜まっていて、魔力の流れを阻害していたのです。それらが全て綺麗に洗い流され、魔力の流れが良くなり…そのおかげで魔法効率が目覚ましく上昇しました」

 血栓とかで流れの悪くなっていた血管が綺麗になって、血の巡りが良くなった…みたいなこと?

 とにかく悪影響を与えずに済んだと聞いて胸をなで下ろす。

 今回はたまたま悪い結果を生まなかったけれど、人を巻き込む安易な考えや軽率な行動は慎むべきだ。

「しかし…このような事も前例がありませんが…。ツブラヤ様の魔力には常人とは違う特性があるのかもしれません。ツブラヤ様の状態から見て、私との魔力の相性自体は最悪の部類なのだと思われます。反面、私には良い影響があらわれた…。…恐らくですが、ツブラヤ様から魔力を送られる場合に限り、相性関係なく、相手の魔力経路を整える効果があるのかもしれません」

 話を聞いたローゼさんが考え込むような様子を見せた。

 常人とは違う特性か…。
 もしかしたら『聖女』の称号が何らかの影響を及ぼしているのかもしれないけれど確証は無い。

「…魔力のことは知識がなくてよく分かんないですけど…とにかく先生が体調を崩されていなくてホッとしました」


 この後二言三言、言葉を交わして、あまり長居をして疲れさせてはと、2人は部屋を出て行った。
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