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第六章 鏡花水月~きょうかすいげつ~
第四十七話
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翌朝。
昨日までのぐずついた天気が嘘のような快晴。地表や、そこに近い草木はしっとりと湿っているが、昼前には乾くだろう。
そんな晴れやかな朝。
全員、寿子が作った朝食を食べ終え、居間に坐す。
7人分の布団の準備やら食事やら、未だに精力的に動く式神が手伝っているとはいえ、相変わらず寿子が老いを感じさせない動きでテキパキと片付けていく。
そして食後に寿子が出してくれた暖かい緑茶を飲みながら、陽が世羅に切り出す。
「まさか、世羅がばあちゃん呼んでくるとは思ってなかったんだけど。」
陽の母、結実が亡くなって以降、寿子が戦えるような精神状態でないことは世羅だって認識していたはずだ。にもかかわらず、呼びに行ったということは、未だ現役のような動きができると世羅は知っていた、ということになる。
「目が潰された時に、助けに行こうと思ったんだけどね。存外、植物の勢いが凄くて。
校内の状況は見えないままだし、周りは住宅街だしで、さすがに僕と凛の火を使うのは……って、ちょっと躊躇った。
寿子さんからは、前から陰陽連と何かあればすぐに連絡欲しいって言われていたからね。あの人なら、周囲に被害を出さずにどうにかしてくれるかなって。」
「……ばあちゃんは、わざとボケたフリをしてたって事か。」
洗い物を終えた寿子が、茶請けにとお菓子が入ったトレーをテーブルに置く。今しがた朝食が終わったばかりだと言うのに、完全に孫に食い物を与える祖母の姿だ。
「結実が死んで、陰陽連がここを調べにくるのは分かってたから。知らぬ存ぜぬで通す訳にもいかないし、ひと芝居うってたわけだ。下手をすれば私も消されかねなかったから。
……とはいえ、陽には、悪いことしたね。」
消されるの意味が肉体的な意味か、それとも記憶の意味か。どちらともとれるし、どちらもやりかねないことは今この場にいる全員の共通認識だった。
寿子の用意したお菓子の個包装をいの一番にぺりぺりと開けて、食べていた陸が思い出したように言う。
「その陰陽連の方は大丈夫なの?
今、僕らがここにいるの、バレバレなんじゃない?」
「それなら心配いらないよ。足止めは、そこの別嬪さんに頼んであるから。」
寿子が穏やかな表情で凛を見る。凛は涼しい顔のままだが、陸はそうではなかった。お菓子をつまむ手が止まる。
「足止め?」
「ちょっと陰陽連の本部を引っ掻き回してきたくらいよ、加減はしてるわ。けが人くらいは出てるかもしれないけど。」
「うーわ、さすが妖怪、やること野蛮。」
「あら。今この状態で陰陽連の奴らがここにやってきたらどうするのよ。
……そもそもあなたがこの状況を作ってたって理解してる?」
「へえそういうこと言うんだ、せっかく水に流そうと思ってたけど、そんなにやり返されたいなら望み通りにするよ?」
「やれるならやってみなさいよ、この場にいる中であなたが一番不穏分子なんだから、ちょうどいいわ。」
「陸……!凛も、あんまり煽らないで。」
陸と凛が険悪だ。なんだかついぞ見た光景と思いつつも、和泉が2人をとりなす。
凛は寿子の出してくれたお茶を啜りながら。陸は、お菓子を食べながら。穏やかなはずの小道具が意味をなさないくらいに、2人の冷たい視線がぶつかり合う。
「不穏分子なのはわかってるよ。実際、陽や世羅さんからしたら、敵だと思われるようなことしてたわけだし。本気、のつもりだったし。
……もう、その気はないよ。信用ないかもしんないけど。その、ごめん。色々と、迷惑かけて。」
「信用ねえもなにも、ブレブレなのはオレも悠河も気づいてたっての。中途半端な手加減しやがって。」
学校に立てこもる形で陽たちを誘き出したものの、結果的に直接陸が命を奪った者はいない。それに。
「ほんとに、俺ら以外全部どうでもいいんなら、わざわざこんな学校がねえ日にやる必要もないもんな?」
悠河の言葉に陸は顔を伏せた。かなり覚悟を決めて臨んだ陸の覚悟は、旧知の幼馴染にはいともたやすく本心でないことが見抜かれていたらしい。
「こんな状況じゃ、ブレもするのは当たり前だろうがよ。」
誰が正しくて、何が正しいのか。そして、何をしたいのか。大きな渦に個が巻き込まれる感覚。恐怖、という言葉では形容しえない。
陸が凶行に出たのも、全く分からないでは無いと、陽は思うのだった。その凶行が本心ではないと気づいていた和泉もまた、同じ。
「だから、力を貸してほしいって、陸に言ったの。
……教えて、ほしい。陸の知ってること。責めるつもりはないよ、知って前に進みたいから、聞かせて欲しい。」
「そう、だね。
陽や悠河に言ったことがほとんどなんだけどさ。あの時和泉ちゃん、いなかったし。まあ話しておこうか。
二年前だよ、僕が白斗さんに呼び出されて、斎王の話を聞かされたのが。今思えばあれも妙なタイミングだったと思う、なぜか都合よく、僕だけ。
陽はなんか修行中とかで山奥にこもってた時期だったし、紅音ちゃんは昇格試験中、悠河も長期で京都あたりで仕事だったんだっけ。」
陽と悠河は頷く。だが、陽と悠河が知っているのはそのくらい。自分たちがいないときに陸が仕事で死んだ、それだけだった。陸がなぜ死んだのか、何度聞いても陰陽連は答えてくれなかった。ただ、任務中の事故、とだけ。
同じなのだ、陽の両親と。
そして、和泉も。覚えているのは同じく二年前だった。
和泉が目が覚めた暗くて澱んだ、あの場所。
なぜここにいるのか、わからない。目覚めた時の記憶の残滓は朧気で、ただ何かから逃げていたことだけを覚えている。
目覚めた場所にいた、長い黒髪の顔を隠した男。傍に来る度、触れる度、身体の奥底からどうしようもないほどの恐怖と嫌悪が募る。
それが犀破と名乗る妖怪であることを知ったのは、陸たちがそこへやって来たからだった。
「数人の陰陽師と、僕で、犀破のところへ乗り込んだ。
そこで、和泉ちゃんに出会った。最初はおびえてたけど、少しずつ話すようになって、それこそ普通の女の子となんら変わらなかった。
ここはどこだとか、あれはなんだとか、気づけば質問攻めにあったよ。まるで、言葉を覚えたての子供みたいで。」
陸の瞳が、優しく伏せられる。手にした湯呑みをゆっくり撫でている。
「そうだね、二年前の私は、本当になにもわからなくて。でも、陸が悪い人じゃないってのは見たときにわかったよ。だからついていった。」
「まあでも当然犀破は和泉ちゃんを狙ってくるわけで。犀破自身には僕は会ってないんだけど。」
陸はそう言って、凛に目をやる。
「追手はあんただったよね。
……結果は全滅。結局和泉ちゃんは犀破の元へ連れ戻されたし、僕は死んだ。恥ずかしい話だけど、アンタには手も足も出なかったんだよね。あの時の僕は。」
今なら違うと言わんばかりにやはり凜を睨む陸。凜は、視線を逸らすことなく睨み返す。和泉の目尻が下がるのを見て、陸が視線を逸らした。和泉がいなかったら第二ラウンドが始まりそうである。
「まあこれではっきりしたな。
直接的な話はとりあえず置いといて。どう考えたって、陸は明らかに見殺しにされたんだろ。」
犀破は、数人で乗り込んでどうにかなる相手ではない、と身をもって体感した陽はわかっている。しかし、当然長年戦ってきた陰陽連に、とりわけ白斗にそれが分からないはずはない。
現に、白斗が陰陽頭代理となってからは、犀破とは大規模な戦いは行ってないと言っていた。明らかに白斗が陸の死を伏せていたことが分かる。斎王のことも、犀破のことも、とにかく徹底的な秘密主義を貫いている。
「しかも、犀破がどこにいるかなんてわかんねえって聞いてたけど、その分じゃ少なくとも白斗は目星がついてんだろうな。わざわざ陸を指名して乗り込ませてんだから。」
白斗がお得意の占いでは分からないと言っていたあれもまた、嘘だったわけだ。
「で、次に目が覚めたらこの体だよ。血も通わない、熱もない仮初の身体に、無理やり僕の魂を常世から引きずり戻した禁忌の術。物心ついたときの記憶から、死ぬまでもちゃんと覚えていたし。僕が知りうるはずのない斎王の話までなぜか知っていた。
……これは僕の推測だけど、たぶん、反魂の副作用っていうか。術者か、もしくは反魂の術を行う時の媒体の記憶とか?」
何故か、分かってしまった斎王の役目。そして異常なまでにその存在をひた隠しにする陰陽連の意思。
甦って早々に、『斎王を連れ戻せ』と言われても、素直に従う気など陸にはさらさらなかった。むしろ連れ戻すふりをして、犀破に渡してしまえばいい、と。
結果的にそれは叶わなかった訳だが、いざ和泉を前にしてその決意が揺らいだのもまた事実。やっぱりそんなのはおかしいと、陸の根っこがそう叫んでいることを見ないふりは出来なかった。
「本当に、ごめん。浅はかだった。」
「だから、オレらはいいんだって。和泉も、嫌だったらとっくに放り出してるだろ。」
颯希に撃たれた陸を真っ先に庇ったのは和泉だった。その後も和泉が陸を支えながら、逃げてきた。
「陸がいるって聞いて、本当なら謝りたかったし、間違えているなら、止めたかったから。止められてよかった。
……話をしてくれてありがとう。」
お礼を言われると思っていなかった陸は目を丸くする。
「で、悠河は?陰陽連はどうなってた。」
「かなり騒ぎになってるよ、上の方がバタバタしてるの隠したいんだろうなってのが伝わるくらい。
……全員待機なはずが、俺だけ呼び出されてこの状態だよ。」
「なぁんだ、じゃあ僕らみんなすっかり、陰陽連お尋ね者か。……陽も悠河も、斎王のことに気づいちゃったから?」
「いや、オレと悠河は完全別行動。」
「ふうん……そういえば、犀破のことよくわかんないんだけど、結局あれはなんなの?知ってる?」
陸が知っているのはあくまで陰陽連の持っている斎王の情報だけ。犀破のことは、斎王を狙う妖怪であることしか分かっていない。
「話して平気か。」
陽が和泉に目をやると、和泉は頷いていた。陸に聴いた手前、当然話す気でいた和泉の瞳は、ちっとも揺れていない。
昨日までのぐずついた天気が嘘のような快晴。地表や、そこに近い草木はしっとりと湿っているが、昼前には乾くだろう。
そんな晴れやかな朝。
全員、寿子が作った朝食を食べ終え、居間に坐す。
7人分の布団の準備やら食事やら、未だに精力的に動く式神が手伝っているとはいえ、相変わらず寿子が老いを感じさせない動きでテキパキと片付けていく。
そして食後に寿子が出してくれた暖かい緑茶を飲みながら、陽が世羅に切り出す。
「まさか、世羅がばあちゃん呼んでくるとは思ってなかったんだけど。」
陽の母、結実が亡くなって以降、寿子が戦えるような精神状態でないことは世羅だって認識していたはずだ。にもかかわらず、呼びに行ったということは、未だ現役のような動きができると世羅は知っていた、ということになる。
「目が潰された時に、助けに行こうと思ったんだけどね。存外、植物の勢いが凄くて。
校内の状況は見えないままだし、周りは住宅街だしで、さすがに僕と凛の火を使うのは……って、ちょっと躊躇った。
寿子さんからは、前から陰陽連と何かあればすぐに連絡欲しいって言われていたからね。あの人なら、周囲に被害を出さずにどうにかしてくれるかなって。」
「……ばあちゃんは、わざとボケたフリをしてたって事か。」
洗い物を終えた寿子が、茶請けにとお菓子が入ったトレーをテーブルに置く。今しがた朝食が終わったばかりだと言うのに、完全に孫に食い物を与える祖母の姿だ。
「結実が死んで、陰陽連がここを調べにくるのは分かってたから。知らぬ存ぜぬで通す訳にもいかないし、ひと芝居うってたわけだ。下手をすれば私も消されかねなかったから。
……とはいえ、陽には、悪いことしたね。」
消されるの意味が肉体的な意味か、それとも記憶の意味か。どちらともとれるし、どちらもやりかねないことは今この場にいる全員の共通認識だった。
寿子の用意したお菓子の個包装をいの一番にぺりぺりと開けて、食べていた陸が思い出したように言う。
「その陰陽連の方は大丈夫なの?
今、僕らがここにいるの、バレバレなんじゃない?」
「それなら心配いらないよ。足止めは、そこの別嬪さんに頼んであるから。」
寿子が穏やかな表情で凛を見る。凛は涼しい顔のままだが、陸はそうではなかった。お菓子をつまむ手が止まる。
「足止め?」
「ちょっと陰陽連の本部を引っ掻き回してきたくらいよ、加減はしてるわ。けが人くらいは出てるかもしれないけど。」
「うーわ、さすが妖怪、やること野蛮。」
「あら。今この状態で陰陽連の奴らがここにやってきたらどうするのよ。
……そもそもあなたがこの状況を作ってたって理解してる?」
「へえそういうこと言うんだ、せっかく水に流そうと思ってたけど、そんなにやり返されたいなら望み通りにするよ?」
「やれるならやってみなさいよ、この場にいる中であなたが一番不穏分子なんだから、ちょうどいいわ。」
「陸……!凛も、あんまり煽らないで。」
陸と凛が険悪だ。なんだかついぞ見た光景と思いつつも、和泉が2人をとりなす。
凛は寿子の出してくれたお茶を啜りながら。陸は、お菓子を食べながら。穏やかなはずの小道具が意味をなさないくらいに、2人の冷たい視線がぶつかり合う。
「不穏分子なのはわかってるよ。実際、陽や世羅さんからしたら、敵だと思われるようなことしてたわけだし。本気、のつもりだったし。
……もう、その気はないよ。信用ないかもしんないけど。その、ごめん。色々と、迷惑かけて。」
「信用ねえもなにも、ブレブレなのはオレも悠河も気づいてたっての。中途半端な手加減しやがって。」
学校に立てこもる形で陽たちを誘き出したものの、結果的に直接陸が命を奪った者はいない。それに。
「ほんとに、俺ら以外全部どうでもいいんなら、わざわざこんな学校がねえ日にやる必要もないもんな?」
悠河の言葉に陸は顔を伏せた。かなり覚悟を決めて臨んだ陸の覚悟は、旧知の幼馴染にはいともたやすく本心でないことが見抜かれていたらしい。
「こんな状況じゃ、ブレもするのは当たり前だろうがよ。」
誰が正しくて、何が正しいのか。そして、何をしたいのか。大きな渦に個が巻き込まれる感覚。恐怖、という言葉では形容しえない。
陸が凶行に出たのも、全く分からないでは無いと、陽は思うのだった。その凶行が本心ではないと気づいていた和泉もまた、同じ。
「だから、力を貸してほしいって、陸に言ったの。
……教えて、ほしい。陸の知ってること。責めるつもりはないよ、知って前に進みたいから、聞かせて欲しい。」
「そう、だね。
陽や悠河に言ったことがほとんどなんだけどさ。あの時和泉ちゃん、いなかったし。まあ話しておこうか。
二年前だよ、僕が白斗さんに呼び出されて、斎王の話を聞かされたのが。今思えばあれも妙なタイミングだったと思う、なぜか都合よく、僕だけ。
陽はなんか修行中とかで山奥にこもってた時期だったし、紅音ちゃんは昇格試験中、悠河も長期で京都あたりで仕事だったんだっけ。」
陽と悠河は頷く。だが、陽と悠河が知っているのはそのくらい。自分たちがいないときに陸が仕事で死んだ、それだけだった。陸がなぜ死んだのか、何度聞いても陰陽連は答えてくれなかった。ただ、任務中の事故、とだけ。
同じなのだ、陽の両親と。
そして、和泉も。覚えているのは同じく二年前だった。
和泉が目が覚めた暗くて澱んだ、あの場所。
なぜここにいるのか、わからない。目覚めた時の記憶の残滓は朧気で、ただ何かから逃げていたことだけを覚えている。
目覚めた場所にいた、長い黒髪の顔を隠した男。傍に来る度、触れる度、身体の奥底からどうしようもないほどの恐怖と嫌悪が募る。
それが犀破と名乗る妖怪であることを知ったのは、陸たちがそこへやって来たからだった。
「数人の陰陽師と、僕で、犀破のところへ乗り込んだ。
そこで、和泉ちゃんに出会った。最初はおびえてたけど、少しずつ話すようになって、それこそ普通の女の子となんら変わらなかった。
ここはどこだとか、あれはなんだとか、気づけば質問攻めにあったよ。まるで、言葉を覚えたての子供みたいで。」
陸の瞳が、優しく伏せられる。手にした湯呑みをゆっくり撫でている。
「そうだね、二年前の私は、本当になにもわからなくて。でも、陸が悪い人じゃないってのは見たときにわかったよ。だからついていった。」
「まあでも当然犀破は和泉ちゃんを狙ってくるわけで。犀破自身には僕は会ってないんだけど。」
陸はそう言って、凛に目をやる。
「追手はあんただったよね。
……結果は全滅。結局和泉ちゃんは犀破の元へ連れ戻されたし、僕は死んだ。恥ずかしい話だけど、アンタには手も足も出なかったんだよね。あの時の僕は。」
今なら違うと言わんばかりにやはり凜を睨む陸。凜は、視線を逸らすことなく睨み返す。和泉の目尻が下がるのを見て、陸が視線を逸らした。和泉がいなかったら第二ラウンドが始まりそうである。
「まあこれではっきりしたな。
直接的な話はとりあえず置いといて。どう考えたって、陸は明らかに見殺しにされたんだろ。」
犀破は、数人で乗り込んでどうにかなる相手ではない、と身をもって体感した陽はわかっている。しかし、当然長年戦ってきた陰陽連に、とりわけ白斗にそれが分からないはずはない。
現に、白斗が陰陽頭代理となってからは、犀破とは大規模な戦いは行ってないと言っていた。明らかに白斗が陸の死を伏せていたことが分かる。斎王のことも、犀破のことも、とにかく徹底的な秘密主義を貫いている。
「しかも、犀破がどこにいるかなんてわかんねえって聞いてたけど、その分じゃ少なくとも白斗は目星がついてんだろうな。わざわざ陸を指名して乗り込ませてんだから。」
白斗がお得意の占いでは分からないと言っていたあれもまた、嘘だったわけだ。
「で、次に目が覚めたらこの体だよ。血も通わない、熱もない仮初の身体に、無理やり僕の魂を常世から引きずり戻した禁忌の術。物心ついたときの記憶から、死ぬまでもちゃんと覚えていたし。僕が知りうるはずのない斎王の話までなぜか知っていた。
……これは僕の推測だけど、たぶん、反魂の副作用っていうか。術者か、もしくは反魂の術を行う時の媒体の記憶とか?」
何故か、分かってしまった斎王の役目。そして異常なまでにその存在をひた隠しにする陰陽連の意思。
甦って早々に、『斎王を連れ戻せ』と言われても、素直に従う気など陸にはさらさらなかった。むしろ連れ戻すふりをして、犀破に渡してしまえばいい、と。
結果的にそれは叶わなかった訳だが、いざ和泉を前にしてその決意が揺らいだのもまた事実。やっぱりそんなのはおかしいと、陸の根っこがそう叫んでいることを見ないふりは出来なかった。
「本当に、ごめん。浅はかだった。」
「だから、オレらはいいんだって。和泉も、嫌だったらとっくに放り出してるだろ。」
颯希に撃たれた陸を真っ先に庇ったのは和泉だった。その後も和泉が陸を支えながら、逃げてきた。
「陸がいるって聞いて、本当なら謝りたかったし、間違えているなら、止めたかったから。止められてよかった。
……話をしてくれてありがとう。」
お礼を言われると思っていなかった陸は目を丸くする。
「で、悠河は?陰陽連はどうなってた。」
「かなり騒ぎになってるよ、上の方がバタバタしてるの隠したいんだろうなってのが伝わるくらい。
……全員待機なはずが、俺だけ呼び出されてこの状態だよ。」
「なぁんだ、じゃあ僕らみんなすっかり、陰陽連お尋ね者か。……陽も悠河も、斎王のことに気づいちゃったから?」
「いや、オレと悠河は完全別行動。」
「ふうん……そういえば、犀破のことよくわかんないんだけど、結局あれはなんなの?知ってる?」
陸が知っているのはあくまで陰陽連の持っている斎王の情報だけ。犀破のことは、斎王を狙う妖怪であることしか分かっていない。
「話して平気か。」
陽が和泉に目をやると、和泉は頷いていた。陸に聴いた手前、当然話す気でいた和泉の瞳は、ちっとも揺れていない。
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