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第七章 花流し~はなながし~
第五十九話
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次の日から、陽・悠河・陸、三人の特訓が始まる。
特に悠河と陸は、扱える力は変わらないとはいえ、その媒体がいかんせんこれまで使用したことのない武器とあっては、実戦を想定して練習するしかないのが現状だった。
手数勝負になる悠河は凛が主に練習相手になり、陸はその間合いの広さから寿子が薙刀を引っ提げて特訓にあたる。
カンドリの話から人の霊力で龍脈の力を受け止め、扱えるように消すために行の札を使い、その言霊で力を行使していたことがわかったが、元御神体の武器は異なる。
龍脈の力を直で引き出すため、その出力と速度が段違いだった。出力と速度が変われば体が追い付かない、それに慣れさせるため、ひたすら各々が得意な行を出していく。逆に故に、結界を張りながら、力を行使できる。
慣れない武器だが、それを武器として振るうのではなく媒体として使うことを体に覚えさせていく。
怪我を負えば和泉が治療するが、体力や精神までは回復できない。ヘバった陸と悠河二人が休憩している最中も、陽は一人で黙々と、刀を振るっていた。今まで金の行で剣術に似た動きはしていた。重さと長さが変わるが、扱えるに越したことはないと、近接戦を想定した鍛錬だった。
「あいつ、あんな体力お化けだったっけか。」
「さあ。……やるしかないから、やってんじゃない。」
あんな過去を見せられて、じっとしていられるほうがどうかしていると陸は思う。一人で静かにしていれば、怒りと恐怖とあらゆるものがごちゃまぜになって押しつぶされてしまうだろう。実際、陽の太刀筋は鬼気迫る何かが乗っている。迷いを振り払うような尋常ではない重さ。
強いのも、なんだかんだで真面目なのも知っている。であるがゆえに、内に抱える激情が全然隠せていないことを陸は感じていた。
「はい、お疲れ様。」
眉間にしわが寄っていた陸の眼前に、カップに入った冷え冷えの麦茶が出される。和泉が、人数分持ってきてくれたようだ。日が沈めば寒くなってきた季節とはいえ、動けば暑い。汗を流し、疲労困憊の三人の体に、冷えた麦茶がよく染み渡る。
「和泉、後で付き合え。」
「ちょっと、疲れたから休憩する。世羅に、やってもらって。」
「……?ああ。」
思わぬ、和泉の拒絶に陽は思わず目を丸くする。和泉はそのまま、陽に視線を合わせずに背を向けて行ってしまう。ただならぬ雰囲気に、お茶を飲み干した悠河も身を乗り出した。明らかに、和泉の態度が違う。当然陽に心当たりはない。
「何、喧嘩でもしたのお前ら。」
「いやしてねえけど。」
「また陽がなんか余計な事言ったんじゃないの。
……なんて。冗談はさておいて。」
「心当たりあるのかよ。」
「和泉ちゃん、陽の両親のこと、責任感じてるんじゃない?」
「あいつのせいじゃ、ねえだろうがよ。」
陽も一気に麦茶を飲み干して、カップを乱暴に置く。
「怒らないでよ、別に和泉ちゃんのせいじゃないって。それはここにいるみんなそう思ってるよ。
でも、そういう子でしょ。」
気にするな、抱えるな。そうは言っても、人の性格などすぐには直らない。そして、結実の封印が解けた日から、陽は和泉とはまともに会話をしていない。
凜や、寿子とは普通に会話をしているのは見かける。鍛錬も、悠河や陸相手にはやっている。けれどあからさまに、陽との接点は激減していた。陽が、避けられていると感じるほどには。
「まだ言わねえのお前。」
「何を。」
「好きなんだろ。」
悠河が平然と言ってのける。当然、和泉の姿が見えなくなってから言った。悠河とて、そこまで無粋では無い。
「だから、今はそうゆう状況じゃ、ねえだろ。」
「そんなこと言ってると、逃すよ?僕みたいに。」
「は?」
「僕、和泉ちゃんのこと好きだったからさ。……今更、どの口がって話だけど。」
「……っ!」
「可愛いし、優しいし、あったかいし。ほんと、泣けてくるくらい、いい子。」
陸が小さい頃に仄かに芽生えさせた恋心は、あの夏休みに封じられてしまった。それでも、再び出会い、守らなければと奮闘した。忘れていても、無意識にその感情は残っていたのかもしれない。きっと、再会を果たした後に死ななければ、想いを伝えていたかもしれない。
けれど現実は。中途半端な真実を知った陸は、その恋慕を自ら捨ててしまった。
「今日明日どうこうってわけじゃないし、結果的に僕は言わなくてよかった方かもしれないけど。こんな身体になってなかったら後悔してる。実際、死ぬ時に思ったしね。……言っとけばよかったなって。」
陸が、槍を振ってマメができているその手を空に翳す。こんな身体でも、マメができるんだと苦笑する。
「全部、思い出したんだし、いいタイミングじゃない?
……いつから好きなのかは知らないけどさ。」
陸は知っていた。陽本人が自覚してなくても、その気持ちは、子供であったとしてもあの十年前の夏休みから向いていたと。俄に悠河が、立ち上がる。
「言うタイミング掴めねえだけだろ、この朴念仁は。」
「あれ悠河、今日はもう終わるの?」
「いや?敵情視察。」
そういって悠河が陽に、自分の式を押し付けた。簡易的な通信手段など、この程度であれば斎王の力を必要としない。行にまで発展させる必要のない式くらいなら、悠河たち自身でも作れる。
「つけとくからよ。聞きたくねえんなら自分で潰しな。」
「……余計なこと、言うなよ。」
釘を刺す陽に対して、悠河は手をひらひらさせて、境内から出ていく。すぐ階段を降りていき、その姿は見えなくなった。
*****
境内から逃げるように立ち去った和泉がいたのは、四阿。神社の敷地、鎮守の森の中ではあるが、少し開けたそこは集落を見渡せるちょっとしたスポットになっている。当然、子供の頃の遊び場でもあった。枯葉が寄り添うように、和泉の座るベンチに落ちている。
「よ。今いいか。」
「悠河……、いいよ、今休憩?」
悠河の手には、すぐ近くの自販機で買ってきたオレンジジュースが二本。昔から品ぞろえの変わらない、安い自販機のジュース。妙に甘ったるくて、よそでは見ないこのオレンジジュースが悠河はひそかに好きだった。
「タイミング、逃してて悪い。その、ちゃんと、謝ろうと思って。」
「……何を?」
「あの、十年前の夏休みのことと、こないだの学校のこと。今更だと思うけど。
ごめん。」
いきなり本題には入らず、口実から。実際口実、というほどのでっちあげでもない。悠河自身が招いた事故を謝りたいのは事実だ。記憶が封印されてたとはいえ、散々にひどいこと言っていた、いつまでもずるずる引き摺らず、きちんと清算したほうがいい。陽には言いたいことは早く言えと言った手前、なおのことだった。これも式を介して陽たちに聞かれているだろうがこの際仕方ない。
「いいよ、気にしてないから。
……悠河には、嫌われてると思ってたから、そうじゃなくてよかった。ありがとね。」
許してくれるだろうとは、思っていた。なのに、そんな悠河の甘えた予想を遥かに超えるように、返ってきた言葉はありがとう。夕日の逆行で、少し影になっているはずなのに、眩しいと思える笑み。
「陸や紅音なら、分かんなくもねえけど、俺は、見捨てられても当然のことしてた。仕返ししてやろうとか、ざまあみろって思わなかったのか?」
「あの夏休みは、ただ結実さんとの約束を守りたかっただけだよ。行く前に聴いてたんだ、同じくらいの年齢の子達がいるから、みんなと仲良くしてねって。
それに悠河もほんとは優しいって気づいてたよ?陸と紅音ちゃんも言ってたけど。みんなでぐっちゃぐちゃにした秘密基地の中を最後に片付けるのはいつも悠河だったし、寿子さんのお手伝いを率先してやってたり。ちゃんと、見てたんだから。
たいせつだったんだ、みんな。紅音ちゃんの教えてくれた、たいせつ。
結実さんに封印されても、それだけは忘れてなかったんだと思う。だから、紅音ちゃんのことも助けたいって思ったし、学校での時も悠河に死んで欲しくないって思った。」
「紅音が、お前に何をしたかは、陽に聴いた。……悪かったな、あいつの代わりじゃねえけど。それも謝っとく。」
「ううん。私は、あとから来て引っ掻き回してたようなもんだから。やだよね。
でも、やっぱりだからって犀破のとこに置き去りになんてしておけない。私は、もう紅音ちゃんと遊べなくてもいいけど、でも戻ってきて、欲しいなって。」
悠河はなぜ今まであんな態度をとっていたのか、少しわかった気がした。眩しすぎたのだ。裏表なく、まっすぐな和泉に対して、しょうもない嫉妬や敵対心をもってしまう自分自身が浅ましく、よけい惨めに思えた。そんな矮小な自分から目を背けたくて、その眩しさを遠ざけようとしていた。今はもう、そんな風には思わない。
だから、柄にもなくこんな行動に出た本当の目的に入っていく。
「そういや、アイツの……陽のことだけど。」
「……!
ごめん、今日夕飯の支度手伝うんだった、もう行くね。ジュースありがと。」
「結実さんたちのことで、気にする必要ねえからな。アイツ、それでお前のこと心配してたぞ。……伝わってねえかもだけど。」
和泉は立ち去ろうとした足を止めた。悠河が言葉を続ける。完全に遮断する気はないらしい。
「アイツ言葉足らねえからさ、アンタはとっくに、わかってると思うけど。
困ったら俺でも陸でもいいから、言えよ。だいたいアイツが悪いだろ、俺らがきっちり殴っとくから。」
和泉は振り向かなかった。何も言わずに、去っていく後ろ姿を見送る。イマイチ収穫があったとも言えなかったが、言わないよりは良かったはずだと悠河は自分に言い聞かせて再び神社への階段へ足を向けた。
神社の境内では、陸が、悠河の式をひらひら指でもてあそんでいる。陽も陸も、今までの話の流れは、悠河の式を介してばっちり聞いていたわけだ。
「なーんか陽がデリカシーなくて怒らせたってわけでも無さそうだよね。もうぶっちゃけストレートに聞いたら?」
「変に動いて地雷踏み抜いたら慰めてやるよ。」
戻った悠河は、置きっぱなしにしていた双刀を手に取る。休憩も済んだことだし、訓練再開である。
「お前ら他人事っつーか、楽しんでんだろ。」
「何言ってんの。陰陽連とやるのが先か、犀破とやるのが先か知らないけど。
陽と和泉ちゃんの連携がぐずぐずだと勝てるものも勝てないでしょ。それとも何か?この状態でも君らマトモにやれるの?だとしたらすごいね?」
陸の言葉に、陽は反論できなかった。
「避けられてるなら、今夜僕が呼び出すから、ちゃんと言いなよ。」
特に悠河と陸は、扱える力は変わらないとはいえ、その媒体がいかんせんこれまで使用したことのない武器とあっては、実戦を想定して練習するしかないのが現状だった。
手数勝負になる悠河は凛が主に練習相手になり、陸はその間合いの広さから寿子が薙刀を引っ提げて特訓にあたる。
カンドリの話から人の霊力で龍脈の力を受け止め、扱えるように消すために行の札を使い、その言霊で力を行使していたことがわかったが、元御神体の武器は異なる。
龍脈の力を直で引き出すため、その出力と速度が段違いだった。出力と速度が変われば体が追い付かない、それに慣れさせるため、ひたすら各々が得意な行を出していく。逆に故に、結界を張りながら、力を行使できる。
慣れない武器だが、それを武器として振るうのではなく媒体として使うことを体に覚えさせていく。
怪我を負えば和泉が治療するが、体力や精神までは回復できない。ヘバった陸と悠河二人が休憩している最中も、陽は一人で黙々と、刀を振るっていた。今まで金の行で剣術に似た動きはしていた。重さと長さが変わるが、扱えるに越したことはないと、近接戦を想定した鍛錬だった。
「あいつ、あんな体力お化けだったっけか。」
「さあ。……やるしかないから、やってんじゃない。」
あんな過去を見せられて、じっとしていられるほうがどうかしていると陸は思う。一人で静かにしていれば、怒りと恐怖とあらゆるものがごちゃまぜになって押しつぶされてしまうだろう。実際、陽の太刀筋は鬼気迫る何かが乗っている。迷いを振り払うような尋常ではない重さ。
強いのも、なんだかんだで真面目なのも知っている。であるがゆえに、内に抱える激情が全然隠せていないことを陸は感じていた。
「はい、お疲れ様。」
眉間にしわが寄っていた陸の眼前に、カップに入った冷え冷えの麦茶が出される。和泉が、人数分持ってきてくれたようだ。日が沈めば寒くなってきた季節とはいえ、動けば暑い。汗を流し、疲労困憊の三人の体に、冷えた麦茶がよく染み渡る。
「和泉、後で付き合え。」
「ちょっと、疲れたから休憩する。世羅に、やってもらって。」
「……?ああ。」
思わぬ、和泉の拒絶に陽は思わず目を丸くする。和泉はそのまま、陽に視線を合わせずに背を向けて行ってしまう。ただならぬ雰囲気に、お茶を飲み干した悠河も身を乗り出した。明らかに、和泉の態度が違う。当然陽に心当たりはない。
「何、喧嘩でもしたのお前ら。」
「いやしてねえけど。」
「また陽がなんか余計な事言ったんじゃないの。
……なんて。冗談はさておいて。」
「心当たりあるのかよ。」
「和泉ちゃん、陽の両親のこと、責任感じてるんじゃない?」
「あいつのせいじゃ、ねえだろうがよ。」
陽も一気に麦茶を飲み干して、カップを乱暴に置く。
「怒らないでよ、別に和泉ちゃんのせいじゃないって。それはここにいるみんなそう思ってるよ。
でも、そういう子でしょ。」
気にするな、抱えるな。そうは言っても、人の性格などすぐには直らない。そして、結実の封印が解けた日から、陽は和泉とはまともに会話をしていない。
凜や、寿子とは普通に会話をしているのは見かける。鍛錬も、悠河や陸相手にはやっている。けれどあからさまに、陽との接点は激減していた。陽が、避けられていると感じるほどには。
「まだ言わねえのお前。」
「何を。」
「好きなんだろ。」
悠河が平然と言ってのける。当然、和泉の姿が見えなくなってから言った。悠河とて、そこまで無粋では無い。
「だから、今はそうゆう状況じゃ、ねえだろ。」
「そんなこと言ってると、逃すよ?僕みたいに。」
「は?」
「僕、和泉ちゃんのこと好きだったからさ。……今更、どの口がって話だけど。」
「……っ!」
「可愛いし、優しいし、あったかいし。ほんと、泣けてくるくらい、いい子。」
陸が小さい頃に仄かに芽生えさせた恋心は、あの夏休みに封じられてしまった。それでも、再び出会い、守らなければと奮闘した。忘れていても、無意識にその感情は残っていたのかもしれない。きっと、再会を果たした後に死ななければ、想いを伝えていたかもしれない。
けれど現実は。中途半端な真実を知った陸は、その恋慕を自ら捨ててしまった。
「今日明日どうこうってわけじゃないし、結果的に僕は言わなくてよかった方かもしれないけど。こんな身体になってなかったら後悔してる。実際、死ぬ時に思ったしね。……言っとけばよかったなって。」
陸が、槍を振ってマメができているその手を空に翳す。こんな身体でも、マメができるんだと苦笑する。
「全部、思い出したんだし、いいタイミングじゃない?
……いつから好きなのかは知らないけどさ。」
陸は知っていた。陽本人が自覚してなくても、その気持ちは、子供であったとしてもあの十年前の夏休みから向いていたと。俄に悠河が、立ち上がる。
「言うタイミング掴めねえだけだろ、この朴念仁は。」
「あれ悠河、今日はもう終わるの?」
「いや?敵情視察。」
そういって悠河が陽に、自分の式を押し付けた。簡易的な通信手段など、この程度であれば斎王の力を必要としない。行にまで発展させる必要のない式くらいなら、悠河たち自身でも作れる。
「つけとくからよ。聞きたくねえんなら自分で潰しな。」
「……余計なこと、言うなよ。」
釘を刺す陽に対して、悠河は手をひらひらさせて、境内から出ていく。すぐ階段を降りていき、その姿は見えなくなった。
*****
境内から逃げるように立ち去った和泉がいたのは、四阿。神社の敷地、鎮守の森の中ではあるが、少し開けたそこは集落を見渡せるちょっとしたスポットになっている。当然、子供の頃の遊び場でもあった。枯葉が寄り添うように、和泉の座るベンチに落ちている。
「よ。今いいか。」
「悠河……、いいよ、今休憩?」
悠河の手には、すぐ近くの自販機で買ってきたオレンジジュースが二本。昔から品ぞろえの変わらない、安い自販機のジュース。妙に甘ったるくて、よそでは見ないこのオレンジジュースが悠河はひそかに好きだった。
「タイミング、逃してて悪い。その、ちゃんと、謝ろうと思って。」
「……何を?」
「あの、十年前の夏休みのことと、こないだの学校のこと。今更だと思うけど。
ごめん。」
いきなり本題には入らず、口実から。実際口実、というほどのでっちあげでもない。悠河自身が招いた事故を謝りたいのは事実だ。記憶が封印されてたとはいえ、散々にひどいこと言っていた、いつまでもずるずる引き摺らず、きちんと清算したほうがいい。陽には言いたいことは早く言えと言った手前、なおのことだった。これも式を介して陽たちに聞かれているだろうがこの際仕方ない。
「いいよ、気にしてないから。
……悠河には、嫌われてると思ってたから、そうじゃなくてよかった。ありがとね。」
許してくれるだろうとは、思っていた。なのに、そんな悠河の甘えた予想を遥かに超えるように、返ってきた言葉はありがとう。夕日の逆行で、少し影になっているはずなのに、眩しいと思える笑み。
「陸や紅音なら、分かんなくもねえけど、俺は、見捨てられても当然のことしてた。仕返ししてやろうとか、ざまあみろって思わなかったのか?」
「あの夏休みは、ただ結実さんとの約束を守りたかっただけだよ。行く前に聴いてたんだ、同じくらいの年齢の子達がいるから、みんなと仲良くしてねって。
それに悠河もほんとは優しいって気づいてたよ?陸と紅音ちゃんも言ってたけど。みんなでぐっちゃぐちゃにした秘密基地の中を最後に片付けるのはいつも悠河だったし、寿子さんのお手伝いを率先してやってたり。ちゃんと、見てたんだから。
たいせつだったんだ、みんな。紅音ちゃんの教えてくれた、たいせつ。
結実さんに封印されても、それだけは忘れてなかったんだと思う。だから、紅音ちゃんのことも助けたいって思ったし、学校での時も悠河に死んで欲しくないって思った。」
「紅音が、お前に何をしたかは、陽に聴いた。……悪かったな、あいつの代わりじゃねえけど。それも謝っとく。」
「ううん。私は、あとから来て引っ掻き回してたようなもんだから。やだよね。
でも、やっぱりだからって犀破のとこに置き去りになんてしておけない。私は、もう紅音ちゃんと遊べなくてもいいけど、でも戻ってきて、欲しいなって。」
悠河はなぜ今まであんな態度をとっていたのか、少しわかった気がした。眩しすぎたのだ。裏表なく、まっすぐな和泉に対して、しょうもない嫉妬や敵対心をもってしまう自分自身が浅ましく、よけい惨めに思えた。そんな矮小な自分から目を背けたくて、その眩しさを遠ざけようとしていた。今はもう、そんな風には思わない。
だから、柄にもなくこんな行動に出た本当の目的に入っていく。
「そういや、アイツの……陽のことだけど。」
「……!
ごめん、今日夕飯の支度手伝うんだった、もう行くね。ジュースありがと。」
「結実さんたちのことで、気にする必要ねえからな。アイツ、それでお前のこと心配してたぞ。……伝わってねえかもだけど。」
和泉は立ち去ろうとした足を止めた。悠河が言葉を続ける。完全に遮断する気はないらしい。
「アイツ言葉足らねえからさ、アンタはとっくに、わかってると思うけど。
困ったら俺でも陸でもいいから、言えよ。だいたいアイツが悪いだろ、俺らがきっちり殴っとくから。」
和泉は振り向かなかった。何も言わずに、去っていく後ろ姿を見送る。イマイチ収穫があったとも言えなかったが、言わないよりは良かったはずだと悠河は自分に言い聞かせて再び神社への階段へ足を向けた。
神社の境内では、陸が、悠河の式をひらひら指でもてあそんでいる。陽も陸も、今までの話の流れは、悠河の式を介してばっちり聞いていたわけだ。
「なーんか陽がデリカシーなくて怒らせたってわけでも無さそうだよね。もうぶっちゃけストレートに聞いたら?」
「変に動いて地雷踏み抜いたら慰めてやるよ。」
戻った悠河は、置きっぱなしにしていた双刀を手に取る。休憩も済んだことだし、訓練再開である。
「お前ら他人事っつーか、楽しんでんだろ。」
「何言ってんの。陰陽連とやるのが先か、犀破とやるのが先か知らないけど。
陽と和泉ちゃんの連携がぐずぐずだと勝てるものも勝てないでしょ。それとも何か?この状態でも君らマトモにやれるの?だとしたらすごいね?」
陸の言葉に、陽は反論できなかった。
「避けられてるなら、今夜僕が呼び出すから、ちゃんと言いなよ。」
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