ただ、あなたのそばで

紅葉花梨

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第1章 呼び合う魂

8. 騎士と魔導士の談合 (レイ)

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君と初めてキスをしたのは、君のお気に入りの部屋でだったね。
あまりに君が可愛く笑うから、私は我慢できなくて、君の唇にそっと口づけたんだ。
そしたら、君はしばらく固まって、だんだんと顔を真っ赤にさせて、倒れそうになっていたよね?

「もしかして初めてだった?」

そう聞くと、君は益々顔を真っ赤にさせて俯いてしまった。

「嫌だった?」

不安になって尋ねると、小さく頭を振って君は小さな声でこう言ってくれた。

「嫌じゃないです・・・。
ドキドキして、こんな気持ち初めてで、どうしていいかわかりませんっ・・・!」

そんな可愛いことを言うもんだから、私は益々
君を離せなくて、もう一度君の唇を奪ってしまった。

二人きりの、甘く、幸せな日々だった。






ここは王宮内のとある会議室。
俺は先程から、広場で見たユーリィ・ブランシュのことが気になって仕方がなかったのだが、いったん気持ちを引き締めて、魔導士団長、副団長たちとの打ち合わせに集中することにした。

「いや~、騎士団の方もなかなか優秀な人材が入ってきたみたいだねぇ。毎年、騎士団との顔合わせは楽しみにしてるんだけど、今年も期待に違わず先が楽しみだよ。ねぇ?セリエ団長?」

マティス魔導士副団長が隣の人物に声をかける。

「そうだね。今年はうちも面白い子たちが入ってきたから、騎士団の子たちと切磋琢磨しながら、共に王宮に携わる者として立派に成長していってくれることだろう」

肩より少し伸ばした紫の髪に、涼やかな竜胆色の瞳、見る者に癒しを与える微笑みを浮かべたその人物、魔導士団長ヴァーノン・セリエは穏やかな口調でそう言った。

「さて、ではこれがうちの今年の新人たちの資料だよ。また騎士団の方で目を通しておいてくれるかな?」

差し出された資料の束は、新人魔導士5人それぞれの騎士団に公開できる基礎情報が記されている。

「わかりました」

俺はそれを受け取り、代わりに騎士団の新人たちの資料を差し出した。

「それらが今年のうちの新人たちの資料です。すでに第一師団から第十師団までに分けられ、上から順にまとめてあります」

「あぁ、いつもありがとう。基本的なことなんだけど、どうも騎士団は事務系統が苦手な人間が多くて、君の前任までは資料をバラバラで渡してくるもんだから、こちらで再度まとめるのにいつも苦労していたんだよ。騎士団は人数も多いし・・・。
ほんと君が第一師団長になってこうしてまとまった資料を用意してくれて、うちもすごく助かっています。
今後共よろしく頼みますね」

セリエ魔導士団長は、そう言って資料をマティス魔導士副団長に手渡した。

「ありがとうございます。こちらこそよろしくお願いします」

俺はセリエ魔導士団長に向けて目礼し、ふと渡された資料に意識を傾ける。

(ユーリ・・・。君と話がしたい。今世での君をもっと知りたい。まだ少し声を聴いただけなのに、もうこんなにも狂おしい程に君を求めている・・・)



「では・・・」

(!!)

セリエ魔導士団長の声で我に返る。

(いけないっ。今はこちらに集中しないと)

俺は何事もなかったように姿勢を正し、セリエ魔導士団長に向き合った。

「互いに新人たちの資料に目を通したうえで、上手くパーティを組み立てていきましょうか。まずは一月後の街外れへの魔獣探査に向けて、日常訓練でお互いの相性を見ながら編成していきましょう。マティス、こちらの編成は頼みましたよ」

「了解です。任せて下さい!」

マティス魔導士副団長が軽快に応える。

「セリエ団長、それではこちらも第一から第十までの師団長を集めて、資料をもとに編成を組むようにしますので、また追って連絡致します」

俺はそう言って資料の束を持ち上げた。毎年のことなので、この後はそれぞれ解散して持ち場に戻ることになっている。
机の向こう側で、彼らも立ち上がり会議室を退出しようと足を踏み出した時、俺は我慢できずに声をかけた。

「あの!マティス副団長!!少しお時間を頂きたいのですが・・・」

いつもは、特に他に話もなくお互い解散する俺たちなので、俺が声をかけた事に対して二人とも驚いたようだ。
セリエ魔導士団長とマティス魔導士副団長が互いに目を交わして、そのうちセリエ魔導士団長が静かに頷く。

「マティス、バスティード師団長は何か大切なお話がある様子。こちらは構いませんから、二人で話をしてから戻ってきなさい」

そう言って、セリエ魔導士団長は一人で会議室を出て行った。



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