ただ、あなたのそばで

紅葉花梨

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第5章 友と仲間と

41. ベルトラム家 (ユーリ)

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仕事が終わり、俺はいつものように図書館に来ている。レイ様に出来れば会いたいが、今日は無理だということはわかっている。何故なら、帰り際にマティス先輩から今晩緊急の騎士団と魔導士の会合があるというのをこっそり教えてもらったからだ。

残念に思いながらも、やはり毎日の図書館訪問はもはや俺のルーティンになっていて、短い時間でも来ないとなんだか落ち着かない。

俺は今日読むつもりだった本を読み終わると、いつもは閉館までいることが多いのだが、今晩はアランの実家にお泊まりする予定なので早々に切り上げて宿舎に戻ることにした。

「あっ、そうだ!」

途中、この街で人気のお菓子屋さんに立ち寄る。アランのお母さまがここのお菓子が好きだというのを以前アランからチラッと聞いたことがあったのだ。

(“親しき仲にも礼儀あり”。昔おばあちゃんがよく言っていたっけ)

今日はお泊りさせてもらうんだし、先日はたくさんラスティも分けてもらったし、俺じゃぁ高価なお返しはできないけどこれくらいならと、お菓子屋で美味しそうな詰め合わせを買って、今度こそ宿舎へと足を運ぶ。

着替え等、簡単に荷物を持っていざアラン家へ。アランの実家は、王宮からそれ程離れていない貴族の邸宅が立ち並ぶ一画に建てられている。アランの家は代々王宮に仕える魔導士の家系でアランの父親や兄も、現在は王宮にて魔法の研究や指導、護衛などあらゆる分野で活躍している。

(平民の俺とはあまりに違う人たちと今から夕食などを一緒に?何だか今になって緊張してきた。・・・まぁ、ここまで来たらなるようにしかならないか)

そんなことを思いながら、俺はようやくアランの家の前に到着した。

(はぁ~~。前も思ったけど、やっぱり貴族の家ってその辺の家とはスケールが違うよなぁ・・・)

俺は目の前の門を見つめて、さらに奥に続く前庭を眺めながら、感嘆する。アランの実家に来るのは実は初めてではない。なのでそれ程家に対して仰天したりはしないのだが、やはりすごいものはすごいと言わざるを得ない。そして前の時はアラン以外の家族はみんな出掛けていたので、実際に家族の方に会うのは今日が初めてになる。

少し家の前で感慨にふけっていると、奥から老齢の一人の男性がこちらへやってきた。

「ユーリィ・ブランシュ様ですね?アラン様よりお伺いしております。どうぞ中へお入り下さい」

彼はそういうと同時に門が開かれ、男性が先頭に立って奥へと案内してくれる。

「申し遅れましたが、わたくしこのベルトラム家の執事をしております、ヴィクトルと申します。以後お見知り置き下さい」

「あっ、俺はもう知っているかと思いますが、アランの、あっ、いや、アランくんと同じ王宮専属魔導士のユーリィ・ブランシュと言います!こちらこそ、よろしくお願いします。ヴィクトルさん」

あまりに丁寧に自己紹介をされて、俺はついついあたふたしてしまったのだが、それを見たヴィクトルさんは口元を緩めて、目を細め、まるで孫を見るかのように俺を見つめる。

「フフッ、なるほど。アラン様が夢中になるはずですな。いや、失礼しました。私に敬語は必要ありません。どうぞヴィクトルとお呼びください。ユーリィさま」

俺はよくわからないまま、はぁと力のない返事をするが、ヴィクトルさん、もといヴィクトルは変わらず好々爺のようにニコニコ顔を崩さない。

「ユーリィ!」

そうしている間に、玄関まで辿り着いたようで、二階からアランが顔を出す。そのままの勢いで階段を降りてきて、俺を出迎えてくれた。

「いらっしゃい。思ったよりも早かったな」

「うん、お邪魔します。まぁ、さすがにお世話になるのに遅すぎてもね」

俺はここまで一緒に来てくれたヴィクトルにお礼を伝えて、アランの後についていく。

「ちょうどいい。父さんも兄さんも今帰ってきたところで、夕食なんだ。母さんもユーリィに会うの楽しみにしてたから」

「ゔっ、何か微妙にハードル上がってる?」

「フッ、うちは周りみたいにお固くないから大丈夫。いつも通りでいい」

「う~ん、ならいいんだけど・・・」

アランに連れられて入った部屋は明るく、雰囲気も暖かくてとても落ち着く空間だった。その部屋の真ん中に大きなテーブルがあって、もう既に美味しそうな料理が所狭しと並んでいる。俺がそれに目を奪われていると、そのまた奥の部屋から一人の美しいご婦人が顔を出す。

「あら?あら、あら、あら?貴方がユーリィくん?」

目を輝かせながら近付いてきたご婦人に少し圧倒されながらも、一応確認のためアランの方を見ると、いつも冷静なアランが少し恥ずかしそうにしながらご婦人を紹介してくれる。

「母さん、そんないきなり近付いたらユーリィが驚く。ユーリィ、すまない、僕の母でマリー・ベルトラムだ。母さん、彼がユーリィ」

「初めまして、ユーリィ・ブランシュと言います。今日は突然お邪魔してすみません。お世話になります。あの、これ良ければ召し上がって下さい。ほんの少しですけど・・・」

俺は簡単に自己紹介をして、持ってきたお菓子をマリーさんに手渡す。

「まぁ!・・・・・・」

「?」

マリーさんは、お菓子を受け取った状態のまま俺をジッと見つめて固まってしまった。

(え?俺何かマズかった?貴族のマナーってよくわからないから、お菓子はダメだったとか?)

突然のその場の沈黙に、不安になって隣にいるアランに助けを求めようとしたその瞬間、マリーさんがガバッといきなり俺に抱きついてきた。

「まぁ~~、なんて可愛い子なの!?アランったら、どうしてもっと早くうちに招待しなかったの?魔術学園の時からのお友達なんでしょ?独り占めするなんてズルイわぁ」

「???」

俺はいったい何が起こったのかわからず、頭の中は絶賛混乱中だ。そんな中、隣にいるアランが一つ大きく溜め息を吐いた。

「悪い。母は・・・可愛いものを見つけては愛でるのが趣味なんだ。まさか、ユーリィを可愛いもの判定するとは・・・」

「え?可愛・・・?え?俺?・・・・・・えぇぇぇ~~~~!!」

いったい俺の何にスイッチが入ったんだ?
俺は訳がわからないまま、マリーさんにぎゅーっと抱きしめられて少しばかり途方に暮れてしまった。

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