ただ、あなたのそばで

紅葉花梨

文字の大きさ
42 / 66
第5章 友と仲間と

41. ベルトラム家 (ユーリ)

しおりを挟む


仕事が終わり、俺はいつものように図書館に来ている。レイ様に出来れば会いたいが、今日は無理だということはわかっている。何故なら、帰り際にマティス先輩から今晩緊急の騎士団と魔導士の会合があるというのをこっそり教えてもらったからだ。

残念に思いながらも、やはり毎日の図書館訪問はもはや俺のルーティンになっていて、短い時間でも来ないとなんだか落ち着かない。

俺は今日読むつもりだった本を読み終わると、いつもは閉館までいることが多いのだが、今晩はアランの実家にお泊まりする予定なので早々に切り上げて宿舎に戻ることにした。

「あっ、そうだ!」

途中、この街で人気のお菓子屋さんに立ち寄る。アランのお母さまがここのお菓子が好きだというのを以前アランからチラッと聞いたことがあったのだ。

(“親しき仲にも礼儀あり”。昔おばあちゃんがよく言っていたっけ)

今日はお泊りさせてもらうんだし、先日はたくさんラスティも分けてもらったし、俺じゃぁ高価なお返しはできないけどこれくらいならと、お菓子屋で美味しそうな詰め合わせを買って、今度こそ宿舎へと足を運ぶ。

着替え等、簡単に荷物を持っていざアラン家へ。アランの実家は、王宮からそれ程離れていない貴族の邸宅が立ち並ぶ一画に建てられている。アランの家は代々王宮に仕える魔導士の家系でアランの父親や兄も、現在は王宮にて魔法の研究や指導、護衛などあらゆる分野で活躍している。

(平民の俺とはあまりに違う人たちと今から夕食などを一緒に?何だか今になって緊張してきた。・・・まぁ、ここまで来たらなるようにしかならないか)

そんなことを思いながら、俺はようやくアランの家の前に到着した。

(はぁ~~。前も思ったけど、やっぱり貴族の家ってその辺の家とはスケールが違うよなぁ・・・)

俺は目の前の門を見つめて、さらに奥に続く前庭を眺めながら、感嘆する。アランの実家に来るのは実は初めてではない。なのでそれ程家に対して仰天したりはしないのだが、やはりすごいものはすごいと言わざるを得ない。そして前の時はアラン以外の家族はみんな出掛けていたので、実際に家族の方に会うのは今日が初めてになる。

少し家の前で感慨にふけっていると、奥から老齢の一人の男性がこちらへやってきた。

「ユーリィ・ブランシュ様ですね?アラン様よりお伺いしております。どうぞ中へお入り下さい」

彼はそういうと同時に門が開かれ、男性が先頭に立って奥へと案内してくれる。

「申し遅れましたが、わたくしこのベルトラム家の執事をしております、ヴィクトルと申します。以後お見知り置き下さい」

「あっ、俺はもう知っているかと思いますが、アランの、あっ、いや、アランくんと同じ王宮専属魔導士のユーリィ・ブランシュと言います!こちらこそ、よろしくお願いします。ヴィクトルさん」

あまりに丁寧に自己紹介をされて、俺はついついあたふたしてしまったのだが、それを見たヴィクトルさんは口元を緩めて、目を細め、まるで孫を見るかのように俺を見つめる。

「フフッ、なるほど。アラン様が夢中になるはずですな。いや、失礼しました。私に敬語は必要ありません。どうぞヴィクトルとお呼びください。ユーリィさま」

俺はよくわからないまま、はぁと力のない返事をするが、ヴィクトルさん、もといヴィクトルは変わらず好々爺のようにニコニコ顔を崩さない。

「ユーリィ!」

そうしている間に、玄関まで辿り着いたようで、二階からアランが顔を出す。そのままの勢いで階段を降りてきて、俺を出迎えてくれた。

「いらっしゃい。思ったよりも早かったな」

「うん、お邪魔します。まぁ、さすがにお世話になるのに遅すぎてもね」

俺はここまで一緒に来てくれたヴィクトルにお礼を伝えて、アランの後についていく。

「ちょうどいい。父さんも兄さんも今帰ってきたところで、夕食なんだ。母さんもユーリィに会うの楽しみにしてたから」

「ゔっ、何か微妙にハードル上がってる?」

「フッ、うちは周りみたいにお固くないから大丈夫。いつも通りでいい」

「う~ん、ならいいんだけど・・・」

アランに連れられて入った部屋は明るく、雰囲気も暖かくてとても落ち着く空間だった。その部屋の真ん中に大きなテーブルがあって、もう既に美味しそうな料理が所狭しと並んでいる。俺がそれに目を奪われていると、そのまた奥の部屋から一人の美しいご婦人が顔を出す。

「あら?あら、あら、あら?貴方がユーリィくん?」

目を輝かせながら近付いてきたご婦人に少し圧倒されながらも、一応確認のためアランの方を見ると、いつも冷静なアランが少し恥ずかしそうにしながらご婦人を紹介してくれる。

「母さん、そんないきなり近付いたらユーリィが驚く。ユーリィ、すまない、僕の母でマリー・ベルトラムだ。母さん、彼がユーリィ」

「初めまして、ユーリィ・ブランシュと言います。今日は突然お邪魔してすみません。お世話になります。あの、これ良ければ召し上がって下さい。ほんの少しですけど・・・」

俺は簡単に自己紹介をして、持ってきたお菓子をマリーさんに手渡す。

「まぁ!・・・・・・」

「?」

マリーさんは、お菓子を受け取った状態のまま俺をジッと見つめて固まってしまった。

(え?俺何かマズかった?貴族のマナーってよくわからないから、お菓子はダメだったとか?)

突然のその場の沈黙に、不安になって隣にいるアランに助けを求めようとしたその瞬間、マリーさんがガバッといきなり俺に抱きついてきた。

「まぁ~~、なんて可愛い子なの!?アランったら、どうしてもっと早くうちに招待しなかったの?魔術学園の時からのお友達なんでしょ?独り占めするなんてズルイわぁ」

「???」

俺はいったい何が起こったのかわからず、頭の中は絶賛混乱中だ。そんな中、隣にいるアランが一つ大きく溜め息を吐いた。

「悪い。母は・・・可愛いものを見つけては愛でるのが趣味なんだ。まさか、ユーリィを可愛いもの判定するとは・・・」

「え?可愛・・・?え?俺?・・・・・・えぇぇぇ~~~~!!」

いったい俺の何にスイッチが入ったんだ?
俺は訳がわからないまま、マリーさんにぎゅーっと抱きしめられて少しばかり途方に暮れてしまった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください! ユィリと皆の動画つくりました! お話にあわせて、ちょこちょこあがる予定です。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく

藍沢真啓/庚あき
BL
11月にアンダルシュノベルズ様から出版されます! 婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。 目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり…… 巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。 【感想のお返事について】 感想をくださりありがとうございます。 執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。 大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。 他サイトでも公開中

僕はただの妖精だから執着しないで

ふわりんしず。
BL
BLゲームの世界に迷い込んだ桜 役割は…ストーリーにもあまり出てこないただの妖精。主人公、攻略対象者の恋をこっそり応援するはずが…気付いたら皆に執着されてました。 お願いそっとしてて下さい。 ♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎ 多分短編予定

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 全8話 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c

処理中です...