ただ、あなたのそばで

紅葉花梨

文字の大きさ
43 / 66
第5章 友と仲間と

42. アランの家族 (ユーリ)

しおりを挟む

俺がどうしたらいいのか混乱していると、今度は先程俺たちが入って来た扉から、若い男性が部屋に入って来た。

「あれ?まだ皆んな席についてないのか?っていうか、母さんその子めっちゃ困ってるっぽいけど?」

そう言われて、バッと俺を離したマリーさんは申し訳なさそうに慌てて俺に声をかける。

「あらっ!私ったら!ごめんなさい、ユーリィくん。つい変な癖が出ちゃって。大丈夫?ビックリしたわよね?ほんとにごめんなさい」

「い、いえ。大丈夫です。気になさらないで下さい。改めて今日はお世話になります」

俺は混乱した頭を即座に切り替えて、マリーさんに挨拶する。

「あぁ、やっぱり可愛いわぁ・・・ってダメダメ。ユーリィくん、お菓子をわざわざありがとう。後で皆んなで食べましょう。私はアランの母で、マリー。そして今入って来たのが長男のリック」

マリーさんが紹介してくれたアランのお兄さんは、ちょうど席についたところでこちらの声に反応して、手を振っている。

「よろしく」

「あっ、ユーリィ・ブランシュと言います。今日はお世話になります」

俺はお兄さんのリックさんに向かってお辞儀する。

「ははぁん。こりゃ、アランと母さんがメロメロになるのもわかるわ。二人とも似たもん同士だもんなぁ」

「っ!兄さん!!」

クククッと肩を揺らして笑うリックさんに、これまた珍しくアランが大きな声で叫ぶ。
いつもは冷静沈着なアラン。学園時代や今も、俺といる時はわりと感情を表に出すことも多いアランだけど、やはり家族の前だと、それ以上にいろんなアランを見ることが出来て俺も何だか嬉しくなる。

「さて、もうお父様もいらっしゃるから皆んな席について。アラン、ユーリィくんをそっちの席に案内して」

「はい。ユーリィ、こっち」

俺はアランに案内されて、アランの隣の席に着く。程なくして、スラリとした壮年の男性が部屋に入って来た。

「やぁ、皆んな揃ったようだな。ようこそ我がベルトラム家へ、ユーリィくん。私はこの家の主人で、エヴァン・ベルトラムという。いつも愚息がお世話になっているようだね。これからもよろしく頼む」

「は、はい!俺、いや僕の方こそアランくんにはお世話になっていて。今後ともよろしくお願いします!」

俺は、バッと椅子から立ち上がってエヴァンさんに挨拶をする。さすが一家の主人だけあって、存在感が違う。俺が少し圧倒されていると、豪快な笑い声が聞こえた。

「ハッハッハ。ユーリィくん、そんなに固くならずとも大丈夫。今日はゆっくりして行ってくれ。実は私も含め、家族皆んな君が来るのを楽しみにしていたんだ。なんたって、昔からあまり外での事を話さないアランが、実家に帰ってくるとやれ今日はユーリィとこれをした、あれをしたと嬉々として話題にするものでね。いったいどんな子かと・・・」

「っ!?父さんまで!僕はそこまでペラペラと話してない!」

アランがまた声を荒げて反論する。皆んな周りはニコニコ顔で、リックさんはニヤニヤしてるけど、微笑ましくアランを見つめている。

「フフッ。まぁ自分では気付かないものさ。それはさておき、ユーリィくんも座りたまえ。せっかくの料理だ。冷めないうちに頂こう」

まだ若干何かを言いたそうなアランだったが、エヴァンさんの合図で皆んなそれぞれ食事を開始する。

食事をしながらも、家族の話題は尽きず、アランはほとんど会話には参加していないが、話をしながらエヴァンさんや、マリーさんの人柄に触れ、俺はとても暖かい気持ちで食事を進めていった。

最後に、俺が買ってきたお菓子をお供にお茶をして皆んな一息つく。

「あぁ、やっぱりこの西街のお菓子は最高だわ。ありがとうユーリィくん」

お茶を飲みながらマリーさんがしみじみとそう呟いた。

「いえ、気に入って下さったなら良かったです。俺、仕事が終わったらいつも日課で国立魔法図書館へ行くんです。そこから近いのでまた今度お土産に持って来ますね」

俺がそう言って笑うと、マリーさんが目を輝かせて俺に向かって手を伸ばして来た。

「ユーリィくん、もう、うちの養子になる!?うちの息子二人ったら可愛いのかの字もないの!ユーリィくんみたいな子がいたら、毎日とってもウキウキなのに~」
「あっ。えっと・・・・・・」

俺が再びマリーさんの抱き着き攻撃を受けようとした瞬間、横から俺の腕がグイッとひかれる。すんでのところで攻撃を回避できた俺は腕を掴んでいる人物に目をやった。

「アラン」

「母さん、ユーリィがビックリするからダメだと言ったろ。それに今日は僕が呼んだんだ。今からはユーリィと僕の時間」

掴んだ腕をそのまま、アランはどうやらこのまま自室へと移動するつもりのようだ。

「あら、あらぁ?」

後ろでマリーさんがニコニコした顔で手を振っている。

「おい、いいの?このまま部屋に下がっちゃって」

「いい。我が家では良くあるから気にしない」

「気にしないって・・・」

(俺は気にするんだけど?)

一応それでも一言だけでもと、俺は部屋の皆さんに声をかける。

「あの!お食事とお茶ご馳走さまでした。すごく美味しくて楽しい時間をありがとうございました」

俺はなんとかそれだけ言うと、マリーさんは引き続きニコニコしながら手を振って、リックさんやエヴァンさんは微笑みながら、一つ頷いて見送ってくれた。それを後にして、アランはグングンと俺を二階へと連れて行き、一つの部屋の前で立ち止まった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください! ユィリと皆の動画つくりました! お話にあわせて、ちょこちょこあがる予定です。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく

藍沢真啓/庚あき
BL
11月にアンダルシュノベルズ様から出版されます! 婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。 目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり…… 巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。 【感想のお返事について】 感想をくださりありがとうございます。 執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。 大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。 他サイトでも公開中

僕はただの妖精だから執着しないで

ふわりんしず。
BL
BLゲームの世界に迷い込んだ桜 役割は…ストーリーにもあまり出てこないただの妖精。主人公、攻略対象者の恋をこっそり応援するはずが…気付いたら皆に執着されてました。 お願いそっとしてて下さい。 ♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎ 多分短編予定

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 全8話 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c

処理中です...