ただ、あなたのそばで

紅葉花梨

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第5章 友と仲間と

43. ただ、純粋に (ユーリ)

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どうやらここがアランの部屋のようだ。すぐに入るのかと思いきや、扉の前でアランは掴んでいた俺の腕を離して深く息を吐く。

「ごめん」

「ん?いや、俺は別にいいんだけど・・・」

「予想外だ」

「ん?・・・何が?」

俺は、アランが何を言いたいのかわからずしばらく待っていたが、相変わらず溜め息を吐くだけで一向に答えが返ってこない。

「アラン?」

「あぁ、いや、ごめん。とりあえず入って」

そう言って扉を開けて入った部屋は広く、飾りなどはとてもシンプルだが自然と気持ちが落ち着くような空間が広がっていた。

「とりあえずそこに座って」

そこ、と示されたのは座り心地の良さそうなふかふかの大きなクッションだった。座ってみると案の定、自分の良い座り心地なポイントで形が整い、かなりリラックスできる。
俺がご機嫌でふかふか具合を堪能していると、どうやらタイミングを見てヴィクトルがさっきのお茶と残りのお菓子を持ってきてくれたようで、アランが目の前の小さなテーブルにそれらをセットしてくれた。

「ハァ。やっと落ち着いた」

アランはそう言うと、俺の正面にある同じくふわふわクッションにドサッともたれかかった。

「フフッ、アランの家族って皆んなあったかいね。俺、貴族の家にお邪魔するなんて、ましてや夕食まで一緒になんてどうなることかと思ったけど、すごく楽しかった!」

俺が正直な感想を言うと、アランは少し照れくさそうだ。

「ユーリィがそう言ってくれるなら良かった。うちは貴族の中でも少し異質なんだ。外では、それらしく振る舞うけど、家では自由。どちらかと言うと、平民の振る舞いに近い。母さんがその方が落ち着くらしい。元々、母さんは貴族と言っても国の外れに近い場所で平民に近い暮らしをしていたそうだから」

「ふぅん、そうなんだ。でも俺、やっぱこういうアットホームな感じ好きだな。憧れっていうか。・・・ほんと、家族っていいもんだよねぇ」

「!?ユーリィ、ごめん。僕は少し配慮が足らなかったか」

「え?・・・あっ!違う違う!俺こそごめん。自分が寂しいとかそういうんじゃなくて、純粋に家族っていいなって思ったんだよ。俺、小さい頃から両親がいなくて、おじいちゃんとおばあちゃんに育てられたって言っただろ?二人ともほんとに俺を大事に育ててくれてさ、家族っていいもんだなぁってつくづく思うわけ。ただ、今日アランの家族を見て、こういう家族の在り方も憧れるなって思ってさ」

俺がにこやかにそう言うと、アランは少し考えてポツリと呟いた。

「・・・リィが、・・・いい」

「え?何?」

「ユーリィが」

「俺が?」

「・・・うちで良ければ、ユーリィが好きな時に来ればいい」

「へ?」

俺は一瞬何を言われたのかわからずに、キョトンとしてしまう。

「母さんは可愛いもの好きだが、人に対してあそこまで反応したのは初めてだ」

「え?そうなの?」

「兄さんは、僕と同じで興味のないものにはあまり表情を見せない。だが、今日はよく笑っていた」

「うん、あれが普通だと思ってたけど」

「父さんは、あれでも結構人を良く見ている。少しでも気にいらなければ、あまり話をすることもない」

「そ、そうなの?食事の時、全く話題が尽きなかったけど」

「ユーリィは、どうやら我が家にすっかり惚れ込まれたようだ。母さんの養子発言もあながち冗談でもない」

「えっ、えぇぇ!?俺別に何も気に入られるようなことしてないんだけど?」

「フフッ。ユーリィはそのままでいいんだ。だから、憧れと言わず、我が家はいつでもユーリィを歓迎する。血は繋がらなくても、これも家族の一つの在り方だと僕は思うから。ユーリィが来たい時に、我が家に来ればいい。皆んな喜ぶ」

「・・・・・・」

アランにそう言われ、俺は何故か突然涙が出てきて止まらなくなってしまった。確かに両親がいなくて寂しい時もあったが、一人ぼっちだった訳じゃない。

でも、心の、記憶の深い場所で、本当はこんな風に思われたいと。


ーーー何かを見返りにするんじゃなく

ーーー変な目で見られるんじゃなく


ただ、純粋にここに居ても良いんだと。


そう言ってもらいたかった。そして、“僕”というものを見てほしくて・・・。

諦めかけていたあの日、やっと、やっと見つけたんだ。
いや、彼が見つけてくれた。深い闇に沈み込んでしまいそうだった“僕”をーーー。



その手で、彼が掬い上げてくれたんだ。



「ユーリィ!」
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