ただ、あなたのそばで

紅葉花梨

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第5章 友と仲間と

45. 国王と集まった精鋭たち (レイ)

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夜の帳が下りる頃。王宮のある一室には普段なかなか顔を合わさないメンバーが、それぞれ少しばかり緊張をはらみながら席に着いていた。彼らは皆この国の精鋭であり、また第一から第十まである騎士団の中の師団長を務めている、それぞれの分野の猛者たちである。

上座には国王が座し、そこから近い場所には王太子であるリオネルとセリエ魔導士団長が左右に分かれて席に着いていた。

「皆みな、今日話をするのは他でもない。既に聞き及んでいる者もいるかと思うが、隣国に現れたという魔獣について、今後我が国としての対応も含めて、皆に話をしようと思う。ここは意見の場でもある。各々の発言に余の許可はいらぬ。何かあれば申すが良い」

深みのある、力強い声が部屋に響き渡る。

ボナール国王、エドワール・トリスタン・ボナール。賢王と名高いエドワール王は、長い年月善政を敷き、多くの国民から慕われている人物だ。

「リオネル」

王が声をかけると、リオネルは一つ頷き俺たち騎士団側を向いて話し始めた。

「今回、隣国に出現した魔獣だが、群れの中の一匹にどうやら通常の攻撃が通用しない個体が混ざっていたらしい。これは隣国の正式な発表ではないが、我が国が密かに調査した結果、その個体は魔導士たちの魔法攻撃に強い耐性があり、騎士団の物理攻撃にもそれほど効果が見られなかったようだ」

ザワッと室内が驚きの空気に包まれる。

通常、魔獣とは弱い個体であれば物理攻撃または魔法攻撃のどちらかで倒すことができる。

そして強い力を持つ個体になると、魔法攻撃または物理攻撃のどちらかに耐性のあるものがおり、そういった場合は早期に見極めを行い、魔導士または騎士たちが数人がかりで殲滅する。魔法攻撃、物理攻撃どちらかに強い耐性がある分、逆にどちらかの耐性が低いという弱点があるのだ。なので、必ずそれを見越した上で魔獣の殲滅には魔導士と騎士団の合同でバランスを見てパーティーを組むようにしている。

だが、今の話では通常の魔獣と違い弱点がない個体が出てきたということになる。

「殲滅に関わった者たちのレベルの問題ではなかったのですか?」

そう尋ねたのは第二師団長のロジェ・エヴラールだ。耳の後ろまである艶やかな赤い髪が印象的な彼は、こういった場面ではいつも誰よりも先に疑問点を口にする。

「いや、どうやら今回は群れの規模も大きかった為、隣国の魔導士、騎士共に最上位のパーティーで殲滅にあたっていたそうだ」

またもや、室内は驚きに満ちていた。

「とはいえ、隣国最上位の者たちだからな。魔獣も通常の効果が見られなかったとはいえいくらか傷は負っている。ただ、聞いた話によるとその魔獣は傷を負っても、怯むことなく向かってきたそうだ。まるで、痛覚というものが備わっていないのではないかと思う勢いだったと戦闘に関わった者が話していた」

「痛覚がない?」

「ただ単に捨て身だったのでは?」

「それで、その新種のような魔獣はどうなったのですか?」

皆が皆、それぞれに思った事を口にする中、第十師団長であるノエ・ニヴェールが先を促すように言葉を発した。

「魔獣は・・・戦いの最中に傷を負ったまま行方がわからなくなってしまったらしい。現在もまだ見つかってはいない」

「!!」

「なっ!?」

「噂は真実だったのか!」

「・・・・・・」

「まさか既に我が国にっ!?」

「国王様!!」

リオネルの報告を聞いた団長たちが各々の反応を示し、その場は今まで以上に慌ただしい雰囲気となっていた。



「皆みな、鎮まれ」



室内に再び、力強い声がこだまする。場は一斉に静まりかえり、全員の視線は国王へと向けられる。


「隣国は独自で魔獣を殲滅するつもりなのか、周辺諸国に対して協力要請などはせず、我が国にも報告のみ使者を遣わせて来た。だが既に問題は隣国内で済む話ではないだろう。現在、我が国と隣国の国境には厳戒態勢を敷いている。そなた達には、さらなる情報収集、及び周辺の警備の強化。そして、万が一国内で発見した場合はただちにこの魔獣の殲滅に力を注いでもらう。よいな?」

「「「はっ!!」」」

国王の命めいに騎士団師団長全員が一斉に是を唱える。

「第五と第十は、それぞれに分かれて情報収集に回れ」

「「承知」」

「第六から第九までは隣国に近い村や町に赴き、周辺警護の強化を」

「「承知しました」」

「第一から第四までは、セリエと話し合いの上早急にパーティーをつくり、魔獣殲滅に向けて行動を開始せよ」

「「はっ!!!!」」

国王はそれぞれに指示を出し、皆がそれに応えると一つ大きく頷いた。

「うむ。では皆みな、頼んだぞ。余は退席するが、魔獣への対応についてはこの場でセリエから話をする。セリエ」

「お任せ下さい」

セリエ魔導士団長は、終始落ち着いた様子で国王に臣下の礼をとる。

「リオネル。そなたはこの場に残り、魔獣殲滅の指揮にあたれ」

「承知しました。父上」

国王は二人に指示を出すと、宣言通りその場から退席する。部屋にいる者は全員立ち上がり、国王が部屋を完全に出るまで臣下の礼を崩さずにいた。扉が閉まると、それぞれが再び席に着き今度はリオネルへと視線を動かし、次の言葉を待つ。

「では各自行動を開始する前に、セリエ魔導士団長から今回の魔獣について、改めて今現在わかっている内容を伝える」

リオネルがそう言うと、セリエ団長は皆のちょうど真ん前に立ち話し始めた。
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