ただ、あなたのそばで

紅葉花梨

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第5章 友と仲間と

47.観察眼 (レイ)

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今現在わかっている内容を話終えたセリエ団長は、最後はリオネルの指揮に委ねる為スッと視線をやり、それを受けたリオネルが改めて皆に指示をとばす。

「では、今聞いた内容を頭に入れて各自行動を開始してくれ。第五と第十師団は、魔獣α《アルファ》に関するさらなる情報収集を。何かわかり次第、随時私の元へ報告をしてくれ。それから、第六から第九師団はそれぞれ師団長たちで話し合い、隣国付近の村や街の警護において、師団内で騎士たちの配置と役割分担を決め、直ちに動き出発してくれ。最後に、第一から第四師団は魔導士たちと連携して魔獣殲滅の準備を。今回は、我々にとって未知なるものとの戦いではあるが、何より優先されるのは我が国の国民たちの命と、生活だ。何が起きるかわからない分、皆、より気を引き締めて任務にあたってほしい。もちろん君たち騎士団や魔導士も我が国の民であることを忘れず、必ず無事に任務を遂行して戻るように。以上だ」

「「「「はっ!!」」」」

皆が立って礼を取りながら、リオネルに返事を返すと、リオネルは一つ頷きそのまま部屋を後にする。それに続いて、第五と第十の師団長たちが退室して行った。

彼らは、斥候や特殊部隊であり、任務中は時間との勝負で少しでも早く様々な情報を入手する為にあまり一所にとどまらないのだ。

「それじゃぁ、僕たちも行動開始といきますか。ラコスト、フォレット、ファビウス、場所を変えよう。ここから一番近い僕の執務室で構わないかい?」

師団長二人が退出したのを見届けた後、ウォルシュが他の六、八、九までの師団長たちに声をかける。

「えぇ、構いません」
「あぁ」
「おぅ」

それぞれが頷き席を離れる。

と同時に、部屋を出る前に再びラコストが俺に先程よりも小声で話しかけて来た。


「バスティード、あまり無茶はしないように。今回の事で、何か貴方自身、心に引っかかるものがあるのでしょう?」

「!?・・・」

「フフッ。私に誤魔化しは通用しませんよ。貴方が今の時点で言葉に出さないことを深く探ぐる事はしません。ただここにいる皆、貴方の力は認めていますが、時に冷静に見えて何かのポイントでオールストンのように猪突猛進するところが貴方にはありますから、決して一人で背負わないように」

「・・・あぁ」

「それに・・・探していた大切なものは見つかったのでしょう?」

「?!」

「貴方があまり無茶をすると相手の心を傷つけてしまうかもしれませんよ」

「ラコスト・・・。何故・・・?」

「以前の貴方は何かを狂おしい程求めていましたが、今はその何かを大切に見守っている感じですね。あぁ、勘違いしないで下さい。貴方が分かりやすいという訳でなく、私の悪い癖で、一度気になるとその人物の内面まで観察してしまうところがあるのです。まぁそんな訳で、最近の貴方の雰囲気から、貴方が探していたものを見つけた事にすぐ気がついたのですが・・・。ようやく、見つけたのでしょう?あまり相手に不安を与えるような行動はしないに越したことはありませんよ」

「・・・あぁ。願うなら俺も、何事もなく終わればいいと思っているが・・・」

俺がそう呟くのに重なるように部屋の扉の方からラコストを呼ぶ声が聞こえる。


「フェリクスっ!急がないとウォルシュの嫌味を聞くことになんぞ!」


パッとそちらを向くと、第九師団長であるディオン・ファビウスが扉の前で早く来いと合図している。

「フフッ。それは御免こうむりますね。バスティード、これだけは覚えておいて下さい。貴方が例え一人で背負わないといけない難問にぶつかったとしても、一度周りを見渡してみて下さい。答えは貴方が出さないといけないかも知れませんが、貴方を支える手はたくさんあるのだという事を知っておいて下さい。私も含めて」

「ラコスト・・・」

「例えばの話ですよ。そう難しい話じゃなく。あぁ、ディオンが喧しいのでそろそろ行きますね」

「あぁ、わかった。・・・覚えておく」

俺がそう応えると、ラコストはニコッと笑って足早に去って行った。



(・・・全く敵わないな、あの観察眼には。騎士団の誰にも言ったことは無かったんだが。あの調子じゃ、ユーリの事も把握済みか? まぁ、俺も今は特にユーリとの関係を隠しているわけじゃないからな)


前世では、ユーリの神子としての立場上、守護騎士である俺との関係は公にできるものではなかった。あの時は、ただただお互いを必要とし、心で繋がっていた。自分達だけの世界で構わないと、ある意味諦念に至っていたのだが。

今世では、一切の枷がない、ただの一魔導士としてのユーリに出会い、少し欲が出た。
前世では出来なかった事を。共に色々な経験をして、ユーリの世界を広げてやりたい。今まで見た事のない景色を共に見て、共に、生きていきたい。


その為にはどうするか。そう、こんな事で動揺している訳にはいかない。まずは情報をさらに集めて目の前の問題を一つ一つクリアにしていく。・・・例え、この件にアイツが関わっていて、またユーリの前に現れるような事があったとしても、俺はユーリに害する全てのものから、必ずユーリを護ってみせる。

ーーもう二度と・・・、ユーリが辛い選択をしないように。同じ事を繰り返さないように。


準備は、ほぼ出来ている。
足らないピースは、あと一つ・・・。


(・・・・・・ん?)


ふいにまた、今度は後ろの方から強い視線を感じ、俺は部屋の入り口へと向けていた体をバッと翻す。するとーーー。

「うわぁ!?」

その勢いに何故かすぐ後ろにいたヴィンセントが驚き、声を上げた。

「何だよ!レイン。ビックリするだろ?静かにしてたと思ったら急に振り返って!」

「ヴィン?どうした?」

「ったく、それはこっちのセリフだよ。俺たちもセリエ団長含めて早急に話をするのに、ちょうどここで話をしようかと思ったら、レインは何か違うとこに意識がいってるみたいだし。俺が声をかけようとしたら、急に険しい顔して振り返るしで・・・。何かあった?」

ヴィンセントは、首を傾げながら残りのメンバーの方にも顔を向ける。向けられた方も、よくわからないといった表情でこちらを見返していた。

「あぁ、いやすまない。気のせいだ。悪かった、少し考え事をしていて。本題に入ろうか」

俺はそう言って、声をかけに来てくれたヴィンセントと共にセリエ団長と他の師団長たちがいるテーブルへと移動した。




この時俺は、僅かな違和感を感じながらも気がつかなかった。

確かに、先程俺に対して強い視線を送っていたものが、いつもと変わらない雰囲気で俺を見続けていたことに。

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