48 / 66
第5章 友と仲間と
47.観察眼 (レイ)
しおりを挟む今現在わかっている内容を話終えたセリエ団長は、最後はリオネルの指揮に委ねる為スッと視線をやり、それを受けたリオネルが改めて皆に指示をとばす。
「では、今聞いた内容を頭に入れて各自行動を開始してくれ。第五と第十師団は、魔獣α《アルファ》に関するさらなる情報収集を。何かわかり次第、随時私の元へ報告をしてくれ。それから、第六から第九師団はそれぞれ師団長たちで話し合い、隣国付近の村や街の警護において、師団内で騎士たちの配置と役割分担を決め、直ちに動き出発してくれ。最後に、第一から第四師団は魔導士たちと連携して魔獣殲滅の準備を。今回は、我々にとって未知なるものとの戦いではあるが、何より優先されるのは我が国の国民たちの命と、生活だ。何が起きるかわからない分、皆、より気を引き締めて任務にあたってほしい。もちろん君たち騎士団や魔導士も我が国の民であることを忘れず、必ず無事に任務を遂行して戻るように。以上だ」
「「「「はっ!!」」」」
皆が立って礼を取りながら、リオネルに返事を返すと、リオネルは一つ頷きそのまま部屋を後にする。それに続いて、第五と第十の師団長たちが退室して行った。
彼らは、斥候や特殊部隊であり、任務中は時間との勝負で少しでも早く様々な情報を入手する為にあまり一所にとどまらないのだ。
「それじゃぁ、僕たちも行動開始といきますか。ラコスト、フォレット、ファビウス、場所を変えよう。ここから一番近い僕の執務室で構わないかい?」
師団長二人が退出したのを見届けた後、ウォルシュが他の六、八、九までの師団長たちに声をかける。
「えぇ、構いません」
「あぁ」
「おぅ」
それぞれが頷き席を離れる。
と同時に、部屋を出る前に再びラコストが俺に先程よりも小声で話しかけて来た。
「バスティード、あまり無茶はしないように。今回の事で、何か貴方自身、心に引っかかるものがあるのでしょう?」
「!?・・・」
「フフッ。私に誤魔化しは通用しませんよ。貴方が今の時点で言葉に出さないことを深く探ぐる事はしません。ただここにいる皆、貴方の力は認めていますが、時に冷静に見えて何かのポイントでオールストンのように猪突猛進するところが貴方にはありますから、決して一人で背負わないように」
「・・・あぁ」
「それに・・・探していた大切なものは見つかったのでしょう?」
「?!」
「貴方があまり無茶をすると相手の心を傷つけてしまうかもしれませんよ」
「ラコスト・・・。何故・・・?」
「以前の貴方は何かを狂おしい程求めていましたが、今はその何かを大切に見守っている感じですね。あぁ、勘違いしないで下さい。貴方が分かりやすいという訳でなく、私の悪い癖で、一度気になるとその人物の内面まで観察してしまうところがあるのです。まぁそんな訳で、最近の貴方の雰囲気から、貴方が探していたものを見つけた事にすぐ気がついたのですが・・・。ようやく、見つけたのでしょう?あまり相手に不安を与えるような行動はしないに越したことはありませんよ」
「・・・あぁ。願うなら俺も、何事もなく終わればいいと思っているが・・・」
俺がそう呟くのに重なるように部屋の扉の方からラコストを呼ぶ声が聞こえる。
「フェリクスっ!急がないとウォルシュの嫌味を聞くことになんぞ!」
パッとそちらを向くと、第九師団長であるディオン・ファビウスが扉の前で早く来いと合図している。
「フフッ。それは御免こうむりますね。バスティード、これだけは覚えておいて下さい。貴方が例え一人で背負わないといけない難問にぶつかったとしても、一度周りを見渡してみて下さい。答えは貴方が出さないといけないかも知れませんが、貴方を支える手はたくさんあるのだという事を知っておいて下さい。私も含めて」
「ラコスト・・・」
「例えばの話ですよ。そう難しい話じゃなく。あぁ、ディオンが喧しいのでそろそろ行きますね」
「あぁ、わかった。・・・覚えておく」
俺がそう応えると、ラコストはニコッと笑って足早に去って行った。
(・・・全く敵わないな、あの観察眼には。騎士団の誰にも言ったことは無かったんだが。あの調子じゃ、ユーリの事も把握済みか? まぁ、俺も今は特にユーリとの関係を隠しているわけじゃないからな)
前世では、ユーリの神子としての立場上、守護騎士である俺との関係は公にできるものではなかった。あの時は、ただただお互いを必要とし、心で繋がっていた。自分達だけの世界で構わないと、ある意味諦念に至っていたのだが。
今世では、一切の枷がない、ただの一魔導士としてのユーリに出会い、少し欲が出た。
前世では出来なかった事を。共に色々な経験をして、ユーリの世界を広げてやりたい。今まで見た事のない景色を共に見て、共に、生きていきたい。
その為にはどうするか。そう、こんな事で動揺している訳にはいかない。まずは情報をさらに集めて目の前の問題を一つ一つクリアにしていく。・・・例え、この件にアイツが関わっていて、またユーリの前に現れるような事があったとしても、俺はユーリに害する全てのものから、必ずユーリを護ってみせる。
ーーもう二度と・・・、ユーリが辛い選択をしないように。同じ事を繰り返さないように。
準備は、ほぼ出来ている。
足らないピースは、あと一つ・・・。
(・・・・・・ん?)
ふいにまた、今度は後ろの方から強い視線を感じ、俺は部屋の入り口へと向けていた体をバッと翻す。するとーーー。
「うわぁ!?」
その勢いに何故かすぐ後ろにいたヴィンセントが驚き、声を上げた。
「何だよ!レイン。ビックリするだろ?静かにしてたと思ったら急に振り返って!」
「ヴィン?どうした?」
「ったく、それはこっちのセリフだよ。俺たちもセリエ団長含めて早急に話をするのに、ちょうどここで話をしようかと思ったら、レインは何か違うとこに意識がいってるみたいだし。俺が声をかけようとしたら、急に険しい顔して振り返るしで・・・。何かあった?」
ヴィンセントは、首を傾げながら残りのメンバーの方にも顔を向ける。向けられた方も、よくわからないといった表情でこちらを見返していた。
「あぁ、いやすまない。気のせいだ。悪かった、少し考え事をしていて。本題に入ろうか」
俺はそう言って、声をかけに来てくれたヴィンセントと共にセリエ団長と他の師団長たちがいるテーブルへと移動した。
この時俺は、僅かな違和感を感じながらも気がつかなかった。
確かに、先程俺に対して強い視線を送っていたものが、いつもと変わらない雰囲気で俺を見続けていたことに。
0
あなたにおすすめの小説
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
ユィリと皆の動画つくりました! お話にあわせて、ちょこちょこあがる予定です。
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく
藍沢真啓/庚あき
BL
11月にアンダルシュノベルズ様から出版されます!
婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。
目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり……
巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。
【感想のお返事について】
感想をくださりありがとうございます。
執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。
大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。
他サイトでも公開中
僕はただの妖精だから執着しないで
ふわりんしず。
BL
BLゲームの世界に迷い込んだ桜
役割は…ストーリーにもあまり出てこないただの妖精。主人公、攻略対象者の恋をこっそり応援するはずが…気付いたら皆に執着されてました。
お願いそっとしてて下さい。
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
多分短編予定
希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう
水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」
辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。
ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。
「お前のその特異な力を、帝国のために使え」
強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。
しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。
運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。
偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!
【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
全8話
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる