ただ、あなたのそばで

紅葉花梨

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第5章 友と仲間と

48. 転機 (レイ)

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鬱蒼とした森の中、自分も含めて数名の騎士たちが周りを警戒しながら、王都への道を進んでいる。いつもならば、少々魔獣と遭遇したところで、このメンバーであれば難なく通り抜けられるこの道も、今は未知なるものとの遭遇により、四方八方から只ならぬ空気が漂い、それがまた騎士たちの緊迫感をさらに高めることとなっていた。

グォォォォォオオッッ‼︎‼︎

「!!」

「ユーリ!!後ろに!!」

突然の獣の雄叫びに、皆の視線が右前方へと動き、それと同時にそちらから狼のような体躯をした大型の魔獣が飛び出してくる。

「ヤツだ!!」

「皆、一斉に攻撃する!!行くぞっ!!」

「うぉぉおお!!!!」

瞬く間にその場は戦場と化し、剣の音や魔法の爆撃音などがこだまする。本来であれば、一匹の魔獣に対してここまでの攻撃はせず、ピンポイントで急所を狙っていくのだが、今回現れた魔獣は従来の生態とは違い、何故か急所への攻撃が通用しない未知なる魔獣であった。

最初にヤツが現れてから幾度となく攻撃しては距離をおき、体制を立て直し、王都への帰りを急ぐ。そしてその都度追ってくるヤツに対峙し戦闘を重ねるということを繰り返して今に至るのだが・・・。
本来我々の任務は無事に稀代の神子を王都に帰すこと。できれば、早急にこの魔獣を追い払い、王都に神子と共に帰ることに重きを置いているのだが、先程からいくらヤツと距離を置こうとも何故か必ずこちらへと向かってくるので、こうして毎回対処をせざる得ない状況になっているのである。

「ユーリ、私の後ろから決して離れないように。いいね?」

「レイ・・・」

「大丈夫。私や皆がついている。皆でいつものように王都に帰ろう」

ユーリは不安そうな表情で私の腕を掴みながらも、魔獣と騎士たちとの戦いからは目を逸らさず、一心に皆の無事を祈っているようだった。そんな時ーーー。

「っ!?誰だ!?」

横の茂みからガサガサと音を立てながら、一人の男がゆっくりと歩み出る。男はこの場には不似合いな軽装で、長く垂らした赤い髪を風にたなびかせながら私たちの前へとやって来た。今まさに、ここは魔獣との戦いの場だということを全く気にする気配もなく、あまつさえ口元に笑みを浮かべながら男はスッと視線をユーリへと向けると、こう口を開いた。

「神子よ。そなたをずっと待っていた」











魔獣殲滅部隊の話し合いは、日付けが変わる夜中まで行われ、最終的にまずは連携がスムーズにいく熟練のパーティを先発隊として待機させ、その間に少し早いが新人達を含む新たなパーティを編成し、近々予定していた魔獣探査を熟練パーティや中堅パーティの後方支援という形に切り替えて、それぞれが魔獣殲滅に向けて準備を行うことに決定した。

そうと決まれば、各師団でやらなければいけないことは山ほどある。皆、師団長それぞれが、話し合い後早々に部屋を退出し、改めて要所要所で連絡を取り合うことにした。



皆と解散後、一人廊下を歩いていると、後ろから声がかかる。

「バスティード師団長」

振り返った先には、先程まで話し合いを共にしていたマティス魔導士副団長がいた。


「マティス副団長・・・」

俺が名前を呟くと、マティス副団長は落ち着いた足取りでこちらに寄ってきて、少しの距離を置いて立ち止まる。

「こないだ宿舎で話をした件だけど・・・。あの時はそんなに待たせないって言ったけど、今回予想外な問題が発生しちゃったからさ、この魔獣α《アルファ》の事が解決した後にゆっくり時間を取れるようにしようと思うんだけど、それで構わないかな?」

「わかりました。俺はそれで構いませんが・・・もしや、その事だけを言いに俺を追って来て下さったのですか?」

「ん~、まぁそんなに待たせないって言った手前ね。それと、うちの団長からも言われたからね~」

「?セリエ団長が、何か?」

「貴方が僕に聞きたい事。まぁ十中八九ほぼユーリィについてだと思うけど、それについて団長からも貴方に話があるから、よろしく伝えてくれって言われててね」

「セリエ団長が・・・そう、ですか」

(団長自ら?・・・やはり、リオネルから聞いた【魔封保全者】シープエンサーがらみの話か?)

「うん。だから、話す時は僕と団長が一緒だからよろしくね」

「わかりました。では、セリエ団長にもよろしくお伝え下さい」

「フフッ、貴方は話が早くて助かるよ。でも、あんなにユーリィに対して熱烈な様子なのに、少しはこの場で何か僕から知ってることを聞き出そうとは思わないの?」

マティス副団長は、俺が今のところ何も聞き出そうとしない事に対して苦笑しながら問いかけてきた。

「俺が知りたい事はここではゆっくり話が出来ませんし、その他は・・・この先ユーリと共に過ごす日々の中で、俺自身知り得ていく事だと思ってますので」

俺が思っている事をそのまま答えると、マティス副団長は呆れたような顔でこちらを見た。

「あぁ・・・そぉ?それは惚気?」

「?本心ですが?」

「・・・わかった。お兄さんはもう何も言うまい。・・・こっちは別の意味で天然だったか」

「?」

最後の一言が聞こえなかったが、特に問題はなさそうだ。若干溜め息を吐いているマティス副団長は、気持ちを切り替えた様子で顔をあげる。

「まぁとにかく、まずは目の前の問題から。このまま何事もなく、魔獣の殲滅が終わるようにお互い気を引き締めていこう」

「はい」

俺はマティス副団長の言葉に一つ頷く。

「じゃぁ、引き留めて悪かったね。バスティード師団長もまずは身体を休めて」

そう言うと、マティス副団長は来た時と同じように落ち着いた足取りでその場を去って行った。俺は一礼しながらそれを見送り、同じく落ち着いた足取りで帰路につく。




「今世でも、なかなかゆっくりはできないものだな・・・」

帰り道、ふと見上げた空に、遥か昔から変わらない月を見つけて、ついついそんな事を呟いてしまった。



ーー共に笑って、ただ平穏に過ごしたい。


願いは遥か彼方から、未だ夜の闇に紛れていた。

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