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第5章 友と仲間と
49.アランの呟き
しおりを挟む辺りは夜の静寂に包まれて、この屋敷の住民もほぼ眠りについたそんな時間帯。
窓際に置かれた椅子に腰掛けながら、ベッドの上で深い眠りにつく友人に視線をやり、僕は今日起きた事や友人から相談された(恋愛)話の内容を頭の中で反芻していた。
「・・・・・・」
というか、僕も恋愛についてはユーリィと変わらない経験値なんだけど。今だって特に気になるような相手もいないし。今までだってそうだ・・・。まぁ、僕の言葉でちょっとは不安を取り除けたんならいいけど。
正直、最初に気付いた時は少なからず驚いた。宿舎前で、全く接点のない二人が一緒にいる。一人は友人で、もう一人はなんと騎士団第一師団長ときた。一体何だ?と思っていたら、二人の雰囲気ですぐにピンときた。
だが、やはり何がどうなってこうなったのか?まだ僕たちは、この王宮で仕事をし始めてから間もない。特に騎士団となんて、あの最初の顔合わせの時以外、ゆっくり会う機会なんてなかなかない。合同訓練はまだ少し先だ。
・・・。まぁでも何でもいいか。次の日からのユーリィを見てそう思った。師団長の名前が出ると一人で百面相したり、友人の今までにない新たな姿を見れて、微笑ましく感じた。
相手が相手なだけに苦労しそうだけど。ユーリィが決めたのなら応援しようと思った。
ところが、僕はどうやら根本的なところで勘違いをしていたようだ。いや、あれは普通誰が見ても勘違いするだろ?とツッコミたかったが。ユーリィ曰くーーー。
“俺、レイ様・・・バスティード師団長に恋してるっぽいんだ・・・”
「・・・・・・ん?」
いやいや、ぽいじゃなく二人はそう言う関係じゃ?だって、二人でよく夜に出かけてるの知ってるやつは知ってるし。二人が醸し出す雰囲気はまさにそれ。
だが本人に改めて確認すると・・・。
「えぇ!?俺とバスティード師団長が恋人同士!!いや、その!!今はまだお互い友人って言うか・・・あ~、でもレイ様は俺と恋人になりたいって言われてて。けど!俺はまだ、自分の気持ちがよくわからないからとりあえずレイ様が友人としてお互いを知ることから始めようって!それで~・・・・・・」
ユーリィの一人百面相継続中。
まぁ、とにかく二人は“今のところ”友人同士である。と言うのがユーリィの主張。それからこれも驚くことに、どうやらバスティード師団長の熱烈な告白?から始まったとか。
バスティード師団長の“熱烈”は気になるところだ。僕らがまだ王宮専属魔導士になる前から、第一師団長の事は噂で聞いたことがあった。
あの若さで騎士団最強と言われる第一師団のしかも師団長にまで上り詰め、容姿端麗、王宮内でも多数のファンがいるのだとか。それも当然か。ただ、一般的に喜怒哀楽をあまり表に出さず、恋愛事にも全く興味がないらしい。というのが、僕が聞いていたバスティード師団長の人となりだ。
だがどうやらユーリィの前では勝手が違うらしい。ユーリィ曰くーーー。
「え?バスティード師団長?優しいし、よく笑って、とってもフレンドリーな感じかな。恋愛経験も豊富なんだろうなぁってぐらい、言う言葉が真っ直ぐで・・・っ・・困る」
しまった。また百面相にさせてしまった。
うん、まぁでもよくわかった。これは、バスティード師団長がユーリィにベタ惚れな感じだな。それでもって、ユーリィがそれに応えきれてないって言うか、最初から好意は持っていたけど、付き合うとなると自分の気持ちがどうなのか今までグルグルしてたっていうところだろう。
それがようやく最初の“恋してるっぽい”という言葉に繋がるのか。
「・・・・・・」
それ、もうぽいじゃなく恋してると思うけど?というか、恐らくユーリィの周りはみんなそうとしか思っていない。僕も含めて。
僕はバスティード師団長にその気持ちを伝えないのか?と聞いた。そうしたらどうやら、好きという言葉は言ったらしい。でも、それが自分自身どういう好きなのかがはっきり伝えられないのだと。考えれば考えるほど、何故か感情にブレーキがかかり、不安が増してくるのだとユーリィは少し落ち込み気味だった。
う~ん、僕も上手くは言えないけどこれは本気で恋をするのが初めてで、未知数過ぎて怖いという、恋愛初心者によく聞くそういうものだろうか?であれば、相手はあのバスティード師団長なので、まぁそこはユーリィの気持ちを上手くリードしていってくれるだろうし心配はなさそうだけど・・・。
気になるのは、やはり今日ユーリィの身に起きた事象について。食堂での事も気になっていたけど、今夜のあの様子はいったい・・・?ユーリィ自身もわかっていないようだし、ユーリィにとって悪い影響がなければ良いけど・・・。
万一のことを考えて、僕からバスティード師団長に忠告をした方がいいだろうか?今日のようなことがユーリィの身にいつ起こるかわからない。けど伝えるにしても何と言えばいい?だいたい僕はバスティード師団長とまだ一度も会話すらしたことがない。新人魔導士と騎士団師団長なんて余程のことがない限り、会う機会なんてあるわけない。
・・・やはりまずは、うちの副団長に相談してみるか。この王宮でユーリィを昔から知ってる唯一の人だし。もしかしたら、僕が知らない何かを知っているかもしれない。
それにしても、王宮専属魔導士になってまだ数ヶ月しか経っていないのに、この王宮内で友人に早々と恋人(本人は“まだ”友人と言っていた)が出来て、まさかその恋愛相談を僕がうけることになるとは・・・。
「どうしよう?アラン。たぶん俺はレイ様・・・バスティード師団長に対して、恋愛感情を持ち始めてるんだと思う。・・・けど、あの人のことを好きだと思うと同時に急に不安な気持ちになるんだ」
ユーリィは、今にも泣きそうなそんな表情で苦しい胸の内を僕に吐露してきた。
「それはバスティード師団長と自分が釣り合ってないって思うから?」
僕はまず、よくある身分差について突っ込んでみた。するとユーリィはこの質問には首を横に降る。
「ううん。そりゃ、俺だって最初レイ様に告白された時はいったい誰と間違えてるの?って思ったんだけど、レイ様が向けてくる眼差しには嘘がないし、こんな何処にでもいそうな平凡な俺にレイ様はいつも真摯に向き合い、いつもこっちが恥ずかしいくらい真っ直ぐな感情をぶつけて来る。そんな相手に対して、もう身分が違うからとか、何の取り柄もない俺なんかって、自分を卑下したところでレイ様の気持ちを蔑ろにするだけだし、したくない。だから、今はその辺のことについては自分の中でもう気持ちははっきりしてるんだ」
ユーリィは、今度はしっかりとした表情で僕の問いにそう応えた。
「そうか。なら、その不安っていうのは先が見えないから?」
「う・・・ん。俺もそうかな?って思うんだけどほんとわかんなくて・・・」
再び泣きそうな表情でユーリィが俯く。
「・・・僕にはユーリィの不安を取り除く上手いアドバイスなんて出来ないけど。ただ一つ確かなのは、その不安も含めて話せばいいと思う」
「レイ様に?」
僕は無言で頷く。
「僕は会ったことないけど、ユーリィがそこまで好きになった人なら、ユーリィが何をぶちまけようと、きっと全て受け止めてくれる。誰だって先のことはわからない。でもだからこそ、その時その時を大事にし、共に手を取り合えば、一人で抱えている不安だって二人で乗り越えられると思う。好きだという気持ちが、怖いという気持ちに負けてしまうのは、なんだか・・・癪に障るし」
僕がそう言うと、ユーリィはポカンとした表情で僕を見返していた。
「何?」
「あっ、ううん。まさかアランからそんなに熱い言葉を聞けるとは思ってなかったから」
「・・・どうしよう?って泣きそうだったのは何処の誰?」
「あはは~、俺、かな?」
「・・・・・・」
「ゴメンって!ちょっとビックリしただけ!アランの言葉、すっごく俺の中に入ってきたから。・・・うん。俺、レイ様にしっかり伝えてみるよ。自分の中の色んなもの全部」
「あぁ」
「ありがとうね。アラン」
「ん」
ニコっと笑顔を僕に向けてくるユーリィ。
うん。やっぱりユーリィには笑顔が一番だな。バスティード師団長とのことで僕が出来ることはあまりないけど、話ぐらいはいくらでも聞くし。もしもあの人がユーリィを泣かせるようなことがあれば、例え師団長でも容赦はしない。
僕はそっと窓際の椅子から立ち上がり、起こさないように寝ているユーリィの元へと、静かに近づく。そうして、本人に囁くように呟いた。
「どんなことがあっても、僕はユーリィの味方だから。親友の僕のことも忘れるなよ」
ただの偶然だろうけど、僕がそう言った後寝ているユーリィの口元に笑みが浮かぶ。何の夢を見ているのやら。
そうして僕は隣のベッドへと移動し、ようやく訪れた睡魔に身を任せるのだった。
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