ただ、あなたのそばで

紅葉花梨

文字の大きさ
51 / 66
第6章 魔獣殲滅作戦

50. 衝動(ユーリ)

しおりを挟む
「ハァ~・・・・・・」

魔導士たちが集う訓練棟の一角で、俺はついつい深い溜め息を吐いていた。何かやたらと最近溜め息を吐くことが多い。

というのも、つい先日アランの実家に泊まりに行かせてもらって、そこでアランにレイ様とのことを相談すると同時に改めて自分の気持ちに向き合い、今の気持ち全てをレイ様にぶちまけよう!と、決意を新たにしたにもかかわらず、それ以降ぱったりとレイ様に会う機会がなくなってしまったのだ。

相手がおらず吐き出せない気持ちがグルグルと胸の内側で回っていて、恋をするってこんなにエネルギーを使うものなんだなぁと近頃しみじみ感じている。

(レイ様が不足してる・・・。レイ様に癒されたい)

もともとそこまで頻繁に会っていた訳ではないが、会いたいと思った時にしばらく会えないのは結構ツライ。こう思うのも、自分のレイ様への意識が少し変化したからかもしれない。それにーーー。


『好きだという気持ちが、怖いという気持ちに負けてしまうのは、なんだか・・・癪に障るし』


先日のアランの言葉。アランはきっと深い意味は無かったんだと思うけど・・・。


改めて自分自身レイ様への気持ちに向き合った時に、何故かやっぱりまだ心の奥に不安や怖いって気持ちがあるんだけど、あの言葉を聞いて確かにそうだなって思った。

レイ様が好きだって、レイ様の事を考える度にレイ様への気持ちがどんどん大きくなるのに、怖いって気持ちが邪魔して前に進めないなんて。
これからもレイ様のそばにいたいって強く思うのに、その想いが何かわからない不安に負けてしまうなんて。

なんかそれってすごく悔しい。


(こういう事に改めて気付かせてくれたアランには本当に感謝だな)


アランが背中を押してくれたおかげで自分の気持ちがはっきりした。遠回りしちゃったけど、たぶん自分ですぐに認められなかっただけで、レイ様と初めて会った時から俺はレイ様に惹かれていたんだと思う。なんてことはない、お互い一目惚れだったってことか。

一度腹をくくってしまえば、もともとそんなにクヨクヨするタイプではないので(恋愛面では駄目みたいだけど)、あとは成るように成る!と思ってるんだけど。

(まだ、遅くはないよね・・・!)


そんなこんなで気持ちは前向きなのに、なかなか上手くいかないもので、仕事中にこんなことを考えてること自体駄目駄目なんだけど。だいたいレイ様と会う機会がなくなったのは、今俺たち新人王宮専属魔導士が直面している問題に大きく関わっている事柄のせいだ。


『魔獣殲滅の為の後方支援』


そう、どうやら例の噂は本当だったらしく、本来ならこの時期の俺たち新人魔導士は、近くの街外れへと恒例の魔獣探査に出かけるはずだったのだが、いつ隣国に現れた噂の魔獣が国境を越えて、この国に現れるかわからないとのことで、今から新しくパーティーを組み、後方支援の為の準備(訓練)を進めているのだ。

同期の奴らは、俺と同じく予想外の出来事に少々落ちつかない様子なのだが、その中でアランだけは後方支援ということに少々不満があるようだ。

(全く、アランの奴普段は面倒くさいって言ってあまり喜怒哀楽を表に出さない癖に、どうしてこう魔法での実戦とかがある時には人一倍やる気でいるんだろう?)

アランが強いのはわかっているが、今回はさすがにレイ様たちが厳戒体制を敷くほどの案件だ。頼むから無茶だけはしないでほしい。
とはいえ、アランがいくら不満を持とうと俺たち新人はもう後方支援と役割が決まっているので、余程のことがない限り出番はなさそうだけど。

(レイ様・・・ちゃんと休息取られてるかなぁ?きっと騎士団の師団長たちはこの件で色々と忙しいに違いない。少しでも何かレイ様の助けになれればいいんだけど、後方支援のパーティー内でも俺、ほとんど役立たずだしなぁ・・・)

俺の使用可能魔法は、治癒と修復の2つ。攻撃系の魔法はもちろんのこと、防御魔法すら使えない。これでどうやって魔物と戦うの?って感じだけど、今回は後方支援なのでとにかく自分の出来ることを探して今後に繋げていこうと思う。


「あっ、そういえば・・・」

思わず声に出てしまったが、そういえばレイ様とは、同期の奴らの話とか普段の生活のたわいもない話をした覚えはあるが、魔法についての話は今までしたことがなかったなと今更ながらに思い出す。


レイ様は、俺が王宮専属魔導士の中でも属性が2つしかなく、魔力量も少ないってことを知っているだろうか?


属性に関しては仕事上わかることなので、同じ魔導士たちには俺が2属性だということは周知されている。だが、王宮専属魔導士として、いや、魔法を扱う者として、2属性などこの国では前代未聞であり、何故俺なんかが王宮専属魔導士の職につけたのか、俺自身未だにもって不可解ではある。そして当たり前に、その疑問は他の王宮専属魔導士たちも持っているはずなのだが、今までそのことについて誰かに問い詰められたり、邪険にされたりしたこともなく、王宮専属魔導士として、とても平和な日々を送っている。

ふとこの平和な日々が逆に気になって、アランに一度この話をしてみたところ、どうやら俺は特記事項持ちということになっているらしかった。


特記事項持ちとは、火、水、風、雷、防御、治癒、修復の7つの魔法の中で自分の属性魔法を最高レベルに極めていたり、通常の魔法とは違った使い方ができたり、とにかく他者とは違った形で魔法を行使できる者に使われる名称だ。これについては、特に誰が何をできるなどの公表義務はなく、王宮専属魔導士では個々の能力を全て知っているのは団長、副団長のみである。別に能力自体秘密という訳ではないので、自らの能力を公表している者もいれば、特記事項持ちだとだけわかるようにしている者もいる。

いずれにしても、特記事項持ちはその能力から一目おかれる存在で、どうやら俺がその特記事項持ちになっているというのだ。

どおりで誰からも俺が2属性だということに対して問い詰めてこないと思ったら、そんな設定になっていたとは。俺自身が知らずに、周りにその情報が周知されているということは、おそらくマティス先輩が何かしら操作をしてくれていたのだろう。


俺を王宮専属魔導士に推薦してくれたのは、マティス先輩だ。まさか本当に王宮専属魔導士になれるとは思っていなかったが、先輩は俺が周囲の人の目を心配する度に“大丈夫、大丈夫”とそれだけ言い続けて来た。きっと、俺が気付かないうちに早々に手を打ってくれていたのだ。

だいたい、特記事項なんてものは俺にはない。2属性の本当にただ魔力量の低いだけのパッとしない人間なのだ。自分の力は自分がよく知っているから今更卑屈になるつもりはないが・・・。


きっとレイ様は、俺の全てを知っても今と変わらず、優しく受けとめてくれると思う。でもやっぱり、これは自分の我儘だが、レイ様を想う今だから、こういう大きな事柄を前に、考えてしまう。ずっと以前に納得して、心の奥にしまい込んだ想いを。そうーーー。


ーーー力が。俺にもっと力があれば・・・



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

龍の寵愛を受けし者達

樹木緑
BL
サンクホルム国の王子のジェイドは、 父王の護衛騎士であるダリルに憧れていたけど、 ある日偶然に自分の護衛にと推す父王に反する声を聞いてしまう。 それ以来ずっと嫌われていると思っていた王子だったが少しずつ打ち解けて いつかはそれが愛に変わっていることに気付いた。 それと同時に何故父王が最強の自身の護衛を自分につけたのか理解す時が来る。 王家はある者に裏切りにより、 無惨にもその策に敗れてしまう。 剣が苦手でずっと魔法の研究をしていた王子は、 責めて騎士だけは助けようと、 刃にかかる寸前の所でとうの昔に失ったとされる 時戻しの術をかけるが…

強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない

砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。 自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。 ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。 とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。 恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。 ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。 落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!? 最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。 12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生

代わりはいると言われた私は出て行くと、代わりはいなかったようです

天宮有
恋愛
調合魔法を扱う私エミリーのポーションは有名で、アシェル王子との婚約が決まるほどだった。 その後、聖女キアラを婚約者にしたかったアシェルは、私に「代わりはいる」と婚約破棄を言い渡す。 元婚約者と家族が嫌になった私は、家を出ることを決意する。 代わりはいるのなら問題ないと考えていたけど、代わりはいなかったようです。

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

転生エルフの天才エンジニア、静かに暮らしたいのに騎士団長に捕まる〜俺の鉄壁理論は彼の溺愛パッチでバグだらけです〜

たら昆布
BL
転生したらエルフだった社畜エンジニアがのんびり森で暮らす話 騎士団長とのじれったい不器用BL

今日結婚した夫から2年経ったら出ていけと言われました

四折 柊
恋愛
 子爵令嬢であるコーデリアは高位貴族である公爵家から是非にと望まれ結婚した。美しくもなく身分の低い自分が何故? 理由は分からないが自分にひどい扱いをする実家を出て幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱く。ところがそこには思惑があり……。公爵は本当に愛する女性を妻にするためにコーデリアを利用したのだ。夫となった男は言った。「お前と本当の夫婦になるつもりはない。2年後には公爵邸から国外へ出ていってもらう。そして二度と戻ってくるな」と。(いいんですか? それは私にとって……ご褒美です!)

処理中です...