61 / 66
第7章 通じる想い
60. 親友との道 (レイ)
しおりを挟む魔獣α《アルファ》との戦いも終わり、国境付近の村や町はまだ少し混乱はあるものの人的被害はほぼなく、人々はいつもの生活へと戻りつつあった。そんな中、王宮の執務室で事後処理をしていた俺のもとに王太子であるリオネルがやって来ていた。
「今回は我々としても初めて相対する魔獣との戦いだったからどうなることかと思ったが、さすがレイン。よくやってくれた。国民を代表して改めて礼を言おう」
いつもの定位置に座るリオネルの前に、俺も同じく席に着きリオネルと対面する。
「いや、この国を護るのが俺たち王宮騎士団の使命だからな」
本来、例えどのような名誉があったとしてもこのように王太子が直々に家臣のもとへと言葉を伝えに来ることなどあり得ないのだが、俺たちの間ではもう今さらなシチュエーションであり、対応する俺も普通なら不敬罪になりそうな軽い受け答えで話をするのも、もはやこの二人きりの執務室では当たり前の光景と化していた。
「ハハッ、謙遜するな。もちろん、今回ほとんど民に被害が出なかったことは騎士や魔導士たち全員の力あってのことだが、本命の魔獣α《アルファ》を討伐出来たのはマティスやお前の力によるものだ。本当に感謝している」
「・・・あぁ」
被害という言葉に俺はリオネルから視線を外し、自分の至らなさを改めて噛み締めるように声を落とす。
「?どうした?魔獣を討伐し、ひとまずの騒動が落ち着いたというのに浮かない顔だな?・・・あぁ、そうかユーリくんがまだ眠ったままなのか・・・」
「・・・・・・」
そう、あの最期の魔獣α《アルファ》との戦いの際にユーリが倒れてからまだ彼は目を覚ましていない。
あの魔獣が現れたと聞いてから自分の中で嫌な感じはずっとあったのだ。
もしかしたら、“アイツ”が関わっているんじゃないかと。
だが今回ユーリは俺の側ではなくずっと後方にいるからと、心に僅かに隙があった。
まさか、あの場にユーリが現れるなんて・・・
(一体ユーリに何が起きたんだ?)
「レイン」
呼ばれて視線を戻すと、リオネルが心配そうに俺を見ていた。最近、彼には俺のことでこういう顔をさせてしまう事が多くなった気がする。
「後方支援部隊総隊長からの報告では、ユーリくんがいた後方支援区域で魔法と思われる濃霧が発生したそうだ。原因は、今魔導士たちが調査中だがおそらく今回の魔獣α《アルファ》と無関係ではないだろう」
「濃霧?霧を発生させる魔法はかなり高位な力が必要なはずだが。・・・やっかいだな」
「あぁ。それで、その濃霧自体はすぐに消えたんだがその混乱の中どうやらユーリくんがその場から居なくなっていたらしい。まぁユーリくんの能力上、濃霧の術者とは考えられなかったがこの戦闘区域で孤立するのは危険極まりない。各自パーティは予定通り所定の位置で待機し、戦闘能力に特化したパーティが前線へと範囲を広げての捜索、警戒にあたったらしい」
「その時には何故かユーリは俺たちがいる最前線まで来ていた。・・・しかも一人の少年を追って」
ユーリが何故その短時間で距離の離れた最前線に来られたのかもさることながら、あの少年は一体どこから現れたのか?
そもそもあの森は魔獣α《アルファ》が現れてから出入り口になりそうな場所は全て封鎖し、周りには騎士団も警戒にあたっていた。
普通なら猫の子一匹、進入すら不可能な筈だったのに。
「その少年は普通・・の少年だったのだろう?」
「あぁ。俺も気になって無事に家族のもとへ帰った少年に会いに行ったが、両親も少年もいたって普通・・の人間で、避難中にはぐれてしまいお互い無事に会えて安堵していたよ」
ユーリが追っていた少年。もしかしたら何か魔獣に関わりがあるのではないかと勘ぐったのだが、実際に俺が改めて会ったのは魔力もない、ただただ普通・・の少年だった。
「それで少年の様子は?」
「魔獣に会った為、まだ外に出るのを少し怖がっているようだったが健康状態は特に問題ない・・・ただ、両親とはぐれてから魔獣α《アルファ》のいるあの場所へ来るまでの記憶が全くないようだ」
「記憶が?」
それを聞いてリオネルが眉間にしわを寄せる。
「あぁ、何故自分があの場に居たのか?ユーリとどこで会ったのか?さっぱりわからないらしい」
「・・・・・・濃霧といい、記憶のない少年といい、何かが裏で動いているとしか考えられないな」
リオネルは頭が痛いと言うようにこれから起きるかもしれない更なる問題ごとに、溜め息を吐くしかなかった。一方で俺はユーリにゆっくりと迫り来る何かしらの脅威を感じずにはいられなかった。
(裏で・・・もう動き出しているのか?“アイツ”が再び、今世でーーー)
「はぁ、伝説級の魔獣α《アルファ》の出現といい、一体何が起きてるんだ?」
「・・・・・・」
「レイン?どうかしたか?」
「!?いや、今回のことは謎が多いからな。今後の対策も兼ねて色々考えさせられるなと・・・」
流石にまだリオネルに俺が知っていることを話す訳にはいかず、俺は言葉を濁した。ことは俺やユーリの前世、そしてこの世界の未来に関わるかもしれない事柄だ。
いずれはリオネルにも全てを話さなければならないだろうが、今はまだその時ではない。
「・・・とにかく、ユーリくんについては医師も腕の傷以外は特に大きな怪我もないし、今は寝ているだけだからそのうちちゃんと目を覚ますさ。新人があんな緊迫した状況に直面したんだから精神的に参ったんだろうし、目が覚めたら安心させてやれ。気になることはユーリくんが目覚めてからゆっくり聞けばいい」
「あぁ・・・そうだな。心配かけてすまない、リオネル」
「全く、お前のそんなしょぼくれた顔など辛気臭くてかなわん。部下に見られる前に顔を洗ってさっぱりしてこい!ユーリくんだって起きたらそんな顔の男が側にいるのは嫌だろう」
「ゔっ」
いつもの如くリオネルの辛辣かつ愛(リオネル本人はそう思ってるらしい)のある言葉が刺さる。
「ハハッ。さて、お前への労いも済んだし俺は仕事に戻るとしよう」
「この忙しいのにまた側近たちを出し抜いてきたんだろう?常々彼らの苦労が偲ばれるな」
俺は良く知る側近の顔を思い浮かべながら苦笑した。
「ククッ、あいつらも俺がここに来ているのはわかっているさ。何か緊急な用件があれば有無を言わせずやって来る。それ以外はまぁ、お前との息抜きという事であいつらなりに一応気を遣ってくれてるんだろう」
「主人想いの良い側近たちだな」
「そうだな。ありがたいことに俺は臣下に恵まれてる。もちろん、お前という得難い友にもな」
「っ!?」
ニヤッと笑いながら立ち上がったリオネルは、澄ました顔で扉の方へと歩いていく。
「はぁ・・・俺を誑しても何も出ないぞ」
「ハハッ、それは残念。じゃぁ次はもっと感激させて美味い寝酒にでも誘ってもらえるようにしよう」
そう戯けて、来た時と同じく自然に出て行ったリオネルに俺はさらに苦笑いを浮かべる。
俺にとってもリオネルは得難い友に違いない。ただ惜しむらくは、リオネルが王族であること。
今後、俺とユーリの影響がこの国に及んだ際には俺も歩むべき道を選ばなくてはいけない。願わくば、リオネルと道を違えることなく、友として最期まで共に在りたいものだ。
そしてふと遥か昔のことを思い出した。
“俺はどんな時でも、お前の親友だ。信友であり、真友だ。互いの道が分かれても、お前がキツイ時は俺がお前に繋がる道を作って駆けつけてやる。いいか!最期まで忘れるな!”
リオネルとはまたタイプの違う実直で、同じ騎士としてかつて共に戦った熱い男がいた。彼もまた俺にとって、生涯の友と呼べる存在であった。
結局、最後の最後まで迷惑をかけてしまったが・・・。
「今、お前の五月蝿いぐらいの声が聞きたいな・・・アレク」
今世ではもう心は揺るがないつもりだが、時々この今ある平和を護るのに道を共に歩んでくれる友がそばにいて欲しいと思ってしまう。
(・・・ダメだな、こんな落ち着かない気持ちでは)
俺はすぐにユーリの笑顔を思い浮かべ、ユーリのそばに向かうべくリオネルに続きこの部屋を出たのだった。
0
あなたにおすすめの小説
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。
小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。
「マリアが熱を出したらしい」
駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。
「また裏切られた……」
いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。
「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」
離婚する気持ちが固まっていく。
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
龍の寵愛を受けし者達
樹木緑
BL
サンクホルム国の王子のジェイドは、
父王の護衛騎士であるダリルに憧れていたけど、
ある日偶然に自分の護衛にと推す父王に反する声を聞いてしまう。
それ以来ずっと嫌われていると思っていた王子だったが少しずつ打ち解けて
いつかはそれが愛に変わっていることに気付いた。
それと同時に何故父王が最強の自身の護衛を自分につけたのか理解す時が来る。
王家はある者に裏切りにより、
無惨にもその策に敗れてしまう。
剣が苦手でずっと魔法の研究をしていた王子は、
責めて騎士だけは助けようと、
刃にかかる寸前の所でとうの昔に失ったとされる
時戻しの術をかけるが…
強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない
砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。
自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。
ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。
とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。
恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。
ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。
落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!?
最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。
12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生
転生エルフの天才エンジニア、静かに暮らしたいのに騎士団長に捕まる〜俺の鉄壁理論は彼の溺愛パッチでバグだらけです〜
たら昆布
BL
転生したらエルフだった社畜エンジニアがのんびり森で暮らす話
騎士団長とのじれったい不器用BL
記憶を無くしたら家族に愛されました
レン
BL
リオンは第三王子で横暴で傲慢で侍女や執事が少しでも気に入らなかったら物を投げたり怒鳴ったりする。家族の前でも態度はあまり変わらない…
家族からも煩わしく思われたていて嫌われていた… そんなある日階段から落ちて意識をなくした…数日後目を覚ましたらリオンの様子がいつもと違くて…
代わりはいると言われた私は出て行くと、代わりはいなかったようです
天宮有
恋愛
調合魔法を扱う私エミリーのポーションは有名で、アシェル王子との婚約が決まるほどだった。
その後、聖女キアラを婚約者にしたかったアシェルは、私に「代わりはいる」と婚約破棄を言い渡す。
元婚約者と家族が嫌になった私は、家を出ることを決意する。
代わりはいるのなら問題ないと考えていたけど、代わりはいなかったようです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる