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第7章 通じる想い
62. 夢と現実 (ユーリ)
しおりを挟む・・・・・・・・リ。
・・・ユーリ。起きて・・・。
(・・・ん。・・・・・・っ!?)
名前を呼ばれて目を開けると、目の前には寝ている俺を覗き込むようにしてレイ様が立っていて驚いた。でも、何か違和感を感じる。
(・・・?何だろう?)
そう思っているとレイ様が優しく声をかけてくる。
「ユーリ、そろそろ起きないと今日は午後から陛下に謁見する日だろう?ほら、いつもの支度をしないと。遅れては大変だ」
(・・・えっ!?陛下に謁見?いつものって何!?・・・って・・・あれ?俺、声が・・・・・・)
「ん~、わかった。・・・起きるよ。声をかけてくれてありがとう、レイ」
(!?)
そうか。違和感の正体。・・・これは夢だ。昔から朧げながら見る夢。今までほとんど内容を覚えていなかったのだが、最近見る夢は少しリアリティがあり、何故か少し懐かしさを感じる。
先日見た夢は、俺そっくりさんと顔も名前もわからない青年?が登場人物のさながら映画みたいに場面変化のある夢だったけど、どうやら今回の夢は俺が登場人物に乗り移って見るリアリティさ満載の夢らしい。
通りで声が出ないし、レイ様もいつもと違うと思った。
(っていうか、夢の登場人物がレイ様って。俺の願望?いや、でも何か・・・これ本当に、夢、だよな?)
俺の視界には微笑むレイ様が映っている。
デジャヴ・・・のような感覚。このシーンを俺は知っているような?
そんな事を思っている間に夢の物語は進んでいく。俺の目は常にレイ様に向いていて、夢だからと俺は思う存分レイ様を観察した。どうもこの夢の中のレイ様は、今よりもっと若い感じで、声も今より・・・
(あれ?この声って・・・・・・え?わぁっ!!)
俺が記憶の糸をたぐっていたところ、夢の中のレイ様が顔を近づけてきたと思った瞬間にはもうキスをされていた。
「んっ、は・・・ぁ。レイ」
(~~~~~~!!!近いっ!!近いぃぃ!!)
夢なのでキスされているという実際の感覚はないが、とにかくレイ様の顔が近い!!しかも艶かしい声とセットで俺は少しパニック状態だ。こういう行為に免疫がないので、これが現実なら叫んでいたかもしれない。
(これ本当にキスしてるよね!?レイ様と?レイ様と!?)
もうさっきまで何を考えていたのかも忘れて俺は一人オロオロしていたが、キスを終えて離れたレイ様の表情は柔らかい笑みを浮かべ、とても直視できないくらいの眩しさを放っていた。
「ユーリ」
(!!)
ドクン、と鼓動が跳ねる。
夢なのに。その瞬間、これらは現実の自分に向けられているんじゃないかと錯覚する。
俺に向ける優しい笑み。
俺の名を呼ぶ優しい声。
いや、きっと俺が勇気を出せば、この夢は現実になるに違いない。今はまだ凄く恥ずかしいけれど、この夢のように艶かしい俺なんて想像できないけれど。レイ様への恋を自覚した自分は、たぶんこれから、きっと驚くほど貪欲に、レイ様を求めるんだろう。
俺を好きだと言ってくれたレイ様。
ずっとそばにいると。気長に待つと言ってくれた優しいあの人に、未だにこんな自分でいいのかと不意に弱気な自分が出てくることもあるけれど、レイ様を信じて自分の正直な心をぶつけるともう決めたから。
「レイ」
(レイ様)
俺は内心大いに照れながら、視界に映るレイ様を見続けた。まだ先の話ではあるけれど、いつかはこの夢のように、面と向かって気安く名前を呼んでみたい。
「じゃぁ、私はユーリが支度をしている間に宰相殿と少し打ち合わせをしてくるから。終わったら迎えに来るよ」
そう言って、優しい手つきでこちらの顔を撫でたレイ様はそっと離れて行く。
幸せな余韻。
ーーその時だった。
幸せな気分のはずなのに何故か突然背筋がゾクリとした。
【ーーーーもうすぐ迎えに行くーーーーー】
思念のような何か得体の知れない不安が襲って来て、思わず夢の中なのに今離れたばかりのレイ様の手をぎゅっと掴んだ。
(レイ様行かないで!お願い!そばにいてっ!)
「・・・・・・レイ・・・」
声が出ると同時に視界がパッと切り替わった。心臓が少しバクバクしているが、得体の知れない不安は消えている。一体何だったのか?よくわからないが、掴んだレイ様の手から俺を護るような気が流れ込んできてとても安心する。
(あぁ、ずっとこうしていたいな・・・)
俺はホッとしながらレイ様の顔に視線を向けた。すると、驚いた表情で俺を見つめる瞳にぶつかった。
「ユーリ?」
「・・・え?」
(あれ?レイ様、なんか違う?いや、そうじゃない・・・いつものレイ様だ)
よく見ると先程までのレイ様の格好とは違うし、そもそも部屋の造りが違う。夢ではもっと高貴な雰囲気の室内だったが、ここは・・・
「医務室・・・?」
「ユーリ、大丈夫か?」
「あっ・・・レイ様、俺?」
声をかけられて俺が応えると、ホッとしたような表情で心配そうに俺を見つめるレイ様。思うように声が出て、やはりこれは現実なんだなと俺はすぐに理解した。だが、何故こういう状況になっているのかがすぐに思い出せない。
俺はふと視線を自分の手元にやり、未だにレイ様の手をぎゅっと掴んでいることに気がついた。
「わっ!すみません、レイ様!俺、何か無意識にレイ様の手を掴んでたみたいでっ」
俺は恥ずかしさから慌てて手を離すが、逆にその手をそっと握られてしまい、さっきとは違う意味で心臓がバクバクする。
「あっ、あの!?レイ様?」
「その様子なら大丈夫かな?無事に目が覚めて安心した。どこか痛むところはないか?」
「え?あ、はい。大丈夫・・・です。えっと、俺・・・」
若干パニックになりながらも、ぼんやりとこうなった経緯を思い出す。
(そうだ!魔獣α《アルファ》と戦うレイ様たちに遭遇して、最後に・・・)
「レイ様!魔獣α《アルファ》は?あと、俺と一緒にいた少年をアランに保護してもらったんですが、無事に帰れたかご存知ですか!?」
俺はベッドからガバッと起き上がると同時に気になったことを弾丸のようにレイ様に問いかけた。
「落ちついて、ユーリ。順を追って話すけど、君はここ数日ずっと意識がなかったんだ。無理をしないでくれ」
そう言って、レイ様は自然な仕草で俺をベッドに押しやり安静にと促す。一瞬、顔が近づきさっき見た夢のキスを思い出して身体が一気に熱をもった。
(そういえば俺、レイ様にこの任務が終わったら話があるって伝えたんだっけ。・・・俺の気持ちをーーーー)
「ユーリ?」
「!!あっ・・・ご心配ありがとうございます。でも俺、大丈夫ですよ!」
俺は赤くなった顔を誤魔化すように自分の顔の前で手を振って元気だとレイ様にアピールする。
「あぁ、そうかも知れない。だが俺がまだ心配なんだ」
レイ様はその言葉通り心配顔で俺を見つめてくる。レイ様のその気持ちがくすぐったくて・・・凄く、嬉しい。
どうやら俺は、何故か想像以上に眠り込んでいたようで、さすがにこれ以上レイ様を心配させるわけにもいかず、俺は大人しくベッドに横になり先にレイ様の話を聞くことにした。
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