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3.温度
しおりを挟むあの時……映画館の時みたいな激しいキスじゃなかった。それほど舌は入って来ず、入り口で止まる。僕の唇を微かに舐めてそのままじっと口を合わせていた。
リッキーの体から力が抜け始め唇が離れていく。両手が僕の胸に降りて軽く握り拳になった。同時に頬がそのそばにずり落ちていく。
――くぅくぅ
寝息が聞こえ始めた。
「リッキー?」
ぴくりとも動かない。
「リッキー? 寝ちゃうの? このまま」
まるで子どもだ。母親の胸に縋って眠る子ども。その姿は可愛い……。そう思う僕はどうかしてるんじゃないだろうか。
抱き心地が良くて、しばらくそのまま抱いていた。なんとなく起こすのがかわいそうな気がしたんだ。
――くぅくぅ
僕の胸にもたれて体を預け無防備に眠っているリッキー。そのうち、その弛緩した姿が、可愛いというより重くなり始めた。彼は僕より背は低いけど、むっちりと締まった体は決して軽くはない。
まず足が痛くなり、痺れてきた。落とさないように抱いてるから動けない肩と腕が『私たちの存在をお忘れじゃありませんか?』と、聞いてくる。背中と腰がきつい。
「ねぇ、リッキー」
さっきより大きな声をかけた。
「リッキー。このままじゃ落としちゃうよ」
はっきりした声で言うと少し頷いた。良かった!
手が離れて……僕の首に巻きついて、しっかりと体が密着した。僕は焦った。このまま寝ぼけたリッキーに力づくで押し倒されたらどうしよう!
けど、――くぅくぅ――という寝息は変わらない。体勢が変わったことで僕の体は少し楽になったけど、きっとこんなの一時しのぎだ。なんとか起こさなくちゃならない!
そう思って大きな声を出そうとした時にその寝言が聞こえた。
「mama…… calido……」
(ママー カリド?)
幸せそうな声だ。そう言って頬をすりすりしている。僕は起こしそこなって、たまに漏れる知らない言葉を聞きながら眠っていった……。
「わっ!」
突然の真近の大声に僕は目をしょぼしょぼさせて擦った。
「ん……リッキー おはよ」
目の前で固まってるリッキー。
「お 俺……」
「悪いけど驚くの後にして降りてくんない?」
はっ!として慌てて降りる。助かった、やっと解放された。でも僕の体は簡単には解れなくて、こてん とそのまま横になるしかなかった。
「疲れたー」
「俺、いつ寝た?」
「キスのすぐ後」
「え……あのまま……」
「ごめん、もう少し寝たいんだ、1時間したら起こしてくれる? ばいと……」
そこで意識が切れた。
やっと目が覚めても頭はぼんやりしていた。節々が痛い。
――なにかしたっけ?
そう考えて、リッキーの顔が浮かんだ。見回すといない。時計を見たら8時……。
「8時ーぃ!?」
バイトは6時から。とっくに時間を過ぎている。慌ててシャワーを浴びようと立ったら足がカクカクして持ち上がらない。ドスンとベッドに座り込んで途方に暮れた。
ふと気がつくと枕の脇に紙がある。
『ゆっくり寝てくれ。バイトは俺が行く。R』
――助かったぁ!
僕はほっとして……また眠ってしまった……。
「……い、おい!」
遠くから声が聞こえる。体を揺さぶられて目が開いた。
「大丈夫か!?」
リッキーだ。
「なにぃ?」
僕はまだぽわんとしたままだ。
「なんか食わねぇと死んじまう」
オロオロしているのが伝わってきて、事の顛末を思い出した。
「あ! ごめん、バイト」
「ごめんって… それ言うの俺の方だ。悪かった、本当に」
その顔があまりにしょげているんで思わず笑ってしまった。
「いいよ、リッキーこそ体大丈夫?」
「俺は」
一瞬泣き出すかと思った。
「守るって言ったばっかなのに迷惑かけちまって」
「大丈夫だよ、今何時?」
「12時前」
「嘘っ!」
焦ってベッドから降りようとして足が イヤだ! と喚いた。顔を思いっきりしかめた僕をリッキーがやんわりとベッドに戻した。
「講義だろ? 忘れたか? レポート終わってるからエシューの講義はもう無ぇよ。そんなことより痛いんだろ、体中」
「そうかぁ。もうあの教授の講義、聞かなくて済むんだぁ!」
有難い! あの教授、本当に苦手だ。
「エシューはいい女なんだけど普段は固いからな。夜はうんとセクシーなんだぜ」
こういう会話が普通なのがリッキーだ。いつかヤキモチ本当に焼くんだろうか。
「な、動けねぇんだからなんか買ってきてやるよ。何が食いたい?」
「いや、外に出るよ、そうしないとこのまま筋肉固まっちゃうし。こんな時は逆に動いた方がいいんだ」
立ち上がろうとするとリッキーが肩をかしてくれた。
「シャワー、手伝う」
「冗談!」
「いや、本気」
「マジで!?」
「マジで」
「1人で出来るよ、シャワーくらい」
「フェル、両手を背中で組んでみろ」
言われて右手を肩から、左手を腰から回す。手は届く前に悲鳴をあげた。
「な? 無理だよ、1人じゃ。変な気持ちで言ってんじゃねぇんだ、背中だけでもいいから流してやる」
それで済まなかったらどうしよう……。
「単なる筋肉痛だからバスタブに湯を張るよ。浸かってればだいぶ楽になるんだ。バスケやり過ぎてよくあるんだ、こういうこと」
「じゃ、湯を入れてくる。溜るまで動くな」
『俺さ、すっごく尽くすぞ』
あの言葉が蘇る。そうだね、奥さんみたいだよ、まるで。そう考えておかしくなった。彼を普通の男だと認識するのをやめている。
「いや、だが彼は男だ」
小さく呟いたところにリッキーが出てきた。
「なんか言ったか?」
「いや、何も」
そう言い終わる前に僕は彼を見て吹いていた。
「なんで湯を張るだけでそんなに濡れてるんだよ」
「滑ったんだよ」
左側はびしょ濡れで水滴が滴っている。
「着替える」
脱いでる彼のその後ろ姿の動きはなんていうか……背中だけでも相手をイチコロにするだろ! ってくらいにえろい。何がだろう? どこが違うのか……じっと見て何となく思った。動きだ。動き方が違う、滑らかに流れる様な、誘うような……。普通の男とまるで違う。
(だめだ)
僕はそう自分に言った。
彼は相部屋のリチャード・マーティン。僕は彼に友情というものを教えてやりたいんだ。そこに余計な愛情ははっきり言って邪魔だ。
僕も頃合いを見計らってパッパとシャツを脱いだ。たっぷり休んだせいか、足はさっきよりマシに動いてくれている。彼がこっちを見てるのを感じながら、僕はなんでもないかのようにバスルームに向かった。
――ああ やっぱ湯に浸かってるのはいい
足をバスタブの端に引っかけて顎まで浸かり目を閉じる。大学の寮っていうのは、普通シャワーだけでしかも共用だったりするんだけど、この新築の寮はちゃんとバスタブがついてる。ずいぶん迷ってこの贅沢な寮の空き部屋の争奪戦に挑んだ僕。バイトは大変なことになってるけど、その恩恵はしっかりと受けている。
『ママー カリド』
あれは何だったんだろう。聞き慣れない外国語。夢で呟くくらいなんだからきっとその言葉に堪能なんだ……。
突然パニックに襲われた。鼻から吸ったのは空気じゃなかった。ごぼごぼ口にも鼻にも湯が雪崩れ込む。咄嗟にどこが上なのか分からなくなった。僕は尋常じゃない音を出していたんだと思う。でもすぐに意識が無くなったからその後は分からない……。
「フェル! フェル!」
口に息が吹き込まれて胸が叩かれた。
(痛い)
そう言おうとして何かを吐いた。すぐ顔が横に向く。それでも息が吸えない。空気を求めて喘ごうとしても上手く行かない。
「救急車呼ぶ!」
叫んでいる声が聞こえた。
「僕が呼んでやるからそばにいてやれ!」
そんな声が聞こえて僕の意識はまた遠のいた。
次に目が覚めたのは白い壁に小さなカレンダーのかかってる部屋でだった。
「目が覚めたか?」
小さな声が聞こえた。僕の左手を掴んだリッキーの両手が震えていた。
「死んじまうかと思った」
小さな声が続く。
「死んじまうと思った、お前が」
僕の手を自分の目に当てて泣くのを堪えてるのが分かった。
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「病院」
――え? ええ?
「びょ、病院に運んだの?」
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「バカ!! ホントに死んじゃうとこだったんだぞ!! 顔が真っ白で唇は真っ青で、体はぐにゃぐにゃで、死んじまうとこだったんだ、俺からそんなに離れてねぇとこで!!」
リッキーの痛みが僕の胸に突き刺さった。
『愛してる』
そう告げた相手が自分のそばで死んでしまう、それもバカげた理由で。
「俺……目を離すんじゃなかった……俺が全部悪いんだ……俺が」
「リッキー こっち見て」
僕は力の入らない手で彼の手を引っ張った。こっちを見た涙の顔に笑いかけた。きっとそれは頼りなげな笑いだったんだろう。
「無理すんな。俺はそばにいるから。もう離れねぇから」
「リッキーのせいじゃないんだ。僕がマヌケだっただけだ。リッキーはなにも悪くない」
「でも!」
「心配かけて悪かった。だらしなくてカッコ悪い」
「なんだっていいんだ、お前が無事なら」
そこにサッとカーテンが開いた。
「ああ、目が覚めたんだね。良かった、もう大丈夫」
若々しい声が聞こえた。
「僕はセバスチャン。新米のドクターだ。でも処置は完璧だったはずだよ」
脈を取りながら陽気に話す若いドクターは僕の胸に聴診器を当てた。
「うん、しっかりした鼓動だ。脈も正常。担ぎ込まれた時はだめかと思ったけどね」
笑ってる声はどっちかっていうと苦笑いっぽかった。
「バスタブだって? 時々いるんだよ、そういうので溺れちゃう子が。でもこんなにデカい子じゃないけどね」
僕は真っ赤になってたに違いない。
「友だちに礼を言うんだね。2人がいなかったら本当に間に合わなかったかもしれない」
「2人?」
「ソーヤーがちょうど来てくれたんだ」
ソーヤー。『土曜日の彼』か。
「あいつ、お前のことばかり見てやがった」
「あいつ? ドクター? 医者なんだから当り前だろ?」
「俺はこういうことには勘が働くんだ」
咳がこみ上げてきて、ひとしきり咳き込んだ。リッキーが一生懸命背中を擦ってくれる。
「もう少し寝てろよ」
やっと落ち着いた僕を心配そうにのぞき込んだ。
「もう寝るのはたくさんだよ」
冗談めいて言うといきなりガバッと抱きつかれた。
「寝るだけなら許してやる。でも死ぬのはだめだ」
止める間もなかった。キスが口に首に手に肩に胸に。上半身ほとんど裸といっていい僕の体中がキスで覆われた。
「リッキー、リッキー、」
キスの跡が濡れていく。まだ震えている肩。泣いているのが分かる。
「死ぬのは……だめだ……」
「僕はもう大丈夫だから。死なないから。な? 安心しろよ」
「母さんも……海で死んだ……」
「え?」
「体が見つかった時にはもう息止まってた。何やっても動かなかった」
「……いつ頃?」
「俺は15だった。海に飛び込んで……自殺だったんだ」
僕の体に伝わる震え……。
「今度からちゃんと気をつける。もうこんな思いはさせない。約束するよ。二度とリッキーを1人にしないから」
なんでそんな言葉が出たんだろう。
「フェル」
抱きついたままのリッキーが頷いた。僕はその離れない体を強く抱きしめた。
「帰り、送っていくよ」
ソーヤーだと自己紹介されて僕は握手をした。
「面倒かけたね、済まない」
「いい姿を堪能出来たからいいよ」
長身で含みのある笑い方をする。
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顔は笑ってたけどその目は笑ってなかった。
――ああ 彼は本当にリッキーを愛してたんだ
そう、思ったんだ。
その彼の言葉の間もリッキーは僕の腕に引っ掴まっていた。
「おい、いい加減にしろ。彼は逃げやしない。帰れば同室なんだし思いっきり甘えられるだろ?」
渋々という風にリッキーは手を離した。
「それでいい。取りあえず僕が飛行機に乗るまではそんな姿見せるな。来いよ」
素直にリッキーはソーヤーのそばに行った。
「君からだ。助けたんだから」
そう言われてリッキーは自分からソーヤーに口付けた。すぐ離れるつもりだっただろう彼はソーヤーにガッシリと抱き寄せられた。
たっぷりとリッキーの口の中を味わいながら、ソーヤーは僕に目を向けた。刺すような目だった。
それきり黙っていた僕は、荷物を持って先に寮に入ったリッキーの背中を見ながらソーヤーに礼を言った。
「ありがとう。気をつけて "ド田舎" に帰ってくれ」
「言うねぇ。さっきのにヤキモチかい? 正直言ってあいつが君のどこに惚れたのか分からないよ」
「分かってもらう必要無い。彼は誰かのためにいるんじゃないから」
「……なるほどね。ちょっとだけ分かった気がする。君はあいつを夜のお供にしようって気がないんだな?」
「そういうことだけが付き合いじゃないだろう」
「セックス無しじゃあいつはだめだぜ。そのうち我慢できなくなるよ、そういう体なんだ、あいつは」
「侮辱するな、リッキーは一人の人間なんだぞ。あんたたちのオモチャじゃない」
「あいつは自分からオモチャになることを喜ぶんだ」
体が復調してたら気絶するほどのパンチを浴びせられたのに。
「無理するな。今夜は大人しく寝た方がいい。それから体は今度からあいつに洗わせるんだな。得意だからな、シャワータイムは」
僕の拳を掌で受けて、ソーヤーは笑って帰って行った。
『寝なくなったら終わりだよ、男も女も』
あの言葉を思い出す。そしてソーヤーを思った。彼はリッキーを征服していたんだ。
『来い』
そう言われてリッキーは身を差し出した。僕を刺すように見たのは自分たちの主従関係を見せつけるためだ。そこにリッキーの尊厳は無かった。
あんなヤツらに二度とリッキーをいいようにさせてたまるか! 自然にそう思う僕がいた。
「ママー『mama』ママって言ったんだな」
次に『カリド』という言葉を調べた。どうもスペイン語のようだ。
「あら、有名人が図書館でなにしてるの?」
「シェリー、君までやめてくれよ」
あれから2,3日、えらい目にあった。口笛吹かれたり、囃し立てられたり。そんなのはいい方だった。廊下ではいきなり足を引っかけられる。倒れはしなかったけど本が散乱した。階段のそばで突き飛ばされ、落ちそうになるのを防いだのはリッキーだ。ついでに相手を殴り飛ばしていた。
「どうやら俺は連中を煽っちまったらしい」
救急車の時の騒ぎのことを彼は悔いていた。
「忘れてんのかもしれないけど、リッキーは僕の命を助けてくれたんだよ」
そう言って彼を抱きしめた。この頃じゃ、そんなスキンシップが普通になり始めている。
「なに? スペイン語は取ってなかったでしょ?」
「ちょっと知りたい言葉があってさ」
シェリーは悪友だ。お互いに言いたいことを言い合う。
「どれ?」
「ママー カリド って意味分かる?」
彼女はスペイン語を知っていた。前に付き合っていた相手が勉強するのを手伝っていたらしい。
「子どもが喋ってたの? 『ママ あったかい』そういう意味よ。忙しいわね、こんな最中にスペイン語の勉強? そうそう。テッドに気をつけた方がいいわよ。あいつ、碌なこと言ってないから」
「何を言ってる?」
「言いにくいけど……あんたがノーマルだからリッキーの体が啼いてるだろうって。誰かリッキーを落とさないか?って持ち掛けてるみたい。今はあんたが攻撃を受けてるけど、それに飽きたら今度は彼が狙われるわよ」
シェリーに礼を言って、急いでリッキーを探した。
『ママ あったかい』
僕の胸に縋ってそう言ったんだ。海で自殺したという母親。僕が溺れているのを見つけてどんな思いをしたんだろう。
ちょうど廊下の角を曲がる姿を見かけてその後を追いかけた。曲がったところで言い争いをしているのが聞こえる。
「ふざけるな!」
「やっちまえ!」
角を曲がると手前のドアの中にリッキーが引きずり込まれるところだった。
「なに、やってんだよ!!」
3人の男がその体を抑えつけようとしていた。僕はそいつらを蹴って殴ってリッキーを掴んだ。
「なにしようっていうんだ!」
「お前がしてやらないことを俺が代わってやってやろうってんだ」
リッキーが赤い唾を脇に吐いた。
「テッド、お前に触られるとゾッとする」
「俺が触ったらぞくっとするの間違いだろ?」
「もうお前とはそういう関係じゃねぇ」
「耐えられんのか? さっき触った時、ずいぶん敏感になってたみたいだけどな」
下卑た笑いに他の二人も追従している。そのテッドというヤツを僕は殴り倒した。
「文句があるなら僕に言え! 僕が相手をしてやる!」
「その気もないのに生殺しにしておいてよく言うよ」
テッドが口から伝う血を拭いながら尚も言う。
「今なら裸にしただけでイッちまうぜ、そいつ」
もう一発殴ろうとした時に腕を掴まれた。
「もうよせ。相手するだけ無駄だ。それにこんなヤツ相手に寝たのは俺だ」
そしてテッドを振り返った。
「お前、こんな真似してただで済むと思うな。後悔したくなきゃここでやめとくんだな」
「後悔するのはどっちか思い知らせてやるぜ!!」
その言葉を背に、僕らは部屋に向かった。
「なんであんなヤツに身を任せたんだ、ソーヤーにも」
切れている口を調べながら聞いた。
「上手かったからさ」
「何が」
「セックス」
「バカだ、リッキーは。そんな付き合い方もうするな」
「しねぇよ、フェルがいるから」
「ああ、そばにいてやる。友だちだからな」
『ママー あったかい』
――僕の温度に母を感じたのか?
――僕の鼓動を聞いて眠ったのか?
「フェル キス」
「しないよ、口切れてるだろ?」
「じゃ、抱きしめてくれよ」
「……いいよ」
僕は彼を横に座らせた。
「もう同じミスはしない。膝には乗せないからな」
「ああ、俺も膝に乗るたびにお前が死にかけんのはイヤだ」
減らず口を叩いている内に声が小さくなり始めた。前と同じ。手をギュッと握って僕の胸に耳を寄せる。
『ママー あったかい』
「フェル あったかいなぁ、お前」
「今日は寝るなよ」
「寝ない」
――くぅ……
そうなるたびに頬をつねった。
「痛ぇよ!」
「だから寝るなって。寝るならベッドに行け」
「一緒に寝る?」
また猫になってるよ、リッキー。舌なめずりするなって。僕にベッドに追いやられて彼は不貞腐れて寝た。ちゃんと寝息が聞こえてその横に立った。
――リッキー 自分を大切にしろよ
――母さんの夢、見れればいいな
『守る』、そう言ってくれた彼を僕は守ることに決めた。僕が守っていくよ、リッキー。
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