お前のものになりたいから

りふる

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11.切り裂かれる-1

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 車の揺れが結構頭に響くから、リッキーはとろとろと運転した。

「後ろで横になるか?」
「吐きそうだから止めとく」
気づかわしそうにリッキーが何度もこっちを見る。
「いいから運転に集中してくれよ。あまり乗ってないって言ってただろ? おっかなくってしょうがない」
たいがいリッキーは乗せてもらう専門で、大学の外でのセックスはドライバー付きだったという。
『疲れちまうから運転どころじゃなくなるのさ』

そんなリッキーがドライバーじゃ、病院に向かう途中で別の白い車で搬送される危険性もある。
「大丈夫、ちゃんとフェルのドライバーやるから」
今度は真剣に前を見て制限速度以下で走ってくれた。

「吐き気がするって、ヤバいんじゃねぇのか?」
「かもしんないけど、前はこんなことしょっちゅうだったからね。きっと心配ないよ」
「お前ってホントに喧嘩っ早いよな。あまり母さんを心配させんなよ」
「リッキー! まさか家に知らせたんじゃないよな!?」
「しねぇよ、なんて言えばいいんだよ! 俺のせいでそんな目に遭わせたなんてビリーにだって言えねぇ」

自分のせいだと思っているリッキーは、まるで加害者になったような顔してる。

「リッキーのせいじゃないよ、相手が悪いんだから。……僕もね。ダメなんだよ、ああなると周りが見えなくなるし叩きのめさずにいられない。高校の時はあんまり酷くて2回退学になってる。どうせシェリーに聞いてるんだろ?」
「聞いたけどさ。テッドの時も見たし。でも俺の知ってるフェルとあの怒りって、俺ん中じゃなんかしっくり来なくって」
「そう? 言ったじゃないか、ブロンクスじゃ」
「普通だったって言うんだろ? でもお前から感じるのはいつもあったかくって優しくって……」
「じゃ、僕は理想像から遠かった?」

 本音を言うとちょっとショックだった。リッキーは僕を何かの象徴として好きになったんだろうか。自分が欲しかったもの、自分に欠けてるものを僕から拾おうとして。

「ちょっと止めて」
 静かに車が止まった。リッキーこそうんと優しい。僕がこれ以上気持ち悪くならないようにとブレーキをそっと踏んでる。
 外に出ると息苦しさが取れた。

「どうした? やっぱ、気分悪い? しばらく休憩するか?」
「僕さ」
「なに?」
「リッキーの望むような人間じゃない」
「俺…なんか悪いこと言ったか?」
「そうじゃなくて。 勘違いしてんじゃないかって話、僕のこと。前に言ったろ? 僕は聖人君子じゃないって。多分、リッキーが最初に好きになった僕と実体とはかなり違うんだ」
「なに……俺、そういう意味で言ったんじゃねぇ……何言ってんだよ! 俺の言ってんのはそういうことじゃねぇよ! フェルはフェルだ。ただこうやって怪我するお前を見んのが耐えらんねぇんだ!」
「耐えられないなら……どうする? これからだってリッキーがなんかされそうになったら僕は何度でもリッキーの前に立つ。それが嫌なら仕方ないと思う。それでもいいよ。リッキーの前に立つことに変わりは無いから。別れようが何しようが、僕はリッキーを守っていくって自分に誓ってる」

リッキーの目が大きく見開いた。

「違う……違う、違う!」
「僕はもう、自分が離れたせいで相手が傷つくのを見るのはいやだ。だから誰を好きになっても構わない。そんなことじゃなくて、守り続けていきたいんだ」
「お前がせっかく大学に入ってそういうのから遠ざかってたのにまた暴力の世界に引き戻したのは俺だ。俺がいなきゃこんなことになってなかった……」

 僕らは……気持ちがすれ違ってる? お互いにこんなに相手を思ってるのに? リッキーを抱きしめると体が震えていた。

「リッキー…ほんとに今のこのままの僕を愛してくれてる?」
「当り前だろっ! 俺、言ったよな、惚れ直したって。お前は弱っちいやつじゃなかった。てっきり俺はお前を守って行かなきゃなんねぇんだと思ってたんだ。けどそんなことなかった。そして全部ひっくるめてフェルなんだ。確かに第一印象とはずいぶん違ったよ。俺は上っ面しか見てなかった。それでもこれだけは言える、俺の勘は外れちゃいなかった。お前を好きになって良かった」

 最初の頃……そうだった。リッキーが僕に告白した時何度も言っていた。
『守り切る』
そのために好きでもない相手にキスまでして……。

「僕は何を聞いてたんだろうな。リッキーは最初っから僕を愛し続けてくれてたんだよな。今さら何を心配してるんだろう」
抱きしめていた手が離れた。不安そうな顔が僕を見つめる。
「リッキー。僕も今のお前を愛してる」
 ちゃんと伝えておきたかった。リッキーの顔から張り詰めていたものが消えて顔が緩んで行った。涙がほろっと落ちる。

「俺……捨てられんのかと思った……」
「ごめん、僕がリッキーの言葉を捻じ曲げて聞いてしまったんだ」
「俺、言い方悪かったよ。理想とか勘違いとか、そういうんじゃねぇんだ。いろんな顔があるんだなって……あんまり意外すぎてあんな言葉になっちまったんだ」

 またほろっと涙が落ちる。僕はリッキーに寄りかかった。きっと心底寂しくなったに違いない。そんな思いをさせるなんて。


「不安にさせた、大丈夫だから、リッキーが、一人になるなんてこと無い、僕が、いるんだから」
「フェル?」
「ん?」

どうしたんだ? リッキーの声が反響する。
「なんか……お前、変だぞ。それになんで俺に寄りかかってんだ? おい!」
リッキーが慌てて僕の顔を見た。
「顔! 真っ青だ、フェル、車に乗れ!」
なんだか急に眠くなって僕は車に押し込められるのを感じてた

――あいしてる

そうもう一度言いたかったのに




 慌ただしい中で一際厳しい声が響いていた。

「すぐ救急車を呼ぶべきだったんだ。一度目の殴打の衝撃で彼はダメージを受けた。次に意識を失って倒れた。そして吐き気が出てまた気を失った。このまま死ぬことだってあるんだぞ」
「先生、意識が戻りました!」

「フェル!」

「君は外に出ていなさい。今彼が興奮すると取り返しのつかないことになる」

――そうか、今のはリッキーか  もう一人は、誰?

 声の主が僕に話しかけてるのが分かった。
「喋ったり動いたりしないで。しばらく様子を見るからね。MRIでは異常は見られなかったけど2度も気を失ったのは見過ごせない。入院してもらうよ」

聞いた声だ。

「あの時の……」
「しーっ、黙って。今鎮静剤を打つから眠れるよ。今日はもうゆっくり休んで」

――あのときのいしゃだ おぼれたときの




 またか……自分にがっかりだ。何度この白い部屋に世話になれば気が済むんだろう。

「起きた? 着替えとか持って来てあるの。置いとくね。リッキーは出入り禁止で廊下にいるわ。あの医者、なんであんなに彼を目の敵にしてるのかしら」
シェリーの声に動こうとして だめ!! ときつい声が飛んだ。
「動いちゃダメなの」
今度はシェリーの声が優しくなった。
「私がいけなかったわ、救急車呼ぶべきだった。ごめんね。リッキーじゃなくて私が怒られるべきなのに。あのね、思ったより深刻だったのよ。よっぽどジーナに連絡しようかと思っちゃった。しばらく大人しくしてれば大丈夫だって。じゃ、リッキーに目を覚ましたって言ってくるわね。彼、一晩中外に立ってたのよ、中に入れてもらえないから」
 ぼんやり思ったのは(シェリー、なんで優しいんだろう)ってことだった。
 そうか、リッキーがいるのか。(そばに来てほしい)そう思った。ほんの少しの距離にいるのに会えないなんて……。

「やあ、起きたって?」
あの医者の声だ。
「僕のこと、覚えてる?」
「ええ、ドクター」
頷こうとしたら頭が動かない。
「そうそう、今みたいに反射的に頭を動かしちゃうからね、予防のために固定させてもらったから。状態が安定したら外してあげるよ」
脈を取りながらニコッと笑う。
「それから先生はなし。セバスチャン、そう言っただろう?」
「あの、リッキーに会いたいんですけど。表にいるでしょう?」
「ああ、彼ね。ストライキ起こしたみたいに動かないよ。さすがに今は座ってるけど、夕べはずっと立ってたらしい」

今、鼻で笑わなかったか?

「なに? すぐに会いたい?」
「会いたいです」

眉を上げて、『しょうがないな』という顔で彼は僕を見た。『会わせろよ!』そう怒鳴りたいのを我慢。多分、ホントに会わせてもらえなくなる。セバスチャンが表に出て行った。

「フェル!」
「大声出すんならまた外に出てもらうよ。刺激するのもだめだ。会うのは5分だけ。守れたらまた明日もまた5分会わせてあげる。じゃ、5分間ごゆっくり」

 今日5分。明日5分。 僕もショックだけど、リッキーは完全に打ちのめされている。手は動くからリッキーの手を求めてさまよった。
「手、どこ?」
少し躊躇って手を握られた。頭が動かないんだ、顔が見えないよ。
「こんなこと、慣れてるなんて言うんじゃなかった」
笑ってくれるかと思ったら、見えたのは泣きそうな顔だった。

「泣くなよ」
「俺……」
「ちょっとここにお泊りだってさ。大袈裟だよな、このカッコもさ。見てくれ悪いだろ」
「おれ……」

力の入って来ない手をぎゅっと握った。ほら、握り返せよ。

「リッキー、頼みがあるんだ」
「なんだ? 俺に出来ること?」
「うん。キスして」

 泣きそうな顔に笑顔が乗っかった。なんて複雑な顔してんだか。お気に入りの黒髪がはらりとかかってきて、顔の周りにリッキーの匂いが漂う。ただ唇を合わせるだけのキス。でも、ほんのり嬉しくなった。

「嬉しい。ここにいる間、毎日キス届けに来てくれる?」
「来るよ、毎日。他に欲しいもんあるか?」
「お前の笑顔」

――くすっ 

やっと笑顔が出た。握った手に力が入って来た。

「なんで笑う?」
「フェル、俺のこと、『お前』って呼ぶようになった」
「それ、嬉しいの?」
「うん。すごく。フェルのもんになったような気がするから」
「じゃ、これからなるべくそう呼ぶようにする。けど、リッキーは物じゃない。僕のものだけど、リッキーはリッキーだから」

もう一度唇が近づいて来た。


「時間だよ」

冷酷非情な面会打ち切りの声。このヤロー……。

「明日、待ってる」
「分かった、必ず来るから」

出て行く間際までリッキーはこっちを見ていた。


「すいぶん名残押しそうだね。なに、君たちそんな仲なの?」
「答える必要あるとは思わないんですけど」
「悪かった、プライベートなことだったね。最初に来た女の子が彼女かと思ったもんだから」

ちょっと気持ちが悪い、こいつ。初めての時リッキーが言ったことを思い出した。
『俺はこういうことには勘が働くんだ』
最初は感じなかったけど、妙に大人でそのくせ粘着っぽい。

「ちょっとごめんね」
そう言って頭の固定具を確認してくる。その手が頬を掠めていった。
「どう? 今調整し直したから少し楽になったでしょ」
「ええ」
まだグズグズとそこに留まろうとしてるのが分かる。

「先生、最初の子、います? シェリーっていうんですけど」
「はっきりした子でしょ? 廊下にいるよ。さっきの子……君の彼だっけ? 彼と仲良さそうに喋ってるよ」

殴り倒したいよ、リッキー。なんなんだよ、こいつ。

「いろいろ頼むんで呼んでもらえますか」
「分かった、いいよ」

やっと出て行って、代わりにシェリーが入って来た。


「ね、リッキー、5分って言われたんだって?」
「そうなんだ」
「あの医者、ここの病院長の甥っ子だそうよ。顔悪くないけど、ナースの受けはかなり悪いわ。チラッと聞いちゃったんだけど、あんた、ここまで処置される必要ないらしいわよ」

 固定具を指差している。やっぱりシェリーはこういう時頼りになる。図々しいのが取り得だから。本人に言ったら怒るだろうけど。

「まさか目つけられたんじゃないでしょうね。リッキーも心配してた。どれくらい入院するのか聞いた?」
「しばらくって言われたよ」
「ふぅん。きちんと聞いておくのね。あと、こういう時はナースと仲良くなりなさいよ。これ、病院での鉄則ね」
「サンキュー、頼りになるよ、ホント」
「私は出来る子ですからね」
「自分で言う?」
「あのね! 私は笑っていいの。医者の制限なんかついてないから。でもあんたは笑っちゃダメ。そのせいで興奮なんかされちゃ、私まで面会禁止になるわよ」

慌てて笑いそうなのを堪えた。それは痛い。せめて悪友くらい来てくれなくちゃ。

「また情報仕入れたら教えてくれよ。これじゃなんにも出来やしない」
「焦れったいんでしょ。フェルは回遊魚だから」
「回遊魚?」
「動いてないと死んじゃう魚。サメとかマグロとか」

とうとう僕は魚にされてしまった。ため息が出るよ、まったく。

「医者を引き離すために私を呼んだんでしょ? もう帰るわ。あんた、もうちょっと寝なくっちゃ。あ、リッキーは面会時間許す限りこの部屋の前にいるって。その後は駐車場で車の中で寝るそうよ。泣かせるわね。大事にしてあげなきゃダメよ」
「シェリー、リッキーに無理させないでくれ」
「何言ってんのよ! こんな時無理しないでいつするの? 第一無理させてあげないと、後で本人が悔やむだけよ。逆だったらあんた、リッキーのために無理するでしょ?」

 言いたいだけ言ってさっさとシェリーは出て行った。まったくだ、シェリー。君は的を射てるよ。逆なら寮のベッドで大人しくなんか寝てられない。きっと医者を殴り倒してでもリッキーの手を離さない。
「ごめん、リッキー。だから心配するんだよな、すぐ暴力振るおうとするから」
 天井に向かって呟いた。また大人しくする練習をしなくちゃならない。


 さすがに不自然だと思ったのか、次の日には固定具が外された。首を動かせるようになって、どれだけストレスになっていたのかが分かった。

「いつ退院できますか?」
「そうだね、もう一度検査しておきたいんだ。頭って複雑だからね。脳震盪って怖くってね、パンチドランカーっているだろ? ああいう風になることもあるんだよ」
「検査、今日出来ますか?」
「明日だね。今日はもう一日様子を見よう。明日の検査で大丈夫なら帰っていいよ。普段健康だと、こういうところは辛いだろうね」
「立ち上がってもいいですか?」
「トイレはいいけど。まだ安静にしていて欲しい。病院の中で倒れられちゃ困るし」
「座ってるのは?」
「しょうがないなぁ。ちょっとの時間だけならいいよ。でも座りっぱなしはだめだ」
「ありがとう」
「どういたしまして。ちょっと脈見せてもらっていいかな」

断れるわけないじゃないか。でもこいつ、何回脈測る気だよ。


 リッキーは昼過ぎに来た。

「5分だけだからね」
わざわざ言いにきたセバスチャンに思わず毒づくところだった。でもそんな時間がもったいない。

「俺……」
「夕べ寝てないだろ」
「そんなことどうだっていいよ、何時に来ようか迷ったんだ。もっと早く会いたかったけどそしたら後残り、どうやって過ごしたら分かんなくなるから……でも我慢出来なくって来ちまった」

僕はリッキーを引っ張って首筋を引き寄せ、キスを強請った。
「喋ってる暇なんかない」
口付けだけで2分は使った。
「何とかあいつから時間をもぎ取るから。お前、ちょっとでも休んでくれよ。僕は寝てるだけなんだから」
「うん」
「ちゃんと食べるんだ」
「うん」
「携帯使えるように頼むから」
「うん」
涙が落ち続ける頬を撫でた。
「心配かけてばかりでごめんな」
リッキーが首を振ったところで声がかかった。

 「時間だから」
 携帯も時間延長も、経過次第としか言われなかった。にこやかな顔で『結果を見て考えよう』と、その一点張りだった。

『ナースと仲良くなれ』
 シェリーの言葉だけど、そのナースはなかなか現れなかった。脈も熱も血圧も測りに来るのは、全部このセバスチャン。いくら僕でもこれが意味することくらい分かる。リッキーの言った通り、コイツの目当ては僕だ。そうは言っても1日2日の辛抱だ。

 けれど夕食を持って来たのはナースだった。

「あの」
「はい?」
「ナースさんこの部屋でちゃんと見たの、入院以来初めてですよ。ここ、何でもドクターがするんですね」

口元に笑いが浮かんでる。

「特別な人にはね」
「特別?」
「ちょっとお喋りする? あの先生今寝てるから」
僕は椅子に手を振った。
「ありがと。シェリーって、彼女? 私たち、クッキーもらっちゃった」

シェリー、感謝!! 君って素敵だよ!

「友だちです、悪友ってやつ」
「ってことは、あの『黒髪の君』が恋人?」
「『黒髪の君』? リッキーですか? そうです、僕ら付き合ってるんです」

ここははっきり言っておいた方がいい。

「やっぱりね! あの様子、普通じゃないもの。私たち噂してたのよ。あの彼すてきね。エキゾチックな感じで」

そうだっけ? すてきなのは間違いないけどエキゾチック? 見慣れてるから分からない。

「何かあった時の連絡先、彼にしといて欲しいんだけど。えぇと…」
「リズ。私、リズっていうの」
「じゃ、リズ。お願いしていい? たいしたことないから万一なんて無いんだろうけど」
「構わないわよ。何かあったらあの子に知らせる。どうせ表にずっといるんだしね。そうね、あなたの場合、何かあるかもしれないし」
「どういう意味?」

リズは慌てて口を塞いだ。

「もう行くわ。あまりあれこれ言っちゃまずいのよ。何も無いかもしれないし」

 妙なことを言ってリズが出て行ったからなんだか不安になる。夕食はしっかり食べることが出来たし、僕には入院してる意味が分からなかった。



 眠れない……。動かないからだろう、全然眠れない。せめて本でもあればいいのに。退屈過ぎる。よっぽど筋トレでもしようか、なんて思った時小さなノックがあった。僕はてっきり、リッキーが忍び込んで来たのかと思った。

「やぁ、やっぱり起きてたね。眠れないんだろう」

残念、セバスチャンだ。

「当直なんですか?」
「そうなんだ。デートしたいから替わってくれって言われちゃってさ、僕だっていろいろ用があるのに困っちゃうよ」
まるで友だち感覚に喋るのに閉口してしまう。
「ところでどこか痛くない? 変わり無いかな」
「無いです」
「そうか、元気になって良かった! きっと明日の検査が終われば退院できるよ。この間脳震盪を起こして担ぎ込まれた人が亡くなったから、病院としても慎重にならざるを得ないんだ」
そう言って席を立った。
「じゃ、ゆっくり寝て」

 意外とあっさり帰ったからホッとした。明日には退院だし。リッキーだってきっと疲れてるはずだ。

 少し経って、ナースが巡回してきた。リズだった。

「あらあら、眠れないの? お薬でも持って来ようか?」
「いいです、明日には退院だし。やっと帰れる」
「そう、良かったわね。……あの先生、来なかった?」
「セバスチャン? さっき来たけど。でも退院だって言ったのはあの先生だし」
「それなら安心ね! 後でまた覗きに来るわ。それで寝てなかったらお薬あげる」

 リズのおかげでリラックス出来た。明日の夜にはリッキーと一緒だ。
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