お前のものになりたいから

SODA HANA

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18.絶頂と奈落の底-2

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 飲んで、騒いで、喋って。リッキーには初めての、自分のためのダンスパーティー。何度もこっちを振り返り誰かが僕に貼り付いていないか確かめる。振り返る度に舞う髪は、瞳は僕のものだ。少しずつその表情が柔らかくなっていく。

「シェリーと双子って、どんな感じ?」
「お前が想像してみろよ。そんな感じだ」
それだけで相手はブルってしまう。
「誰も知らなかったのか?」
「リッキー以外はね」

 他にもたくさん質問してくるから、質問はマネジメントしてるロジャーに、と全部そっちに回した。いつの間にか、『広報担当』から『マネージャー』へと格上げされたロジャーも僕らに質問したがってたけど。

 シェリーが男と一緒にいたのを気に食わなかったソロリティのメンバーも、双子だと知って表情が柔らかくなった。
『これからは私たちがあなた達を守ってあげる!』
 シェリーの親衛隊が宣言したから男たちは諦め顔になっていった。それをかいくぐってリッキーに辿り着くのはさぞ大変だろう。最後の関門は僕だし。


 シェリーがステージに上がった。呼ばれて僕らも上った。
「さて! プレゼントの時間よ。チキン、上がってきて!」
チキンが大きな帽子を静々と掲げて上がってきた。
「この会場全員のジャンケンで、彼が勝ち残ったの。この栄誉ある贈呈役をね」

「リッキー、フェル、僕嬉しいよ! これをあなたたちに捧げます」

受け取った帽子はずっしりと重かった。僕はまたリッキーと目を見合わせた。

「チキン、これって……?」
「みんなのカンパだよ、結婚式のための」
「え!?」
「ここに来れなかった人からも入ってる。僕たち、君らに素敵な結婚式を挙げてほしいんだ」

 シェリーが会場に呼びかけた。

「みんな、趣旨に賛同してくれてありがとうね! ロイ! あんた稼いでんだからもちろんたっくさんカンパしてくれたわよね。フェルからも相当巻きあげたでしょ?」
「みんなの倍は入れたよ。敵わないなぁ…… リッキー、フェル、俺、もうなんにも根に持ってないからさ。だから結婚式にも招待してくれよ。こうなったら最後まで見届けたい」
「ロイ……もちろんだよ! ありがとう……」
彼との間にしこりがなくなったのは僕も嬉しい。

 リッキーがシェリーの掴んでいるマイクを脇から取った。

「ありがとう……俺……こんななのに……みんなにヤな思いもさせたと思うのに……俺なんか……なのにみんな祝ってくれて……おめでとうって……俺なんかに………」

後の言葉が続かない。僕の胸で泣き続けるリッキーに会場もシンとしてしまった。みんなの目が温かい……

「ごめん、みんな。こいつ、泣き虫なんだ。すぐ泣いちゃうんだ。だから最後まで言えないけど……」
「いいよ!」
「充分伝わったよ!!」
「幸せになってね!!」
「良かったな、リッキー!」

たくさんの声を受け取って、リッキーは尚も泣き続けた。

「えと……ね、リッキー、もう大丈夫かな?」
さすがに、シェリーが優しい。
「もう一つあるのよ、プレゼント」
「いや、これ以上はもう充分だよ」
「あら、これはあんた達が泣いて喜ぶものだと思うけど」

そう言うと、赤い小箱を渡してきた。何とか泣き止んだリッキーにそれを開けさせた。

「鍵……シェリー、なんの鍵?」
「それはあんたたちの新居の鍵よ」
「新居? え? アパートかなんか?」
にこっと笑ってシェリーがこの大きな寮を指差した。
「ここ! もういつでも入れるからすぐに引っ越しちゃいなさい! みんな、手が空いてる人は引越手伝ったげてね」
「シェリー! だって空きは無いって……」
「そ! 普通の寮はね。でもね、ここは『 夫婦寮 』なの! ホントは結婚証明書にサインしてからなんだけど、正式な婚約式をしたら入ってもいいって言ってもらえたの」

 だから婚約式だったのか……言葉の出ない僕の代りにリッキーがシェリーに跳びついた。

「シェリー! 愛してる! ありがとう! 大好きだ、姉ちゃん!」
いつもの皮肉っぽい言葉は出なかった。
「リッキー。私もあんたが大好きよ。いい弟が二人になったわ。仲良くやっていきましょうね。喜んでくれて嬉しいわ」
ぽたん と一つ涙が落ちた。僕はその頬に小さなキスをした。
「僕も愛してるよ、シェリー。君と双子で本当に良かった」
 会場からたくさんの拍手をもらって、またリッキーとありがとうを言った。何度も。何度も。感謝でいっぱいだったから。


 パーティーが終わった。リッキーはチキンたちと喋ってる。

「シェリー、本当にありがとう。感謝しきれないくらいだよ。昨日別れてから計画したんだろ? いつも驚かされるけど、今日は特別驚いたよ」
「たまたま聞いたのを思い出したのよ、ここが一室空いてるって。手続きがあるけどそんなのどうにでもなるし。私に借りがあるからね、ここの寮長も監督のスタッフも」

 相変わらずだ、シェリー、ここに在り!

「あんたがね、私の事知ってたってこと……結構しんどかったのよ」
「しんどかった?」
「うん……いつから知ってたのか……聞きたくない。だから言わないでね。自分の体の半分なんだって、だからお姉ちゃんだから守らなくちゃって。そう思って来たの。だから頑張って来れたのよ。私がこうしてるのはあんたのお蔭でもあるの。ずっと悪友でいようって決めてた」

 分かってたよ、シェリー。僕のためにここまで一緒にいてくれた。

「あんたがレイプされた時……私死ぬほど後悔した。リッキーも自分を責めてたけど、私も同じ。あいつを探したわ。切り刻んでやりたかった。でも見つからなかった……ごめんね、いつも後からなんだ、私って。後手後手に回っちゃう……アルとあんたの喧嘩の時も間に合わなかった。……ごめん、変な話ばかりしてるね」

「シェリー」
彼女の頭を抱き寄せた。
「どうした? 酔っ払っちゃった?」
「んふっ、そうかもね。今日はたくさん飲んじゃった。あんた、何もかも我慢する子だから守りたかったの。姉がそばにいたのに役に立たなかった……そう思われちゃったかな? なんてね、あんたはそんなこと思う子じゃないのに。でもそんなこと考えちゃってしんどかったの」
「シェリー、聞いて。僕はずっといい姉がいて幸せだって思ってきたよ。いつも助けてもらった。支えてもらった。僕もリッキーも本当にシェリーが好きだよ……おっかないけどね」

シェリーから笑い声が漏れた。

「シェリーがリッキーに言ってくれた通りだよ。仲良くやっていこう。しんどくなんかならないで。そばにいてくれてありがとう」

 シェリーの泣くの、これで何度目だろう。大事にしていきたい、シェリーのことも。



『今夜からもう部屋に入れる』
そう聞いたからパーティーが終わった後、僕はリッキーと一緒に鍵を開けてみた。

「すごっ!」

 前の部屋の2倍はある……中のドアが開け放たれていて寝室が見えた。デカいベッドが一つある。なんだかこっちが恥ずかしい。

「夫婦寮があるなんて知ってた?」
「いや、知らなかった……っていうか、僕はあんまり情報通じゃないからね。ロジャーの垂れ流しニュースしか聞いてないんだ」
「あ、それね、頼んだよ。生活に役立ちそうな情報もくれって」
「リッキー……あんまり所帯じみるなよ。まだ早いよ」

 リッキーが部屋に入ろうとしたから、思わず腕を掴んだ。
「なんだよ、中入ってみてぇよ」
「入るさ。こうやってな」

リッキーを抱き上げた。急に体が浮いたから僕の首に両手が回る。その頬にキスを落として、部屋に入った。

「な? 再スタートなんだからちゃんとやろう。卒業までこの部屋だね。新婚生活もここだ。二人で楽しもうな」
「俺、嬉しいんだ、すごく……シェリーにいっぱい感謝しなくっちゃ……そして、お前にもだ。俺をあの地獄みたいな毎日から救い出してくれた。もう、俺、今は生きてる。全部終わったんだな。俺、幸せだ」

 首にかかる息が熱かった。どちらともなく相手の口を塞いだ。互いの唇を食んで、幾度も幾度もキスを繰り返した。唇をつけたままそっとリッキーを下ろす。

 リッキーの腰を抱くと軽く僕を押しながら歩くから、僕はそのまま後ろに下がって行った。ドアに背をつける頃にはリッキーの舌ともつれるような口づけになっていた。どんどん息が荒くなっていく。

――かちゃり

リッキーがドアの鍵を閉めた。僕はまた抱き上げて、真新しいベッドへと運んでいった。

 外の灯りで充分だった。ドレスシャツの裾がめくれてリッキーの肌が見えていた。そこからそっと手を忍ばせる。もう、息を詰めて僕の手を待っている。胸に辿り着いて指先で突起を撫でた。

 は…… ぁ

こんな愛撫だけで目を閉じていくリッキー…… すごく素直に快感の波に乗っていく。

 きっと誰もこんなに綺麗なんだって知らない。たくさんの男に抱かれて来たんだろうに、まるで初めてかのような姿をいつも僕に見せる。そうだ、知ってるのは僕だけ。お前がこんなに健気で儚げで、そして清らかなんだってことを知ってるのは僕だけなんだ。

 一つ 一つ ボタンを外していく。一つのボタンに 一つのキス。ああ 欲しくて堪らないのに、ボタンの数だけ我慢する。

 一つ分ずつ肌が広がる。胸のボタンが全部外れて、手を持ち上げた。淑女にするように手の甲にキスして、指を含んで、指の間を嘗めて、手首のボタンを外す。指だけを愛撫してるのに体が震えていく。もう片方の手も同じように外していった。ドレスを上にめくりながら僕は肌を嘗め上げる。

 舌が滑る…… 胸で止まる…… また上に上がる……首を唇で這う時にはリッキーをほとんど脱がしていた。残った袖を引き抜きながら首から耳の後ろへと味わっていく。手はパンツの中に入り込んでボクサーを抜けてリッキーを握った。それだけで ぅっ と呻く声がした。

「正式に申し込んでなかった」

耳元で囁く。

「僕と結婚してください。Yes と言って」
リッキーの目が開いた。僕の首を引き寄せて唇をついばむ。
「リッキー、どうかへんじを……」

キスするばかりで答えてくれない。

「りっ…… どうか Yes を……」
その口をまた塞がれて……

 返事がほしい  ちゃんと返事がほしいんだ、リッキー
 僕に 結婚する許可をくれ
 お前の 配偶者になる 権利をくれ……


「へんじ……を……」

 リッキーの両膝が立った。僕は少しでも早く返事が欲しくてすぐに脱がせた。とっくに濡れて後ろまで滴っている……優しく指を潜らせて、喘がせながら何度も返事を強請った。甘やかな声を出すばかりで返事が無い……

――お願いだ……許可を……

「ふぇる……きて………」

求められるままに入っていく僕。
 あ !  ぅぐ…… ぁ  ぁ……
性急に動く僕の腰に絡みついてくる足……深く入るためにぐっとその膝を押して覆いかぶさった。
 ああ……くっ…… ふぇ……   あぅ は…… 
小さく首を振るから髪が乱れて頬にかかる……なんて誘い方するんだよ、これじゃ、これじゃ返事をもらえない……なのに僕はリッキーを追い上げた、一番奥へ 奥へ 奥へ……

 弾ける前に外に出ようとした。リッキーの手が僕の腰を引き寄せる。

――Yes

僕はその答えを聞きながらリッキーの中で果てた……




「呆れるなぁ……婚約式の服のままで朝帰りか? まったく……」

次の朝、タイラーに迎えを頼んだ。こんなこと、誰にも頼めやしない……

「ごめん……きみにしか頼めなくて……」
「リッキーのダンナじゃなかったら断ってるよ」
「ごめん……」

謝り倒すしかない僕に、とうとうタイラーが吹き出した。

「な! いつ引っ越すんだ? 今日と明日なら俺、手が空いてるぜ。早い方がいいんだろ?」
「ホント? いい?」
「リッキー……あのさ! 自覚無いだろうけど色っぽ過ぎるから。前、遠目で見てた頃のリッキーってちょっと危ない感じがしてさ、それで近寄り難かったんだけど。フェルといるようになって、どんどん変わっちゃったよな」
「どんな風に?」

バックミラーでちらっと後ろを見て、タイラーは慌てて目を前に戻した。

「なんかさ、その辺の女よりよっぽど聖女って感じ。で、やけに声とか仕草が艶っぽいんだよ。フェル、大変だな。しっかり守っていけるのか?」
「勘弁してくれよ……僕はリッキーに弱いんだ。プロポーズに『Yes』もらうのにどれだけかかったか」
「つまり、もう尻にひかれてるってことだな」


タイラーに高笑いされてるうちに寮についた。

「じゃ、本格的な手伝いは明日でいいんだな? 今日は何もしなくていいのか?」
「フェル、買い物したい。ベッドカバーとかさ、新しいのがいい」
「買い物? じゃ、車乗っけてやるよ。シャワー浴びて着替えて来いよ。今から出れば午後ゆっくり明日の準備が出来るだろ?」
「君って……いいやつだなぁ。気配り凄すぎるよ。なんでモテないんだよ」

タイラーがじろっと僕を見たから、まずいっ! と慌てた。

「フェル! タイラー、もうとっくに結婚してんだぞ」
「え?」
「ああ、その……子ども先に出来ちゃってさ。俺んちで育ててるんだよ。だから休みには帰るんだ」
「そうなんだ……びっくりしたよ! 子ども、いくつ?」
「3つ」
「幾つん時の子だよ!!」
「俺が17、彼女が18の時。俺も驚いたんだから」


 シャワーを急いで済ませて外に出ると、そこにはシェリーも来ていた。
「新居のための買い物だって? 私も行っていい?」
 リッキーが喜んで、みんなでワイワイと車に乗った。お喋りに花が咲いて、楽しいドライブ。ショッピングモールの入り口で下ろしてもらって、タイラーは駐車場に向かった。のんびりぶらつきながら僕はリッキーに昨日の恨み言を言っていた。

「なんですぐに『Yes』って言ってくんなかったのさ!」
「だって勿体ねぇだろ? あんなに『Please』って言ってくれるの、そうそう無ぇし。俺ばっか『Please』って言ってる」
「por  faver ?」
「……そうだよ」
「あの言葉、僕は好きだよ。あっちで言ってよ」
「約束できねぇよ!」
「ああ! あんたたちのバカバカしい話、いつまで聞かなきゃなんないのかしら!」
「シェリーの前なら何話してもいい気がする」

リッキーの言葉に笑い転げるシェリー。


 くだらない話をしているうちにタイラーが歩いてくるのが見えた。リッキーが走っていく。僕は立ってそれを眺めていた、手を振りながら。僕の前にはシェリーがいて。

 笑顔で振り返ったシェリーが、僕の後ろを見て硬直した。

「久しぶりだねぇ。ここで会えるとは思わなかったよ。元気にしてたかい?」

 首に息がかかる 
 首を ざらりと舐めあげられた

 おぞましい 声を 聞いた
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