いたわり

雪乃

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帰郷

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寂れた町だと思った。
久野圭介(くの けいすけ)は家のみっちり詰まった住宅街を見渡して、ため息をつく。ここに彼女が来たのは本当だろうかと疑わしく感じるも、五年前にLINEを消した圭介にはこの町しか手がかりは無い。

「あの」
「はい。なんでしょう?」
18から20代の若者がほとんど消えたこの町では暇を持て余した住民の溜まり場になっているというのは本当だった。「憩いの家」で催し物の途中だったのか、机を囲んでいた集団のひとりが対応してくれていると同時に、その後ろから無数の物珍しそうな視線が浴びせられる。
「木下さんって今いらっしゃいますか」
その言葉を言い終わらないうちに場が凍りついた。何か、言ってはいけないようなことを彼女はしてしまったのだろうか。
「あんた、知らんのか」
後ろから見ているだけだった男のひとりが立ち上がってこちらへ寄ってくる。50代の男にしては、加齢臭がきつい。
「木下さんなあ、殺されたんやぞ」
「そんなこと言いなや!」
「けど、ほんまやろうが。」
圭介の対応をしてくれた女性とのやや訛った会話が突き刺さる。木下が殺された?
だらだらと油のような汗が滴る。
「……それ、本当に殺されたんですか」
「そうや。新聞、地域だけのやつやが、それにも出てた。警察も言うとる。」
「そう、ですか。当時の新聞って」
「もう無い、そんなん見たくもないんや。」
それだけかと一瞥した男は踵を返し、やがて圭介に見向きもしなくなった。

「憩いの家」を後にした圭介は途方に暮れた。木下が殺されたのだとしたら、家に帰っても意味なんてないだろう。本当は自分の実家に顔を出して、ついでに彼女を尋ねようと考えていたのだ。父も母も木下のことは知らないから、もし殺人についての新聞記事を読んだとしても当日の夜か翌日には捨てているだろう。
いっそ、近所の人に根掘り葉掘り聞いてみるか。いや、そんなことをして不審がられるのは圭介自身ではない。圭介の親だ。

この町は閉鎖的な社会で出来ていた。子が何かをやらかしてしまえば責任と批評はすべて親に行く。幼いながらにその構造が見えてしまった圭介は出来る限りの努力をした。かつて「憩いの家」で行われていた子ども会には積極的に参加して、親同士がコミュニティを築きやすいようにたくさんの人へ話しかけたりもした。その中の一人が木下だった。

初めて見た木下は、教室の片隅でぼうっと何かを見つめていた。何を見ていたのか尋ねれば「何も」としか答えてくれなかったが。
何を考えているのか分からない木下が疎ましかったと言えば嘘になる。突然ふでばこを投げつけたり、授業中に椅子から液体のように滑り落ちる様は滑稽としか例えようがない。
けれど、人並みに会話のできる奴ではあった。
「俺ね、エヴァンゲリオンすきなんだ」
「へー、メカ?」
「ちがうよ!エヴァは、メカじゃない。」
「じゃあ、ロボット?」
それも違う、と熱弁した幼い会話は今でも染み付いている。好きなものの話をただじっと聞いてくれたのは、木下だけだった。
それだけで少し気になってこの町に来るのも、とんだ暇人だろうな。
いや、厳密に言うとそれだけじゃなかった。
木下が見違えて綺麗になっていたからだ。
SNSで友達から回されたウェディングドレスの木下は、中学の頃に祭りで見かけた芋っぽい姿とは大きく見違えていた。驚いたまま、圭介の目は画像から離れることはなかった。

ただの下心みたいなものだろうか。だけど、そんな木下が、どうして。
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