2人分生きる世界

晴屋想華

文字の大きさ
上 下
5 / 25
第1章 無法

岬と優奈

しおりを挟む
 「綾人!待って綾人!」

「どうした岬!」
「え?」
「え?じゃねえよ!」
「あ、いやなんか変な夢見てたみたい。大丈夫だよ、ごめんごめん」
「大丈夫なら良いけど、今日出かけられそうか?」
「うん!もちろん」

 何か悲しい夢を見ていた気がするけど、思い出せないや。ま、せっかくの休みだし、忘れよう。

「よし、買い物行くか!」
「うん!」

 私は、綾人のことが大好き。綾人と一緒にいられて、本当に幸せ。自分で言うのもなんだが、こんな良い彼氏はなかなかいないと思っている。

「今日はちょっと寒いなー、大丈夫か?」
「大丈夫じゃないって言ったらぎゅーしてくれる?」
「はあ、まったく岬は……」
「ね?ぎゅーー」
「分かった分かった。ほら、おいで」
「ふふっ」

 綾人は少しツンデレだけど、最後は私に甘々なのです。こないだの誕生日サプライズも嬉しすぎて幸せだったなー。

 最近、もう1つの私の人生の方でも、新しい友達ができるという嬉しい出来事があった!私は、その子といるとなんだか目が離せなくなり、自然と一緒にいたいと思う感覚がある。まあ、いわゆる綾人を女の子にした感じというかなんというか。
 綾人はよく、こっちの自分の方が自分って感じがするんだーと言っている。それは私も少し感じる時があって、私も岬でいる時の方が自分って感じがする。でも、最近その感覚が少しずつ変わってきていて、優奈でいる時もちゃんと自分って感じがするようになってきた。それは、大切な人があっちの人生でもできたからなのかな。

「やっぱお家デートには、オレンジジュースにポテチにチョコー!」
「もー綾人買いすぎー!」
「いやいや!岬の方が買ってるだろ!」
「そ、そんなことないし~!」

 なんだかんだ買い物も終わり、家へと帰る。

「買い出し終わったし、お家パーティーの準備完了!」
「だな!今日は思いっきりゆっくりしような」
「うん!オレンジジュース飲む人ー?」
「はーい!」
「ほんと綾人はオレンジジュース好きだね」
「おう!俺のソウルドリンクだからな!」
「何それ~。まったりと言えばお菓子にジュースにテレビだね。テレビ付けまーす」

 テレビであるニュースが流れた。

「昨日、女子高生が眠ったまま命を落とすという事件がありました。ここ数日、相次いでそのような事態が起こっています。もう1つの人生で帰るのを拒否したのか、帰れない何かが起こったのかは未だ不明ですが、警察は調べを進めているようです。(ニュースキャスターの声)」

 最近、もう1つの人生でも、怖いニュースが続いている。女子高生が攫われ、その全員がその後行方不明になっているという事件だ。もしかすると、その事件の被害者がこっちの人生でずっと眠ったままになり、そのまま時間が経ちすぎて、亡くなったのか。でもその場合、あちら側で生きた状態で何らかの方法で眠らされているという可能性が高い。それならまだもう1つの人生の方は望みがあるかもだけど。でも、こちら側の人生で亡くなったことを確認した後にあちら側の方も殺すという可能性も高い。

「怖いね……」
「ああ、岬も気をつけろよ」
「私は大丈夫よ!空手得意だもの!」
「ははっ確かにな!でも、油断は禁物だぞ?」
「うん!それより……イチャイチャしよ?」
「イチャイチャしたいの?」
「うん!」
「そんなに直球に言われると、なんか照れるな……」
「綾人くん照れちゃったの?も~可愛いな~」
 イチャイチャイチャイチャ。

 私と綾人は、まだ高校2年生で、付き合って1年程。でも、綾人といるとずっと昔から一緒にいるんじゃないかと感じるくらい落ち着くし、すごくキュンキュンする。できることなら早く結婚したいくらい。
 でも、綾人はどう思っているのかな。私のこと、本当に好き、だよね?

 私のもう1つの人生の優奈に、最近千郷という友達ができた。千郷、どことなく綾人に似てるのよね。もしかして、綾人だったりして。それはさすがにないか。でも、好きなものとかも似てる気がするのよねー。綾人のもう1つの人生ってたぶん女性なのよね。それをなぜか綾人は私に隠してるけど。私は何も気にしないのに。逆にどちらの気持ちも分かる彼氏とか最高って感じなのになー。でも無理やり聞き出すのも違うし、本人から言ってこない限りはそこに干渉するつもりはない。綾人が嫌がることはしたくないもの。
 でも、この世界では、もう1つの人生の性別によって、態度を変える人がいるのが現実。男女の人生を歩んでいる人に対して、「気持ち悪い」と平気で言う人がいる。そういう思考になることさえ一切理解できない。理解したくもないし。

 
 綾人が男女の人生を歩んでいることを私に言わないのもあの出来事があったからなのだと思う。私と綾人が付き合い始めの頃の話。

「あーやと!おはよう!」
「岬おはよう」
「あっついねー!カフェ行こー!」
「うん、そうしようか」

「いらっしゃいませー!こちらのお席へどうぞ」
「ありがとうございます」
「アイスコーヒーとオレンジジュース1つお願いしまーす」
「かしこまりました」
「岬、俺まだ何も言ってないけど?」
「え、だってオレンジジュースでしょ?」
「まあ、そうなんですけどね?」

 隣の席の人の会話が聞こえてきた。

「聞いてよー。私の友達の彼氏がさー。なんと、男女の人生だったらしくさ、キモくない?」
「え、まじ?じゃあ女の子の色々を知っていて、それでいて普通に彼女には男として接してたってこと?」
「うん。その私の友達も友達でさ、ちょっと驚いたけど、やっぱり好きなんだよねーとか言ってて。どっちもキモキモカップルだったって感じー」 
「へえー。似た者同士どうぞご勝手にーって感じだねー」

「なんかえぐい話してるね(小声)」
「……」
「綾人?」
「え、あ、ごめんごめん。だな」
「あんな言い方ひどいよね。別に関係ないじゃんかねそんなの」
「……」
「って綾人ー!聞いてるー?」
「え?あ、ごめん、聞いてなかったです」
「もー大丈夫?オレンジジュース飲み過ぎたー?お腹痛いとか?」
「いや、大丈夫だよ」
「むー。あ!私、映画見たいんだった!カフェ出て、映画館行こ!」
「え、でもまだ飲み終わってな」
「良いの良いの!行こ!」
「お、おうー」

 綾人が私に言えないのはこんなことがあったからかなー。こういう世の中嫌よねー。変える方法ないのかなー。ま、簡単に見つかればもう変わってるか。でも、みんなが少しでも生きやすい世の中になれば良いな。






しおりを挟む

処理中です...