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第九章 王国の異変
この面子はおかしい
しおりを挟む腰を抜かし蒼白な顔であわあわと狼狽している二人を般若の顔したハイデさんが「ここからは大人のお時間です」とニタリ闇を含んだ笑顔で二人組の首根っこ掴んで立っていた。怖っ!
‥…この二人生きてここから出られるの?
ギルガはギルガで、ステルスモードをオフ。
チラッと義兄を見て、刀を見て、またチラッと義兄を見て刀を…と謎の行動を繰り返す。お目目を無駄にキラキラ輝かせて。
えっ? 今度は何なの?
「お、お嬢様の兄君であられる‥‥貴方様が‥‥その手にある武器は‥‥噂で耳にしておりましたが実際目の当たりにすると太刀の凄さを全身で感じます。あの閃光の一太刀! 私には残像しか見えませんでしたが実に素晴らしい!」
驚嘆かよ。
恍惚の目で語り出したギルガがキモイ。
もうねえ、どこから突っ込んでいいのやら。
先ず、義兄の手にしているソレ。見覚えのある形のソレ。
もしかしなくても片刃で曲刀なフォームって、ソレ日本刀じゃねーか!
この世界、王国と帝国は諸刃の剣で直剣が主流だから日本刀はない。
どうして持ってんの?!
帯剣していなかった義兄がどこから取り出したのか謎が深まるが、刃先を下に向けて佇む姿はちょっぴりストイックな雰囲気で格好いいよな~おい。
死神がサムライにジョブチェンジだよ。
俺達の意識は義兄の刀に持ってかれたまま。
だって義兄が達人技っぽい剣捌きを披露してくるとは思わなかったのだ。
興奮と好奇心とちょこっと試し斬りさせて欲しい誘惑と格闘で忙しない俺の心。
でもさ~刀って、分厚い木板を一太刀で両断出来るものなの?
厚み10㎝ぐらいあるよね? スパって切れるものなの?
ねえねえ‥‥それって誰でも出来るの?
俺も出来るかなぁ?
ソワソワワクワクが止まらない俺達は目下の目的を忘れ、刀‥‥ギルガにしてみれば義兄自身も興味の対象らしくジェフリーも一緒になって…魅了されていた。
あ、ジェフリーってのはもう一人のフード男ね。名乗る機会失ってまして。と明るい声で言われた。
「やはり情報通りの技量と剣でした。まさかこのような場所で目の当たりにするとは…感無量です。‥…ですがここでその剣を披露されたと‥‥ふっ今は良いでしょう。それよりも証拠隠滅が先です」
と、物騒この上ない発言をかますギルガはもう帝国軍人の顔つきだ。
何とも切り替えの早い男ではないか。
‥‥でも待って! 待ってよ! 証拠隠滅? それって‥…
俺のガクブルさを感じ取ったギルガは慌てて「食卓! 真っ二つな食卓です、消すのは。私は頭脳派なので血生臭い方法は門外漢ですよ~そんなに怯えないで下さい‥‥貴女のお兄様が私を‥‥その、ものごっつう睨んでくるので勘弁して下さいお願いします‥…」
語尾が低姿勢のギルガに流石の俺も気の毒に思う。何かゴメン。
「ウッホン! えー後始末にお時間頂きたく。宜しいでしょうかお嬢様」
「‥‥」コクン。頷くだけでいいだろ…‥
ギルガは手慣れているのか亭主に上階の部屋を二部屋借り、一部屋に俺と義兄、もう一部屋を後始末組としてハイデさんとジェフリーに二人組を任せた。
俺としては後始末の方法が気になっちゃって。多分、顔に書いていたのだろう。
ジェフリーが俺を安心させようと優しい微笑で「ご安心ください私は精神干渉が得意です! ハイデは薬物のエキスパート。一日二日程度の記憶、すっ飛ばしますので!」菩薩のような微笑にそぐわない鬼畜の仕業を話された。
はぁ?! 安心できねー!
ねえ、義兄を筆頭にハイデさんやジェフリーって、おかしくない?
母さん、どうしてこの群れに俺を放り込んだの?!
大人のお時間が済むまで俺と義兄は割り当てられた一部屋で二人きり‥‥?
こ、怖っ! 義兄と二人っきりなんて地獄見るんじゃね?!
且つてない程の恐怖にぶるっちゃう俺は、け、決して意気地なしじゃない!
死神な義兄が悪いんだ!
心で涙する俺の声が聞こえたのか。
「未婚の男女が二人きりは不味いです。若様ご了承下さい」女神の声。おお神はいた!
ありがとう、お姉様。
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