転生先は小説の‥…。

kei

文字の大きさ
276 / 365
第十二章 分水嶺

② 

しおりを挟む
素材をこねくり回して調合師の気分を満喫した俺の機嫌はめちゃくちゃ良い。なのに義兄の恐ろしい予想で気分は急降下。うん、地の底に沈んだわ。

こういうの慣れてないんだよね、だから考えもしなかったよ。はぁ‥‥。



「まさかお義祖父様がこのような暴挙‥‥コホン、無謀‥‥ン、‥‥ガザに聞いたお義祖父様の動向では帝国から動けないと思っていました。予想を裏切られましたね。このままでは私の計画に支障が出ます。余り情報を漏らしたくはなかったのですが、仕方ありませんね」
「‥‥? お義兄様、計画って何です? 教えて下さい」

サラリと教えてくれたのは良いが『これは軌道修正が必要か、面倒な』と不満を滲ませる低音の呟きは聞こえなかったことにしよう。


「お義祖父様と情報を擦り合わせないと不味いね、こちらの計画も打ち明け協力を仰がないといけないかな? 兎に角、話し合う時間を設けて頂かないとね」

計画の邪魔になるかどうかを知りたいんだね。ちょっと義兄のうんざりなその気持ち、わかる。折角のプラン、おジャンは嫌だよ。




義兄予報。回収役の者が現れる日を思索している。

「お義兄様の予想ではいつ頃だと思います?」
「予想外のお義祖父様の行動が原因で、恐らく早まると思う。そうだね、早くて今夜あたり? 遅くとも二,三日後かな?」
「ぶっ?! そ、そんな急に?! 大丈夫なの?」
「ふふ、手は打ってあるよ」


俺達が何の話をしているかというと。
帝国人の拉致被害を王国に苦情を言いに(?)皇子ご一行様がやってきたのだ。まあ、主目的は別だがこれも会談内容に含まれているとみていい。そうなると困るのは王国側だろうね。証拠がクリスフォード(元王子)の邸で監禁されてんだもの。しかもお祖父ちゃんがバッチシ証拠を掴みに来た。

‥‥うわーこれだけ聞いたら嵐の予感しかしないわ。



ランチェスター側は十中八九証拠を奪還回収に来るよね。その来襲時期を予想してたの。





抑々この予想はランチェスターが誰に近い人物かと考察した上で立てている。

えっ? ヴォルグフ達の出荷予定日が近日じゃないのを何故わかったかって? 

それは、邸の使用人の証言で判明した。捕縛された男が事前に当分厄介になると言っていたのとヴォルグフ達の体調があまり宜しくないのもあってと聞いていたのだ。この男がヴォルグフ達と共に行動していたのを目撃されていたので、犯人の一味と判断され軍部に連行と暗い未来が約束されている。うん、ゲロっちゃたら助かるかもよ?





はてさて、ランチェスターは王族に連なる人物か、または陛下や三公、主幹家臣とどこかに繋がりを持つ人物ではないかとみている。皇子ご一行様の訪問が相手を刺激したと仮定して話をしていたのだ。





「お義兄様、それとどう関係がるの?」

「レティ、クリスフォードはもともと監視付きでこの領地に封られたよね? 王子の立場にありながら国益を損ねた愚か者に対する処罰が、王国を食い物にする輩を誘き寄せる囮役が与えられた役割と聞いたよね。なのに監視者も不在、隷属の契約魔法で縛られた上で犯罪行為に手を染めている。上層部の者が関与していなければ見過ごせないよ。単なる一領主じゃないからねクリスフォードは。隠れ蓑にされたのかな?」



そう言われると頷ける。



「皇子殿下にヴォルグフの件を掴まれるのは何としても避けたいだろうね。証拠を隠滅するか冤罪を画策するか、どちらにしろ皇子殿下の目を欺こうと動くよ」



え? 何か途轍もない話になってない?!







推測の域を出ない話だと断りを入れるが、義兄はそのつもりでこの邸の防衛を強化したし手を打ってる。余念がない人で俺は非常に助かってます。



‥‥うん、レティエルは守られる人、義兄は守る人。役割分担はバッチシ。



憶測の裏付けは何と言っても契約主の名だ。ランチェスター・グスターファルバ―グ。王家の者と同じ名を戴く人物だよ? 無関係と言われても疑惑は晴れないでしょ?







義兄の引っ掛かりは三公の態度にも及び、血の盟約の条件が不明で彼等の役割が機能していないのではと疑念を抱いているようだ。それを聞くと親父は大丈夫かと心配になる。やっぱ、このまま帝国に行けないよ。

頭の片隅に、もう家族で移住しちゃわない? いや、領地の皆引き連れてさあ。そんな酔狂な考えが湧いた。現実味の無い話かもだけど、そう思うほど王家に失望してる。








「お義祖父様も仰っていたよね? 皇子とは別行動が許されているのは、単にお義祖父様は別任務を受けているからだと思うよ。恐らく、皇子達には知らされていない。王国側に悟られてはいけない何かじゃないかな? 皇子とは別だと強調されていたと感じたよ? ふふ、これはお義祖父様に確かめればいいかな」

‥‥え? そんな深読みするの?! 細かー。

「タッカーソン家のご子息の保護が目的ではないの?」
「ううん、どうだろうね? ギルガの手前ああ仰っていたけれど場合によっては彼の身も危険だと思うよ? なんせまだ隷属は有効だからね。このままだと間違いなく彼は出荷…あぁ回収と言えばよいのかな? 何にせよ契約主が存在する以上、彼等は逃げられないよ」

ひぇっ!

「お義兄様、術解いちゃいましょう!! 呪文でしたっけ? アレで解けますよね?」
「レティ、残念だけれど、できるなら私も彼等を自由の身にしてあげたい。でもね、あの契約書にはわからないことがあって様子を見たいかな? ランチェスターが彼等に命令する方法も掴めていないし…」

‥‥うわぁーひど。

「…‥‥‥そうね、どうやって命令に従わせてるのかしら?」
「それに術が解けたとして相手に伝わるのも困るね。術を解くのは相手の正体を突き止めてからにしたいかな?」

‥‥確かに! ここで術を解いたのがバレたら、あっちがどう動くか読めないもんね。

二の足を踏む義兄の考えに納得。迂闊に術を解くのは止めとこ。要らぬ藪は突きたくないよ。


「後はお義祖父様の目的が私達の計画の邪魔にならなければいいかな? ふふ逆もまた然りだね」
「ちゃんと話し合わないといけないのね。でも、お祖父様、皇子殿下にどう言って来たのかしらね?」
「それは、タッカーソンの件を調べるとかじゃないかな? 帝国にヴォルグフ達の件は報告されているからね。私達が彼等を保護した報告を受け…‥違ったね。時期が早すぎる。王国に向う道中で報告を受けたのか。そう言えばガザが協力を仰げと言っていたのは、皇子が王国に向っていたからかな?」
「お義兄様? ガザがどうかしたの?」
「ふふ、ガザは勿体付けた物言いが好きみたいだねって話」
「? ふーん?」



こうなるとヴォルグフ達の身柄は絶対守んなきゃ! とあるのが普通だよね。でもね、義兄の計画は違う。

ヴォルグフ達を回収させてそのままランチェスターの元に送り出す気でいる。一応は非戦闘員の彼等を鑑みて代役を考えたらしいが、人手不足の現状、レティエルの護衛を減らしてまで彼等を守る気がない義兄は早々にヴォルグフ達を囮にと決めた。まぁこれはお祖父ちゃんの意見を聞いてからになると思う。身元引受人の立場があるし。


さてさて、お祖父ちゃんの突撃訪問が、どんな結果を招くのか。俺としては義兄の予想は大外れで平穏な日常を求めたい。でも無理だよね、お祖父ちゃん来ちゃったし。

‥‥はぁ、平穏な日々は遠い‥‥

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

【完結】内緒で死ぬことにした〜いつかは思い出してくださいわたしがここにいた事を、なぜわたしは生まれ変わったの?〜  

たろ
恋愛
この話は 『内緒で死ぬことにした  〜いつかは思い出してくださいわたしがここにいた事を〜』 の続編です。 アイシャが亡くなった後、リサはルビラ王国の公爵の息子であるハイド・レオンバルドと結婚した。 そして、アイシャを産んだ。 父であるカイザも、リサとハイドも、アイシャが前世のそのままの姿で転生して、自分たちの娘として生まれてきたことを知っていた。 ただアイシャには昔の記憶がない。 だからそのことは触れず、新しいアイシャとして慈しみ愛情を与えて育ててきた。 アイシャが家族に似ていない、自分は一体誰の子供なのだろうと悩んでいることも知らない。 親戚にあたる王子や妹に、意地悪を言われていることも両親は気が付いていない。 アイシャの心は、少しずつ壊れていくことに…… 明るく振る舞っているとは知らずに可愛いアイシャを心から愛している両親と祖父。 アイシャを助け出して心を救ってくれるのは誰? ◆ ◆ ◆ 今回もまた辛く悲しい話しが出てきます。 無理!またなんで! と思われるかもしれませんが、アイシャは必ず幸せになります。 もし読んでもいいなと思う方のみ、読んで頂けたら嬉しいです。 多分かなりイライラします。 すみません、よろしくお願いします ★内緒で死ぬことにした の最終話 キリアン君15歳から14歳 アイシャ11歳から10歳 に変更しました。 申し訳ありません。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

1人生活なので自由な生き方を謳歌する

さっちさん
ファンタジー
大商会の娘。 出来損ないと家族から追い出された。 唯一の救いは祖父母が家族に内緒で譲ってくれた小さな町のお店だけ。 これからはひとりで生きていかなくては。 そんな少女も実は、、、 1人の方が気楽に出来るしラッキー これ幸いと実家と絶縁。1人生活を満喫する。

【完結】愛されないと知った時、私は

yanako
恋愛
私は聞いてしまった。 彼の本心を。 私は小さな、けれど豊かな領地を持つ、男爵家の娘。 父が私の結婚相手を見つけてきた。 隣の領地の次男の彼。 幼馴染というほど親しくは無いけれど、素敵な人だと思っていた。 そう、思っていたのだ。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

処理中です...