転生先は小説の‥…。

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第十二章 分水嶺

⑫・エリックー1

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「ねえ、先王の子で生き残った人がいたわ。エリックよ!」

忘れてない? ねぇねぇ? ねぇねぇ?
自分はすっかり忘れていたのを棚に上げて思い出せてない義兄に対しドヤァした。
お節介な背後から「お嬢様~絶対今の今まで忘れてたでしょ?」と人の心を読むんじゃありません。


それまで魔法術談義に花を咲かせてた二人は虚を突かれたからか揃いも揃ってキョトン顔で、俺を見る。目が合ったお祖父ちゃんは、にんまり。そりゃもう満面の笑み…強面だからとっても怖い、を浮かべ。

「ティや、皇帝陛下の外戚である儂の孫を利用しようとした悪党を、じいじがしっかり成敗してやるで安心せい。きっちりタマ取ったるで。待っておれ」
「は?!」

ちょっ、ちょっ、ザクワン爺ちゃん! 何で氷の刃をシャーシャー研いでんの?!








‥‥はぁ‥‥思ってたんと何か違う。

でもまあ、俺を監禁した奴だし、いっか。物理でお祖父ちゃんの正義の鉄槌が下されるわけだ。うむ、天誅でござる。

お祖父ちゃんの言い方だと、エリックのギルティは深い。俺の予想に反して深かった。今まで奴を野放しにしていたのはクレアと‥‥その背後を調べるために泳がせていたそうだ。
忘れてたわけじゃなかった。
それに対し義兄は「エリックの処遇は主君である義父上が決めること」声色に滲ませた諦念が耳に残る。てっきり義兄のことだから、幸せの絶頂から奈落に叩き落とす絶妙なタイミングを狙って今は静観しているのかと思ってた。意外と真面目な理由だったね。

親父の部下だけどレティエルに存在を明かされることなく仕えていたエリック。邸に使える侍従でも騎士の誓いを立てた正式な騎士団の者とも違う。それは日陰に生きることを余儀なくされた者の証でもある。公爵家のために生死を賭けると強いられた男に表舞台に立つ夢を、誰が見せたのだろうか。

‥‥何を夢見た?

奴は忌み子というハンデを乗り越え伯爵家の養子となり王女の結婚相手に選ばれた。公爵家を裏切りのうのうと‥‥ちょっと思い出すと腹が立つ。

そう、これからあの男は甘い甘い至福の一時を思う存分堪能できる新婚さんへの道を歩むのだ。くうぅ羨ましくないぞ、ないけど‥‥。
ふん、そのうち地獄に‥‥蟻地獄に足を取られたみたいにズルズル引き摺り込まれて赤鬼さん青鬼さんに、新婚さん、いらっしゃぁ~い、って歓迎されればいいと思います。


「っ、確か第一王女はまだ十四歳のはずよ。エリックっていい大人でしょ? 少女を娶ろうだなんてサイテーな奴ね。今頃鼻の下伸ばしちゃってデヘデロって顔してるのよ。ロリコンかよ」
「‥‥でへでろ? ろり…こん?」
「ぬおぉう、ティは年の差が嫌なんか?」
「‥‥ぷ。鼻の下って。確かに十も離れた少女とだなんて性癖疑いますよね~」

あ、心の声が駄々洩れでした。てへっ。

あと、どうでもいいけどジェフリーに向ってひゅんひゅん飛んでいく氷のつぶてがめっちゃ気になる。どこに隠し持ってたのザクワン爺ちゃん。







「エリックのように人知れず養育された者は他にもいるかも知れませんね。公式記録も、好い様に改竄しているのでしょう」

‥‥スゴイよね二人とも。ザクワン爺ちゃんをものともしてないわ。
慣れ? 慣れなのソレ?
何事もない感じで義兄はヴォルグフの契約書を取り出し、契約主の名を指差す。

「ランチェスター・グスターファルバ―グ」

記載された名は王族を表しているとお祖父ちゃんが断定した理由に驚かされた。
帝国もだが王国も出生時に名と共に血判を押して登録する。これは大体どこの国でも同じだそうだ。
原理は知らないけど生体認証?的な識別方法を利用することで身元偽証を防ぐってわけ。

血判で個人認定って、ちょっとDNA鑑定っぽいよね? 

特に王族や公爵位は傍系婚姻を繰り返し血が濃い。
中でも王国は特殊で王族や公爵の血統を重視し、純血を尊ぶ思想が根強い。過去には直系婚姻を繰り返した王朝王家があったほどだ。

「それはのう、特殊魔力を囲う目的もあったと思うぞ? とはいえ王国の場合はどちらかというと神の御使いに選ばれた者の血を尊んだ、宗教色が強いかのう? 異文化はようわからん」

とちょっと投げやり。

要は王族の名は王族の血が流れていないと使えないってこと。紐づきなわけ。これは帝国も同じ。ご落胤や末裔を語る不届き者を選定するに適したシステムとして利用されてる。
わぉ、DNA鑑定も真っ青。

何と、この世界では血中に含まれる魔力で個人を識別。誤差率0%、完全一致だって。ビックリ。科学が進んでなくても魔法術が可能にした。驚嘆だよ。

『血は媒体だから』と謎な発言の義兄。めっちゃ意味深でブキミです。ああ、そういえば魔道具作製に血液使うとか、マッドなサイエンティスト様でしたわ。



ちょっと横道に逸れちゃった。

お祖父ちゃん達の見解は、国際社会で禁止されている禁術を王国は使用で一致。(血の盟約や隷属などの契約魔法)それには神殿も噛んでいる。

義兄はこれだけで現国王陛下を退陣に追い込めるとほくそ笑む。よっぽど嫌いなのか嬉々として「確実な証拠を揃えましょうか」と追撃の構えを俺達に見せた。

おお~めっちゃ頼もしい。頭の中でパチパチ拍手喝采しちゃう。そんなにやる気に満ち溢れてるのならお任せします。邪魔しません。

背後の何かが、また人の心を読みやがった「はぁ人事じゃありませんって。お嬢様のご協力が必要ですからね」何かほざいておる。うむ、悪霊よ退散したまえ。


お祖父ちゃんも義兄も禁術の多用を示唆する。大きなものでは得体の知れない防衛システムではないかと睨んでる。手の者を送り込みいろいろ探らせてはいるが全く手掛かりが掴めないと歯痒さを滲ませている。

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