313 / 365
第十三章
親子三人・第一側妃視点ー1
しおりを挟む
時期的に親子三人のお茶会は帝国使節団の入国前になります。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ふふ、二人とももう直ぐです。陛下も漸くお認めになられました」
「母上。おめでとうございます」
「お母様、おめでとうございます」
人払いを済ませた自室に招いた息子と娘。他人の邪魔なく耳目も気にせず語り合えると思うと自然と気が緩む。長きに渡り待ちわびた吉報。ゆるゆると口角が上がるのを止められないでいた。
屈辱を与えられ苦しかった。
長かった。辛かった。
想いを馳せるは汚辱に身を浸らせながらも歯を食いしばり耐え忍んだ過去。約束された輝ける栄光への道を歩んでいると夢見た少女の頃。
且つて側妃は、王太子の婚約内定者であった。そこには確約された未来があった。数多の女性から羨望の眼差しを受け、次代の王妃として王の隣に侍る自分の姿が確かにあった。あった…はずなのに。欲した栄光を手にする前に格下の女に搔っ攫われた。
二人からの祝いの言葉。
「母は嬉しく思います。陛下はわたくしが相応しいとお選びになりました。主幹家臣も賛同を得ています。ふふ、漸く正しい道に戻るのです。本来あるべき姿に王国は戻るのです」
夢破られて、惨めだった。
侯爵家の娘と生まれたことで将来の王妃への道が示された。他はないと。
王子と年の近い異性で上位者が侯爵家。筆頭婚約者候補に定められた。王妃と成るべくして生まれたと。誕生とともに与えられた義務。
そこに当事者の意志はない。
苦しめられた且つての記憶。
未だに『そうあらねばならないと』縛りつける。
皆の期待が呪縛となり苦しめる。
我が子には日の当たる道を歩んで欲しい。
「次は貴方ですよライムフォード。王太子の指名は必ずやされるでしょう」
正妃の子は、次代の王。そうあらねばならない。
側妃の子はただのスペア。
どれだけ有能であっても所詮は正妃の子の補佐役。
我が子より落ちる愚の王子。
生まれが正妃胎だからだと、そうあらねばならないと。
我が子は誰よりも優れているのに。
立場が邪魔をする。立場が後押しをする。
だから邪魔をした。
「はい、母上。王太子となれば皆の期待に応えたいと思います」
「お兄様。おめでとうございます」
「ああ、ありがとうローデリアお前も婚約おめでとう」
「ありがとうございます。お兄様」
「まさかエリックとの婚約を承諾するとは思わず、耳にした時は驚きました」
根回しもなく急遽、決まったのが気に食わないのか。笑顔の瞳が笑っていない。
「‥‥もう、後がございませんもの。それにヴァンダイグフ家は陞爵しますわ。他国に嫁いで慣れない生活を強いられるよりもお母様やお兄様の下で、お役に立ちたいと思いましたの。ふふ、わたくしはお役に立ちましたかしら」
クスリと悪戯っ子のような笑みを浮かべ、自分の存在価値を仄めかす娘の姿に過去の自分が重なった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ふふ、二人とももう直ぐです。陛下も漸くお認めになられました」
「母上。おめでとうございます」
「お母様、おめでとうございます」
人払いを済ませた自室に招いた息子と娘。他人の邪魔なく耳目も気にせず語り合えると思うと自然と気が緩む。長きに渡り待ちわびた吉報。ゆるゆると口角が上がるのを止められないでいた。
屈辱を与えられ苦しかった。
長かった。辛かった。
想いを馳せるは汚辱に身を浸らせながらも歯を食いしばり耐え忍んだ過去。約束された輝ける栄光への道を歩んでいると夢見た少女の頃。
且つて側妃は、王太子の婚約内定者であった。そこには確約された未来があった。数多の女性から羨望の眼差しを受け、次代の王妃として王の隣に侍る自分の姿が確かにあった。あった…はずなのに。欲した栄光を手にする前に格下の女に搔っ攫われた。
二人からの祝いの言葉。
「母は嬉しく思います。陛下はわたくしが相応しいとお選びになりました。主幹家臣も賛同を得ています。ふふ、漸く正しい道に戻るのです。本来あるべき姿に王国は戻るのです」
夢破られて、惨めだった。
侯爵家の娘と生まれたことで将来の王妃への道が示された。他はないと。
王子と年の近い異性で上位者が侯爵家。筆頭婚約者候補に定められた。王妃と成るべくして生まれたと。誕生とともに与えられた義務。
そこに当事者の意志はない。
苦しめられた且つての記憶。
未だに『そうあらねばならないと』縛りつける。
皆の期待が呪縛となり苦しめる。
我が子には日の当たる道を歩んで欲しい。
「次は貴方ですよライムフォード。王太子の指名は必ずやされるでしょう」
正妃の子は、次代の王。そうあらねばならない。
側妃の子はただのスペア。
どれだけ有能であっても所詮は正妃の子の補佐役。
我が子より落ちる愚の王子。
生まれが正妃胎だからだと、そうあらねばならないと。
我が子は誰よりも優れているのに。
立場が邪魔をする。立場が後押しをする。
だから邪魔をした。
「はい、母上。王太子となれば皆の期待に応えたいと思います」
「お兄様。おめでとうございます」
「ああ、ありがとうローデリアお前も婚約おめでとう」
「ありがとうございます。お兄様」
「まさかエリックとの婚約を承諾するとは思わず、耳にした時は驚きました」
根回しもなく急遽、決まったのが気に食わないのか。笑顔の瞳が笑っていない。
「‥‥もう、後がございませんもの。それにヴァンダイグフ家は陞爵しますわ。他国に嫁いで慣れない生活を強いられるよりもお母様やお兄様の下で、お役に立ちたいと思いましたの。ふふ、わたくしはお役に立ちましたかしら」
クスリと悪戯っ子のような笑みを浮かべ、自分の存在価値を仄めかす娘の姿に過去の自分が重なった。
0
あなたにおすすめの小説
[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。
【完結】ゲーム開始は自由の時! 乙女ゲーム? いいえ。ここは農業系ゲームの世界ですよ?
キーノ
ファンタジー
私はゲームの世界に転生したようです。主人公なのですが、前世の記憶が戻ったら、なんという不遇な状況。これもゲームで語られなかった裏設定でしょうか。
ある日、我が家に勝手に住み着いた平民の少女が私に罵声を浴びせて来ました。乙女ゲーム? ヒロイン? 訳が解りません。ここはファーミングゲームの世界ですよ?
自称妹の事は無視していたら、今度は食事に毒を盛られる始末。これもゲームで語られなかった裏設定でしょうか?
私はどんな辛いことも頑張って乗り越えて、ゲーム開始を楽しみにいたしますわ!
※紹介文と本編は微妙に違います。
完結いたしました。
感想うけつけています。
4月4日、誤字修正しました。
聖女を怒らせたら・・・
朝山みどり
ファンタジー
ある国が聖樹を浄化して貰うために聖女を召喚した。仕事を終わらせれば帰れるならと聖女は浄化の旅に出た。浄化の旅は辛く、聖樹の浄化も大変だったが聖女は頑張った。聖女のそばでは王子も励ました。やがて二人はお互いに心惹かれるようになったが・・・
おばさんは、ひっそり暮らしたい
波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
【完結】番である私の旦那様
桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族!
黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。
バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。
オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。
気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。
でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!)
大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです!
神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。
前半は転移する前の私生活から始まります。
俺に王太子の側近なんて無理です!
クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。
そう、ここは剣と魔法の世界!
友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。
ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
ぽっちゃり女子の異世界人生
猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。
最強主人公はイケメンでハーレム。
脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。
落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。
=主人公は男でも女でも顔が良い。
そして、ハンパなく強い。
そんな常識いりませんっ。
私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。
【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる