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教皇の一計
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「やはり難しいですね」
教会の中でも最も高位に位置する教会、それは王都にある中心教会という建物だった。そこは年に一度教会の運営する者が集まったり、教皇室が設けられたりと文字通り教会を運営するための建物だった。
その教皇室でシアハは呟いていた。苦々しい顔をし、苦悩する様子を隠すこともしていなかった。
「シアハさん、いますか?」
コンコンとノックする音がした後に男の声が続く。声の主はカリスだった。
ドアを開けるとカリスとファナントがいた。部屋へと招き、ソファへと二人を座らせる。本来ならお世話役としてシスターがついておりお茶でも出すのだが、シアハ含め急ぎである以上そんな余裕はなかった。
「教会から神聖魔法を使える人を送るって話についてなんだが」
ファナントが話を切り出す。シアハも当然分かっており、答える様子はない。代わりに別の疑問を問いかけた。
「カリスさんにファナントさん、……ディアナさんは?」
「回復とか移動用のアイテム買いに回ってるよ。そこら辺は俺達だと適当過ぎるって怒られたことがあってな」
「なるほど」
どこか微笑みながら相槌を打つシアハ。答えたカリスもどこか笑い顔になっていた。
そんな緩みそうになった空気を、分かってないようにファナントが口を突っ込んできた。
「教会の人はどれくらい送れるんだ?」
その一言で下を向き、重苦しい雰囲気をし出したシアハに二人は訝しげに見つめる。デウス国王との会話からすればそんな雰囲気をし出すこと自体が理解できないことだからだ。
そんなシアハの口から出たのは絶望にも似た言葉だった。
「……出来て5人未満。最悪のケースだと0人」
「何故!?」
カリスが反射的に立ち叫ぶ。あまりにも露骨な、シュークを助ける気はないという意味の言葉に怒りを隠せないのは当然だった。
「魔王城まで移動用魔法が使えない。それは知ってますね?」
「魔王城からはできるがこちらからはできない。結界が張られているからだろ?魔王は倒したのに残ってるのか?」
ファナントが疑問に答える。魔法を使える者なら結界が張られているところには移動できないことは誰だって知っている。だがそれは結界を張っている者がいればの話だ。
シアハはそれが無視できないどころか在って当然だと考えていた。だからこそ最悪のケースを予想できていた。
「可能性はあります。むしろ魔力が残っていて張っていないと考える方が難しい」
「なら移動は直接魔法の移動が無理だから近くまでは魔法で、そこから徒歩という形だな。俺達の時と同じだ」
ファナントがうんうんと頷いていた時、ハッとカリスが何かに気づく。シアハはその様子を見てため息を一つついていた。
「……そうか。問題は護衛か」
「はぁ……そうです。魔法で飛び、移動の際に魔王城の近くに生息する魔物を撃退できる力がある。それだけの力を持っている人物が余りにも少ない。移動用の魔法はできても、そこからは襲われれば終わりです」
「王から民を守るために人を送るって」
シアハは黙って首を横に振る。何の問題もないと思っていたカリスは無意識的にボソリと嘘だろと呟いていた。
それではシュークを助けられない。絶望的になりつつある現状がカリスには信じられなかった。
「確認したところ移動用魔法が使えない者ばかりでしたね。片手で数えれるほどしか移動用魔法を使える者はいませんでした」
「そんな……。いや、仕方ないな。確か移動用魔法は難しいとディアナが前に言っていた」
「ええ。魔法使いでも移動用魔法は難しい。従来の魔法使いとは別種の才能が必要なのです。こればかりはどうしようもない」
カリスが混乱している中、ファナントが冷静に判断していた。
ファナントは戦士であり熱血的な部分もあるが、その本質は冷静さにあった。戦場では戦士が倒れれば後ろに立つ者たちが襲われることをよく分かっているからこそ、誰かが混乱している時こそ冷静になれるのだった。
そしてその本質は戦場だけでしか使えないものではなかった。誰かが混乱するようなことがあれば冷静になれるというのは対人での情報収集や状況判断という場面で非常に心強いものだった。
「むしろ一人でもいたのが運がいいくらいだな。それで運が良ければ5人ってことか。で、最悪0と。納得だ」
ファナントの言葉にカリスがキッと睨みつける。だがそこまで動いてようやくカリスは自分自身が混乱していることを自覚する。
そしてどこか納得してない表情だが、現状を正しく認識していた。
「俺達なら……いや、確か移動用魔法の限界は4人だったな」
「一人しか送れないな。それなら教会で今一番浄化能力の高い人を」
シアハの方へと二人は視線を向ける。シュークがいないパーティでは大きな戦闘には不安はあるものの、今回は魔王や強力な魔物と戦う訳ではない。なら足手まといだとしても一人くらいなら問題なくシュークの下へと送れる。
「ええ、送りますよ。ただ確実に送りたいのでできればあなた方に先行して邪魔を可能な限り排除して頂きたい」
「なるほどな。……一人くらいなら送れるぞ?今俺達のパーティは3人だからな」
カリス達からすれば先行して邪魔な魔物を討伐するだけなど片手間ではないが本腰入れる程でもない。ならば足手まといが一人できるくらいなら問題ではなかった。
早くシュークを助けるために応援用の人を送りたいカリス達はその程度の任務、喜ばしいくらいのことだ。
「では浄化ができてちょうど真ん中くらいの魔力を持つ人をこちらで選びます」
シアハのことばに眉をしかめる二人。明らかに二人を馬鹿にしているような人選であり、シアハが言いたいことが全く分からなかった。
「何故その選出なんだ?」
「もしもがあった時に失っても問題ない戦力です」
「気に入らない理由だけど……分かった」
シアハはカリス達の戦力を信用してない訳ではない。だがそれでも選択肢はそれしかなかった。故にそう言う他なかったのだ。
シアハの変わらない真顔を少し睨むカリスの頭に通信魔法が入ってきた。
(これ今日の夕方までに終わんない。夜まで動くから何かしたいなら明日の昼からお願い)
ディアナからの通信魔法。今日中には動けないことは確定し、行動は明日以降になった。
シュークが重傷を負っており、時間感覚が違うことくらいカリス達には容易に想像できた。だからこそ歯噛みせざるを得ない。
「ちょうど今ディアナから通信魔法が飛んできた。明日の昼までに呼んでおいてくれ」
「ええ」
シアハにそう言い残し、カリス達は教皇室から出ていく。ファナントの厳しい視線が最後まで消えていなかったのがシアハには苦痛だった。
私の判断は間違ってない。そう信じているからこそシアハは信頼している者達の期待を裏切る真似をした。
シアハは教皇室の外に届かない程度の声で空へ言葉を紡ぐ。
「……聞いていたのでしょう、アイディ」
「ひっ、何でバレて」
教皇室の隅、何もない場所から声が漏れる。そこには一人の少女が体育座りで座っていた。
肩までかかる金髪、シスターという職に似つかわしくない大きな胸、だが明らかに小さい身長。中心教会のシスター、アイディだった。
「シュークに一番懐いていたのはあなたですからね」
「すみません……」
シアハはカリス達が入ってくると分かっていて無視した。最初からこうなると予想していたからこそ、アイディには知るべきだと判断していた。
できることなら、アイディにこそと願っていたから。
「アイディ、あなたはカリス達に付いていきたいですか?」
「え」
アイディは確かに教会で真ん中くらいの浄化能力を持っていた。だがさっきまでの話はそんな話な訳がないと考えていた。シュークを助けるなどどいう大事に、アイディが助けられるなど思いもしていなかった。
けれど、もし叶うのなら助けに行きたいとは願っていた。だからこそアイディに聞かれたことが信じられなかった。
「シュークが助けてほしいと叫んでいます。助けられるのは教会の人だけです」
「シアハ様やクルル様は?」
「私は行けません。私が行けば面倒な連中が押しかけてきますから。クルルは後から向かいますよ」
クルルとは教会でシアハに次いで浄化能力が高い人のことだ。シュークという一大戦力を助けるにはそれくらいの力が必要であり、アイディからすれば真っ先に送るべき人だと思っていた。
後で送るという言葉になるほどと感心し、それならばとアイディは想いを口にする。
「なら、行きたいです」
「よろしい。なら旅に出る準備をして明日の昼にここに来なさい」
「はい!」
思いもよらぬことに思わず小躍りしそうなほどに頬が緩むアイディ。ここが何処かということさえも忘れ、教皇室のドアを勢いよく開けて出て行った。ドアを閉じることさえ忘れて。
教皇室に一人残るシアハ。彼の顔はどこか祈るような表情にも似ていた。
「……カリス達が一番安全に送れるでしょうね。ですが浄化制御能力の強い者はデウス国王達に知られている。ならば可能性が高い者、素質が高い人を送る以外にない」
勇者といえど回復も終わっていない身であり、足手まといがいれば行動もかなり制限されるのは分かっていた。だが勇者だからこそ、確実にシュークの下へ送ってくれると信用していた。
シアハの祈る表情はそこではなかった。
「教会という組織で最も高い潜在能力を持つ者アイディ、頼みましたよ」
シュークを、ひいては人類を助けるために、アイディに全てを賭けることへのそれだった。
教会の中でも最も高位に位置する教会、それは王都にある中心教会という建物だった。そこは年に一度教会の運営する者が集まったり、教皇室が設けられたりと文字通り教会を運営するための建物だった。
その教皇室でシアハは呟いていた。苦々しい顔をし、苦悩する様子を隠すこともしていなかった。
「シアハさん、いますか?」
コンコンとノックする音がした後に男の声が続く。声の主はカリスだった。
ドアを開けるとカリスとファナントがいた。部屋へと招き、ソファへと二人を座らせる。本来ならお世話役としてシスターがついておりお茶でも出すのだが、シアハ含め急ぎである以上そんな余裕はなかった。
「教会から神聖魔法を使える人を送るって話についてなんだが」
ファナントが話を切り出す。シアハも当然分かっており、答える様子はない。代わりに別の疑問を問いかけた。
「カリスさんにファナントさん、……ディアナさんは?」
「回復とか移動用のアイテム買いに回ってるよ。そこら辺は俺達だと適当過ぎるって怒られたことがあってな」
「なるほど」
どこか微笑みながら相槌を打つシアハ。答えたカリスもどこか笑い顔になっていた。
そんな緩みそうになった空気を、分かってないようにファナントが口を突っ込んできた。
「教会の人はどれくらい送れるんだ?」
その一言で下を向き、重苦しい雰囲気をし出したシアハに二人は訝しげに見つめる。デウス国王との会話からすればそんな雰囲気をし出すこと自体が理解できないことだからだ。
そんなシアハの口から出たのは絶望にも似た言葉だった。
「……出来て5人未満。最悪のケースだと0人」
「何故!?」
カリスが反射的に立ち叫ぶ。あまりにも露骨な、シュークを助ける気はないという意味の言葉に怒りを隠せないのは当然だった。
「魔王城まで移動用魔法が使えない。それは知ってますね?」
「魔王城からはできるがこちらからはできない。結界が張られているからだろ?魔王は倒したのに残ってるのか?」
ファナントが疑問に答える。魔法を使える者なら結界が張られているところには移動できないことは誰だって知っている。だがそれは結界を張っている者がいればの話だ。
シアハはそれが無視できないどころか在って当然だと考えていた。だからこそ最悪のケースを予想できていた。
「可能性はあります。むしろ魔力が残っていて張っていないと考える方が難しい」
「なら移動は直接魔法の移動が無理だから近くまでは魔法で、そこから徒歩という形だな。俺達の時と同じだ」
ファナントがうんうんと頷いていた時、ハッとカリスが何かに気づく。シアハはその様子を見てため息を一つついていた。
「……そうか。問題は護衛か」
「はぁ……そうです。魔法で飛び、移動の際に魔王城の近くに生息する魔物を撃退できる力がある。それだけの力を持っている人物が余りにも少ない。移動用の魔法はできても、そこからは襲われれば終わりです」
「王から民を守るために人を送るって」
シアハは黙って首を横に振る。何の問題もないと思っていたカリスは無意識的にボソリと嘘だろと呟いていた。
それではシュークを助けられない。絶望的になりつつある現状がカリスには信じられなかった。
「確認したところ移動用魔法が使えない者ばかりでしたね。片手で数えれるほどしか移動用魔法を使える者はいませんでした」
「そんな……。いや、仕方ないな。確か移動用魔法は難しいとディアナが前に言っていた」
「ええ。魔法使いでも移動用魔法は難しい。従来の魔法使いとは別種の才能が必要なのです。こればかりはどうしようもない」
カリスが混乱している中、ファナントが冷静に判断していた。
ファナントは戦士であり熱血的な部分もあるが、その本質は冷静さにあった。戦場では戦士が倒れれば後ろに立つ者たちが襲われることをよく分かっているからこそ、誰かが混乱している時こそ冷静になれるのだった。
そしてその本質は戦場だけでしか使えないものではなかった。誰かが混乱するようなことがあれば冷静になれるというのは対人での情報収集や状況判断という場面で非常に心強いものだった。
「むしろ一人でもいたのが運がいいくらいだな。それで運が良ければ5人ってことか。で、最悪0と。納得だ」
ファナントの言葉にカリスがキッと睨みつける。だがそこまで動いてようやくカリスは自分自身が混乱していることを自覚する。
そしてどこか納得してない表情だが、現状を正しく認識していた。
「俺達なら……いや、確か移動用魔法の限界は4人だったな」
「一人しか送れないな。それなら教会で今一番浄化能力の高い人を」
シアハの方へと二人は視線を向ける。シュークがいないパーティでは大きな戦闘には不安はあるものの、今回は魔王や強力な魔物と戦う訳ではない。なら足手まといだとしても一人くらいなら問題なくシュークの下へと送れる。
「ええ、送りますよ。ただ確実に送りたいのでできればあなた方に先行して邪魔を可能な限り排除して頂きたい」
「なるほどな。……一人くらいなら送れるぞ?今俺達のパーティは3人だからな」
カリス達からすれば先行して邪魔な魔物を討伐するだけなど片手間ではないが本腰入れる程でもない。ならば足手まといが一人できるくらいなら問題ではなかった。
早くシュークを助けるために応援用の人を送りたいカリス達はその程度の任務、喜ばしいくらいのことだ。
「では浄化ができてちょうど真ん中くらいの魔力を持つ人をこちらで選びます」
シアハのことばに眉をしかめる二人。明らかに二人を馬鹿にしているような人選であり、シアハが言いたいことが全く分からなかった。
「何故その選出なんだ?」
「もしもがあった時に失っても問題ない戦力です」
「気に入らない理由だけど……分かった」
シアハはカリス達の戦力を信用してない訳ではない。だがそれでも選択肢はそれしかなかった。故にそう言う他なかったのだ。
シアハの変わらない真顔を少し睨むカリスの頭に通信魔法が入ってきた。
(これ今日の夕方までに終わんない。夜まで動くから何かしたいなら明日の昼からお願い)
ディアナからの通信魔法。今日中には動けないことは確定し、行動は明日以降になった。
シュークが重傷を負っており、時間感覚が違うことくらいカリス達には容易に想像できた。だからこそ歯噛みせざるを得ない。
「ちょうど今ディアナから通信魔法が飛んできた。明日の昼までに呼んでおいてくれ」
「ええ」
シアハにそう言い残し、カリス達は教皇室から出ていく。ファナントの厳しい視線が最後まで消えていなかったのがシアハには苦痛だった。
私の判断は間違ってない。そう信じているからこそシアハは信頼している者達の期待を裏切る真似をした。
シアハは教皇室の外に届かない程度の声で空へ言葉を紡ぐ。
「……聞いていたのでしょう、アイディ」
「ひっ、何でバレて」
教皇室の隅、何もない場所から声が漏れる。そこには一人の少女が体育座りで座っていた。
肩までかかる金髪、シスターという職に似つかわしくない大きな胸、だが明らかに小さい身長。中心教会のシスター、アイディだった。
「シュークに一番懐いていたのはあなたですからね」
「すみません……」
シアハはカリス達が入ってくると分かっていて無視した。最初からこうなると予想していたからこそ、アイディには知るべきだと判断していた。
できることなら、アイディにこそと願っていたから。
「アイディ、あなたはカリス達に付いていきたいですか?」
「え」
アイディは確かに教会で真ん中くらいの浄化能力を持っていた。だがさっきまでの話はそんな話な訳がないと考えていた。シュークを助けるなどどいう大事に、アイディが助けられるなど思いもしていなかった。
けれど、もし叶うのなら助けに行きたいとは願っていた。だからこそアイディに聞かれたことが信じられなかった。
「シュークが助けてほしいと叫んでいます。助けられるのは教会の人だけです」
「シアハ様やクルル様は?」
「私は行けません。私が行けば面倒な連中が押しかけてきますから。クルルは後から向かいますよ」
クルルとは教会でシアハに次いで浄化能力が高い人のことだ。シュークという一大戦力を助けるにはそれくらいの力が必要であり、アイディからすれば真っ先に送るべき人だと思っていた。
後で送るという言葉になるほどと感心し、それならばとアイディは想いを口にする。
「なら、行きたいです」
「よろしい。なら旅に出る準備をして明日の昼にここに来なさい」
「はい!」
思いもよらぬことに思わず小躍りしそうなほどに頬が緩むアイディ。ここが何処かということさえも忘れ、教皇室のドアを勢いよく開けて出て行った。ドアを閉じることさえ忘れて。
教皇室に一人残るシアハ。彼の顔はどこか祈るような表情にも似ていた。
「……カリス達が一番安全に送れるでしょうね。ですが浄化制御能力の強い者はデウス国王達に知られている。ならば可能性が高い者、素質が高い人を送る以外にない」
勇者といえど回復も終わっていない身であり、足手まといがいれば行動もかなり制限されるのは分かっていた。だが勇者だからこそ、確実にシュークの下へ送ってくれると信用していた。
シアハの祈る表情はそこではなかった。
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