魔王討伐のその後

火ノ鷹

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魔王城へ

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翌日の昼前、教皇室にはカリス達三人とシアハ、そしてアイディの姿があった。
アイディが緊張でカチンコチンに固まっているものの、それを見て他の面子は微笑み顔になっていた。

「よ、よろしくお願いします」
「カリス、アイディをお願いしますね」

アイディが挨拶し、カリス達にまじまじと見られる。シュークの下へ最初に送る人物なのだ、カリス達が興味を持つのも当然のことだ。

「ああ。まさかこんなちんまい女性とは思わなかったけどな」

ニヤニヤと揶揄うカリスにアイディがカッと熱くなる。
こんな外見だが中心教会にアイディは所属している。中心教会は教会を運営するような人材が集まる場所だ。当然、応対する人やお世話係も相応の人物である。
つまりは中心教会に所属していながらも教会運営に携わらない人というのはシスターの中でも十分に才能があり、成人している人なのだ。

「これでも20は超えてるんですよ!」
「え、嘘だろ?14くらいにしか見えない」
「むしろ若返りとか使ってないか知りたいわね」

ファナントとディアナが驚きに思わず口を出す。
教会と言っても食事に制限があったりはしないため、特に食べているものに違いはない。個人の嗜好程度はあるが、それでも栄養という面では差異はそれほどない。それは個人の体質によって見た目が変わるということであり、多くの人と会い旅をしてきた三人でさえもアイディは見たことのない見た目だった。

シアハがコホンと一つ息をつく。話を進めると諫めるような声だった。

「後続の人は一日はかかります。半日もあれば殲滅はできるでしょう?」
「俺達を舐めてるのか?今が昼だから…夜には殲滅してシュークのところにはいるよ」
「頼もしい限りです」

シアハがアイディの方へと顔を向け、厳しい顔をして口を出す。その顔は上司というよりも親のような表情だった。

「アイディ、カリス達の言うことは聞かなければ死ぬと思いなさい」
「はいっ!」

シアハの言葉に返事をし、アイディはカリス達の方へと歩いていく。どこか寂しそうな顔ではあるが、わくわくしているような顔にも見えた。
シュークに会えることと中心教会から出るのが久々なことあたりだろうとシアハは予想をつけ、カリス達に頼みますと一言告げた。

「じゃあなシアハ。アイディを送ったらまた来る」
「ええ。お願いします」

教皇室から出ていくカリス達とアイディ。そのままの足でアイディの確認をしながら中心教会から出ていく。

「アイディ、このままシュークの下へと移動する。準備は大丈夫か?」
「大丈夫です!」

中心教会の外へ出た4人は移動魔法のため、3人でディアナを囲む。
移動魔法は目的地まで高速移動する魔法だ。転移するような魔法もあるが、身体が千切れたりするリスクがあるために余程のことがなければ使われることはない。
魔法を使う一人を中心に置き、共に移動する者は手を繋いで囲むことで魔法の範囲に入る。これは手を放していると移動途中で振り落とされるようなことを回避するためだ。範囲指定する魔法の範囲から外れればおかしな魔法のかかり方をする。その対策のために考案された方法だ。

「ディアナ、頼む」
「もちろん」

ディアナから赤い魔力が漏れ、三人を包むような球体と化していく。そして次の瞬間、空へと高速で赤い球体は飛んで行った。
数分後、赤い球体は深紅の草をした平原へと降りてきていた。血のような赤であり、遠くに見える森は真っ黒な色にも見えた。
魔王城の近く、それは魔物でも凶暴な種族が闊歩する……等ということはない。魔王の溢れ出る魔力が周囲の環境さえも変えているだけなのだ。それが色が変わった草や森に表れており、その魔力を喰らうための生態系は作られている。
凶暴な種族は確かにいるが、山一つに数体程度というものだ。平原にもウサギや鹿が現れ、その魔力は並どころではないほどだが、襲わなければ攻撃してくることはない。故にそういった凶暴ではない魔物は殲滅する必要はない。

「ここから20分ほど歩いたところが魔王城だ」
「え、まおう城……魔王城!?」

アイディの表情が驚きに染まる。シュークを助けるという説明は受けていたものの、どこで助けを求めているのかということはシアハは教えていなかった。
というのもシュークがカリス達と共に魔王を討伐する旅をしていたのは教会の誰しもが分かっていたためである。それも魔王討伐自体は伝えられた後だ。それだけ分かっていればどこで助けを求めているのかくらい予想できて当然だとシアハは判断していた。
それをシュークに懐いており、焦り気味のアイディに求めるのは酷なものではあったが。

「魔王城は広くてなぁ…町一つは優に入る。結界があるから中には…ってそうだディアナ、結界見えるか?」
「ええ。前に私たちが来た時と何にも変わらない様子ね」
「私聞いてないんですけどぉ!?」

アイディのてんぱりに頭にはてなマークを浮かべる三人。そしてカリスがシアハの思惑に気づき、どこか憐れむような眼をアイディへ向けた。

「……シアハの野郎。驚かすつもりだったな」
「あのクソ教皇ー!」

アイディの絶叫に三人がふふふと微笑む。
シアハはたまにこういうことするよなと雑談をしながら歩く。ここが危険な場所と分かっていても余裕綽々なのはひとえに彼らの実力からである。カリスは周囲をkm単位で察知でき、ファナントは隊列が伸びてさえいなければ瞬時に駆け付けることができ、ディアナは十数km単位で魔法を展開できる。そんな彼らからすれば臨戦態勢をとるのは危険が察知できてからでいいのだ。

「まずアイディを送るついでに魔王城までの道中を殲滅する。アイディが真っすぐ走って逃げれるようにな。その後魔王城の結界をすり抜けられるやつらがいるのか確認だ」
「それが妥当か。魔王城の中は俺たちが戦った時の余波で逃げ出したやつも大半だと思うがな」
「ファナント、油断しない。確かに魔物は強力な魔力が暴れた跡には近づかないけど、全部が全部そうだっていう訳じゃないんだから」

ファナントの油断にディアナが指摘する。
強大な魔物が暴れた跡には近づかない。それは本来は人・魔物問わずに言える常識だ。何故なら暴れた跡から逃げたかは不明であり、未だに暴れた跡に居る可能性があるからだ。もし居座っていれば食われる可能性は非常に高くなる。
例外は人間で言えばカリス達のように探知能力が高い者たちだ。居座っていなければいいのだから探知できれば問題にならない。とはいえ強大な魔力の残滓が残っている中で探知できるというのは戦闘能力も非常に高いということも意味している。魔王ですら探知能力はそこまでなかったのだ、探知能力も戦闘能力も高い者となればそうそう現れることはない。

「魔王城の内部に安全がとれればアイディをシュークの下へ置いて魔王城の周囲の魔物を殲滅。順番はそれでいいな?」
「シュークの下へアイディを先に送った方が良くないか?」
「そうしたいが後続が来ることも考えると……」
「ならまずは道中を確認しましょう」

ディアナが二人の妥協案を出す。口論しながら歩いてしまうとどこかで油断しかねないのだからと話をまとめる。

「魔物があの後来なくなってる可能性だってある」
「確かにあり得なくもない。よし、ならまずは魔王城まで向かう。魔物が出なければ先にシュークの下へアイディを送る。出たら殲滅が先だ」
「分かった」「いいわよ」

そしてカリス達が強大な力を持つとは知っていても、どれだけの力を持つかは知らないアイディはそんな様子を見て不安がっていた。
何せ危険地帯と言われている場所で口論し始めるような人たちなのだ。傍目から見ればただの間抜けな冒険者にしか見えない。

「大丈夫なのかなぁ?シューク様のところまでは着けると思うけど」
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