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 ペロペロペロペロ……

「きゃ、ちょっ、うふふっ」

 顔中を舐めまわされて、目がさめた。

「わかった、わかったわ。もぅ、起きてるってば」

 相変わらず舐め続けるボスモフを取り押さえた。

 グゥーグゥー、グゥグゥグゥー

 それなのに、馴染みのある異音が聞こえてくる。声の主はアクヤのお腹の上で丸まっているようだ。

「なっ!?  」

 アクヤが体を起こす。
 お腹にいたボスモフが滑り落ちた。慌てて這い上がってきて、また、丸まってしまった。




「で、どうして貴方方は、今まで寝ていたのかしら?  ご説明してくださる?  」

 岩に腰を掛け足を組んだアクヤが、ギロりと睨んだ。膝の上では一匹のチビモフモフが丸まって寝ている。

 その足下で下々のものが震え上がっていた。




 フミフミ、フミフミ、モフモフ、モフモフ

「ごくらく、ごくらく~」

 アクヤは今、ミズタンベッドに寝転がりチビモフモフマッサージを受けている。見張り番をサボった下々のモノどもが、どうしてもと言うので受け入れたのだ。

 昨日寝る前、ボスモフ、ミズタン、アクヤの順で見張りをすることを決めた。この洞窟の光石は、数時間置きに瞬く。その瞬きにあわせ交代する手はずになっていた。
 それなのにアクヤを起こしたのは、チビモフ1号だ。すでに、二瞬きした後だという。

 ボスモフとミズタン曰く、アクヤが眠ると直ぐに急激な睡魔に襲われたらしい。それは、チビモフモフ達も同じだった。

 唯一、イチゴウのみ眠くならず、見張りを続けアクヤを起こしてくれた。
 他のチビモフモフを起こそうと試みたらしい。しかしながら、飛び付けど噛み付けど、一向に起きなかったそうだ。

 そもそも、魔物は睡眠をそんなに必要としない。それなのに、アクヤが寝ているのを見ると眠くなるのだそうだ。

 マッサージの気持ちよさに、意識が遠くなりかける。

 パタ、テト、パタ、テトト……

 連動するように、背後でチビモフモフたちが倒れていった。


 ◇  ◇  ◇


「ごめんください」

 2度目の屋台訪問だ。
 昨日とは別の場所で出店されていた。

 アクヤの来訪を予測していたかのように、シェフが焼き肉の葉っぱ巻──以後、肉っぱ巻──を差し出してきた。



 うぅ……

 流石に起き抜けから、お肉を食べる気は起きなかった。

「すみません。もう少し、軽めのお食事は……」

 コッケコッコーー!

 場違いな鳴き声にアクヤの言葉は遮られた。
 それは見紛うことなき鶏だった。籠が被せられており、その上に卵が乗せられていた。

「そちらの卵を頂けます?  」

 アクヤが顔をぱぁッと輝かせながら言った。
 シェフは困惑顔で、卵を差し出してくる。当然、生卵だ。

「そちらをお借りしても、よろしくて?  」

 シェフがさっと脇に避けてくれた。
 屋台裏に回る。台の下に、鉄鍋フライパンと片手鍋がある。鍋をとり、卵を五つ入れた。指輪から聖水を流し込む。シェフが興味深そうに、覗き込んできた。

「えーっと、竈はどちらですの?  」

 シェフがアクヤから鍋を受け取った。
 右手で鍋を支え、左手をその下にかざす。

 ボワッ!

 掌で勢いよくはぜた炎が、辺りを明るく照らした。




「お味は、どうですか?   」

 アクヤが他の面々に尋ねた。
 理想より少し黄身が硬めだが、斬新な調理法を考えれば上出来だろう。

 三者の様子を、確認してみる。
 シェフは一口食べて、完全に動きを止めてしまった。思考が停止しているようだ。
 ボスモフは味わうように、チビチビ、ハムハムしている。
 ミズタンは早々に丸呑みし、そろりそろりと、ボスモフの方へ触手を伸ばしていた。

 その様子をみて、アクヤはそっと微笑んだ。




「シェフ、今日もありがとうございました。また、お料理を頂きにまいりますわ」

 アクヤが帰ろうとすると、シェフがモジモジとしだした。
 その視線は、先程の肉っぱ巻に落とされている。

 そういえば、昨日散々ダメ出しをしてしまった。シェフはきっと、また食べてもらおうと準備していたのだ。

「そちらも頂きますわ」

 アクヤがニッコリ微笑み、手を伸ばす。
 シェフが、ガチガチに固まった。




 バッ!?

 アクヤの脇を小さい影が通り過ぎた。
 カッティングボードに乗っていたはずの肉っぱ巻が、跡形もなく無くなっている。
 影が通り過ぎた先に、小鬼が駆けていくのがみえた。

 バツっ。

「待ちなさいっ!  無礼者っ!  
 人様が真心を込めてお作りになったお料理を、無言で掻っ攫うとは、何事です!  」




 その場が一瞬で凍り付いた。
 そして、そこにいたモノ全員が震え上がったのだった。




 ─とあるS級冒険者の鑑定眼─

【名前】  シェフ  Lv.48

【種族】 魔族悪魔もく  魔料理人シェフデーモン

【ステータス】 中位悪魔ミドラーデーモン階層守護者フロアチーフ

【スキル】 幻惑魔法、満腹中枢破壊
          肉熟成エージング、火炎魔法
          水魔法、美食家、調理、狩人
          山菜採取




【名前】  アクヤ・クレイ  Lv.18

【種族】 人族

【ステータス】 高位貴族

【スキル】 王子妃の教養(免許皆伝)
           回避、覇王の威圧、念話
           子守唄、忍び足、調教、口撃マシンガン
           指輪ノ加護ウォーターリング(状態異常無効)


【名前】  ミズタン  Lv.15

【種族】  魔族水操玉スライムもく 液晶えきしょう水操玉スライム
         
【ステータス】 覇王の眷属、水操玉スライムの進化系

【スキル】  鉱石鑑定、二足歩行逃避 
           じゅうたん探索、消化・吸収
           鉱石擬態、ナビゲート、聖水精製
           ウーォターベッド、忍び足
           保護水膜 、 魔素吸収、念話
           状態異常還元


【名前】  ボスモフ Lv.10

【種族】  魔族魔狼もく  水游狼アクアファング
         
【ステータス】 群れの長、従魔

【スキル】  遠吠え、潜水、甘え上手、索敵
           念話


【名前】  イチゴウ Lv.10

【種族】  魔族魔狼もく  水游狼アクアファング
         
【ステータス】 群れの見張り番、従魔

【スキル】  潜水、睡魔無効、念話
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