上 下
48 / 68

48

しおりを挟む
「レイラ王妃陛下、教皇聖下が謁見にお越しです」

   控えめにノックして入ってきた侍女が、報告する。その顔に表情はなく、能面のように冷たかった。

(来るんなら、事前に言っとけよ)

「わかったわ。雷鳥の間にお通しして」

 レイラがため息をつきながら答えた。
 と、同時に扉が開く。

「上手くやっているようだな」

 ずかずかと入ってきた教皇が、ソファにどっかりと座りながらいった。

「教皇聖下っ!  城内を勝手に歩き回られては困ります!  」

 事務机から立ち上がったレイラが、叫ぶ。

「ほぅ。私に意見するとは、随分と、偉くなられたものだな、王妃陛下どの も」

「いえ、そんな……。近衛兵に襲われても困りますし」

「ふんっ、既に人心掌握しきっているのだろう。お前のスキル【極楽浄土】で」

「……」

「まぁ、いい。して、首尾はどうなのだ」

「仰る通り、城内は手中に収めましてございます。国王陛下にはご退位頂き、ジョゼフ様に王位を譲って頂きました。余生はゆるりと過ごされ、そのまま、極楽浄土あのよへと旅立たれることでしょう」

「ジョゼフ様は?  」

「私にご執心でございます」

「それは結構なことだ。しっかり御心を掴んでおけ。正気を取り戻されて、王権を発動されたら厄介だからな」

「大丈夫かと。私の体しか見えておりません」

「ふんっ。せいぜい、骨抜きにしておけ。暫くは使えるコマだ。頃合いを見て始末することにしよう」

 教皇が仄暗い顔でわらった。

「お前との婚儀はいつだ?  」

「婚約は済ませました。正式な婚儀は、もう少し先になるかと」

「何か問題でもあるのか」

「ランデンブルグ辺境伯が軍備を整えております。ミランダ様には、上手く逃げられてしまいました。クレイ公爵ご夫妻も、ご一緒に……」

 レイラの顔が、不覚にも歪められた。

 今思い出しても腸が煮え繰り返る。あの騒動のどさくさに紛れた、華麗な逃亡劇について。
 絶対逃げられないと、鷹を括っていたのも間違えだった。

「なにっ!?  あの脳筋には、お前のスキルが通じなかったのか。
 まぁいい。圧倒的な力でねじ伏せてやれ。なんと言っても、ヘテプ正教われわれは、もはや、国中の軍備を手中に収めているのだからな。
 女王陛下の即位式は、その後、盛大に行うとしよう」

「仰せのままに」

「これでやっと、目障りだった王家を排除できる。手塩にかけてお前を育てて来た甲斐があったというものだ」

 深々と頭を下げるレイラを一瞥した教皇が、嬉しそうに呟いた。
 豪華な刺繍の施された白装束を翻し、さっそうと部屋をでていく。

(あの古狸、絶対に許さない。必ず、消してやる。
 折角、に来れたんだ。今度こそ、ゼフリードを探し当て、攻略してみせるっ!  )

 その醜く歪んだ微笑みには、清楚さなど、微塵も残されていなかった。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

星新一文体模写ショートショート集

SF / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:1

異世界で俺だけレベルが上がらない! だけど努力したら最強になれるらしいです?

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:78pt お気に入り:2,849

異世界で目覚めたら猫耳としっぽが生えてたんですけど

恋愛 / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:549

アラサー令嬢の婚約者は、9つ下の王子様!?

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:269pt お気に入り:1,171

針子の私に精霊の加護が付与されることになりました

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:220

クロス&クロス

ミステリー / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

『ライトノベルによくあるパターン』

エッセイ・ノンフィクション / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:13

処理中です...