上 下
2 / 124
第一章 マゼンタ王国~皇女の守護魔獣に転生編~

目覚め

しおりを挟む
「おい、なんかいるぞ」

「赤い狐か?珍しいな。高く売れるかもしれねーぞ」

「しっ、寝てるみたいだ。捕まえるぞ」

    遠くで声がする。テレビをつけっぱなしで寝たようだ。
    うるせーなぁと思いながら、寝返りを打つとチクチクするものが指に触れた。葉っぱ? 掴もうとするが、上手く掴めない。
    何度か挑戦するが、指が思うように動かない。薄目を開けて確認しようとしたら、突然、体が宙に浮いた。この感覚にデジャヴを覚えた。そして、体中の細胞が警告を発する。

    足首を持たれ、逆さ吊り状態になる。そんな馬鹿な。俺は仮にも男子大学生で175cm、60kgあるんだぞ。決してデブではないけれど、片手で宙ずりされる玉ではない。

    とにかく、この状況を打破しようと手足をばたつかせた。緩急ある攻撃が功を奏したのか、相手が手を離した。

    振り返ると、青い軍服に身を包んだ二人組の若い兵士が立っていた。小馬鹿にしたようにニヤケながら、手にしている槍を俺の足目掛け放った。
    俺は片足を華麗にあげ避けた。次々に放たれる足元への連打攻撃を華麗によける。

『ヨーロレイヒッーー』
    心の中で絶叫しながら、コサックダンスばりに足を動す。俺のふざけたダンスが兵士たちのイライラを誘い、一瞬隙ができた。

    この機を逃すまいと、ディ〇ニーキャラのように飛びあがった。体を大きく反らせ助走をつけて、手足を回転させながら逃げる。

    兵士達は(所詮野生動物だと)、諦めたらしく追って来なかった。しばらく走っていると、湖へと出た。茂みに身を隠し、辺りに誰もいないことを確認する。

    緊張の糸が切れ一息つくと、急激な喉の乾きに襲われた。

    湖の水を飲もうと畔に、歩みを進める。敵に出くわさぬように。ゆっくり、慎重に。

    手で水を救おうとした瞬間、ギョッとした。
    そこには、毛でフサフサに覆われた可愛いらしいおててがあったのだ。

    顔をあげる。目をつぶる。ゆっくり、三十秒数えた。そして、手を見る。

「ティーーーーン!! 」
    あまりの衝撃に、我を忘れて「手ーーーー! 」と叫んでいた。実際には、虚しい動物の鳴き声が響いただけなのだが。

    動揺しすぎて自分の声にヒビってしまい、また、茂みに飛び込んだ。

    目を閉じて深呼吸する。少し冷静になれた。
    外敵にバレないよう、場所を移動し水面に顔をうつす。

    そこに、大学生の柊僚はいなかった。というか、ヒトさえもいなかった。
    赤い獣がちょこんと佇んでいる。狐を小さくしたような風貌だった。

    記憶を手繰り寄せる。柊僚とは何者か。そうだ、大学生だ。そして、化学を学んでいた。確か、先輩に頼まれて反応を仕込んだんだった。 
 そして、謎の大爆発。そこまでは、思い出せた……。

    死んだのか?流行りの異世界転生ってヤツか。

    そこで考えるのをやめた。水面に口を近づけ、勢いよく喉を潤す。

    どうせ結論は出ないのだ。どうしようもないことを悩むのは性にあわない。獣になったのなら、勉強も仕事も要らないのだ。本能のまま、気楽に過ごせばいい。と、考えてると、ワクワクしてきた。

    気分も良くなった。鼻歌を歌いながら、寝床でも探そうと、歩み出す。

    また、体が宙に浮かぶ。
    本日二度目のデジャヴである。体中の細胞が本日二度目の警告を発する。
ティーーーーンもういいってーーーー

    辺り一帯に俺の断末魔が木霊した。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

悪徳令嬢はヤンデレ騎士と復讐する

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:241pt お気に入り:257

【完結】元男爵令嬢と荒れた庭園の子爵様

恋愛 / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:23

人見知りと悪役令嬢がフェードアウトしたら

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:170pt お気に入り:977

獣人の恋人とイチャついた翌朝の話

BL / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:29

突然訪れたのは『好き』とか言ってないでしょ

BL / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:24

あなたの妻にはなれないのですね

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:36,515pt お気に入り:394

You're the one

BL / 完結 24h.ポイント:28pt お気に入り:61

処理中です...