41 / 124
第三章 チタニア教帝領~教帝聖下救出編~
チタニア教帝領
しおりを挟む
俺は今、馬車に揺られている。
先程、ピグマリア教団チタニア教帝領に入ったらしい。博士の話では、あと半日もしたら、教団総本部チタニア神殿に到着するという。日暮れ前には到着できそうだ。
隣にピロロが、向かいにラヴォア博士が座っている。俺の斜め前、つまり、ピロロの向かいに樽が置かれ、スラリーがぷかぷかと浮かんでいた。
馬車からは、並走する騎馬兵見えた。ピロロが選んだ尖鋭100騎が、前衛、護衛、後衛にわけれて進んでいる。
俺達の後ろには、アナターゼ総主教の馬車と、マスター率いる補給部隊の馬車が続く。
マゼンタ王国を出発して四日が経っていた。
最初こそ旅行気分で楽しんでいたものの、野営続きで疲労がたまり、皆どんよりとしていた。
それに加えて、まざまざと痛感させられる現実の厳しさに、より一層空気が重くなる。
チタニア教帝領に入ってからというもの、嫌でも災害の痕跡が目に飛び込んでくるのだ。
地面はぬかるみ、草木はなぎ倒されている。
車輪が捕われ動けなくなったり、倒木のせいで足止めを食らい、迂回を余儀なくされることが頻発しだした。
結局、当初の予定より大幅に遅れていた。
既に日は落ち辺りが薄暗い。
ぞわ、ぞわ、ぞわっ。
突然、激しい悪寒に襲われた。
それとともに、微かなチタニア種の色素が感じられる。
スラリーを見ると、樽の奥底で身を縮めていた。
「止めろっ! 」
ピロロはそう叫ぶと、馬車から飛び出した。
俺もその後に続く。
アォ、ワォ、ワォーーーン!
遠吠えが聞こえた。
急がねば、不味そうだ。
微かな色素を頼りに、歩みを加速させる。
獣の鳴き声と息遣いが聞こえてくる。
次第に、それは大きくなり、草木の間から黒い狼のシルエットが見えてきた。
1本の木を取り囲むように、十数頭が群がっている。みな一様に上を見ながら、吠えていた。
その視線の先には、小学校高学年くらいの男の子がいた。細くなった幹と枝の間に、身を縮めてしゃがみ込んでいる。
何度目かの挑戦の後、一頭の狼が幹を駆け上がることに成功した。
ピロロが音もなく、飛び上がる。
剥き出しの牙が、少年の足へと襲いかかった。
絶望に耐えかねた男の子が、目をぎゅっと瞑った。
ドスッ、ドスッ、ドスドスドス…
ピロロが放った髪飾りが、雨のように狼達に降り注ぐ。
ギャン、ギュン!
ドサッ、バタッ
幹を駆け上がっていた一頭の脳天に突き刺さった。地面にいた数頭にも命中したようだ。
不意打ちの攻撃だったにもかかわらず、大半の狼が回避していた。
牙を見せながら、此方に向かってくる。
俺を見つけるなり、奴らの目が輝いた。
小型の狐は、格好の餌食だった。
慌てて、異次元ポケット漁る。
「俺のマブダチ、出て行け、スネーク兄弟! 」
「ヒャッホー! 」
「嫌っす!狼なんて怖いっすー」
殺気にウズウズしていたドン兄と、怖気付いたゴン弟コンビを、狼目掛けて投げ付ける。
眼前に深紅の巨大な大蛇と龍が出現した。
周辺の木々が尽く、へし折られている。
何処からともなく現れた、明らかに格上の敵を前に、固まる狼たち。
「テメェら、ヤんのか、ぁあ! 」
「キャン」
ドン兄の一睨みに、狼達は尻尾をまいて逃げ出した。
「ドン兄、カッコイイっす! 」
その後ろ姿を見送りつつ、羨望の眼差しを向けるゴン弟。
俺はなんとか、ひみつ道具で敵を撃退できたようだ。
ピロロが男の子をだき抱えて、こちらへ歩いてきた。地面におりると、蹲って泣き出す。
「ひっく、ひっく、おどうさんが、ひっく、ひっく、おどうさんがぁ」
ピロロがその小さな背中を、後から優しく抱きしめていた。
先程、ピグマリア教団チタニア教帝領に入ったらしい。博士の話では、あと半日もしたら、教団総本部チタニア神殿に到着するという。日暮れ前には到着できそうだ。
隣にピロロが、向かいにラヴォア博士が座っている。俺の斜め前、つまり、ピロロの向かいに樽が置かれ、スラリーがぷかぷかと浮かんでいた。
馬車からは、並走する騎馬兵見えた。ピロロが選んだ尖鋭100騎が、前衛、護衛、後衛にわけれて進んでいる。
俺達の後ろには、アナターゼ総主教の馬車と、マスター率いる補給部隊の馬車が続く。
マゼンタ王国を出発して四日が経っていた。
最初こそ旅行気分で楽しんでいたものの、野営続きで疲労がたまり、皆どんよりとしていた。
それに加えて、まざまざと痛感させられる現実の厳しさに、より一層空気が重くなる。
チタニア教帝領に入ってからというもの、嫌でも災害の痕跡が目に飛び込んでくるのだ。
地面はぬかるみ、草木はなぎ倒されている。
車輪が捕われ動けなくなったり、倒木のせいで足止めを食らい、迂回を余儀なくされることが頻発しだした。
結局、当初の予定より大幅に遅れていた。
既に日は落ち辺りが薄暗い。
ぞわ、ぞわ、ぞわっ。
突然、激しい悪寒に襲われた。
それとともに、微かなチタニア種の色素が感じられる。
スラリーを見ると、樽の奥底で身を縮めていた。
「止めろっ! 」
ピロロはそう叫ぶと、馬車から飛び出した。
俺もその後に続く。
アォ、ワォ、ワォーーーン!
遠吠えが聞こえた。
急がねば、不味そうだ。
微かな色素を頼りに、歩みを加速させる。
獣の鳴き声と息遣いが聞こえてくる。
次第に、それは大きくなり、草木の間から黒い狼のシルエットが見えてきた。
1本の木を取り囲むように、十数頭が群がっている。みな一様に上を見ながら、吠えていた。
その視線の先には、小学校高学年くらいの男の子がいた。細くなった幹と枝の間に、身を縮めてしゃがみ込んでいる。
何度目かの挑戦の後、一頭の狼が幹を駆け上がることに成功した。
ピロロが音もなく、飛び上がる。
剥き出しの牙が、少年の足へと襲いかかった。
絶望に耐えかねた男の子が、目をぎゅっと瞑った。
ドスッ、ドスッ、ドスドスドス…
ピロロが放った髪飾りが、雨のように狼達に降り注ぐ。
ギャン、ギュン!
ドサッ、バタッ
幹を駆け上がっていた一頭の脳天に突き刺さった。地面にいた数頭にも命中したようだ。
不意打ちの攻撃だったにもかかわらず、大半の狼が回避していた。
牙を見せながら、此方に向かってくる。
俺を見つけるなり、奴らの目が輝いた。
小型の狐は、格好の餌食だった。
慌てて、異次元ポケット漁る。
「俺のマブダチ、出て行け、スネーク兄弟! 」
「ヒャッホー! 」
「嫌っす!狼なんて怖いっすー」
殺気にウズウズしていたドン兄と、怖気付いたゴン弟コンビを、狼目掛けて投げ付ける。
眼前に深紅の巨大な大蛇と龍が出現した。
周辺の木々が尽く、へし折られている。
何処からともなく現れた、明らかに格上の敵を前に、固まる狼たち。
「テメェら、ヤんのか、ぁあ! 」
「キャン」
ドン兄の一睨みに、狼達は尻尾をまいて逃げ出した。
「ドン兄、カッコイイっす! 」
その後ろ姿を見送りつつ、羨望の眼差しを向けるゴン弟。
俺はなんとか、ひみつ道具で敵を撃退できたようだ。
ピロロが男の子をだき抱えて、こちらへ歩いてきた。地面におりると、蹲って泣き出す。
「ひっく、ひっく、おどうさんが、ひっく、ひっく、おどうさんがぁ」
ピロロがその小さな背中を、後から優しく抱きしめていた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
152
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる