ドラゴンパイロット! ―少女の歌と竜の瞳―

伊武大我

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ドラゴンと少女

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 目が覚めた。
ベッドの中だ。また気絶していたのだろうか…
林の中にいたはずだが部屋の中にいる。
知らない天井だ。
誰かが病院に運んでくれたのだろうか。
しかし木造の天井からはそういう雰囲気は感じ取れなかった。
窓から心地の良い日差しとそよ風が入ってきている。
國島が上体を起こそうとするとちょうど部屋に唯一ある扉が開いた。
おぼんに食事を乗せた少女が現れた。

「あ、ダメですよ!まだ治したばっかりなんですから!」

上体を起こしかけていた國島を見るなり少女は手に持っていたおぼんを近くの机に置いて駆け寄ってきた。

「血も減ってるはずなんですから寝ててください!」

そう言って國島の体を押し倒した。
言われてみれば少しふらつく。
なすがままにベッドに戻される國島だが彼女の顔を見てあることに気付いた。

「あれ!?榛地じゃん!ここどこなの?」

「えっ…」

急に知らない名前で話しかけられた少女は少し驚いた表情になった。

「私の名前はシンディですよ?ここは私の家です。」

「え、シンディ…?」

よく見てみると顔も髪型もそっくりだが榛地よりも幼く見える。高校生くらいだろうか。
何より榛地の頭に羊のような角は付いていない。あともみあげが長い。腰くらいまである束を金属のリングでまとめていた。
前髪が片側だけ長く、片目が隠れがちになっている。
服装もどこかの国の巫女みたいな服装だ。
名前の響きもそっくりだが別人のようだ。

「林の池の近くで倒れているあなたをフィーとラズリが運んできたんです。あとでお礼してあげてくださいね?」

「あぁ…(フィーとラズリ?)ところでその角って何なの?コスプレ?」

「コスプレ?何のことかわかりませんがこの角は私の角ですよ?」

「ふーん…」

設定に凝ってる子なのかな?と思って國島はあまり深く聞かない事にした。

「話は変わるけど君が看病してくれたみたいだね。ありがとう!」

「いえっ、医者の娘なのでケガしてる人を治してあげるのは当然の事です!
 まだ魔法が未熟なので傷が開いてしまうかもしれませんけど…」
ちょっと恥ずかしそうにしている。

(それで寝てろって言ったのか。ん?ていうか魔法?)

もしかしたら結構痛い子なのかなと國島は思った。


 寝てろと言われたしもうちょっとだけ寝てようかなと思って國島が目をつむろうとすると聞き覚えのある歌が聞こえてきた。

「あれ、この歌…」

「あぁ、フィーの歌ですよ。よくこうやってラズリに聞かせてあげてるんですよ。」

そう言ってシンディが窓の外を見る。
國島もつられて窓の外を覗いてみるとさっき池で見かけた女の子と

さっきのドラゴンがいた…。

國島はベッドから飛び起きて外へ飛び出していった。

「あ、ちょっと!まだ寝てなきゃダメですって!!」

 どう見てもドラゴンだ…。
ドラゴンに似てる動物なのかと思ったけど、どうやって見てもドラゴンだ…。
爬虫類のような青白い肌に蝙蝠のような羽、先端にはかぎ爪が付いている。
4本の脚があり、頭には何本か角が生えている…
切れ長の大きな目は瑠璃色のように濃くて綺麗な蒼で怖いというよりは美しいという印象を与えている。
そして額には瞳の色と同じく瑠璃色の綺麗な玉のような物が収まっていた。
そして行儀よく座りながら女の子の歌を聞いていた。

「おお、目が覚めたか。倒れているお前を見たときは心底驚いたぞ!」

國島に気付いた女の子が話しかけてきた。
10歳前後くらいだろうか。
薄っすらと青くて白い髪を地面に付きそうなくらい長く伸ばし、頭にツバの付いていない浅い円筒形の帽子を被っている。
ドラゴンとはまた違った透き通るような美しい青い目をしている。
特別寒いわけではないが外套のような物を羽織っている。

「え、それ…ドラゴンだよね…ほ、本物?」

「ん?本物に決まってるじゃないか。お前、ドラゴン見たことないのか?」

「いや普通あるわけないでしょ!!」

女の子はいや普通あるだろって顔をしている。
と、そこへベッドを飛び出していった國島の後を追ってシンディがやってきた。

「ま、まだ、寝てなきゃ、ダ、ダメって、言ったじゃ、ないですか…」
余程体力が無いのか部屋の中から家の庭まで走っただけなのに息を切らしている。

「だ、だってドラゴンが家のすぐ外にいるんだよ?!誰だって驚いて飛び出すでしょ??!」

「え、ドラゴンくらい普通じゃないですか?」

え、普通なの?
何かおかしい気がする…
なんとなく家の作りとかも日本っぽくないような…

「あの…変な事をお尋ねしますがここって日本ですよね?」

「二ホン?なんですかそれ?ここはガル村ですよ?」

なん…だって…

國島に雷のような衝撃が走った。
そして血の気が引いていった。

「え、日本じゃない?じゃ、じゃあ俺はどこの国まで来ちゃったんですか?」

「…?だからここはガル村ですって。国じゃないですよ?」
「一番近い国はヴァ―モル公国ですね」

どっちも…知らない…
しかも公国なんて地球上に何個もないはずなのに聞いたこともない…

そんな事絶対無いと思うけど一応ハッキリさせておきたい
「あのぉ…一応聞くんですけど…ここって地球ですよね?」

「チキュウ?チキュウって?」

「俺たちが立ってるこの世界の事だよ!」

「この世界は女神サフィア様の治めるエル・ドラメでは?」

國島は膝から崩れ落ち、白目をむいた。


 *


 「ハッ!」

「あ、起きた」

またベッドの中だ。
また気絶したようだ。
ベッドの脇にはさっきの女の子が腕を組んだ上に頭を置いてこちらを見ている。

「また倒れたのか。体が弱いなぁ」

女の子に軽くバカにされている。
目が覚めたら基地に戻っていると思ったのに!そう上手くはいかないようだ。

「いやあちょっと信じられないことが重なって…今も信じられてないけど…」

「なんだお前はどこか遠いところからきたのか?ドラゴンを見たくらいで驚くなんて」

「どうやらそうみたい…ドラゴンなんて見たことないもん…どうしよう…」

どうやら地球ではなさそうだとわかって國島は絶望しかけていた。
(イーグルで宇宙に出て他の星まで行けるわけがないし、ここはいったいどこなんだろう…)
と、そこへまた部屋に唯一ある扉が開いておぼんに水を乗せたシンディが入ってきた。

「あ、起きたんですね。突然倒れるからびっくりしました。」

「どうもびっくりする事が重なって…」
「もう一回聞くけどここは地球って場所じゃないんだよね?」

「そうですよ。ここはエル・ドラメのガル村です。」
「ちょっと村の風景を見てみますか?そのチキュウって場所とは違うって事がわかるかもしれません。」

さっき外に出た時はドラゴンに驚いて急いで庭に行ってしまったので確かに村の様子は見ていなかった。
國島は部屋を出て家の玄関まで行き木製の扉を開けた。
家を出てすぐの道には誰もおらず、家が並んでいるだけだった。木製の家が多いようだ。
周りの家を見ながら少し道を進んでいくと賑やかな声が聞こえるようになってきた。
その賑やかな声がする道に入ると商店街のように店が並んでいた。
そしてそこで買い物をする人たちを見てここが地球でないと確信した。
確かに人間のような人たちもいるがシンディのように角がある人たちがいる。耳が長い人も。
極めつけには明らかに動物の顔をしている人たちがいた。
虎の顔や犬の顔など様々な動物の顔をしている。
ぬいぐるみかとも思ったがどう見ても被り物をしている感じではない。普通に口を動かして喋ってるし。
そういう人たちがドラゴンを連れながら歩いている。
とても地球人とは思えない。
國島は走ってシンディの家へと戻った。

「うん、確かにここは地球じゃないみたいだね…」

「何かチキュウと違うところはありましたか?」

「うん、地球には角が生えた人も耳があんなに長い人も顔が動物の人もいないからね。俺みたいなノーマルタイプの人しかいないからね。」

「えっ!いないんですか!ロークドもエルフもアニメイルの人たちも!?ヒューオムの人たちだけなんですか?!」

自分のように角が生えてる人たちがいないと聞いてシンディは心底驚いた。

「ちょ、ちょっとそのチキュウについて教えてください!」

シンディと國島はイスに座り、情報交換会を始めた。
地球にはアニメイルはいないが同じような顔の動物はいること、エル・ドラメでは魔法が使え、地球では伝説とされている生物がいること…
お互いに知っていることは色々話した。

「どうやら色々違う世界のようですね…」

「うーん…一体どうやってここに来ちゃったんだろう…どうやって帰ればいいんだろう…」

「ちょっとここに来てしまった直前の事を話してみてください。何かわかるかもしれません。」

「わかった。
 まず俺は軍隊みたいなところに所属しててね、そこで飛行機っていう空を飛ぶ機械に乗ってたんだ。
 で、その日はドラゴンみたいなのが出たから見てこいって言われて行ったんだ。
 ドラゴンなんてこっちの世界じゃ空想の生物だから何かの間違いだと思いつつその場所へ行ったんだ。
 そしたらほんとにドラゴンみたいなのがいて追いかけたんだ!
 そうしたらすごい速さで移動するもんだから飛行機の速度を最高にしたんだ。
 そして気付いたらこの世界の空を飛んでたってわけさ。」

「うーん…そちらの世界にいないドラゴンがいたというのが気になりますね…
 そのドラゴンと交換でこっちに来たんでしょうか…?」

「いやあ、そもそもドラゴンだったかもわからないんだけどね」

「ところでお前!空を飛ぶ機械に乗ってたって言ってたな!という事は空を飛ぶのは慣れっこだな!?」
今まで黙って話を聞いていた女の子が急に声を上げた。

「え、まあ一応キャリアは数年あるけど…」

「よーし、表へ出ろ!」
女の子は國島の袖を掴み外へと連れて行った。


 表へと連れていかれた國島は女の子の歌を聞いていたドラゴンの前に立たされた。

「この子はラズリっていうんだ。そういえば名前を教えていなかったな。フィーの事はフィーと呼ぶがいい。」

「フィーとラズリ…ああ!じゃあ君が林の中で倒れた時に運んでくれたんだね!どうもありがとうございました。」

フィーと名乗った女の子はまあまあそう大したことではないと言いたげなドヤ顔だ。

「で、お前の名前は?」

「ああ、俺は國島春樹っていうんだ」

「おお、お前も名前にハルと付くのか!よし、今度からお前の事はハルと呼ぶぞ!」

フィーはその綺麗な青い目をキラキラ輝かせた。

「うん、あっちの世界の知り合いもハルって呼ぶからそれでいいよ。」
「ん?お前「も」ていうのは?」

「フィーの本名はフィア・ハルネスっていうんです。ふふっ、自分と同じ名前が入ってて親近感が湧いたんでしょうね」
シンディが微笑みながら教えてくれた。

「なるほど!よろしくな、フィー。」

「うむ。よろしくな、ハル。」

二人は熱い握手を交わした。

「ちなみに私はシンディ・エアハートって言います。」

別に聞いていないのにシンディが割り込んできた。

「私もハルって呼んでいいですか?」

「ああ、もちろん。よろしく、シンディ。」

「はい、よろしくお願いします。ハル。」

二人は固い握手を交わした。


 「よし、ハル。ラズリの前に立て。」

「あ、ああ…」

フィーに無理矢理引っ張られてラズリの前に立たされた。

「別に襲ったりしないから安心しろ。しかしいきなり知らない奴に乗られてもラズリもおもしろくないだろうからな。まず自己紹介といこう。」
「話しかけながらゆっくりと頭を撫でろ。」

「え、乗るの?」

「いいから早くしろ!」

半ば無理矢理ラズリの方へと押し出されたハルは、言われた通りに自己紹介をしながら近づいた。

「や、やあ!ボクはハル!君の名は?」

喋れるわけがないのに、名前も知ってるのに名前を聞いた。
もちろん返事はない。
そのままゆっくり近づき頭を撫でようとした。
そして、手を触れようとした瞬間、急にラズリが立ち上がり、牙を剥いた。
ああ、死んだわ。こんなよくわからない場所でドラゴンに食べられて死んだわ。
と、ハルと最期の言葉は何がいいかと考えていると、
またあの歌が聞こえた。
フィーがまたあの歌を歌っている。
知らない言語なので意味はわからないがどこか懐かしく、子守唄のような心地よい歌声だ。
最期にこの歌を聞きながら死ぬのもいいかもしれないと思っていると段々とラズリの表情が落ち着いてきた。
そしてまたお行儀よく座って歌を聴いている。

「その歌ってそんな効果があるのか…」

「お前バカか!いきなり「竜の瞳」に触ろうとしたら怒るに決まってるだろ!」

「え、「竜の瞳」って?」

全く理解できていないハルにシンディが教えてくれた。

「ドラゴンの額にある玉のような物ことです。瞳にも見えるので「竜の瞳」と呼びます。ドラゴンにとっては命の次に大事なものです。」

「そ、そうだったのか…気を付けるよ」

「よし、もう一回やってみろ!」

またフィーが無理矢理ラズリの方へ押し出した。

今度は「竜の瞳」に触らないように気を付けながら優しく撫でた。
今度は受け入れてくれたようだ。

「よし、いいだろ。背中に乗れ」

「え、もう?」

「大丈夫だ。ラズリの方で落とさないように飛んでくれるから。」

ラズリも状況を理解したのか体を低くしてくれた。

「ほら、早くしろ。」

またフィーに無理矢理押し出された。
恐る恐る乗ってみると完全に座りきる前にラズリが立ち上がった。

「うわッ!」

落ちそうになったがラズリが上手く体勢を変えてくれた。
そしてそのまま軽く助走をつけると、一気に空へと飛びあがった。

「うおおおおおっ!?」

正直ヘルメットも航空メガネも無しなので目を開けているのが大変だった。
しかしやはり空を飛ぶ感覚が染みついているのか居心地がよかった。
景色も素晴らしい。
ちらほらと国や村のようなものは見えるが自然の方がたくさん残っているようで綺麗な森や池がたくさんみれた。
遠くの方には海もあるようだった。
グルっと一回りするとラズリは元の場所へと戻っていった。
そして地上から数メートルの高さでホバリングした。

「どうだ!気持ちいだろ!」

下からフィーが叫んだ。

「ああ!もう一周してきたいくらいだよ!」

ハルも下に向かってそう叫んだ。

そして顔を上げると遠くの方から何か飛んでくるのが見えた。

「ねえ、あれって…」

ハルがフィーとシンディに聞こうとすると

「おい!またあいつらが来たぞ!」

熊の顔のおじさんが焦った様子で走ってきた。
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