掌編・短編集

わこ

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17.お隣さん

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 左隣は空き部屋だ。右隣りには男が住んでいる。お隣の、坂口さん。
 コンビニからマンションに戻った後は自分の部屋には入らずに、隣人宅のピンポンを鳴らした。

「ども」
「うっす」
「おでん食わねえ? 酒もある」
「あぁ……食う」

 お隣さんとは仲良しだ。




***




 コンビニおでんをつまみにしながら安い缶の酒を飲み干し、深夜のハイテンションも作用して酔っ払った男二人。隣同士で首から下を暖かいコタツに入れてしまえば、猫の気持ちもよく分かってくるから出られなくなるのは当たり前だ。

「坂口さんさあ」
「んー」
「今フリー?」
「うーん」
「どっちよ。彼女いないの?」
「うん」
「いない歴何年?」
「あー……二年? 森本さんは?」
「三年前に浮気されて以来ちょっと女性不信」
「笑えねえよやめろよ」
「でもいま恋してる」
「恋とか……。まあいい兆候じゃねえの。良かったね」
「うん。坂口さん俺と寝られる?」

 そこで会話は途切れた。うつ伏せの格好のまま顎を腕に乗っけている俺に、仰向けになって寝ていた坂口さんがチラリと顔を向けてくる。
 モゾモゾ動き出したかと思うと、今度は体ごとこっちに向きを変えた。カーペットに片肘を付き、手で頭を支えるこの人はやる気のない疑問顔。

「……どーゆー?」
「まんま。俺とヤれますかって意味」
「うーん」
「ああそこ考えちゃうんだ。いいよ普通にスルーするとかヒクとかして。ちょっと当たって砕けてみたかった」
「んー? もしかして俺が恋されてる人だったりする?」
「うん。実は坂口さんの顔めっちゃタイプ」
「顔かよ。女性不信から思わず男に転向って感じ?」
「いや、俺もともと両方イケるんで」
「あーいいな便利」
「便利ってあんた……」

 酔っているせいか坂口さんが異様に軽い。普段からこんな感じだけどいつもの二割増しくらいで軽い。
 こたつの中で俺もモゾモゾ動いて、坂口さんのカッコイイ顔と近い距離で向き合った。

「正直ヒいたろ?」
「本音を白状するとかなり嬉しい」
「坂口さん、あんた意外といい人だね。大丈夫だよ、隣人のよしみとかそういうやつは。きっぱりフッてくれれば即座に諦めつくから」
「なに、その程度? 俺本気で森本さんのこと可愛いと思ってたのに」
「…………」
「ヒくなよ。マジ引きやめて、ヘコむ」
「ごめんビックリしてた。可愛いと思われてたんだ俺……」

 そいつは知らんかった。

「どの辺が可愛い? 俺そこそこ顔には自信あるけどカワイイは初めて言われた」
「自信あるんだ」
「言ってみて後悔した。恥ずかしい」
「今のそれ可愛い」
「マジか」
「アレだよね、森本さん猫っぽいよね。餌もらうだけもらって居付きもせずにさっさと帰っていくタイプの奔放ネコ。よその家でもいろんな人間たらし込んで自由気ままに生きてる感じの」
「悪口?」
「超褒めてる」
「嘘じゃん、ゼッテー褒めてねえし」

 二割増しで軽くなった坂口さんは行動も軽かった。広くはないこたつの中で隣に並んでいたところ、更にこっちに詰め寄ってきて体がピタリと服越しに触れ合う。

「…………近くね?」
「森本さん。俺寝られるよ、アンタと」
「今その答え言う? 近くで見てもカッコイイね坂口さん」
「ありがとう。じゃあ早速一発ヤッてみる?」
「あんた顔に出てないだけで結構酔ってるな」

 おかしくなった森本さんを宥めてみたらなぜか抱きつかれた。嬉しいから止めはしない。

「酔ってねえよ」
「酔ってる人はみんなそう言うんだよ」
「酔ってるけどシラフでもいつかこうしてた。なあ、シよ?」
「ちょっと待って今の録音するからもう一回」

 脱ぎ捨ててある上着のポケットからスマホを取ろうと手を伸ばすと、ガバッと覆い被さってきた坂口さんに口を塞がれてさっそくどうでもよくなった。

 なんだこれ、夢か。唇やわらけぇ。
 つーかウマいなこの人。フリー歴二年とはなんと言う宝の持ち腐れだろう。どっかの女に掻っ攫われる前にこれはモノにしておくべきだ。

「ん……」

 チュクッと舌に吸い付いて、スルスルと坂口さんの体に手を伸ばしていく。
 腰骨を下って尻を撫でると、足が絡みついてきた。下半身が密着する。そしてどういう訳なのか、尻を撫で繰り回していた俺の手はパシッと取られ。

「ぅえ?」
「森本さんエロい。もう俺ダメだ、我慢すんのやめたからね」
「お、お? え?」

 高さのないこたつの中で、坂口さんが俺に乗っかってきた。
 もう一回言うけどこのこたつテーブルに高さなんてほとんどない。そのため馬乗りなんてもんじゃなく、ガチで上に乗られている。

「ちょ、え? 待っ……俺、下?」
「だろ。当然」
「ぇえー、ナイナイナイナイナイそれは無い絶対ない。俺掘りたい人だもん。坂口さんにアンアン言わせて泣かしたいとかずっと思ってた」
「思ってても言うなよ。つーかそれこそ無いし。俺いまから森本さんのこと抱くから」
「…………いーや、ナイねッ。想像してみたけど無かった!!」
「森本さん俺のコト好きなんだよね?」
「死ねるくらい好き。顔が」
「やっぱ顔なんだ。まあいいけど、好きな男に嫌がること強要したくないでしょ?」
「問題ない。俺割とサド気質だから嫌がる事させたい派」
「そっか奇遇。実は俺もなんだ。あなたのは鬼畜の域を超えてるって言われて前カノからはフラれた」
「………………へえ」
「引くなっての」

 なんか駄目だ。俺の立ち位置が非常に危うい。そして動けない。重いっす、坂口さん。

「最初に誘ったの森本さんだからな。泣いても喚いてもむしろ楽しくなってくるから朝までやめてやらねえぞ、覚悟しろ」
「ちょちょちょちょタンマタンマっ、人変わっちゃってるからッ。落ち着け坂口さん!」
「うるさいよ。あんたの上乗った辺りから勃っちゃって困ってんだよ」
「知ってるッ。立派そうだね! 抜くの手伝うよ! 指と口どっちがいいッ!?」

 ちょっと必死。もうこの人に突っ込めなくてもいいから俺が突っ込まれるのだけはマジでごめんこうむりたい。
 何も後ろ使わなくたって擦れば男はイクんだし、大変な事態に発展する前に慌ててご奉仕を申し出てみた。
 が、坂口さんには怖いスイッチが入っていました。焦る俺に、真顔で一言。

「入れたい」

 無理無理無理無理。

「あ、ごめん。今一瞬だけ聴覚が機能してなかった。ところで俺的には口がお勧めなんだけどさ」
「下の口」
「わーッ、やっぱ口やめよう! 指でも風俗並にイカせられるから!!」
「指よりケツ」
「あーあーあー! じゃ、じゃあせめてほら素股とか……ああうんそうしよう! 素股くらいなら俺でもなんとか、」
「いいから黙ってケツ差し出せやテメエいい加減ブチ犯すぞコラ」
「…………」

 誰だこの人。どこのヤクザ。
 これは立ってほしくないフラグが立ってしまっている模様。

「森本さんヤラせてよ。俺のこと好きなんでしょ? 怖がんなくても大丈夫だよ、俺ウマいから」
「なにその自信」
「男と寝た事ないけど」
「なお悪いわっ。俺痛いの無理なんで」
「痛がってる森本さんすげえヨさそう」
「…………」
「今度からドン引き禁止ね」

 やべえ、これ掘られる。黙ってたら処女奪われる。

 ヤレるなら童貞だろうと処女だろうと俺は大歓迎だ。でも童貞じゃない処女に犯されたい願望なんて微塵もない。
 まして坂口さんは普段からヨコシマな目で見ていた相手。コイツ泣かしてぇとか常々思っていたイケメンに、まさかの反撃食らわされるなんて絶対に嫌だ。死んでも嫌だ。

 だいたいこの人、俺のことほんとに抱けんのかな。坂口さんノン気だし。本番になったら萎えたりして。
 こっちが突っ込む分には相手が萎えてようがなんだろうがやろうと思えばできるけど、このカラダを見て坂口さんが萎えてくれれば俺の貞操は守られる。

「……坂口さん、ちゃんと俺で勃つ?」
「悪あがきはよそうね。さっきから森本さんに押し付けてるコレはなに」
「いやほら、実際男のカラダ見たら萎えるかもしんねえじゃん。悪い事言わないからさ、やめといた方がいいと思うよ。後々のトラウマものだよ」
「それなら問題ない。ここ半年ほど俺のオカズはずっとアンタだ」
「…………」

 ぅおいっ。

「……マジすか。え、じゃあなに。俺は知らないうちにずっとケツ狙われてたの?」
「うん」
「うっそぉー。タチ専語ってた身としては結構ショック……。あ、でもさ言ったって想像でしょ? 生身の俺見たらきっとやる気失せるよ。ッつー訳だから、退いてください」
「退かねえよ」

 一言放るや否や、ガブリと。くちびる食われた。じゃなくて、キスされた。

 やっばいな。すっごい気持ちいい。これはマズいよ。困るよこれは。
 坂口さんはキスが上手い。舌遣いが異様にやらしい。何度も執拗に角度を変えて貪られていくうちに、段々フニャンとなってくる。酒の力とこたつのぬくぬく加減によって順調に思考を飛ばしていった。

「ん、ぅ……」
「はッ……あっちぃ……つーかエッロ、森本さん。なにその顔ヤバ」

 ポケポケしていると坂口さんが俺を眺め落として笑った。その手はこたつのスイッチを切り、そのまま俺の下半身へ。

「ぁ……」
「勃ってんじゃん」
「そりゃ……好きな人とこんなくっ付いてればね」
「この勢いで入れていい?」
「待ってちょっと何それコワい裂ける。前戯まで強要はしないからせめて慣らして」
「お。突っ込まれる気満々? どしたのいきなり降参しちゃって」
「だってあんたもうヤル気しかないでしょ。いいよもう好きにしろよ、惚れた弱みだこの野郎」
「森本さんいい男だね」
「ありがとう!」

 ヤケだった。開き直った俺を見て笑った坂口さんは超怖かった。

 その後こたつは抜け殻と化し、俺達は隣の部屋のベッドにそれはそれは激しくもつれ込んだ。
 絡みに絡んでなんだか良く分からない感じに盛り上がってしまった結果、舐め合うと言うよりかはお互いの体に噛みつき合ったものだから、後半戦に突入する前から二人揃って状態はボロボロ。

 坂口さんはノリノリで俺を犯し、俺は不覚にもネコの素質があると発覚してひたすら喘いだ。
 正直、びっくりするほどヨかった。




***




「坂口さん……」
「んー?」
「……放して。そして風呂貸して」
「えーうわーヒデぇ森本さん。ヤッたらそれで終わり? 甘いひと時とかそう言うのないわけ? 最っ低だな。やり逃げされんだ俺」
「やられたの俺だけどね。いいからちょっとだけ放してよ。アンタが出したもん掻き出してくるから」

 いろんな形跡のあるシーツの上で、坂口さんに後ろ抱きされて動けなくされている俺はしぶしぶ事情を口にした。
 彼女いない歴二年は本当だったようだ。この部屋にはゴムなんて気の利いた物がなかった。
 それでもめちゃくちゃノッていたが故に中出し当たり前みたいな顔でガンガンぶち込んできたこの男。自称ドエスは自称ではなく、俺の腹は満ちに満ちていた。

 なんたる悲劇。ちょっと前までタチっていたのに、自分で後ろをどうこうする日がまさか来ようとは。
 オトコ初なこの人に後処理なんて任せるのはあまりにも酷だろうし、何より俺が嫌だから、とにかくさっさと風呂場にこもって中のものを取り除きたい。
 と思っていたんだけど。俺のその一言に、坂口さんは好奇心を示した。

「……掻き出す?」
「言うなよ。恥ずかしいんだよヤメテよ」
「そのまま入れとけば。いっそ孕んだらいいと思う」
「最低なのどっちですか。つーか何、俺に腹壊せと? ちゃんと一人で処理できるから坂口さんは寝てていいよ」
「どうすんの。処理って」
「ノン気の初心者めんどくせえッ。指突っ込むの!」
「……あー。うん、よし。行こう。俺がやってやる」
「え、いいです全力で結構です自分でやるから放っといて。なんでちょっと笑ってんの」
「やりたい。興味ある。出るトコ見たい」
「あんたサドじゃなくてド変態だよ!!」

 惚れた隣人はノーマルどころかとんでもなくアブノーマルだった。ノン気のはずの男によって、両刀バリタチを語っていた俺が変な道に引きずり込まれる羽目に。

 陽気ルンルンの坂口さんは、暴れる俺を問答無用で風呂場まで担ぎ込んだ。事後処理と称した精神的拷問を受ける事となった可哀想な俺。
 羞恥プレイを強要されて俺が泣き喚けば泣き喚くほど、変態疑惑の付いた坂口さんが盛り上がったのは言うまでもない。
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