左脚に花

叶汰

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花の香

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 東京に上京してからもう二年が経過する。駅の改札口で懐かしい香りのするお兄さんとすれ違った。半年前の祖父と同じ匂いだった。

 私が初めて覚えた手遊び歌は、祖父に縁側で教わった『いとまきのうた』だ。「いーとーまきまき いーとーまきまき ひーて ひーて とんとんとん」中々覚えられず、もういっかい!もういっかい!と何度もせがんだそう。その時の祖父の優しい困り笑顔を未だに覚えている。
 小学生になってからはよく従姉と共に祖父母の家に泊まった。祖父は大きな家の長男で、家の敷地内には母屋と離れと蔵の他に、工場こうばと柿の木の生えた中庭と畑とがあった。畑で採れた白菜を祖父が漬物にしたものが二人のお気に入りでよく取り合ったものだ。おやつにはそれもまた祖父の畑で採れた苺や葡萄、秋には芋を掘り返して、ストーブの上で焼いて食べた。
工場に顔を出して気まぐれにバリ取りの仕事を手伝おうとするが、機械から出たばかりのプラスチックの塊は私の柔らかい手ではとても触れられたものではなく、中途半端にバリが残って余計に仕事を増やしたりもした。
 中学生になってからは従姉も来なくなり私も部活動やらで殆ど顔を出さなくなったが、囲碁の相手になったり柿の木の下でゲートボールをしたものだ。
 高校生の頃にはもう正月くらいしか行かなくなっていた。

 今思えば私は祖父のことをあまり知らない。寡黙な人だったし、私も身の上話をするのは苦手だった。祖父もそうだったのだろう、しっかりとその血を受け継いでしまった。
男女関わらず祖父を除いた祖父の家系は口から生まれてきたのかと言わんばかりのお喋りで、人の話を聞いている間も口元をもごもごさせている。祖父はきっとそんな弟妹たち、娘たちの話の聞き役だったのだろう。
 親戚一同の集まりを隅で笑顔で眺めている、そんな祖父が大好きだったのだと気付いた20歳の冬の日、ある報告をしようとスマホを開いた。
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