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運がない
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「ここで頑張れる自信ないわ」
私は机に突っ伏しながらため息を吐く。
「邪魔するぞ」
当主は許可なく勝手に部屋に入ってきた。
私と目が合うなり、大笑いをした。
「お前のこんな姿を目にする日がくるなんてな。長い気はするものだな」
笑いすぎて目から涙を流す当主をみて、私は普通に引いた。
「何か用ですか?」
体に力を入れるのさえ面倒で、机に倒れこんだまま視線だけ動かして尋ねる。
「いや、特にないな。強いて言うなら、お前が困っている姿を見てから帰ろうと思ってきたくらいだな」
「帰れ」
私は近くにあったものを適当に掴んで投げつけた。
「言われなくても帰るよ」
当主は手を振りながら出ていった。
本当になにしに来たのかわからない。
うんざりしながら、私は顔を机につけたままうなり続けた。
そのころ当主は、上機嫌で廊下をスキップしていた。
弱っていく未桜の姿を見られないのは残念だと思いながら、この屋敷に違和感を覚えていた。
自分たちが知らない何かがあるような気がしてならない。
茜が花嫁だったら、ここには来る予定はなかったため、きっと気づくことはなかっただろう。
だから、自分が現れた瞬間、妖狐たちが慌てだしたのだ。
当主を含めたお偉いさんたちは顔には出さなかったが、下っ端たちを見れば簡単にわかる。
「いったい何を狐共は隠してるんだ?」
当主は今からその秘密を暴くのが楽しみで仕方ない、といった表情を浮かべながら帰還したが、その表情を見た者たちは「また、面倒なことになる」と胃が痛みだした。
※※※
「花嫁様。おはようございます。入ってもよろしいでしょうか」
花梨の声で私は目を覚ました。
首が物凄く痛い。
首をさすりながら状況を確認すると、昨日婚姻を終わらせ、当主と別れたあと、その恰好のまま気づいたら寝ていた。
花嫁衣裳のまま寝たせいで、しわができている。
桔梗と結婚したとはいえ、子供を作ることは禁じられているため、初夜とはいえ彼が訪れることはない。
この先一生ないだろう。
それは歴代花嫁たちも同じだったはずだ。
この姿を見られたら桔梗がくるのをずっと待っていた、哀れな女になってしまう。
急いで着替えようとするが、私の荷物が何一つない。
これは一体どういうことだ?
いや、それだけではない。
夕食の時や風呂の時になぜ誰も声をかけなかったのだろう。
いくら契約結婚のせいで疲れていたとはいえ、声をかけられたのに気づかないことなんてあり得るだろうか?
こんな薄い障子からの呼びかけに。
(うーん。ちょっと、試してみるか)
私が悪いのか、それとも彼女たちか。
はっきりさせておく必要がある。
とりあえず馬鹿な女のふりをするために、仮面をもう一度つけた。
「ええ。いいわ。どうぞ、入って」
私が許可を出すと、花梨は障子を開けた。
「失礼いたします」
花梨がそう言うと。それに続いて控えていた侍女たちもそう言った。
「皆様が既にお待ちしております。急ぎましょう」
まるで私が悪い言い方をする花梨に、侍女たちをも非難するような目つきをする。
(なるほどね。わざとか)
私は彼女たちの態度から、どちらが悪いのかがわかった。
普通なら人間が狐の世界にたった一人で住むことになれば不安になり、彼らに従うようになっていくのかもしれないが、私は残念ながら普通ではない。
売られた喧嘩は買うのが私だ。
「私の荷物はどこ?」
花梨の言葉を無視して質問する。
はぁ?と声には出さなかったが、顔にはしっかり出ていたため苛ついているのがわかった。
「花嫁様。皆様がお待ちなので急いでください」
侍女の一人が苛ついたように言う。
「ねぇ。さっきから気になってたんだけど、‘花嫁様’って誰のこと?もしかして私のことを言ってるんじゃないよね」
私は鼻で馬鹿に笑ってからこう続けた。
「まさか、そんなわけないわよね。私はもう‘花嫁様‘じゃないんだからさ。それで、いったい誰のことを’花嫁様‘って言っていたのか教えてくれる?私以外にもその’花嫁様‘がいるのか知りたくて、ね?」
私は侍女の肩を掴み、しっかりと目を合わせてほほ笑みながら尋ねた。
仮面をつけていたため、侍女には私の目しか見えていなかった。
だが、それが気に食わなかったのか、侍女は私の手を払いのけ「いいから、早くしてください」と腕を強く掴み、無理矢理歩かせようとした。
他の者たちはただ眺めているだけで、私を助けようとするものは誰一人としていなかった。
この状況を見る限り、花嫁にたいしての無礼は今に始まったことではなさそうだ。
ずっと昔からあったのだろう。
西園寺家に捨てられただけでもつらいだろうに、ここでも不当な扱いを受けてきたなんて可哀そうで仕方がない。
同情はしないが。
茜のような人間かもしれないと考えるだけで自業自得だ、と言いたくなった。
そもそも、自分の身も守れない、交渉もしなかった己の責任だ。
私はちゃんと躾も、交渉も、自分の身は自分で守る、こともできる。
(まぁ、何が言いたいかというと運がなかったということだ)
花嫁も妖狐たちも。
私は机に突っ伏しながらため息を吐く。
「邪魔するぞ」
当主は許可なく勝手に部屋に入ってきた。
私と目が合うなり、大笑いをした。
「お前のこんな姿を目にする日がくるなんてな。長い気はするものだな」
笑いすぎて目から涙を流す当主をみて、私は普通に引いた。
「何か用ですか?」
体に力を入れるのさえ面倒で、机に倒れこんだまま視線だけ動かして尋ねる。
「いや、特にないな。強いて言うなら、お前が困っている姿を見てから帰ろうと思ってきたくらいだな」
「帰れ」
私は近くにあったものを適当に掴んで投げつけた。
「言われなくても帰るよ」
当主は手を振りながら出ていった。
本当になにしに来たのかわからない。
うんざりしながら、私は顔を机につけたままうなり続けた。
そのころ当主は、上機嫌で廊下をスキップしていた。
弱っていく未桜の姿を見られないのは残念だと思いながら、この屋敷に違和感を覚えていた。
自分たちが知らない何かがあるような気がしてならない。
茜が花嫁だったら、ここには来る予定はなかったため、きっと気づくことはなかっただろう。
だから、自分が現れた瞬間、妖狐たちが慌てだしたのだ。
当主を含めたお偉いさんたちは顔には出さなかったが、下っ端たちを見れば簡単にわかる。
「いったい何を狐共は隠してるんだ?」
当主は今からその秘密を暴くのが楽しみで仕方ない、といった表情を浮かべながら帰還したが、その表情を見た者たちは「また、面倒なことになる」と胃が痛みだした。
※※※
「花嫁様。おはようございます。入ってもよろしいでしょうか」
花梨の声で私は目を覚ました。
首が物凄く痛い。
首をさすりながら状況を確認すると、昨日婚姻を終わらせ、当主と別れたあと、その恰好のまま気づいたら寝ていた。
花嫁衣裳のまま寝たせいで、しわができている。
桔梗と結婚したとはいえ、子供を作ることは禁じられているため、初夜とはいえ彼が訪れることはない。
この先一生ないだろう。
それは歴代花嫁たちも同じだったはずだ。
この姿を見られたら桔梗がくるのをずっと待っていた、哀れな女になってしまう。
急いで着替えようとするが、私の荷物が何一つない。
これは一体どういうことだ?
いや、それだけではない。
夕食の時や風呂の時になぜ誰も声をかけなかったのだろう。
いくら契約結婚のせいで疲れていたとはいえ、声をかけられたのに気づかないことなんてあり得るだろうか?
こんな薄い障子からの呼びかけに。
(うーん。ちょっと、試してみるか)
私が悪いのか、それとも彼女たちか。
はっきりさせておく必要がある。
とりあえず馬鹿な女のふりをするために、仮面をもう一度つけた。
「ええ。いいわ。どうぞ、入って」
私が許可を出すと、花梨は障子を開けた。
「失礼いたします」
花梨がそう言うと。それに続いて控えていた侍女たちもそう言った。
「皆様が既にお待ちしております。急ぎましょう」
まるで私が悪い言い方をする花梨に、侍女たちをも非難するような目つきをする。
(なるほどね。わざとか)
私は彼女たちの態度から、どちらが悪いのかがわかった。
普通なら人間が狐の世界にたった一人で住むことになれば不安になり、彼らに従うようになっていくのかもしれないが、私は残念ながら普通ではない。
売られた喧嘩は買うのが私だ。
「私の荷物はどこ?」
花梨の言葉を無視して質問する。
はぁ?と声には出さなかったが、顔にはしっかり出ていたため苛ついているのがわかった。
「花嫁様。皆様がお待ちなので急いでください」
侍女の一人が苛ついたように言う。
「ねぇ。さっきから気になってたんだけど、‘花嫁様’って誰のこと?もしかして私のことを言ってるんじゃないよね」
私は鼻で馬鹿に笑ってからこう続けた。
「まさか、そんなわけないわよね。私はもう‘花嫁様‘じゃないんだからさ。それで、いったい誰のことを’花嫁様‘って言っていたのか教えてくれる?私以外にもその’花嫁様‘がいるのか知りたくて、ね?」
私は侍女の肩を掴み、しっかりと目を合わせてほほ笑みながら尋ねた。
仮面をつけていたため、侍女には私の目しか見えていなかった。
だが、それが気に食わなかったのか、侍女は私の手を払いのけ「いいから、早くしてください」と腕を強く掴み、無理矢理歩かせようとした。
他の者たちはただ眺めているだけで、私を助けようとするものは誰一人としていなかった。
この状況を見る限り、花嫁にたいしての無礼は今に始まったことではなさそうだ。
ずっと昔からあったのだろう。
西園寺家に捨てられただけでもつらいだろうに、ここでも不当な扱いを受けてきたなんて可哀そうで仕方がない。
同情はしないが。
茜のような人間かもしれないと考えるだけで自業自得だ、と言いたくなった。
そもそも、自分の身も守れない、交渉もしなかった己の責任だ。
私はちゃんと躾も、交渉も、自分の身は自分で守る、こともできる。
(まぁ、何が言いたいかというと運がなかったということだ)
花嫁も妖狐たちも。
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