囚われの花嫁

アリス

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プロローグ

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私は今、夢を見ているのだろうか。

もしそうなら、これほどまでに残酷な夢は存在しないだろう。

目の前の男が私を愛おしそうな目で見つめる。

周囲のものは、「よかったね」と涙ぐみながら言う。

何がよかったのだろうか。

行方不明になった婚約者が帰ってきたからか。

だから、良かった、というのだろうか。

誰もが、彼を死んだと思った。

行方が分からなくなってから伊黒家と花家、そして町の者たちで探したが見つからなかった。

誰もが諦め始めた頃、ひょっこりとその男は姿を現した。

その知らせを聞いたとき、私は「ありえない!そんなはずはない!」と叫びたくなった。

だが、そんなこと言えるわけもなく、ただその言葉を呑み込むことしかできなかった。

その代わり、男がいるところまで急いで向かい偽物だと、正体を暴いてやろうと思った。

だが、そこにいた男は間違いなく本物の私の婚約者だった。

大勢の者に囲まれて笑っていた。

見間違えるはずがない。

何年もの間、その男に恋をし、一か月前にこの手で殺した男のことを見間違えるはずなどない。

間違いなく、あの日、私はこの男を殺した。

息を引き取ったのを確認した。生き返ることなどあり得ない。

だが、そのあり得ないことが目の前で起こっている。

花家に代々伝わる異能と何か関係あるのか。

逃げ出したくて、一歩後ずさると、誰かに背中をおされ男に近づく羽目になった。

私が現れると、一斉に男の周りから人が消えた。

それをどうとらえるべきか迷った。

私が殺したことが既に知られたのかと怯えたが、人々の顔を見る限りそうではいとわかった。

ただ、婚約者の自分のために場所をあけてくれたのだと。

今はその気遣いが迷惑だった。

逃げたいのに、逃げられなくなった。

何を血迷ったのか、男はいきなり私に抱き着いてきた。

その瞬間、背中に悪寒が走り、全身に鳥肌が立ち、不快で仕方なかった。

周囲に人がいることも忘れて、男の腕の中から逃げようとしたが、あまりにも強い力で抱きしめられたことと、死体のような冷たさから抜け出すのは無理だった。

何より嫌な予感がして、体が動かなくなった。

そんなはずがない、と思いたいのに嫌な予感ほど当たってしまう。

男が何かを言っている。

それはわかるのに、何を言っているのか聞こえなかった。

私の世界から音が消えた。

こんな男を私は知らない。一度だって私にこんな顔を、愛おしいものを見る目というよりは執着に近い目を向けられることはなかった。


――彼は死んだ。


それは間違いない。

この体は間違いなく彼の体だ。でも、中身は違う。別の何かが入った。

安堵か恐怖か。

自分でもわからなかった。

ただ、私は呆然と立ち尽くすことしかできなかった。

誰にも言えない。ただ、この男から逃げないといけない。

そのことだけはわかった。
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