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裏切り 2
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いつから自分は騙されていたのだろうか。
蓮は異能が使えないため戦場に出ることができない。
それに比べて百合は「舞姫」と通称があるくらい戦場で活躍している。
蓮が無事に帰ってくることを祈っている最中に二人は蓮が絶対築くことができない絆を築いていた。
強く美しいものが互いに惹かれるのは当然のことだった。
なぜ自分は勘違いをしたのだろう。
金だけをもっているもの、顔がいいだけのもの、ただ力が強いだけのもの。
たった一つしか取り柄を持ってない者たちでも簡単に人を裏切り、自分の欲に従うというのに。
全てを持った男が、誰もが彼の隣に立ち特別な存在になりたいと願うのに、なぜ自分だけがその愛を一心に受けられると思ってしまったのだろうか。
夢から覚め、現実を知ると、今までの蘇芳の行動すべてが偽りに思えてきた。
会うたびに蓮が喜ぶ言葉を囁いたのも、特別な日にくれた贈り物も、ただ店で似合うと思って買ってきたと言ってくれた物も、全てが百合との不義な関係の罪悪感からとしか思えなくなった。
今朝まで、見るだけで心が満たされていたものが全て汚らわしく思えた。
視界に入るだけで気分が悪くなった。
捨てなければ、もうこんなものに心を振り回されてはいけない。
そう思って手を伸ばすのに、浮かんでくるのは蘇芳の笑った顔だった。
「うん。やっぱり。蓮にはこの簪がよく似合うよ」
「うん。思った通り、蓮にはこの着物がよく似合うね」
「こっちの紅も似合うよ。今度会うときはこれをつけてきて」
産まれて初めて誰かに優しくしてもらえた。
それが、蘇芳だから余計に嬉しかったのかもしれない。
別れるべきだとわかっているのに、蘇芳を手放したくないと思った。
自分でも馬鹿だとわかっていたが、蓮にはどうしてもその選択を選ぶことができなかった。
きっと、自分さえ気づかないふりさえしていれば大丈夫だ。
そうしたら仮初の幸せだとしても、今より幸せに暮らせると信じたかった。
だが、そんな蓮の思いを嘲笑うかのように、百合は見せつけるように髪を耳にかけ、首にある赤い花を見せてきた。
それが何を意味するのか蓮もわかっていた。
百合が帰ってくるときは屋敷が騒がしくなるので、部屋に籠っていてもすぐにわかる。
顔を会わせたくなくて、部屋から出ないでいると、こちらに向かってくる足音が聞こえた。
使用人だと思い、膝を抱えて蹲っているとパーンッと大きな音をたてながら障子が開けられた。
大きな音に驚いて、慌てて顔をあげるとそこには百合がいた。
蓮の泣きはらした顔を見て勝ち誇った笑みを浮かべた。
さっき蔵で見た時の百合の髪形はいつもより丁寧に編み込まれ整えられていた。
それなのに今は下ろしている。
不思議に思っていると、百合は許可もなく部屋に足を踏み入れた。
蓮が文句の一つでも言おうと口を開くと、腰を折り曲げ、落ちてきた髪を耳にかけ、首を傾げた。
その瞬間、なぜ百合が自分の部屋を訪ねたのかわかった。
普段なら絶対にこの周辺に近づくことすらしないのに、なぜ今日来たのか。
知りたくなくても、嫌でも知る羽目になった。
駄目、見たら駄目。
頭ではわかっているのに、視線が下へと落ちる。
伊黒家の使用人は全てにおいて完璧を求められる。
掃除も、食事も、そして着付けも、誰が見ても美しく少しのずれもなく均等に着飾っていく。
だからこそ、帯がほんの少しでも斜めになること何であり得ない。
帯締めについている花の飾りが汚れることもあり得ない。
つまり、その二つのことから導き出される答えは一つしかなかった。
その答えにたどり着いた瞬間、蓮は絶望した。
そんな蓮の表情を間近で見られたことに満足したのか、百合は何も言わずに部屋から出て行った。
(どうして、いったいどうして私にこんなひどいことをするの。あなたは何もかも、私がほしいもの全て手に入れているじゃない)
蓮はなぜ百合がこんな残酷なことを自分に対してしてくるのかわからなかった。
蔵が開いていたのはきっとわざと百合がそうしたのだろう。
自分と蘇芳の関係者を見せるために。
わざわざ、そんなことをしなくても百合が頼めば両親は喜んで蘇芳の婚約者を変えてくれただろうに。
世間からは、強くて心の綺麗なお方と慕われているが、蓮から言わせればとんだ猫かぶりの性悪女だった。
それでも蓮は百合のお陰で、さっきはできなかった決心をすることができた。
(終わらせよう)
蓮はここまで馬鹿にされて、蘇芳にしがみつくほど惨めな女になりたくなかった。
この不毛な恋を終わらせ、新たな自分の人生を歩んでいくことを決意した。
そのためには、父親の説得よりも蘇芳に直接言った方が早い。
蘇芳の方が伊黒家よりも上の人間なのだから。
蘇芳と次に会う約束をしたのは三日後。
そのときに、言わなければいけない。
「私たち、婚約破棄しよう」と、そして「愛する人と幸せになって欲しい」と。
きっと、すべてうまくいく。
だから、きちんとこの気持ちを整理することができたら、蘇芳から貰った素敵な贈り物も全て捨てることができる。
そう信じたかった。
蓮は異能が使えないため戦場に出ることができない。
それに比べて百合は「舞姫」と通称があるくらい戦場で活躍している。
蓮が無事に帰ってくることを祈っている最中に二人は蓮が絶対築くことができない絆を築いていた。
強く美しいものが互いに惹かれるのは当然のことだった。
なぜ自分は勘違いをしたのだろう。
金だけをもっているもの、顔がいいだけのもの、ただ力が強いだけのもの。
たった一つしか取り柄を持ってない者たちでも簡単に人を裏切り、自分の欲に従うというのに。
全てを持った男が、誰もが彼の隣に立ち特別な存在になりたいと願うのに、なぜ自分だけがその愛を一心に受けられると思ってしまったのだろうか。
夢から覚め、現実を知ると、今までの蘇芳の行動すべてが偽りに思えてきた。
会うたびに蓮が喜ぶ言葉を囁いたのも、特別な日にくれた贈り物も、ただ店で似合うと思って買ってきたと言ってくれた物も、全てが百合との不義な関係の罪悪感からとしか思えなくなった。
今朝まで、見るだけで心が満たされていたものが全て汚らわしく思えた。
視界に入るだけで気分が悪くなった。
捨てなければ、もうこんなものに心を振り回されてはいけない。
そう思って手を伸ばすのに、浮かんでくるのは蘇芳の笑った顔だった。
「うん。やっぱり。蓮にはこの簪がよく似合うよ」
「うん。思った通り、蓮にはこの着物がよく似合うね」
「こっちの紅も似合うよ。今度会うときはこれをつけてきて」
産まれて初めて誰かに優しくしてもらえた。
それが、蘇芳だから余計に嬉しかったのかもしれない。
別れるべきだとわかっているのに、蘇芳を手放したくないと思った。
自分でも馬鹿だとわかっていたが、蓮にはどうしてもその選択を選ぶことができなかった。
きっと、自分さえ気づかないふりさえしていれば大丈夫だ。
そうしたら仮初の幸せだとしても、今より幸せに暮らせると信じたかった。
だが、そんな蓮の思いを嘲笑うかのように、百合は見せつけるように髪を耳にかけ、首にある赤い花を見せてきた。
それが何を意味するのか蓮もわかっていた。
百合が帰ってくるときは屋敷が騒がしくなるので、部屋に籠っていてもすぐにわかる。
顔を会わせたくなくて、部屋から出ないでいると、こちらに向かってくる足音が聞こえた。
使用人だと思い、膝を抱えて蹲っているとパーンッと大きな音をたてながら障子が開けられた。
大きな音に驚いて、慌てて顔をあげるとそこには百合がいた。
蓮の泣きはらした顔を見て勝ち誇った笑みを浮かべた。
さっき蔵で見た時の百合の髪形はいつもより丁寧に編み込まれ整えられていた。
それなのに今は下ろしている。
不思議に思っていると、百合は許可もなく部屋に足を踏み入れた。
蓮が文句の一つでも言おうと口を開くと、腰を折り曲げ、落ちてきた髪を耳にかけ、首を傾げた。
その瞬間、なぜ百合が自分の部屋を訪ねたのかわかった。
普段なら絶対にこの周辺に近づくことすらしないのに、なぜ今日来たのか。
知りたくなくても、嫌でも知る羽目になった。
駄目、見たら駄目。
頭ではわかっているのに、視線が下へと落ちる。
伊黒家の使用人は全てにおいて完璧を求められる。
掃除も、食事も、そして着付けも、誰が見ても美しく少しのずれもなく均等に着飾っていく。
だからこそ、帯がほんの少しでも斜めになること何であり得ない。
帯締めについている花の飾りが汚れることもあり得ない。
つまり、その二つのことから導き出される答えは一つしかなかった。
その答えにたどり着いた瞬間、蓮は絶望した。
そんな蓮の表情を間近で見られたことに満足したのか、百合は何も言わずに部屋から出て行った。
(どうして、いったいどうして私にこんなひどいことをするの。あなたは何もかも、私がほしいもの全て手に入れているじゃない)
蓮はなぜ百合がこんな残酷なことを自分に対してしてくるのかわからなかった。
蔵が開いていたのはきっとわざと百合がそうしたのだろう。
自分と蘇芳の関係者を見せるために。
わざわざ、そんなことをしなくても百合が頼めば両親は喜んで蘇芳の婚約者を変えてくれただろうに。
世間からは、強くて心の綺麗なお方と慕われているが、蓮から言わせればとんだ猫かぶりの性悪女だった。
それでも蓮は百合のお陰で、さっきはできなかった決心をすることができた。
(終わらせよう)
蓮はここまで馬鹿にされて、蘇芳にしがみつくほど惨めな女になりたくなかった。
この不毛な恋を終わらせ、新たな自分の人生を歩んでいくことを決意した。
そのためには、父親の説得よりも蘇芳に直接言った方が早い。
蘇芳の方が伊黒家よりも上の人間なのだから。
蘇芳と次に会う約束をしたのは三日後。
そのときに、言わなければいけない。
「私たち、婚約破棄しよう」と、そして「愛する人と幸せになって欲しい」と。
きっと、すべてうまくいく。
だから、きちんとこの気持ちを整理することができたら、蘇芳から貰った素敵な贈り物も全て捨てることができる。
そう信じたかった。
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