48 / 116
秘密の花園
しおりを挟む「なかなか、見つかりませんね。'秘密の花園'」
秘密とついているだけ、本当に見つけられない。
「ごめんね。あるかわからないのに付き合わせて」
日が経つにつれ本当にあるのかな、と思うようになった。
最初はあると確信していたのに、だんだん自信がなくなってきた。
「私も見たいので謝る必要はありません。きっと、あります。必ず見つけましょう」
「ありがとう」
「お嬢様。ずっと気になっていたのですが、秘密の花園のことをどこで知られたのですか?」
「小さい頃、よく読んでいた本に書かれていたの」
「なんていう本なのですか?」
シオンは文字が読めないため、教えてもらっても読むことはできないが知りたかった。
「'愛の悲しみ'」
「'愛の悲しみ'ですか。悲しい話なんですか?」
シオンはタイトルからそう思った。
「うーん。どうだろう。人によって感じ方は違うし、作者がどう思って書いたかはわからないけど、私は悲しい話だとは思わなかったわ。寧ろ幸せだったと思う」
小さい頃は悲しいと思ったけど、歳をとってから読むと感じ方は変わった。
「どんな話なのか聞いてもいいですか?」
「もちろん」
誰かに好きな本のことを話せるのは嬉しかった。
妹や他の令嬢たちは集まったときに自分の好きなことの話をよくしていた。
遠くからその光景を羨ましく眺めていた。
いつか、自分もできたらいいなと思っていたことが今になって叶った。
「この本はね、婚約者だった男が病気になったところからはじまるの」
「病気ですか?」
まるであなたのことのような話だ、とシオンは心の中で思った。
「そう……」
二人の母親は小さい頃からの親友で仲がとても良かった。
だからか、お互いの子供が産まれたとき男女だったら婚約者にしようと約束していた。
二人は初めて会ったときから、いやその前から互いに婚約者として意識していた。
父親たちの心配とは裏腹に二人は時には友として、時には婚約者として、互いを大切にしていた。
だが、男が十九歳のときに病気になった。
男は体格がよく剣の腕もよく、同世代で彼に敵うものは誰一人いなかった。
将来を期待されていた。
異性にもよくモテていた。
婚約者がいるのに何度も告白をされた。
国中の女性が彼の隣に立つことを夢見ていた。
だが、彼の隣に立つことが許された女性はただ一人。
彼氏自身もそれを許していた者は婚約者の女だけだった。
だが、男は十九歳になると突然原因不明の病気にかかった。
日に日に筋肉は落ち、体は薄くなっていった。
いつ死んでもおかしくないくらい男は弱りきっていた。
医者からは一年ももたないだろうと余命宣告された。
男は女のために婚約破棄を申し出たが、女はそれを拒否した。
「最後まであなたの隣にいさせてほしい」と。
それから二人は毎日一緒に過ごした。
一日、一日を大切に過ごした。
明日がまた来ると信じて過ごした。
だが、一日が過ぎるたび男は弱っていった。
はっきりと死が近づいてくるのがわかった。
もう歩く気力もなくなった。
ベッドの上で過ごすのが当たり前になった。
もう二度一緒に外を歩けないと悲しんでいたそんなある日、男が突然「あそこに行きたい」と言った。
女は男が言った'あそこ'とはどこかすぐにわかった。
男の足で行くのは無理だと思ったが、男の顔を見た瞬間「うん。行こうか」と言っていた。
無理だとは言えなかったのだ。
女は男の家族に事情を話し、二人だけで'あそこ'に向かった。
'あそこ'とは、昔二人が小さい頃よく遊んでいた森の中にある、小さな池の周りにたくさんの花が咲いている場所のことだ。
たまたま二人で森で遊んでいるときに見つけ、そこからはいつもそこで遊んでいた。
二人だけの秘密。花がたくさん咲いているから「秘密の花園」と貴族の大人っぽい名前をつけた。
二人は秘密の花園に着くと池の前に座り込んで話をした。
これまでの思い出をたくさん話した。
女はわかっていた。
男の命が今日までだと。
もう、目も見えなくなっていっているとわかっていた。
男は座っているの保つ筋力もなくなり倒れると、女は慌てて受け止め膝枕にした。
女は必死に涙を堪え話しかけた。
男が最後に見た景色は愛する女が花の中で微笑んでいるものだった。
もうあまり見えていなかったのに、その瞬間だけはなぜかはっきり見えた。
綺麗だ、と女に向かって微笑んだのが最後だった。
男は眠るように息を引き取った。
「……って話なの。最初これを読んだ時は悲しい話だと思ったの。でも、何年か経って読んだときは悲しい話だけど幸せだったんじゃないかなって思ったの。最後の瞬間まで愛する人と思いあい共にいられるのはとても幸福なことなのではと」
いつ自分の身に不幸が訪れるかわからない。
自分だけは大丈夫なんてことはない。
誰にでもあり得ること。
そんななか、もし自分の身に何か起きても見捨てずそばにいてくれ愛してもらえるのは誰にでもあることではない。
作者が伝えたかったのは、今の日常を当たり前だと思わず大切に過ごしてほしい、大切な人に大切な言葉を伝え続けてほしい、だったのではないかと思う。
私はそれができなかった。
勇気がなかったからだ。
たくさん後悔しているが、もう遅い。
受け入れるしかない。
767
あなたにおすすめの小説
あなたの隣は私ではないけれど、それでも好きでいてもいいですか、レオナルド様
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢エリアーナには、三年間ずっと抱えてきた秘密がある。
婚約者であるヴァルフォード公爵・レオナルドへの、誰にも言えない恋心だ。
しかし彼の隣にいるのは、いつも幼馴染の伯爵令嬢・ソフィア。
儚げな笑顔と上目遣いで男性を虜にするあざとい彼女に、レオナルドも例外ではないようで——
「レオ、私のこと嫌いにならないでね?」
「……そんなことにはならない」
また始まった二人の世界。
「貧相な小娘」と罵った第一王子へ。番(つがい)は貴方ではなく、国王陛下(お父様)でした
しえろ あい
恋愛
「お父様、わたくし、あの方と目が合った瞬間、分かってしまったのです」
十六歳のデビュタントの夜、ルーセント侯爵令嬢フェリシアを待っていたのは、残酷な罵倒だった。第一王子カシウスは、可憐な白いドレスを纏った彼女を「貧相な小娘」と呼び、己の番(つがい)であることを真っ向から否定する。
会場に響く冷笑と、愛用の刺繍に込めた自信さえ打ち砕くような屈辱。しかし、絶望の淵に立たされた彼女を見つめていたのは、王子ではなく、圧倒的な威厳を放つ「ある男」だった。
魂を焦がすような熱い視線が重なり、静まり返る謁見の間。この出会いが、王室を揺るがす大事件の幕開けになるとは、まだ誰も知らない。自身の価値を否定された少女が、真実の愛によって世界で最も幸福な王妃へと駆け上がる、逆転溺愛ストーリー。
※小説家になろう様にも投稿しています※
【完結】どうか私を思い出さないで
miniko
恋愛
コーデリアとアルバートは相思相愛の婚約者同士だった。
一年後には学園を卒業し、正式に婚姻を結ぶはずだったのだが……。
ある事件が原因で、二人を取り巻く状況が大きく変化してしまう。
コーデリアはアルバートの足手まといになりたくなくて、身を切る思いで別れを決意した。
「貴方に触れるのは、きっとこれが最後になるのね」
それなのに、運命は二人を再び引き寄せる。
「たとえ記憶を失ったとしても、きっと僕は、何度でも君に恋をする」
【完結】この胸が痛むのは
Mimi
恋愛
「アグネス嬢なら」
彼がそう言ったので。
私は縁組をお受けすることにしました。
そのひとは、亡くなった姉の恋人だった方でした。
亡き姉クラリスと婚約間近だった第三王子アシュフォード殿下。
殿下と出会ったのは私が先でしたのに。
幼い私をきっかけに、顔を合わせた姉に殿下は恋をしたのです……
姉が亡くなって7年。
政略婚を拒否したい王弟アシュフォードが
『彼女なら結婚してもいい』と、指名したのが最愛のひとクラリスの妹アグネスだった。
亡くなった恋人と同い年になり、彼女の面影をまとうアグネスに、アシュフォードは……
*****
サイドストーリー
『この胸に抱えたものは』全13話も公開しています。
こちらの結末ネタバレを含んだ内容です。
読了後にお立ち寄りいただけましたら、幸いです
* 他サイトで公開しています。
どうぞよろしくお願い致します。
さよなら 大好きな人
小夏 礼
恋愛
女神の娘かもしれない紫の瞳を持つアーリアは、第2王子の婚約者だった。
政略結婚だが、それでもアーリアは第2王子のことが好きだった。
彼にふさわしい女性になるために努力するほど。
しかし、アーリアのそんな気持ちは、
ある日、第2王子によって踏み躙られることになる……
※本編は悲恋です。
※裏話や番外編を読むと本編のイメージが変わりますので、悲恋のままが良い方はご注意ください。
※本編2(+0.5)、裏話1、番外編2の計5(+0.5)話です。
月夜に散る白百合は、君を想う
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢であるアメリアは、王太子殿下の護衛騎士を務める若き公爵、レオンハルトとの政略結婚により、幸せな結婚生活を送っていた。
彼は無口で家を空けることも多かったが、共に過ごす時間はアメリアにとってかけがえのないものだった。
しかし、ある日突然、夫に愛人がいるという噂が彼女の耳に入る。偶然街で目にした、夫と親しげに寄り添う女性の姿に、アメリアは絶望する。信じていた愛が偽りだったと思い込み、彼女は家を飛び出すことを決意する。
一方、レオンハルトには、アメリアに言えない秘密があった。彼の不自然な行動には、王国の未来を左右する重大な使命が関わっていたのだ。妻を守るため、愛する者を危険に晒さないため、彼は自らの心を偽り、冷徹な仮面を被り続けていた。
家出したアメリアは、身分を隠してとある街の孤児院で働き始める。そこでの新たな出会いと生活は、彼女の心を少しずつ癒していく。
しかし、運命は二人を再び引き合わせる。アメリアを探し、奔走するレオンハルト。誤解とすれ違いの中で、二人の愛の真実が試される。
偽りの愛人、王宮の陰謀、そして明かされる公爵の秘密。果たして二人は再び心を通わせ、真実の愛を取り戻すことができるのだろうか。
愛されていたのだと知りました。それは、あなたの愛をなくした時の事でした。
桗梛葉 (たなは)
恋愛
リリナシスと王太子ヴィルトスが婚約をしたのは、2人がまだ幼い頃だった。
それから、ずっと2人は一緒に過ごしていた。
一緒に駆け回って、悪戯をして、叱られる事もあったのに。
いつの間にか、そんな2人の関係は、ひどく冷たくなっていた。
変わってしまったのは、いつだろう。
分からないままリリナシスは、想いを反転させる禁忌薬に手を出してしまう。
******************************************
こちらは、全19話(修正したら予定より6話伸びました🙏)
7/22~7/25の4日間は、1日2話の投稿予定です。以降は、1日1話になります。
大好きだけどお別れしましょう〈完結〉
ヘルベ
恋愛
釣った魚に餌をやらない人が居るけど、あたしの恋人はまさにそれ。
いや、相手からしてみたら釣り糸を垂らしてもいないのに食らいついて来た魚なのだから、対して思い入れもないのも当たり前なのか。
騎士カイルのファンの一人でしかなかったあたしが、ライバルを蹴散らし晴れて恋人になれたものの、会話は盛り上がらず、記念日を祝ってくれる気配もない。デートもあたしから誘わないとできない。しかも三回に一回は断られる始末。
全部が全部こっち主導の一方通行の関係。
恋人の甘い雰囲気どころか友達以下のような関係に疲れたあたしは、思わず「別れましょう」と口に出してしまい……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる