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伯爵の依頼
しおりを挟む「息子はいつ戻ってくるのだ」
国王は自分の勘違いだとわかっても謝罪を口にするどころか、非を認める言葉を発することもしなかった。
ただ、無かったことにしようとした。
「わかりません」
「わからないだと?」
国王は馬鹿にした口調で言う。
この男でも息子のことは制御できないのだとわかると愉快で笑みが溢れた。
「はい。申し訳ありません」
公爵は国王に馬鹿にされていると感じても表情を変えることはなかった。
伯爵はその姿は感情のない美しいだけが取り柄の人形のようだと思った。
「なら、息子の代わりに其方にやってもらうしかないな」
国王は息子を虐めるよりも、その方がずっと面白く楽しいと思った。
「なにをでしょうか」
公爵は何を自分にさせようとしているのかわかっていたが、どうか違いますように、と祈った。
だが、そんな祈りなど無意味だと嘲笑うかのように国王は告げた。
「魔物討伐がうまくいったからな、そろそろ再開させようと思ってな。隣国との戦争を」
「……!?」
公爵は予想していたものよりも最悪なことを命じられ言葉を失ってしまう。
だが、すぐに我に返り「陛下。それはなりません」と進言しようとしたが、被せるように「これは王命だ。引き受けるよな」と言われる。
王命と言われれば、公爵に選択肢などなく従うしかない。
「……畏まりました」
先代国王がせっかく築き上げた平和をこの男は壊すつもりか、と、公爵は怒りに震えるがどうすることもできない。
そんなことをすれば自分たちが困ったとき、誰も手を差し伸べてくれないのだぞ、と言ったところでこの男には届かないのだろうと諦めるしかなかった。
それでも戦争などすれば、魔族が幸いだと言わんばかりに魔物を引き連れて攻めてくるのは目に見えている。
公爵は国王に一礼すると、この戦争を防ぐために策を一刻も早く考えなければと謁見の間を急いで出て公爵家へと戻った。
そんな慌てた公爵の姿を見た国王は勝ち誇った笑みを浮かべた。
視線は公爵の背中に固定したまま伯爵に話しかけた。
「聞いていたな。伯爵。お前のやるべきことが何かわかるな」
「へ?あ、はい!勿論でございます」
伯爵は突然話しかけられ、間抜けな声を出すもすぐに返事をした。
戦争までに薬を元に戻せ、そう言っているのだと理解した。
「話は以上だ」
国王は機嫌良く謁見の間から出ていった。
伯爵は国王が見えなくなるまで頭を下げ続けた。
※※※
伯爵は屋敷に戻るなり物に当たった。
このままでは破滅の道しか残っていないことを理解していた。
どんな手を使っても薬の効能を元に戻すしかない。
妻と娘は金を使うだけで役に立たない。
伯爵は今ある金をかき集め、情報屋を訪ねた。
「お久しぶりですね。旦那。今日はどんなご用で」
一階は飲み屋となっている、一見普通の店を通り過ぎ、階段を登るとゴロツキが集っている部屋に伯爵が入るとリーダーの男が挨拶をした。
手で部下に部屋から出るように合図をする。
伯爵は自分と男だけになると、近づいて大量に入った金の袋を机の上に置いた。
「どんな方法でもいい。この薬と同じ効能を発揮する方法を見つけてくれ」
伯爵は切羽詰まった表情で男に言う。
国王に気づかれたかもしれないと思うだけで、表情を作る余裕もなかった。
それにこの男は薬を作っているのが自分ではなくエニシダだと知っている。
自分が今どういう立場に立たされているか知っているはずなので、作る必要もなかった。
「旦那。本当にどんな方法でもいいのですね」
男は怪しく笑う。
伯爵は蛇に睨まれたような、毒蜘蛛の巣に自ら足を踏み入れた愚かな虫のような気分にさせられたが、それでも処刑されるよりはマシだと言い聞かせ怒鳴るように言った。
「ああ!構わん!どんな方法でもいいから必ず見つけてくれ!」
「一週間後にまたこちらにいらしてください」
男は伯爵にニッコリと笑いかけると有無を言わさず出ていくように促した。
いつもの伯爵なら「その態度は何だ」「不敬」「平民のくせに」と罵っただろうが、今は自分が頭を下げてお願いする立場と認めたくはないがわかっているので、なにも言わず男を睨みつけるだけで部屋から出ていった。
男は二階の窓から伯爵が建物から出ていくのを確認すると、「ようやく時がきたな」と呟いた。
部下の一人は窓に映る男の顔を見ると、蛇が全身を這うように動いているみたいな不気味さに襲われ硬直した。
男性な顔つきのものが無表情になると、これほどまでに恐ろしいのかと部下は知った。
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