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取引
しおりを挟む「おい!誰かいないか!こっちにきてくれ!」
「誰か早くきてくれ!族長が危ない!頼む!」
「誰でもいい!助けてくれ!この際、悪魔でもなんでもいい!助けてくれたら忠誠を誓う!だから、お願いだ!誰か助けてくれ!」
三人のエルフ達は族長をダークエルフ達から守るよに逃げる。
このままでは殺される。
そう思い、仲間達も呼ぶがこの騒音の中、声が届くはずもなく泣きながら悪魔に縋り付いてしまう。
悪魔以上の悪魔に借りを作ることになるとも知らずに。
「ねぇ。それ本当?」
ひょい、と木から顔を出しエルフたちにはなしかける。
「ぎゃあああーっ!悪魔ー!」
エルフ達は悪魔の顔をした何かが急に目の前に現れ悲鳴を上げる。
「……!」
エルフ達の悲鳴で耳が破壊されるかと思い顔を顰める。
「誰だ!貴様は!」
「私?私は……」
「黙れ!この悪魔!さっさとここから消えろ!」
「……」
誰だと聞かれたので名乗ろうとしたのに「黙れ!悪魔!」と言われ殴りたくなる。
後ろからアスターとルネが笑ってる気配がして、余計に腹が立つ。
私は怒っては駄目だと思い、笑顔で話しかけようとしたそのとき、ものすごい数の矢が飛んできた。
「アイリーン」
死を覚悟し、咄嗟に頼りになるものの名を呼ぶ。
「はい。ご主人様」
アイリーンは真っ先に頼られたことが嬉しくて力を見せつけるように水の壁を作り、大量の矢を防ぐ。
簡単に大量の矢を防ぐアイリーンの力にエルフ達は驚きを隠せない。
一体こいつらは何者なんだ!?そんな目をする。
私はゴホンッと咳払いをしてからエルフ達にもう一度話しかける。
「あの、エルフの皆さん。私にこの状況を打破する提案があるのですが聞いてくださいませんか?」
「……よかろう。申してみよ」
族長は考えた末、悪魔の顔をした女の話しを聞いてから判断してもよいと結論を出す。
こんな非常事態でなければ悪魔の話など聞かずに追い出したが、自分達が手も足も出ず逃げることしかできなかった大量の矢を水の妖精が食い止めた。
見た目は低級だが、あの数の矢となると間違いなく上級だと思う。
他の者達もきっと姿を変えているだけで本当はとてつもなく強い存在はずだと長年の経験から見破る。
「ありがとうございます。状況が状況なので簡潔に言います。私と契約をしましょ……う」
言い終わる前に、エルフの一人に木の棒を投げられる。
あと少し右にずれていたら顔に当たっていた。
「……」
私は土の壁にささった木の棒を見て、ゆっくりと顔を前に戻し笑顔を向ける。
「交渉決裂ということですね。仕方ありません。我々は帰ります」
そう言い終わると私はエルフたちに背中を向ける。
「……」
「いや、本当に残念です。とても悲しいです。我々ならあの者達を一掃できるというのに……ですが、あなた方は我々の施しはいらないということですね。本当に苦渋の決断ですが仕方ありません。今も尚戦っている仲間達、敵にやられ死にかけている者達。我々なら全て解決できますが、我々の施しはいらないのでしょう」
「……!」
「例え、運良く彼らに勝ったとして何が残るのでしょうか。戦いのせいで荒れた大地、無惨な木々。この山を元通りにするのにどれくらいの時間がかかるでしょう。その間に重傷を負った者達は……元に戻るまでの食糧は……例え、この地から離れようとも、あなた方が住める場所を見つけるまで一体どれだけもつでしょうか?」
「……!」
そんなこと人間に言われなくてもエルフ達にはわかっていた。
だが、エルフとしての誇りと過去の出来事が邪魔をして助けを求められない。
大昔、エルフと人間は有効的だったが、何度も人間が約束を破るので関わるのを経った。
なかには未だに交流しているエルフ達もいると風の噂程度で聞いたことはあるが、ここのエルフ達は徹底的に関わりを経っていたので、どうしても人間の提案を受け入れるのが難しかった。
頭ではわかっているが、あと一歩踏み出すための勇気が出ず黙り込む。
「ああ、なんと残酷な世界でしょう……」
私は涙を流す。
ただの演出のための嘘泣きだ。
「では、我々はこれで失礼します」
うぅっ、と嘘泣きをしながらエルフ達に背を向け歩き出そうとしたそのとき、族長の「待ってくれ!」という言葉を聞いて「待ってました!その言葉!」と喜びを隠しきれず、顔が緩む。
すぐに緩んだ顔を悲しそうな顔にして族長を見る。
「なんでしょう」
「あなたの望む条件で契約します。ただし!あなたが言ったことを成してからです。それができたら必ず契約します」
族長は過去の人間達のことでどうしても信じられず、契約はダークエルフ達を倒してからではないとしないと伝える。
もちろん、断られたらそのときは諦めて死ぬしかないが、せめてこの人間だけでも殺してあの世に逝ってやると決める。
「もちろんです!必ず我々がこの戦いを終わらせ、皆さんをお救いします。心配は無用です。ですので、族長様も必ず私の出す契約書にサインしてくださいね」
嘘泣きから笑顔で族長にそう言う。
族長はその言葉をきいた瞬間、後悔した。
'……もしかして、儂は判断を間違えたのか?'
人間の小娘との契約だと思い了承したのに……
どうしてだろうか。
今、目の前にいる者が悪魔以上の悪魔にしか見えないのは?
「話は聞いていたからわかるわよね。あんた達出番よ。やるべきことをやってきなさい」
私がビシッと言うととアイリーンが尊敬の眼差しをしながらこう言った。
「はい。もちろんです。ご主人様。つまりこういうことですよね。エルフ達を助け、ダークエルフ達に圧倒的な力の差を教え、ご主人様の言うことを素直に従うよう躾ければいいのですよね?」
「そうよ。さすがアイリーン。よくわかってる。頼りにしてるわ」
男達と違い頼りになるアイリーンがいて本当に良かったと思う。
男達は絶対に私の意図など気づくことなく、倒して終わらせる。
タダで手に入る兵隊を逃すなどあってはならない。
絶対に捕まえろよ、とわかっていなかった男達には笑いながら圧をかける。
「……」
男達は何も言わなかったが、やるべきことは理解したのでその通りに動くことにするが「やっぱり、人助けならぬエルフ助けをタダでやるはずないよな」とある意味いつも通りで感心してしまう。
「それじゃあ、私のためにいってきなさい」
ビシッと近くにいるダークエルフ達を指差し命令する。
私の言葉を合図に四人とも一斉に動き出す。
すぐに四人は近くにいたダークエルフ達に攻撃を仕掛ける。
圧倒的な力の差がある相手に攻撃され、なす術もなく倒されたダークエルフ達は木から無様に落ちていく。
私はアイリーンが張った結界の中から高みの見物をする。
これならすぐに終わるなと思い、急いで契約書を作る。
一枚はエルフ用。
もう一枚はダークエルフ用。
二枚目を書き終えると同時に攻撃を受けた。
妖精王の結界をダークエルフが破壊するのは絶対無理だ。
中に入れば間違いなく安全だが、私は剣を抜き外へ出る。
エルフ達は「危険だから早く結界の中へ戻れ」と叫ぶ。
私はそれを聞いて「こいつら、私のこと弱いと思ってんな」と腹が立つ。
確かにあの四人と比べたら弱いが、でも、こんな雑魚共に負けるほど弱くないわ!と心の中で叫びながらダークエルフ達をボコボコにしていく。
「ヒェッ!……悪魔だ!あの人間は間違いなく悪魔をこえる悪魔だ!」
エルフ達は私の戦いを見て震える体をお互いに抱きしめ合った。
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