天才詐欺師は異世界で無双する!

アリス

文字の大きさ
54 / 111

海 5

しおりを挟む

「……!」

'どうして、俺の本当の名前を知ってるんだ?いったい、この女は何者なんだ?'

ノエルはこの問いになんと答えるのが正解かわからず悩むが、結局嘘を吐くことにした。

「何言ってんだ?ノエル・フリージア?俺の名前はガイランだ」

ノエルは目の前の女性のことを知らないため、適当に言っているだけだろう、バレるはずはないと思いそう言ったが「そう?フリージア侯爵の息子なら助けようと思ったけど、違うならいいわ」と言われ、本当のことを言うべきだったかと少し後悔するも、すぐに得体の知れない女性に借りを作るわけにはいかないと思い直し、自分の選択は正しかったと言い聞かす。

「残念だが、俺は違う」

ノエルはもう一度はっきりと言う。

「そう。じゃあ、一生その姿でいな」

私はそう言うとアイリーンに目配せをすると、彼女は意図を察し頷いたあと、ノエルの前に水で鏡をつくる。

「ぎゃあああーっ!」

ノエルは鏡に映った化け物を見て悲鳴を上げる。

「お、こ……お、う……」

おれか?これが?おれか?嘘だろ?

そう言いたいのに言葉が出てこなかった。

否定したいのに、水の鏡に映る化け物は自分と同じ行動をするし、化け物だった女性と水の妖精が「そこに映っている化け物がお前だぞ」という顔で頷いているので認めるしかなかった。

「じゃあ、私たちは失礼しますね。フリージア領地まで頑張ってください。あ、そういえば、侯爵の息子ではなかったんですよね。すみません。私の勘違いでした。海の中で幸せに暮らしてください」

眉を下げながら口角は上げ、馬鹿にした笑みを浮かべる。

「……」

ノエルは今更フリージア家の者だと認めても助けてもらえるかわからず、どうしたらいいか答えがでず、不細工な顔をしている彼女を見つめ返すことしかできなかった。

「さてと、アイリーン。私たちは昼食にしようか」

助けてくれ、と言ってくるのを待ったが言う気配がないためその場から離れる。

チャンスは何回もあげたが、全て払いのけたのはノエルだ。

自分の口から「助けてくれ」と言ってくるまでは、絶対に何もしないと決める。

「はい!」

ノエルに背を向けて荷物を置いたところに向かおうとすると、ルネとシオンが「俺たちも食べたい!」と手足をバタバタさせる。

アスターは2人のように態度に出すことはなかったが、そのかわり「私も食べたいです」オーラを出した。

私は3人の言いたいことはわかっていたが素通りする。

「……!」

嘘だろ!と文句を言いたかったが、言うには砂から顔を出すしかない。

でも、出せば「また顔を出したな!このクソども!お前らに食べさせる料理は何もない!自炊しやがれ!」と不細工な顔で言われるのが目に見えているため出ることができない。

他の2人が出ることを互いに願うが、誰も砂から出ようとしないため、そのままの状態が続いた。

そんな3人のお尻に向かってアイリーンはフッと鼻で笑い、勝ち誇った顔をしてから主人の後ろをついていこうとしたそのとき「待ってくれ!」とノエルが叫んだ。

その声に私が振り向くとアイリーンがムッとした表情をしたのが見え、可愛くてついぷっと吹き出してしまう。

そんなに海のものが食べたかったのかと思い。

「なに?」

初めて見るアイリーンの表情に気分が良くなり、さっきより声と口調が柔らかくなる。

「あの……俺はフリージア家の長男ノエルです」

「……」

'うん。知ってる。だから?なに?'

ノエルが名前を名乗った理由は数分前の私の発言が原因だとわかっているが、それはそのときだったらそうすると言っただけで、今は違う。

何よりさっき否定したのに、化け物とわかった瞬間、実は俺が侯爵の息子です、と言われても遅い。

侯爵は立派な人だが、ノエルを見る限り子育ては失敗したみたいだ。

人のことを化け物と言ったり、嘘をついたり、自分の言葉に責任をもたなかったり、困っているのに助けてくれとも言えず、助けられるのを待つ。

'うん。誰が見てもクソ男だ'

そう思うと、つい嬉しくて笑みが溢れる。

私は誠実な男よりクソな男の方が好きだ。

なぜなら、容赦なく利用できるからだ。

誠実な男を利用するとなると、ほんの少し良心の呵責に苛まれるかもしれない。

そんな思いをするかもしれないなら、クソな男を使った方がいい。

クソなら利用しても良心は痛まない。

次期フリージア侯爵はノエル。

これは間違いない。

小説でもそう書かれていた。

ノエルを助ければ、父親だけでなく彼が産んだ子供も更にその子供も、未来永劫金づるにできる。

一生縛り付けてやる!

これからの互いの家の関係をどうしていくか頭の中で決めていくが、まだ大事なことを言われてないので、先にそれを言わせてから続きを決めることにした。

「信じられないわ。だって、あんたさっき否定したでしょう?」

いくらいい金づるになるとしても、助けてくれとノエルに言わすまでは絶対に手を貸さない。

それで金づるを捕まえ損ねたとしても、仕方ないと諦めればいい。

そもそも、そんなことにはならないと思いながらノエルの方を見る。

魚人の姿で「俺が息子だ!」と言っても誰も信じない。

私以外は。

ノエルもそれがわかっているから私を引き留めた。

本来の階級はノエルの方が上だが、今は違う。

私の方が上だ。

ノエルは今まで侯爵という名のお陰で誰かに頭を下げるということをしないで生きてきた。

生まれてはじめて頭を下げなければいけない状況になったことにノエルは葛藤するが、一生このままの姿で生きるよりはいいプライドを捨てる方がいい。

眉間に皺を寄せ、口を固く閉じる。

まるで苦虫を噛み潰したような表情で、そんなに嫌なのかと思いながら、私はノエルのつむじを見ながら言葉を待つ。

「助けてくれ」

小さな声で言う。

「なんて?よく聞こえなかったわ。もっと大きい声で言ってくれるかしら?」

聞こえていたが、わさど言う。

嫌々言いました、みたいな態度では助けられない。

理由はむかつくから。

ノエルはもう一度「助けてくれ」と言うが声の大きさはさっきと変わらないため「聞こえなかったから、もう一度言って」と言う。

そのやり取りを数回繰り返すと、とうとうキレたノエルが大声で「助けてくれって言ってんだろ!」と叫ぶ。

「おい。助けてくれ?言い方間違えてないか?人に頼むときの態度はどうするのか、侯爵様から教えてもらわなかったの?私が女だから舐めてんのか?クソガキ」

どの世界でも女は男より劣っていると思い込んでいる者はいる。

元の世界でもいた。

女は男がいないと駄目、守ってやらないと駄目だ、と!

それなのに男の自分が女に助けを求めるなど恥ずかしいのか知らないが、きちんと頼めない。

腹が立つ。

侯爵の息子だからと手加減していたが、ノエルとはこれから長い付き合いになる。

毎回これでは腹が立って、いつか爆発するかもしれない。

今のうちに躾した方がいいだろ。

とりあえず、今日は腐った根性から叩き直すことにした。

「え、いや、その、そんなことは……ない……です」

ノエルは鬼の形相で睨まれ、怖すぎておしっこが少しでてしまった。

「なら、きちんと言えるよな。次間違えたら、海の底に沈めてやるからな」

私はノエルの肩を強く掴む。

「は、はい!」

ノエルはようやく理解できた。

この女には絶対に逆らってはいけない、と。

「じゃあ、言ってみな」

「た、助けてください。俺を元の姿に戻してください。お願いします」

さっきまでの態度とは打って変わり、頭を深く下げお願いする。

「そこまで言うなら仕方ないわね。いいわ。助けてあげる」

私はノエルの態度に満足する。

その言葉を砂の中から聞いた3人は絶対いま悪魔のような顔をしているな、と見なくてもわかっていた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。 この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。 ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。 少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。 更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。 そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。 少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。 どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。 少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。 冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。 すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く… 果たして、その可能性とは⁉ HOTランキングは、最高は2位でした。 皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°. でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )

俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜

早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。 食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した! しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……? 「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」 そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。 無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

【完結】悪役に転生したのにメインヒロインにガチ恋されている件

エース皇命
ファンタジー
 前世で大好きだったファンタジー大作『ロード・オブ・ザ・ヒーロー』の悪役、レッド・モルドロスに転生してしまった桐生英介。もっと努力して意義のある人生を送っておけばよかった、という後悔から、学院で他を圧倒する努力を積み重ねる。  しかし、その一生懸命な姿に、メインヒロインであるシャロットは惚れ、卒業式の日に告白してきて……。  悪役というより、むしろ真っ当に生きようと、ファンタジーの世界で生き抜いていく。  ヒロインとの恋、仲間との友情──あれ? 全然悪役じゃないんだけど! 気づけば主人公になっていた、悪役レッドの物語! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタにも投稿しています。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

処理中です...